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 翌日。試衛館にて入隊希

2023-12-01 19:55:36 | 日記
 翌日。試衛館にて入隊希望者の面接や軽い実技を踏まえた試験が行われた。

 面接を担当したのは土方と斎藤、実技を担当したのは桜司郎と藤堂である。前者の組み合わせの威圧感に耐え抜いた者が後者と竹刀を交わす手筈になっていた。
 背後に般若を背負ったような土方、氷のような冷たさを纏う斎藤を通り、安心したところで藤堂と桜司郎の柔らかい雰囲気と女のような見目を舐めてかかった者は片っ端から床に伏すことになる。


「おい、顯赫植髮 平助。あんまり虐めてやるなよ。鈴木を見習え」

 藤堂は興が乗ると容赦ない性質だが、桜司郎は土方の指示通りに程よく手を抜いていた。肝心なのは腕前よりも、相手の力量を見極めることと気組──気合いを込められているかどうかだと土方から言われていたのである。

また、打ち負かしたとしても桜司郎は持ち前の気遣いと優しさで、ニコリと笑いながら床に転がる相手へ"大丈夫ですか"と手を差し伸べていた。男たちは次々と頬を赤らめながらその手を取る。


「副長……あれは」

 その様子を見ていた斎藤は土方へ不安そうに訴えた。土方は腕を組んで苦笑いを浮かべる。

「ま、良いだろ。鬼のような集団という印象だけなのも良くねえ。……にしても、男ってェのは悲しいくらいに単純だよなァ」


 数日に渡って試験は開催されたが、何やかんやで五十二名という隊士を獲得することに成功した。どれもこれも腕の立つ者だったり、頭が切れる者だったりと、近藤が喜びそうだと土方は口角を上げる。

 目的を終えた土方は、さっさと江戸を発つと言い始めた。当初はくらいと予想されていたが、結局は二十日ちょっとの滞在で終わりを告げる。


 土方に言われ、桜司郎と藤堂は揃って伊東を深川の道場へ迎えに行くことになった。開いたばかりだと思っていた桜もその花を風に吹かれては散らしている。

 片道に弱も要したが、気さくな藤堂と二人きりの道中は存外あっという間だった。


「あ、此処だァ。鈴木、着いたよッ」

 藤堂は懐かしげに目を細め、"伊東道場"と書かれた立派な看板を見遣る。

 御免、と大きな門を潜れば、門人らしき人物がやってきた。伊東を尋ねれば、所用で外出しているため、少しお待ち願いたいと返される。その間、藤堂の希望で道場の見学をすることとなった。


「わ……、懐かしいな。俺も此処で稽古を重ねたんだよねッ。伊東先生は本当に優しくて面倒見の良い先生で……」

 道場に踏み入れると、爽やかな風が桜司郎を包む。試衛館が猛々しい熱気が渦巻く道場だとしたら、伊東道場は清々しく明るい道場だ。その大きさをもっても、試衛館の倍の広さはある。風通しも良く明るさも丁度良い。隅々まで掃除の行き届いた、気持ちの良い空間だった。

 成程、と桜司郎は妙に納得する。何が成程なのかというと、道場には道場主の色が濃く現れるという。伊東は藤堂が言うように良い道場主だったのだろう。だが、綺麗すぎるのだ。試衛館と伊東道場とでは環境も毛色も違いすぎる。馬が合わないのではなく、もっと根本的なところで違っていた。
 
「良い、道場ですね」

「でしょ〜?試衛館も良いけど、ここも良いんだよねェ」


 ニコニコと嬉しそうに笑う藤堂を見て、その純真さは此処で培われたのかと桜司郎はまたもや納得する。

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