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飛沫感染と空気感染

2020-04-11 05:48:45 | 医学
空気ではなく微粒子だ

 呼吸器系に感染する病原体には飛沫感染と空気感染とがあると言うのですが、この2つは何がどう違うのでしょうか? いくらウイルスが小さいと入っても気体じゃないんだから、空気感染とか言っても実は微粒子が浮いてるだけじゃあないの? その通りでした。定義は以下の通り。

Ref-1) 大阪大学医学部付属病院・臨床検査部・感染微生物免疫検査部門の資料感染経路別病原体
  ・飛沫感染 :くしゃみや咳で飛散する直径5μm以上の微小液滴
  ・空気感染
    ①飛沫核感染:飛沫が水分を失ったもの、直径4μm以下
    ②塵埃感染 :土やホコリなど固体微粒子 

Ref-2) DRP(ドクターズプラザ)の微生物・感染症講座(55)
  ・飛沫("しぶき"とも読む):医学的には「水分を含んだ直径5マイクロメートル以上の粒子
  ・飛沫核 :飛沫が乾燥して小さくなったり、もともと5マイクロメートル以下の粒子

 結論から言うとwikipedia「感染経路」の「飛沫核感染(空気感染、塵埃感染)」という表記がわかりやすい。大きさだけで見ると境界を5μmに設定しているだけで、飛沫感染と空気感染は連続的です。しかし実は飛沫と飛沫核には大きさ以外の質的な違いがあります。飛沫はほぼ微小液滴と言えますが、飛沫核は水分が飛んで乾燥したもの、つまり固体です。それゆえ乾燥により不活性化するような乾燥に弱い病原体は、飛沫感染はできても飛沫核感染はできません。ウイルスより大きな細菌である結核菌は空気感染するのに、多くのウイルスは飛沫感染しかしない、という一見不思議なことになるのです。

ウイルスは乾燥に弱い?

 では5μm以下でも液滴だったら、含まれた病原体は乾燥に弱くても感染するよね、という話が、最近知られてきたマイクロ飛沫感染です。NHKスペシャルで(04/08)放送でしたので御覧の人もいるでしょう。これも含めた3種の感染経路についてビーエムアドバンス社2020.03.30|社員・スタッフへ向けてがわかりやすかったので、引用させていただきます。

---------引用開始--------------------------------
飛沫とは、エアロゾル(空気中に存在する細かい粒子)の一種です。日本では、「飛沫」とは5μm以上の大きさと定義されており、いわゆるツバも5μm以上の大きさを想定しています。この大きさだと、水分の重みでただちに1~2m以内に落ちるので、人との距離を1~2m空けることによって、簡単に予防できます。また、咳やくしゃみをする際にマスクなどで口元を覆うことによっても、予防できます(咳エチケット)。
今回の新型コロナウィルスでは、これよりさらに小さい、5μm以下のエアロゾルにもウィルスが存在している可能性が指摘されました。2~3μm以下のエアロゾルは、軽いためにすぐには地面に落下せず、しばらくの間、空気中を漂い続けます。通常は、このような微小なエアロゾルはすぐに乾燥しますし、乾燥した状態でウィルスは長く感染力を保てないため、あまり問題になりません。しかし、人が密集していたり、湿気がこもっていたり、風通しの悪いような環境では、ウィルスが潜むエアロゾルが水分を保ったまま、長時間、空中を漂い続けてしまいます。これを口から吸いこむことにより感染する可能性があり、マイクロ飛沫感染(エアロゾル感染)と呼ばれています。
---------引用終り--------------------------------

 飛沫感染とマイクロ飛沫とは、まさしく境界が連続的な分類になります。しかし、やっぱり「空気感染」という言葉は誤解を招きやすいですよね。とはいえ飛沫感染と飛沫核感染とでも似すぎていて間違えそうですし(_ _)。

 なお知ってる人には蛇足もいいところですが、内容的には信頼性の高そうなサイトでも「空気中を漂うウイルス」なんて表現をしているところもありますが、1個1個のウイルスが漂うなどということはありません。必ず飛沫なり飛沫核なりの他の微粒子に乗っていて漂うのです。これは、感染の難易や、例えばマスク・フィルタなどによる感染防止を考えるときに、ウイルス粒子自体の大きさは無関係だということを意味します。関係するのは、ウイルスの乗り物である飛沫や飛沫核の大きさです

 では飛沫核の主成分は何かと言えば、調べてはいませんが恐らくは唾液中で蒸発しない成分、タンパク質等の分泌成分とか食物の残りとか口内細菌およびその分泌物とかが固まったものでしょう。こう並べるといかにも汚そう(^_^)。これらの固化成分がウイルスの不活性化にどう影響するかも感染性に影響しそうです。

 ちなみに飛沫核感染(空気感染)する病原体は次の3種が代表的なようです。
 ・結核菌
  ミコール酸と呼ばれる特有の脂質に富んだ細胞壁を持つため消毒薬や乾燥に対して高い抵抗性を有する
 ・麻疹(はしか)ウイルス
 ・水痘とは(国立感染症研究所)

 細菌は上記の結核菌のように強い細胞壁を持っていたり、胞子やシストを作ったりする乾燥に強い種類も多いですから、飛沫核感染できる種類も色々といそうです。麻疹と水痘はウイルスですが、たぶん外郭タンパク質が乾燥に強いのでしょう。これはウイルスごとに調べるしかないでしょう。

 ところで乾燥に対する弱さがポイントとすると、接触感染にも影響しそうです。接触感染はウイルスを含んだ飛沫などの体液が何らかの固体表面に付着したものに触れることで感染しますから、固体表面でのウイルスの寿命がひとつのポイントでしょう。恐らくは湿った表面ではウイルスが生き残りやすく、感染の危険度が高いのでしょう。顔とかマスク表面とかが代表的で、これらには触るなと警告されていますね。

ウイルスは乾燥に強い?

 でも以上の考察は、乾燥した冬に風邪やインフルエンザが流行しやすいことと矛盾してはいないでしょうか? むろん低温の影響の方が大きいという可能性はあります。だって冬に乾燥するわけでもない地方でも冬に流行しやすいのですから。人間の喉や呼吸器の方が低温や乾燥に弱いという面も大いに影響するでしょうし。

 この問題についてはどうもネット情報は混乱が見られますし、私も現時点で明確なことは知りません。少なくとも「乾燥するとウイルスが含んでいる水分が蒸発し、軽くなって浮遊しやすくなり、口や鼻などから体内に侵入しやすくなる」という説明は間違いでしょうね。この説明は多くのウイルスが飛沫核感染(空気感染)はしにくいということと矛盾します。

 けやきトータルクリニックに詳しいデータが載っていますが、残念ながら出典不明です。「飛沫から水分が蒸発してウイルスだけ残り」なんて表現が信頼性を落としていますが、データ自体は専門誌ないし専門書からのものであり間違いないだろうと思うのですが。
 ------データまとめ--------
   1.凸凹の少ない表面では24〜48時間
   2.衣類や紙のように凸凹の多い表面では8〜12時間
   3.空気中だと2〜8時間
   4.空気中で乾燥していれば24時間以上
 ------データおわり--------

 具体的な実験条件がわからないと、どうも解釈が難しいですね。飛沫が飛沫核となることでウイルスが不活性化するメカニズムも、単に水分が飛ぶからというわけでもないのかも知れません。1.~3.の順位は、どうも表面積に関係しそうですが、4.だけがちょっと異質な結果に見えます。

 これはまた後ほど考察してみるということにしましょう。

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