『あんな事言われちゃ敵わんよ。
あそこまで本気にさせて桂さんは悪い人だ。』
久坂は後頭部を掻きながら苦笑した。
まぁ人の事は言えないなと自嘲もした。今日の自分は間違いなく悪者だ。
『壬生狼がいるのに堂々としたもんだな。botox 香港 目立ってますよ。』
視線の先には澄ました顔で佇む桂。
人の流れを追う目は三津を探してるんだろう。
ふっと笑って態とその視界に入るように通りがかった。
「おや,こんな所で君に会うなんて奇遇だね。」
それとも必然かな?とにこにこ笑いながら桂は首を傾げた。
「さぁ…どうでしょう。」
久坂も笑みを深めて同じ様に首を傾けた。
『桂さん大丈夫かなぁ…。』
今の三津にもう周りを警戒する余裕などなくて,ただ先を急いだ。
「綺麗なお姉さん。ちょっと待って。」
なんて声をかけられたけど全く届いていなかった。
「……三津の癖に無視してんじゃないよ。」
「へ!?」
名前を呼ばれて流石に反応した。振り返ると少しむっとした顔の吉田が仁王立ちしていた。
「吉田さん!?ビックリした…今日めっちゃ知り合いに会うんやけど何かあるの?」
目をぱちくりさせて何で何で?と不思議がる。
「さぁねぇ。」
『俺と出掛ける時よりも着飾ってるじゃん。女将酷いねぇ。』
腕組をしながらじろじろと全身を目に焼き付けた。
「ねぇ何か言う事無いの?口付け交わしたぶりに会うんだけど。」
口角を釣り上げニヤリと笑うと,真っ黒な瞳が大きく揺れた。
「今度はもっと長い口付けが欲しいとかねだってもいいのに。」
激しく動揺する三津にじわりじわりと迫った。
「なっ…何言ってるんですか!すぐそうやってからかう!私急いでるんです!」
「すぐそうやって決めつけて俺の気持ちから逃げようとする。向き合ってよ。」
逃げようとした三津の手首を掴んで真剣な声で訴えた。
「逃げるんやなくって!ホンマに今日は急いでるんです!」
急に現れて何を言ってるんだ。一気に頭の中をかき混ぜられてしまった。
もう訳も分からず一心不乱に吉田の手を振り解こうとぶんぶん腕を振った。
「……桂さんなら来ないよ。」吉田の言葉が素直に受け止められなかった。
驚きの余り目を見開いて吉田を見上げた。
何に驚いたかも分からない。
何で桂が来ないのかと言う事?何で桂と会うのを知ってるのかと言う事?
「何だ…来ないんや…。良かったぁ…。」
「何がいいの?来ないんだよ?約束しといて。」
「来ない方がいいの!」
新選組に捕まる心配も,斬り合いになる心配もなくなった。これで安心だ。
そう思って笑った三津の目からは大粒の涙がぼたぼた零れた。
「嫌やな安心したら涙出て来た…。
あのね土方さんと藤堂さんに会ったし,不逞浪士が彷徨いてるからって言われて桂さん危ないかもって思って知らせなアカンって急いでたんやけど,なぁんや桂さん来ないんや…。」
一気に喋り,急がなくても良かったと胸を撫で下ろした。
『まただ…。俺はまた泣かせてしまった…。』
吉田は涙を零しながらも努めて笑おうとする三津に何も言葉をかけれなかった。
約束を破るような奴なんだ,彼奴はお前を大事になんかしやしない。
嘘でも何でもいい。そう言って二人の仲を引き裂いてやればいい。
手段は選ばないと決めたじゃないか。
『違う……そうじゃない……。』
彼女を泣かせてまで自分のモノにしたいのか?
いいや,違う。望んだのは幸せである事が前提の彼女だ。
幸せそうに笑っていてくれる。
自分を想って笑ってくれる三津が欲しい。
『それなのに何で泣かせてるんだ。』
ただ三津を愛しているだけなのに。どうして泣かせてしまってるんだ。
「吉田さんも見つかる前に帰った方がいいですよ。」
「前にも言ったろ…あいつら俺の顔なんて分かりやしないよ。だから平気…。」
ぐずぐす鼻を啜りながらこの身まで案じられて自責の念しかない。
「泣くなよ…せっかく綺麗なんだから…。」
泣かせたのは紛れもなくこの俺だ。だけどどう接したらいいのか,かける言葉も見つからない。
「泣いてない泣いてない!」
悲しくて流れてるんじゃないからこれは涙じゃないと一生懸命拭った。
『嘘つけ…それだけ会いたかったんだろ…。』
自分のついた嘘が零れさせた涙を拭う権利なんてなくて,触れる事すら出来ない。