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に会った時に赦しても

2023-11-28 19:07:11 | 日記
に会った時に赦してもらうためなのだ。そうすれば、大恩ある師から離れた罪深いこの魂が救われると思ったのだ。


 今の今まで、内なる衝動の意味すら分からず、無明の闇を歩いてきた。歩き続ければ、きっと何かが掴めると信じて。


「…………どねえすれば、子宮內膜增生 ゆるされる……?」 やがて、傾いた陽の光の筋が部屋へ射し込む。

 吉田は気恥ずかしそうにはにかむと、頬を掻いた。


「……情けない姿を見せてしもうた。この事は、晋作には……秘密にしてくれんか」

「ええ」


 くすりと微笑む桜花を見て、吉田は頬を染める。馬鹿にする訳ではなく、慈愛に満ちたそれに、鼓動が酷く高鳴った。

 は、と息が漏れる。この胸苦しさの意味に気付きかけて、首を振った。


──何を考えちょる。この人は、男じゃ。男相手にこねえなことを思うのはいかん。僕は長男じゃけえ、嫁を取らにゃならんというのに。


 何かに取り憑かれたかのように、ぶつぶつと呟く吉田を見て、桜花は怪訝そうに眉を寄せた。


「……吉田さん?どうかしましたか」


 ポン、と触れられ、吉田はびくりと肩を跳ねさせる。


「あ、ああ、ええと……。た、大したことはのうて……!…………き、君が……、じゃったら良かったのに、と思うちょっただけで、」

「え…………?」

「あ…………」


 目を丸くする桜花を見て、失言に気付いた吉田はみるみる顔を赤くした。

 だが、桜花を男だと信じているためか、直ぐに開き直る。


「な、なんて云うんじゃろう……。ほら、に来て貰えたのにと思うて……。はは……、でも、」

 君は男じゃろう、と言おうとしたが桜花の表情を見て言葉を失った。


 耳まで朱に染め、照れを隠すように長い睫毛を伏せて俯いている。襟から覗く白いがどうにも艶かしい。

 思わずごくりと生唾を飲んだ。


「たッ、例えばの話しで……ッ!深い意味はのうて、その!じ、冗談じゃけえ、気ィ悪うせんでくれッ」

「そ、そうですよね。驚きました。あの、そろそろ私、おします」

「ほうじゃのう、もう日が傾きよる。じ、じゃあまた今度…………」


 いそいそと帰っていく桜花を見て、吉田は頭を抱える。いくら何でも、男に嫁に来て欲しいなど馬鹿にしていると思われてもおかしくはないだろう。次会ったら謝ろうと思った。 それから桜花は、この前とは別の意味でぼんやりしたり、張り切ったりと感情が忙しない日々が続いた。


──あれは一体、どういう意味なのだろう。私が女だと知ったら、お嫁さんにしてくれるってこと……?


「そこッ!呆けるんじゃねえッ!」

 副長助勤であるから喝が入る。今は新撰組の隊士に交じって稽古をしている最中だった。彼は神道無念流の免許皆伝を持ち、隊でも屈指の腕前なのだ。


「は、はい!申し訳ございません!」

「ったく……、一旦休憩だ。皆、水を飲め」


 その合図で一斉に木刀を振る手が止められる。桜花はマサに持たせてもらった水が入った竹筒に口を付けた。肩にかけた手拭いで流れる汗を拭く。


 桜花の隣に、一際背丈が高くガタイの良い男が来た。永倉と同じく副長助勤の、


 縋るように出た声は驚く程に震えていた。

 だが、桜花は既に元の瞳へと戻っており、吉田の変化に戸惑っていた。

「……なあ、ぼくは……どねえすれば、先生にしてもらえるんじゃ……?」


 自分よりも歳上だけれども、今だけは少年が泣いているように見えた。大人の慰め方は知らぬが、子の慰め方は分かる。

 桜花は柔らかな笑みを浮かべると手を伸ばし、その頭を撫でた。おずおずとした慣れぬ手付きではあったが、その心地良さに吉田は目を細める。その瞳は僅かに潤んでいた。

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