les généalogies des Essais―Delfini Workshop annexe

エセーの系譜をおもに検討。

小林秀雄を読む(1):パスカルの「パンセ」について

2012年03月26日 | 小林秀雄

■旧暦3月5日、月曜日、

(写真)無題

このところ、春眠暁を覚えず状態。よく眠っている。家人らが呆れるほど。

昨夜、ETV特集で、「吉本隆明」を観た。一つ感じたのは、自分を原点にして理論を構築していることで、その理論は、自分はこういう人間ですと語っているような響きがある。「原個人」というありえない幻想をベースにするのも、自分の資質と願望から出たものであるように感じられる。社会的媒介のない個人など存在しえない。その言語論も、ナイーブで、ヴィトゲンシュタインの言語ゲーム論を越えていない。吉本さんは、詩人的資質を核にした評論家であり、対象を評することを仕事にしてきた人だから、結局のところ、深い批判や思想は展開できなかったのではあるまいか。たとえば、ルカーチの「社会的存在の存在論」のような人間社会の起源にまで迫るような根源的な思索と比べると見劣りがする。観念が常に先行するので、オーム真理教や原発の肯定も、現場に行かないまま、頭の中の操作で出てきた印象が強い。

ただ、観念の操作と観念の分析には、ひいでているので、創作を行う上で、示唆に富んでいる人であることは、確かだと思う。この講演では、横光利一を知った。俳句と小説を書いていたことを始めて知る。純文学と大衆文学の関係について、示唆的な議論をしている人であることも初めて知った。ちょっと、読んでみようかと思う。

小林秀雄と吉本隆明は、日本の近代化を考える上で、問題が集約的に現れている人だという印象をもっているので、二人をテーマ化することは意味があるように思える。



小林秀雄は、一つの「権威」になってしまっている。だから、小林秀雄のチンドン屋は多い。他方で、教条的な思想から、裁断・批判するような、ナイーブな議論も多い気がする。とくに、左派の人々から。小林秀雄は、「日本文明」や「日本の近代」を考える上で、とても、重要な人物だとぼくは思っている。小林秀雄を読むことで、「日本的なるもの」の本質が、浮かび上がっているのではないか。そんな考えから、ぼちぼち、読んでみたいと思っている。これは、日本特殊論や日本優越論に、すぐに回収されてしまう危険をはらんでいるが、ぼくの興味はそうした尊王攘夷的なところにはない。むしろ、日本の「特殊性の普遍性」を議論するところにある。

「パスカルの『パンセ』について」は、1941年7月-8月の『文学界』に書かれている。71年前に書かれたエッセイにしては、飛び抜けたパンセ理解だと思う。このエッセイは、パスカルはironisteではない、という今では、あまり問題にならないテーゼから始まる。

世人は、ironisteといふものを誤解している。ironisteはidéalisteやromantisteから遠いと思ってゐるが、実は、健全で聡明な人からが一番遠いのだ。   新訂小林秀雄全集第7巻p.334

「健全で聡明な人」とパスカルを見ているところは、ニーチェのパスカル観と比較してみると、興味深いものがあるが、ここに、小林秀雄の思想が現れているように思う。パスカルを読むと、理性と信仰を明確に区分し、理性は信仰の領域の問題は扱わないよう自己規制している。これは、デカルトと対照的で、反デカルト、あるいは反近代の一つの特徴を構成しているように思える。小林秀雄が、こういうパスカルを「健全で聡明な人」と規定していることは、とても示唆的に思える。

小林秀雄は、最後のところで、このように述べている。

神が現れた。ここで、ぼくは「パンセ」の中で一番奥の方にある思想に出会う。「人は、神がある人々は盲にし、ある人々の眼は開けたという事を、原則として認めない限り、神の業について何事も解らぬ」そのとおりである、僕らはそういう神しか信じることができないからだ。盲であろうが、目明きであろうが、努力しようが、努力しまいが、厳然として、僕らに君臨するような真理を、ぼくらは理解することはできるが、信じることはできないからだ、なぜなら、それは半真理に過ぎないとパスカルは考えたからである。   同書p.341

ここで小林の言っている「真理」は、transcendant(超越的)である。この「真理」は、「超越神」と紙一重で、ほぼ、同じと言っていいように思う。小林のように、真理と神の問題を分ける理解は、日本的であると同時に、パスカルの反近代性に内在する問題でもあったのだろう。

「人は、真理がある人々は盲にし、ある人々の眼は開けたということを、原則として認めない限り、真理については、何事も解らない」

こう書き変えてみると、近代の裏側を覗くことになる。










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