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「……出てけって言い方はないでしょ。

2024-01-18 21:31:21 | 日記
「……出てけって言い方はないでしょ。」


三津と入れ違いに総司が顔を出す。
また盗み聞きかと軽く舌打ち。


「やっぱり土方さんも心配してたんですね。顯赫植髮
そっか宗太郎くんが恋しくて元気がなかったんですか。
土方さんはちゃーんと分かってたんですね。」


ニヤニヤしながら平然と部屋に転がり込んだのを見てまた舌打ち。


「辛気臭い奴はいらねぇんだよ。こっちまで気が滅入る。」


店の客が宗太郎を連れてわざわざこんな所まで来たんだ。町が恋しくなるのも道理だろ。


表には出さずに見せる土方なりの優しさ。
それに目ざとく気付いて,からかいにやって来る総司が煩わしい。


「私,土方さんのそう言う所大好きですよ?」「はっ,お前に大好きなんて言われても嬉しくねぇ。」


腕を組んでそっぽを向く仕草も,照れ隠しの一種だと総司は分かってる。


「そう言う所が可愛いんですって。
冷たく突き放しても心の中では寄り添ってくれてると言うか。」


「気色悪い事言ってんじゃねぇ!」


土方は粟立った腕を全力でさすった。
冗談でもそう言われるのは何よりも不快だ。


これ以上からかえばただじゃ済まなそうだと思った総司はペロッと舌を出しておどけるだけに留めた。


「じゃあ明日は私が三津さんを甘味屋まで送りますよ。」


「あ?それは駄目だ。」


総司の提案はあえなく却下され,納得出来ないと口を尖らせ反論に出た。


「別に稽古をサボって甘味を楽しみに行くんじゃないんですからね。
あくまで三津さんが迷子にならないように,安全に甘味屋に送り届ける為であって!」


「だからそれが駄目だって言ってんだ。
たかが女中に隊士がついてみろ。
馬鹿な不逞浪士の奴らがそれを見たら,あいつはうちにとって重要な奴だって勘違いするだろうが。」


だからせいぜい尾行にしておけ。わざわざこっちから誤解を招く事はしてくれるなと釘をさす。


「この前それを利用して三津さんを囮に使っおいて,よく言えますね。
そのお陰で隊の中では三津さんが本当に土方さんのモノだって勘違いしたままの方が多いんですからね。」


総司も腕を組み,不機嫌な顔をした。
三津が土方の女だと耳にする度気に障るんだ。


「あいつが俺に釣り合う訳ないだろ。」


色気も可愛げも常識も無い。無い無い尽くしのどうしようもない奴だと鼻で笑った。
三津をけなされ悔しそうな総司を見下して勝ち誇った笑みを浮かべる。


「それにお前不犯はどうした,不犯は。その誓いがあんだからあいつがどこの誰とどうなろうが指くわえて見てるだけなんだろ?
例えその相手が俺でもな。」


更に追い打ちをかけるように言葉を並べてニヤリと口角を上げる。
総司はうっとたじろいで,返す言葉を必死に探した。


「だとしても,土方さんは絶対駄目です。頭の中は近藤さんと新選組の事しか考えてないんですから。」


三津を一番に考える男じゃなきゃ駄目なんだって,勝手に考えてる。


「あいつの頭の中を俺で埋め尽くす事は可能だぜ?」


そんな総司を嘲笑って,土方は自信たっぷりに言い放った。好きなら自分のモノにしてしまえばいいのに。
くだらない誓いに縛られている総司を,土方は馬鹿馬鹿しく思う。


「まぁ,女ってのは面倒臭い生き物だ。わざわざ本気になる事はねぇよ。遊び程度に付き合うのが一番だな。」


お前は真面目過ぎるんだ。経験豊富な男はそう語る。
そして腑に落ちない表情の総司の肩を軽く二回叩いた。


「それにな,近藤さんの事で頭がいっぱいなのはお互い様だろ?」


得意げな顔がそうだろ?と言っている。
総司はくすりと笑い,それもそうだと頷いた。


「やっぱり大好きです!」


何だかんだ言っても,周りの事をしっかりと考えている。仲間思いな天の邪鬼が,堪らなく好きだ。
殴られるのを承知で土方に飛びついた。

『幾松さんは何が言いたかっ

2024-01-18 21:18:42 | 日記
『幾松さんは何が言いたかったんやろ…。
迎えに来るって,もしかして私から新選組の情報を聞き出したいから?』


だとしたら,用があるのは自分ではなくて自分が見ている物や聞いた事。
橘と同じように,利用したいだけなんだ。



「…おい,何散らかしてやがる。」


土方の声にビクッと肩を震わせ,女人可以接受禿頭嗎?出現「頭頂稀疏」等現象,是女士脫髮警號! @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 :: 慌ててかんざしを懐にしまい込んで,何事もなかったように振り返った。


「今日えらい美人がお前を訪ねて来たそうじゃねぇか。」


もう知られている…。
一瞬にして冷や汗が噴き出す。飛び出そうなぐらいに心臓も暴れ出す。


「お店のお客さんですよ。
そ,宗太郎が私に会いたいって駄々こねたからわざわざ来てくれはったんです。
別嬪さんやけど絶対土方さんには紹介しませんから!」幾松だとバレてはいけないから咄嗟にそう口にしたものの,上手く誤魔化せた気はしなかった。


このままでは墓穴を掘りかねない。
逃げるが勝ち。三津は土方の目も見ずに横をすり抜け飛び出した。


「あ!待てコラ!片付けて行きやがれ!」


後ろで怒鳴り声が響いてるが振り向かずに一目散に逃げ出した。
今は一人でゆっくり考えたいんだ。


なるべく静かな場所を探して屯所内をさ迷って,いい場所が見つからず,結局縁側に腰を下ろした。


『私は自分で正しいと思ったからここに来たのに…。』


桂の名を聞いただけでその気持ちが揺らいだ。
会いたい衝動に駆られた。


二人で鴨川へ行ったり,桂の胸を借りて大泣きした時が懐かしい。


今会っても,あの時の二人ではいられない気がする。
新選組に関わってる自分は完全な道具になる。
橘が自分を利用しようとしたみたいに。


『桂さんてそんな人?』


三津が知ってる桂はそんな人間じゃない。
あの優しい目が嘘をつく人の目のはずがない。


『でも私は幾松さん程桂さんの事を知らない…。
幾松さんみたいに桂さんの為に出来る事が何もない…。』


三津は懐からかんざしを取り出して,ぼーっと眺めた。


「はぁ…。」


「どうしたんですか?」


どっぷり悲観的な世界に浸かっていて全く気付かなかった。
真横で身をかがめて,こちらを見ている総司に豆鉄砲を食った。


「沖田さん!いつの間に?」


油断も隙もない。
考えていた人物が人物なだけに動揺せずにはいられない。


三津はさり気なくかんざしをしまって脅かさないでと苦笑い。


「宗太郎くんが来たそうですね。何で教えてくれなかったんですか?」


私も会いたかったんですよと口を尖らせた。
三津はごめんねと謝りながら,また溜め息をついた。


「そんなに疲れるほど遊んだんですか?羨ましい。」


総司は羨望の眼差しで三津の顔を覗き込んだ。
三津は心が乱れてるせいか,いつものように目を見れず,焦点をずらして笑ってやり過ごそうとした。


「そう!遊び過ぎてもてん。だからおたえさんのお手伝いしに行かな!」


息苦しくてこれ以上の嘘を重ねるのに限界を感じた。
三津は忙しいふりをして総司の元から逃げ出した。


問い詰められれば,きっと嘘を突き通せない。
もし嘘がバレた時,自分はどうなるんだろう…。嘘をつくのは苦手だ。
騙される事はあっても騙す事は出来ない。


『今日の事は忘れてしまおう。そしたら嘘をつく必要もないもんね!』


余計な事を言わなくてもいいように何も無かった事にしてしまえ。我ながらいい考えが浮かんだな。
少し気分が明るくなった。


「…おいコラ。散らかして尚且つ逃げるとはいい度胸してんじゃねぇか。」


明るく開けた道が鬼によって塞がれた。
塞がれたどころじゃない,これから地獄に突き落とされる事間違いなし。


首根っこを掴むひんやりとした手,地を這うような低い声,背中越しでも伝わってくる殺気。さっきとは別の意味で目を合わせれば命取りになる。


「逃げたんじゃなくて,私を呼ぶ声が…。」


どうでもいい嘘はすんなりと出て来るもんだ。
へらっと笑って,ゆっくりゆっくり振り返る。


三津と目が合った土方もにっと笑顔を見せた。
何ともわざとらしい作り笑顔。


「嫌やな土方さん,目が笑ってませんよ?」