ナガサキ
カタカナの二つの都市の暑い夏
ファットマン・リトルボーイの罪の朝
原爆忌記憶の襞（ひだ）に血が滲（にじ）み
年ごとに忌日（きじつ）が増えるカレンダー
身をけずる患者の戦（いくさ）終わりなし
聖堂の崩（くず）れた石の死の匂（にお）い
放射線マリアの臍（へそ）にしみこんで
この石も万の死人（しびと）の声を出し
八角の柱時計が刻んだ死
瓶（びん）溶けて水が汲（く）めない 水をくれ
犬猫の行方（ゆくえ）を捜す主（ぬし）はどこ
弾丸が市長の胸の平和撃（う）ち
五輪から平和が抜けてコロナ翔（か）け
「核禁止」言わない舌が紙を噛（か）み
原発を説くＣＭのしたり顔
葉が茂るこの地この川夏の朝
雑草も手向（たむ）けとなって坂光る
原爆児
樹が青い 八月広島樹は青い
校庭に鋤鍬（すきくわ）入れて豚も飼い
学徒らに吾が子重ねて遺影（いえい）見る
十二歳 わが子と同じ十二歳
幼きが幼きがまま笑みつづけ
制服に名前残して子はいない
三人の形見（かたみ）でつくる「原爆児」
三人の母が繕（つくろ）う死装束（ししょうぞく）
制服のもげた右手が天を突き
黒焦（こ）げの弁当食べる君の顎（あご）
この子らに詫（わ）びる母あり罪無くて
山口勇子・原作 沼田曜一・語り文
四国五郎・絵 金の星社
おこりじぞう
原子爆弾が
広島を潰（つぶ）した
町をつぶした
ひとをつぶした
地蔵の
憤激（ふんげき）
地蔵の
慟哭（どうこく）
死んだ少女とともに
地蔵よ
汝（な）が身が
砕けるまでに
原爆忌２０２１
マスクつけ人離さるる原爆忌
ますくつけ ひとはなさるる げんばくき
広島忌母の名なのるエノラ・ゲイ
ひろしまき ははのななのる えのら・げい
悔ゐ無しと告げし兵士のゲンバク忌
くいなしと つげしへいしの げんばくき
地の骨の水こんこんと原爆忌
ちのほねの みずこんこんと げんばくき
原爆忌群死とされし骸かな
げんばくき ぐんしとされし むくろかな
隣組皆みな果てし原爆忌
となりぐみ みなみなはてし げんばくき
「にんげんをかえせ＊」とおらぶ広島忌
にんげんを かえせとおらぶ ひろしまき
＊峠三吉（とうげ さんきち）、『原爆詩集』序、一部抜粋
ノーモアを折りこむ鶴やヒロシマ忌
のーもあを おりこむつるや ひろしまき
原爆忌記憶の襞を血がにじむ
げんばくき きおくのひだを ちがにじむ
鳥一羽原爆ドームの守りとなる
とりいちわ げんばくどーむの もりとなる
人割かれ国の病みたる原爆忌
ひとさかれ くにのやみたる げんばくき
水止めて祈る一分原爆忌
みずとめて いのるいっぷん げんばくき
碑を撫づる皺の手指や原爆忌
いしぶみを なずるしわのてゆびや げんばくき
歌声の碧空透きわたる長崎忌
うたごえの そらすきわたる ながさきき
長崎忌語る老女に死者の耳
ながさきき かたるろうじょに ししゃのみみ
如己堂＊の祈り千畳長崎忌
にょこどうの いのりせんじょう ながさきき
＊長崎市永井隆記念館
澄む誓ひ肺腑浸せり長崎忌
すむちかい はいふひたせり ながさきき
語り継ぐ口老ゐたりし原爆忌
かたりつぐ くちおいたりし げんばくき
歳こゑて継がむ祈りや原爆忌
としこえて つがんいのりや げんばくき
忘れてはいけない
クリスマスと冬 それを結びつけるように
戦争と夏 それを結びつける
あとの季節は忘れて過ごす
ーそれはまちがいだ
よろこびの報（しら）せは
春・夏・秋・冬 いつでもおとずれる
滅びへのなだれは
秋・冬・春・夏 いつでも牙（きば）をむく
わすれては
いけない
●ご訪問ありがとうございます。
原爆は私の大きなテーマの一つです。俳句の形で、川柳の形で、随筆の形で探りもとめ続けています。この世界から１発の原爆も無くなる日を祈りつつ。
今回の作品も、以前投稿したものをふくんでいます。一部直しました。新たに加えたものもあります。
ロシアによるウクライナ侵攻の報道が現実味を帯びてきました。危機感を強めています。
ひとりの為政者の愚かさが、多くのひとの命と暮らしを脅かそうとしています。この禍（わざわ）いが、拡大しないこと、そして収まることを祈ります。
