重松清/ビフォア・ラン (幻冬舎文庫)
おすすめ度:★★★☆☆

授業で知った「トラウマ」という言葉に心を奪われ、
「今の自分に足りないものはこれだ」と思い込んだ平凡な高校生・優は、
「トラウマづくり」のために、まだ死んでもいない同級生の墓をつくった。
ある日、その同級生まゆみは彼の前に現れ、
あらぬ記憶を口走ったばかりか恋人宣言してしまう―。
「かっこ悪い青春」を描ききった筆者のデビュー長編小説。
ぼくたちの高校には、奇妙な伝統がある。
自殺者の出た学生の卒業式には、必ず雪が降る。
でも、平凡過ぎる僕らの学年の卒業式では雪が降ることはないだろう。
何もない平凡な彼らは、「トラウマ」という言葉に惹かれ、
精神病で退学した、まだ死んでもいない女の子・まゆみの墓をつくる。
「俺たちは自殺したまゆみを助けてあげられなかった。
まゆみを殺したのは俺たちのようなものだ」
それが彼らの「自殺した女の子を助けられなかった」というウソのトラウマ・・・。
ある日、まるで別人のように明るくなったまゆみが彼らの前に現れる。
そして、学校を辞める前は、主人公・優の恋人だったと宣言する。
まゆみは、彼らと同じように、ウソの記憶を持っていた。
でも、彼らと違うところは、まゆみはウソの記憶を本当だと思っていること・・・。
まだ病気が治っていないと知った彼らは、
まゆみへの後ろめたさもあって、ウソに付き合ってしまう。
ウソにウソを重ねれば、いつか、本当になるのだろうか?
この作品は「家族」「青春」をリアルに描き続ける重松清のデビュー作です。
デビュー作だけあって、彼の作品を何冊も読んだあとに、この作品を読むと、
多少の物足りなさを感じてしまうかのしれないね。
俺はちょっと感じてしまいました。。。
でも、重松清の原点ここにあり!!って感じです。
この作品の中で、主人公の優が自分がいかに平凡な高校生であるかを
説明してることろがあります。そこが、実に重松清って感じです。
貧乏な家に生まれたわけでもないし、子供のころに辛酸をなめたわけでもない。
出生の秘密もなければ病気で生死をさまよいもせず、両親は健在で、
秀才とは思わないが要領のよさには自信があり、
思い出したくない過去など持たず、思い描く将来の夢もなく、
コーヒーには砂糖とミルクをたっぷり入れるし、
その気になれば学食の大盛りカレーを三杯は食べることもできる。
同じ学校の気にくわない奴らには露骨にガンをとばすが、
名前さえ書ければ入学できるという噂の農業高校の連中と街ですれ違うときは
あわてて目を伏せる。白く細いエナメルベルトは学校の中でしか使わないが、
学生服の裏地には花札の猪鹿蝶が赤い糸で刺繍されている。
教師にはよく怒鳴られるが、退学を勧められたことはまだ一度もない。
新聞はテレビ欄とスポーツ欄だけを読み、
毎朝鏡の前で数分間は自分の顔を見つめ、
性欲は自分でなんとかして、エロ本の隠し場所には苦労を続ける。
万引きは嫌いだが、仲間が万引きした品を安く買うことには心は痛まない。
一人でバスに乗っているときには老人に席を譲り、
仲間と一緒のときは乗客のヒンシュクを買いつづける。
RCサクセッションと矢沢永吉と吉田拓郎が好きで、
数学が苦手で、体育が得意で、
煙草はこっそり吸い、無免許で原付バイクに乗るときは裏道を選び、
授業中には居眠りばかりするが試験の前には徹夜をする…。
つまり、自分で認めるには少し悔しいけれど、
みごとなくらい平凡な高校生というわけだ。
そういう自分をなんとなく恥かしいと思うこと。これも、平凡な高校生の特徴だ。
思わず「あるある」って、うなずいてしまいます。。。