営業部長です。
『薬用石鹸に殺菌効果ナシ!? 米国では販売禁止』
人一倍潔癖症で清潔志向、「薬用」「殺菌」「抗菌」などの表示があれば疑いもなく買い物カゴに入れて日々の製品補充を欠かさない。そんな方が読めばそれこそ、思わず目と耳を濯ぎたくようなショッキングなニュースが米国から届いた――。
9月2日、アメリカ食品医薬品局(FDA)が、19種類(トリクロサン、トリクロカルバン他)の殺菌成分を含有する石鹸などの販売禁止を発表したのだ。
なかでも「トリクロサン」は薬用石鹸などの医薬部外品や化粧品に使用される殺菌剤であり、歯磨き粉やマウスウォッシュにも含まれている。そのため、体内に取り込まれる機会も少なくない。
FDAによれば、トリクロサンなどを含んで「殺菌効果」などを謳う石鹸はその実、通常の石鹸と比べても「優れている」とは認めがたく、むしろ免疫系に打撃(悪影響)を及ぼしかねないという。これまで「薬用」や「殺菌」で選んできた人にとっては、驚愕報だろう。
免疫力まで洗い流していたとは……
免疫力が低下すれば感染症のリスクが増加し、腸内細菌叢の変化も生じ、耐性菌の増殖もまぬがれない。さらに環境ホルモンへの影響が指摘されるに至って、すでにヨーロッパでは、昨年からトリクロサンを含む製品は販売中止になっている。
一方、日本でのトリクロサン扱いはどうかといえば、その「抗菌効果」を厚生労働省が認めている物質であり、一定の濃度が含有されていれば「消毒」や「殺菌」をラベルで謳うことが許されてきた。
当サイトでは、初夏の掲載記事「洗い流さない「手の除菌剤」は安全か? 尿から想定以上の「殺菌成分の濃度」が!?」で、FDAが除菌剤や関連商品の製造元に対して「安全性の確認データ」を追加要請しているという流れを紹介した。
直接のきっかけは、最新の研究で除菌剤消費者の尿中から「想定よりも高めの殺菌成分濃度」が検出され、それを懸念する専門家筋の独立諮問委員会から勧告を受けたからだった。
その時点でのFAD見解としては、今回の要請が対象製品らの「無効性」や「危険性」を勘ぐってのものではないという釈明付きだった。ところが薬用石鹸については、その両面が指弾されての販売中止措置に急転直下したのだ。
ラベル表示よりも<洗う動作>が決め手
一方、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)としては「感染症の発症・拡大を予防するという意味では、水と石鹸での手洗いも最善の方法の一つである」と冷静にコメントし、手洗いができない状況下では「アルコールを60%以上含有する除菌剤を使用すること」を勧めるという無難な見解を述べていた。
しかし、今回のFDA発表は、対象の石鹸類を「抗菌効果なし」と明解に斬り捨て、販売中止を突き付けたのだから、その対応は迅速だ。
もっとも、その米国への追従速度では人後に落ちないのが、わが国の安倍政権だろう。9月2日の米国報を受けて僅か5日後の7日午後、菅義偉官房長官は「日本においても同様の成分を含む商品の確認を早急に実施し、とるべき措置について検討を行なってゆく」と記者会見上で述べた。
厚生労働省によれば、問題のトリクロサンを含有する「薬用石鹸」の類いは、広く国内でも流通している。同省では今後、FDA見解(=措置)の根拠とされる研究報告などを精査しつつ、国内で販売中の対象品の種類や範囲を調査するという。
前掲の記事でも、特に印象に残っているのが、米レノックス・ヒル病院(NYC)のRobert Glatter氏が端的に語った次の助言だ。
「手洗いにおいて最も肝心なのは、時間をかけてゴシゴシ洗うという単純かつ機械的な動作です。特に細菌や汚れが溜まりやすい爪のなか、指のあいだに注意することが大切です。それは除菌剤や石鹸などを使う場合も同様で、最低20秒以上は手を擦り続けるのが賢明でしょう」
肝心なのは動作のほう、同氏はもしかしたら「薬用も大差(=効果)ないよ」と言外に示唆していたのかもしれない。米国追従の政府表明は迅速でも、そこから先は、やれ審議会がどうのこうのと検討段階で<亀の速度>になる役人方である。
今後の国の措置がどうであれ、今回の石鹸報に仰天された方はまず、「薬用」「除菌」「殺菌」「抗菌」などへの表示信仰を自ら洗い流してみてはどうだろうか。それらの売り文句よりも、肝心なのは手洗いの基本的な動作をおろそかにしないことだ。
※<Health Press 引用>