スイス ガスマスク 前編

さて、先日手に入れたスイスのガスマスク。
早速紹介してみよう。



先ずは正面から。
面体の素材は黒色のゴム製で激しくゴム臭い。
丸い目ガラスや独特の排気弁など「いかにも」なガスマスクである。
昨年あるいは一昨年あたりに国内に入ってきたが、予想以上に市場から消えた。
平和な日本においてガスマスクを欲しがるのは少々一般から外れた人で3種類に大別されると私は考えている。
①ミリタリーマニア
②コスプレ用、あるいはインテリアなど興味本位の人
③ある種のフェティシズム
の3種類である。
私においては①であるのは言うまでもない。
このマスクのデザインと4000円程度という価格は②・③の人を刺激したのではないだろうか。
入荷量も少なかったのかもしれない。
かくして気付いたら絶滅していて慌てて入手した、と言う次第。
あと少しで入手できなくなる「九死に一生の九死の側」に立っていたわけで、
まさに危機一髪であったといえよう。

話が逸れすぎた。本筋に戻そう。


上のほうから見てみる。
額の部分にはスイスを示す十字のマークが入っている。
面体は新品のデッドストックであるが、保管汚れがある。
ただしハーネスのゴム製しめひもは程度がよく、伸びたりしていない。
しめひもの調節金具は鍍金された鉄製で細いネジで留められている。
不意に外れなきゃいいのだが。
顔の正面にある排気弁カバーは取り付け後に接着されており、排気弁の交換は不能。
ドイツのM65ガスマスクも同じだが、この点は評価できない。
米軍はかなり前から排気弁の交換が容易にできるよう、カバーが外れるようになっている。
排気弁がダメになったらマスクごと交換しろ、という考えなのかもしれないが、
米軍のマニュアルによれば寒冷地では排気弁が凍結していないか、指で排気弁に触れて確認せよとしている。
排気弁カバーが外れなければこんなこと無理な芸当である。


マスクを左側面から。
左下のハーネス取付金具の前には面体に
22-63
    L
    3
という刻印がある。
Lサイズで63年製、だろうか？


装着状態を後ろから。
ハーネスは一般的な5点支持で5点共に引っ張るだけで調節が可能。
ハーネス中央のパッドはゴム引きの布製でサイズは約40×110mm。
画像では見難いがストラップの中心には緑色の糸が一本縫われており（伸び防止？）洒落たアクセントとなっている。


キャニスター（吸収缶）の取り付け部アップ。
取り付け部は金属製で脱落防止のために金属製のバネで締められている。
一般的には金属製のバンドで固定する部分だが、これもデザイン上の特徴の一つ。
マスク下には白いプラスチック製でできた円形のディスクがついている。
これは名前を書き込むものでここに記名されていない＝新品であると言えよう。
このディスクは麻のような素材の紐で縛られているが、単なる麻紐ではなく針金が入っている。
このディスク、このガスマスクに限らずヘルメットやバッグにも見られるものでスイス軍の一つの特徴となっている。
国民皆兵制度を採っているスイスならではなのかもしれない。
キャニスターには目立つ赤いラインが入っているが、詳細は不明。


最後にマスクを内側から見る。
ノーズカップなどないやたら単純な構造で、キャニスターを通った空気は口元に直接流れ込んでくる。
恐ろしく単純な構造だが、目ガラス下からも吸気が流れ込んでくるようになっており、
曇りを防止している。
目ガラス内側には金具が装着されているが、これは非常に簡単に外れるようになっており、
目ガラスの固定ではなく内側に装着された薄い樹脂製の曇り防止レンズを固定するようになっている。
どうやら出荷当初から曇り防止レンズが一枚装着されているようだ。

先ほども書いたが排気弁はマスク正面、口と鼻の中間にある。
恐らく伝声効果を狙ったものだろうと推測されるが、
この形式はマスク内部に水分が溜まった時に排出するのが困難である。
寒い時にマスクを使用すると意外とこの水分が溜まる。
寒冷な気候のスイスにおいてこの形式で問題が無かったのか、非常に興味深いものである。

吸気弁はキャニスター取り付け部にあるのみ。