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張り込みの珍事 矢沢永吉が「悪いけど送ってくれないか」

2020-11-17 01:12:29 | 矢沢永吉
営業の永Tです★

『張り込みの珍事 矢沢永吉が「悪いけど送ってくれないか」』


芸能記者にとって張り込みは日常の仕事。成果が出ればいいが、外れもある。結果によって疲労感は雲泥の差となる。

 張り込みは事前のロケハンから始まる。いかに見つかりにくく、周辺に迷惑をかけないかだが、場所や時間によってはアクシデントが起こる。そのひとつが近隣住民からのクレーム。「何時間も路上に車を止めて、中に怪しい男の人がいる」と警察に通報が入る。やがて自転車に乗った警官が来るのが通例だが、時にはパトカーのサイレンを鳴らしてくる。「なにかあったのか」と他人事のように思っていると、それが我々だったりして驚いたこともある。
 「ここでなにをしているのですか」と職質が始まる。「張り込みしている」と正直に言うのが基本。変にごまかしてバレた場合、ややこしいことになるからだ。ただし、なんの目的で誰を張り込んでいるかは絶対に言わない。

 事情を聴いて、理解してくれる警官もいれば、退去命令する人もいる。厳密に言えば、天下の公道だ。駐車違反や不法侵入など違法行為がなければ問題はないはずだが、大使館など要人警護付近の張り込みは難しい。それを知ってか、大使館近くに住む芸能人も少なくない。 

車による張り込みは、いかにその住居地に溶け込めている車であるかも大事な要素。成城や田園調布のような高級住宅街では、路上に軽自動車などは不自然。ベンツで張り込みしている社もあれば、出入り業者を装って軽トラックを使うケースもあった。今は少なくなったが、荷台にホロの付いた軽トラは使い勝手がよかった。カメラマンが荷台に乗り、ホロの隙間からレンズを出して隠し撮りができた。

 張り込み車は外から見えないように窓をスモークにしていることが多く、繁華街に近い場所での張り込みは酔っぱらいに悩まされた。車を蹴る者もいれば、車の陰で立ちションするヤカラもいた。あまりひどいと「こらっ!」と車から飛び出すが、腰を抜かすほど驚く。それはそれで滑稽だった。

 冷たい小雨が降る年末の夜、麻布十番界隈で張り込みをしていた。深夜となり、ドアを叩く音。窓を開けると「急いで六本木に行きたいが、タクシーがなくて困っている。悪いけど送ってくれないか」とお願いしてくる男がいた。酔っている様子もなく口調ははっきりしていたが、目深くかぶっていた帽子と薄いサングラス越しでも街灯の光で矢沢永吉とわかった。

女性なら「キャッ」と叫ぶ場面だが、仕事柄、矢沢さんと確認することもなく了承した。同僚らと協議することなく「いいですよ」と快諾したのも、相手が矢沢だったからに他ならない。現場を空にするわけにいかず、同僚が六本木の防衛庁(当時)近くまで送った。

 興奮冷めやらぬ様子で戻った同僚は「緊張してなにも話ができなかった」と言うだけ。ちなみに、張り込みしていた中森明菜のほうは不発だったが、矢沢談議で盛り上がった。

 あの夜、我々の正体を明かしていたら、矢沢はどんな反応をしたのだろうか――。 =つづく

※日刊ゲンダイ引用

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