「……出てけって言い方はないでしょ。」
三津と入れ違いに総司が顔を出す。
また盗み聞きかと軽く舌打ち。
「やっぱり土方さんも心配してたんですね。顯赫植髮
そっか宗太郎くんが恋しくて元気がなかったんですか。
土方さんはちゃーんと分かってたんですね。」
ニヤニヤしながら平然と部屋に転がり込んだのを見てまた舌打ち。
「辛気臭い奴はいらねぇんだよ。こっちまで気が滅入る。」
店の客が宗太郎を連れてわざわざこんな所まで来たんだ。町が恋しくなるのも道理だろ。
表には出さずに見せる土方なりの優しさ。
それに目ざとく気付いて,からかいにやって来る総司が煩わしい。
「私,土方さんのそう言う所大好きですよ?」「はっ,お前に大好きなんて言われても嬉しくねぇ。」
腕を組んでそっぽを向く仕草も,照れ隠しの一種だと総司は分かってる。
「そう言う所が可愛いんですって。
冷たく突き放しても心の中では寄り添ってくれてると言うか。」
「気色悪い事言ってんじゃねぇ!」
土方は粟立った腕を全力でさすった。
冗談でもそう言われるのは何よりも不快だ。
これ以上からかえばただじゃ済まなそうだと思った総司はペロッと舌を出しておどけるだけに留めた。
「じゃあ明日は私が三津さんを甘味屋まで送りますよ。」
「あ?それは駄目だ。」
総司の提案はあえなく却下され,納得出来ないと口を尖らせ反論に出た。
「別に稽古をサボって甘味を楽しみに行くんじゃないんですからね。
あくまで三津さんが迷子にならないように,安全に甘味屋に送り届ける為であって!」
「だからそれが駄目だって言ってんだ。
たかが女中に隊士がついてみろ。
馬鹿な不逞浪士の奴らがそれを見たら,あいつはうちにとって重要な奴だって勘違いするだろうが。」
だからせいぜい尾行にしておけ。わざわざこっちから誤解を招く事はしてくれるなと釘をさす。
「この前それを利用して三津さんを囮に使っおいて,よく言えますね。
そのお陰で隊の中では三津さんが本当に土方さんのモノだって勘違いしたままの方が多いんですからね。」
総司も腕を組み,不機嫌な顔をした。
三津が土方の女だと耳にする度気に障るんだ。
「あいつが俺に釣り合う訳ないだろ。」
色気も可愛げも常識も無い。無い無い尽くしのどうしようもない奴だと鼻で笑った。
三津をけなされ悔しそうな総司を見下して勝ち誇った笑みを浮かべる。
「それにお前不犯はどうした,不犯は。その誓いがあんだからあいつがどこの誰とどうなろうが指くわえて見てるだけなんだろ?
例えその相手が俺でもな。」
更に追い打ちをかけるように言葉を並べてニヤリと口角を上げる。
総司はうっとたじろいで,返す言葉を必死に探した。
「だとしても,土方さんは絶対駄目です。頭の中は近藤さんと新選組の事しか考えてないんですから。」
三津を一番に考える男じゃなきゃ駄目なんだって,勝手に考えてる。
「あいつの頭の中を俺で埋め尽くす事は可能だぜ?」
そんな総司を嘲笑って,土方は自信たっぷりに言い放った。好きなら自分のモノにしてしまえばいいのに。
くだらない誓いに縛られている総司を,土方は馬鹿馬鹿しく思う。
「まぁ,女ってのは面倒臭い生き物だ。わざわざ本気になる事はねぇよ。遊び程度に付き合うのが一番だな。」
お前は真面目過ぎるんだ。経験豊富な男はそう語る。
そして腑に落ちない表情の総司の肩を軽く二回叩いた。
「それにな,近藤さんの事で頭がいっぱいなのはお互い様だろ?」
得意げな顔がそうだろ?と言っている。
総司はくすりと笑い,それもそうだと頷いた。
「やっぱり大好きです!」
何だかんだ言っても,周りの事をしっかりと考えている。仲間思いな天の邪鬼が,堪らなく好きだ。
殴られるのを承知で土方に飛びついた。