原田のは選択外だ。土方同様、でかすぎる。
斉藤のは奪いづらい。罪悪感がある。
永倉は許してくれそうだ。
それが永倉にした理由だ。
そー…
足音を立てずに静かに歩く。
カラ…
「わぁ…」
美海が襖を開けるとほとんど何もなかった。
永倉さんはよく島原に行くからいっぱいあると思ったんだけどな。
ポツリと羽織が置いてある。
これ無かったら永倉さん外出できないなぁ。
でも…
「仕方ないよね!」
美海は永倉の部屋から羽織を奪うことに成功した。
美海はそのまま門へ突き進む。胸元にはしっかり顕微鏡の図面が入っている。
「あ。立花さんお疲れ様です。どちらへ?」
門番の隊士が言う。植髮
「お疲れ様です。ちょっと」
「ちょっと?」
「あー―。ごめんなさい!」
ドスッ
ふらっ
バタン!
美海は門番の隊士を気絶させた。良い言い訳が浮かばなかったのだ。寝不足で頭が回らない。
「ふー―…道覚えてるかな?」
美海は呟いた。今日は快晴だ。
「ていうかいるかな?」
そこから疑問のようだ。
美海の一人旅が今始まった。
バタバタバタバタ!
ガラッ
「土方さん!」
「あ゛?お前は美海かよ。ちゃんと声掛けて開けやがれ」
土方は机に向かったまま答える。
「大変なんですよ!門番が!」
「門番?」
土方はクルリと振り向いた。
「気絶してるんです!何があったのか!」
美海か…。
あいつ…やりやがったな。
「あー大丈夫だ」
「ですが!」
「大丈夫っつってんだろ」
「す…すいません!」
この鬼に睨まれて逆らえる者はいない。
な…長い…。
あれから美海は結構な距離を黙々と歩いた。
今は町外れの小道を歩いている。
行き先までは結構な距離がある。
グ~…
美海は独りでに鳴いたお腹を見る。
「お腹…空いたよぉ…あ」
美海は手に握っていたおにぎりを見た。
「持ってじゃん」
ガサガサ…
「おぉ!」
中を開けると綺麗な形のおにぎりが入っていた。今の美海にはご馳走に見える。
女中さんが作ってくれたのかな?
一口かじる。
「うまっ!」
こんなにおにぎりを美味しく感じたのはいつぶりだろう。
道行く人々は怪しい者を見るような目をする。
でも…
グ~…
こういうのって少し食べると余計にお腹空くんだよな…。
美海は鳴りやまないお腹をキッと睨んだ。
美海の回りはもはや誰も歩かない。怪し過ぎる。
もっとも、一番の理由は髪の色なのだが…。
「くしゅんっ!ズズッ…」
頭ボーッとする…。
美海は鼻をすすりながら額に手を当てた。
熱…あるな。
睡眠不足、空腹、過労。
今までのが一気にきたのだろう。体力が弱っている。
「あと少し…」
フラフラしながらも美海は歩き続けた。
ザン…
ザザ――ン…
波の音が聞こえる。
着い…た。
目的地に着いたのだ。
フラッ
バタン…
美海は大きな家の前まで行くと戸に手を置いた瞬間、地面に倒れ込んだ。
数時間後。
ガラッ
「あれ?何かしら。これ」
中からは女の人がでてきて呟いた。
買い物に行こうと戸を開けると美海が目の前に倒れていたのだ。
女の人は中にもう一度戻る。
階段に向かって大声を上げた。
「龍馬さー――ん?これ知り合いー――?」
「んー―?なんじゃあ?」
「なんか家の前に倒れてたのよ!」
「今行くぜよ!」
美海が目指していた場所は坂本龍馬がよくいる場所、太平洋がよく見えるお幸の家だったのだ。
ドタドタドタドタ!
階段を駆け降りる音が聞こえる。
「どれどれ?」
坂本は玄関から顔を覗かせる。
「これ」
お幸は頭髪が茶色い人間を指差した。
「まさか…」
坂本はそれに近づき、しゃがみこんで顔を向かせた。
目を瞑っている端麗な顔。
「美海ぃ!?」