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カラン…、カララン…、カラン…

2024-09-27 19:16:48 | 日記
カラン…、カララン…、カラン…

ふいに室内の床の間から、まるで金属を転がしたような、軽快な音が響いて来た。

床の間は、見事な楼閣山水図の掛軸と、紅椿が生けられた青磁の花瓶で飾られていたが、何故かその中央に、

装飾品とは思えぬ青銅鈴が、太い打ち紐の先に結び付けられた状態で、床の間の天井から吊り下げられていた。

紐の先は天井を通ってどこかに繋がっているらしく、青銅鈴が鳴る度に小さく上下していた。FUE植髮

しかし、それを見ても特に驚く者はなく

「──表に誰かが参ったようじゃな。仏間の前の呼び紐を引いておる」

濃姫は事もなげに呟くと、再び齋の局に目をやった。

「齋、悪いが見て来てたもれ。侍女衆であれば要件だけ伺ごうて、早々に仏間の前から遠ざけるように」

「承知つかまつりました──」

齋の局はづくと、すぐさま部屋を出て、仏間の方へと駆けていった。
「やはり誰ぞが来た時の為に、合図となる物を取り付けておいて正解であった。表でが起こっても、

こちらの部屋へ参っていたら、仏間の外から呼びかけて来る声も聞こえませぬ故」

濃姫が言うと、控えていたお菜津も同感そうに頷く。

「御台様のお知恵のおかげで、姫様も私も実に安気ございまする。 ──時に姫様などは、

あの御鈴が鳴る度に、どなたが参られたかを正確に言い当てられる程で」

「まぁ…。そうなのですか、胡蝶」

「ええ。人によって鳴らし方が違うものですから」

「であれば、今参ったのが誰なのかも分かるのか?」

「まず、遠慮なしに御鈴の紐を幾度も引かれるのは侍女方ではございませぬ。かような引き方をなさるのは、この城では父上様か、或いは……」

と胡蝶が話していると、外の入側の奥から、シュシュシュシュッという激しい衣擦れの音が響いてきた。

「お待ちを…、お待ち下さいませ大方様! 私が、あ、つかまつります故…!」

「無用じゃ! 既に勝手は知っておる」

衣擦れの音と重なるように、報春院と、その後を追う齋の局の声が聞こえてくる。

胡蝶は素早く居住まいを正すと、襖の開け放たれた入口に向かって、軽く平伏の姿勢をとった。

やがて部屋の前に報春院、少し遅れて齋の局が現れると、胡蝶は一度低く頭を垂れてから

「かような所まで、ようこそお出で下さいました。胡蝶は嬉しゅうございます」

と、懇ろに挨拶を述べた。様。本日もご機嫌麗しゅう」

細い目でこちらを見つめてくる報春院に対して、胡蝶はスッと上半身を起こすと、目の前の祖母に向かってにっこりと微笑みかけた。

するとどうだろう。

報春院のあのがったのである。

報春院は笑顔で入室すると、胡蝶の前に座して、畳につかえていた彼女の右手をそっと取った。

「まぁまぁ、胡蝶や。左様な他人行儀な挨拶はせずとも良いと、いつも申しておりましょうに。

わらわにとってそなたは、何も変え難き大切な孫娘じゃ。かように手などつかず、普通にしていれば良いのです」

「はい。お心遣い、痛み入りまする」

「それが他人行儀なのです。分かってくれたのであれば、“ はい、お祖母様 ” と、そう言うてくれるだけで良いのですよ」

「承知致し……、いえ。はい、お祖母様」

「うむ。良いお返事じゃ」

報春院は満足そうに頷くと、胡蝶の頭を優しく撫でた。

そんな祖母と孫娘との触れ合いを見て、濃姫とお菜津は、思わず顔を見合わせて

永禄十三年(1570)には

2024-09-27 19:02:12 | 日記
永禄十三年(1570)には、京の足利義昭を蔑ろにしたという名目で、越前の朝倉義景を討つべく三万もの兵を率いて進軍。

これに “ 朝倉家とは戦をしない ” との同盟時の約束を反故にされた浅井家が、信長を見限って朝倉家に加担。

織田・徳川連合軍二万五千と浅井・朝倉連合軍一万八千がぶつかり合った「姉川の戦い」を経て、天正元年(1573)、

朝倉義景を討った織田軍は、直ちに北近江へ進軍して、浅井長政、久政の親子を自害に追い込んだのである。植髮價錢

元亀二年(1571)には、元より対立関係にあったが、「志賀の陣」にて浅井・朝倉に手を貸したとして、一部寺社の焼き討ちを命じた他、

同四年には、不和が続いていた足利義昭を京から追放して、十五代続いた室町幕府を滅ぼしたのである。


そして天正三年(1575)十一月。

信長は、元服して名を『』と改めていた嫡男・奇妙丸に、織田家の家督及び、

尾張の一部と美濃東部の支配を任せ、岐阜城主とした。

これにより、事実上は隠居の身となった信長だったが、それも表向きだけのことで、

以後も家中では『 上様 』と呼ばれ、これまでと変わらず織田家の実権を握り続けたのである。


そんな信長が、琵琶湖の湖畔に築城を開始したのは、翌 天正四年(1576)の一月のことだった。

京と尾張の中間にある安土の山頂に、これまで誰も見たことがないような、壮麗な城を築こうと計画したのである。


濃姫は、この話を初めて信長から聞かされた時

「何故に京ではなく、安土に築城なされるのですか?」

と、眉をひそめて伺ったことがあった。
天下統一を目指す信長ならば、次に城を築くとしたら、間違いなく天下の中心である京の都であろうと思ったのだ。

すると信長はいたずらっ子のように笑って

「京は攻めに弱く、守りにくい。しかも資材や兵たちを動かすのにも不便極まりない地じゃ。賢き者ならば左様なところに城など建てぬ」

「…左様にございますか」

「加えて申すならば、京は平地であろう」

「平地だといけないのですか?」

「儂にとっては大いにな。──お濃。儂はな、軍事面ばかりにとらわれた城ではなく、見せる城を造りたいと思うておる」

「見せる城?」

「天下人が住むに相応しい、外観美しき城じゃ。城下には岐阜よりも豊かな街を築き、楽市楽座をおいて、より多くの人々を呼び込むつもりじゃ」

「まぁ、それはとても賑やかになりましょうね」

「ああ。故に、その城に築く天守の見晴らしは、絶景そのものでなければ困る」

「なるほど。平地では見晴らしが良うございませぬものね」

我が意を得たりと、信長は笑んで頷いた。

「それに安土は岐阜よりも都に近く、琵琶湖を使った船団輸送に、街道を使った陸路輸送とが交わる地である故、商業も盛んじゃ。

また各所に城を築けば、都へ向かう兵や物資などの動きにも目を光らせることが出来る。実に理想的な土地じゃ」

「──であれば、副将軍と管領の

2024-09-27 18:38:32 | 日記
いて

「──であれば、副将軍と管領の座をご辞退致す代わりに、是非いただきたいものがございます」

と低姿勢で切り出した。

「叶いますならば、と大津、この二つの街を頂戴致しとう存じまする」

「堺と大津を…」

「たったそれだけで良いのでございますか?」脫髮先兆

「左様な望みであれば、公方様には容易いことではございますが…」

そう言いつつ、三人が頷き合うと、信長は義昭がおわす奥の御簾をしながら

「であれば、この旨、どうぞよしなに公方様にお伝え下さいませ」

その場に両の拳を付いて、慇懃に頭を垂れた。

この折、 座の隅には、他の織田家臣らに混じって光秀も控えていたが、彼は、

床の上に伏せられてゆく信長の満面に、一瞬 悪鬼のような微笑が浮かんだのを見逃してはいなかった。




それから程なく、御不浄を理由に座を中座した信長は、厠からの帰り道、ふいに光秀からの出迎えを受けた。

思わず細眉を歪める信長の足元に、光秀は端然として控えると

「ご無礼つかまつりまする。……殿、お伺いしたいことがございまする」

静かな口調で願い出た。

信長は無言のまま光秀の頭を見据えると、何かを察したように

「そなたらは先に戻っておれ」

と、従っていた小姓たちに命じた。

小姓たちが一礼してその場から去っていくと、信長はひとき、改めて光秀を見下ろした。

「さて──そちの伺いたいこととは何じゃ?」

「畏れながら、先程の、公方様からのご意向の件にございます」

「…さもあろうな」

「何故に副将軍、御管領の座をお断りになられました? 何故に堺と大津だけで良いなどと」

「──」

「確かに、無欲なることをお示しになられれば、公方様のご信頼は益々お厚くなり、織田の権勢を京に確立することも叶いましょう。ですが…」

「光秀よ」

「…はい」

「そなた、お濃の従兄にしては、その辺のことについては察しが悪いようじゃのう」

「?」

「まぁお濃の場合は、察しが良過ぎるとも言えるのじゃがな」

信長はっ子のように微笑むと、に廊下の縁に歩み寄り、空を眺めた。

「儂が副将軍と管領の座を何故に断ったかじゃと? ──左様なこと決まっておろう。

そのような職を貰うても、こちらにとっては何の利益にもならぬからじゃ」

信長は視線を天に向けたまま、まるで独りごちるように答えた。

「そなたや細川らは口を揃えて “ 名誉、名誉 ” と申すが、全て表面上、形ばかりのことに過ぎぬ。

副将軍などと聞こえは良いが、実際は大した実権も発言力もなく、有名無実の役職じゃ。

そもそも、に成り果てて終わるだけじゃ」

「それ故に、お断り申されたのですか?」

信長はその問いに、無言をもって肯定した。
「──のう、光秀よ。地方の一大名に過ぎぬこの儂が、天下を手中に治める為に必要なのはなんであろうか?

形ばかりで何の意味も持たぬ今の幕府に仕えることか? それともこの京の治安回復に尽くし、民やの機嫌を取ることか?」

困惑気な光秀の前で、信長は笑ってかぶりを振った。

「いいや、そのどちらでもない。今の儂に必要なのは、更なる財と兵力じゃ。織田が将軍を擁して上洛したことで、

これから多くの敵が京を目指してやって来るであろう。それは越後の上杉か、はたまた中国の毛利か、または甲斐の武田やも知れぬ」

「……」

「左様な者共に対抗する為に、堺と大津は必要不可欠だったのだ。副将軍や管領などよりもずっとな」

その言葉を聞いて、光秀もようやくくものがあったのか、ハッとなって顔を上げた。

やはございませぬ 』

2024-09-27 17:53:50 | 日記
やはございませぬ 』

『 …お濃殿! 』

『 母上。 母上はこの赤子の処遇については、父である儂に託されると仰せになられた。その儂が決めたことに、今更異存を申されるおつもりですか? 』

『 それは… 』

『 先程も “ この赤子を生かすも殺すも、そなた様の自由じゃ ” と左様仰せになられた 』

『 …… 』激光生髮帽

『 武家のおなごが一度口にした言葉に、よもや二言などはございますまいな? 』

静かに告げられる信長の言葉に、報春院は思わず鼻白んだ。

苦し紛れにキッと信長を睨むも、相手は微塵も動じない。

報春院は奥歯を強く噛み締め、短くも重々しい溜め息をくと

『 勝手になされよ… 』

呟くように告げてから、足早に座を辞した。

思い詰めたような面持ちで姑の背を見送る濃姫の横で、信長はふっと鼻息を漏らす。

『 相も変わらず頭の固いお方じゃ 』

『 …お引き止め致さなくて、良かったのでしょうか? 』

『 気に致すな、いつものことじゃ。あの母が、はなから理解して下さるとは思うてはおらぬ 』

信長は想定内とばかりに言うと、に、寝かせられている赤子の側に寄り、

のように真っ赤な頬に、そっと指先で触れた。
『 実に良き子じゃ。……身体に不自由があるから何だと言うのであろう。頭もあれば胴もある。

片方ずつじゃが手足もちゃんとある。この子を人と呼ぶのに、いったい何の不足があろうか? 』

『 殿─… 』

『 しゅう言う者共など放っておけば良い。暇な連中のに過ぎぬ。

それよりも、この子が病などにかからぬよう、寂しい思いなどせぬように、心して育てよ。

この御子は、亡き道三殿と我らを繋ぐ、唯一無二の御子なのじゃからな 』

信長が励ますように告げると、濃姫は目の前の畳の上に両の手をつかえて

『 承知致しました。 …お言葉、この胸に深く刻み、母として誠心誠意、姫君の訓育につとめて参る所存にございます 』

まるで神仏の前で誓い立てるような、強い心持ちで述べた。





「──あの折の殿のご寛大さには、今も尚 感謝致しておりまする」

回想を終えた濃姫の面差しに、柔和な笑みがほころぶ。

「姫の身体のことは元より、乳母や侍女を側に置いても、今のまま姫の世話や教育に携わっても良いとまで仰せ下された。

本来ならば決して許されぬことであろうに、ここまで私の気持ちに沿うて下されて……ほんに有り難い限りじゃ」

「ある意味で申せば、尋常ではないお考えをなされるあの殿だからこそ、左様なご決断に至ったのやも知れませぬな」

三保野が冗談めかして言うと、濃姫も同感そうに頷いて

「ほんにな。 ──姫、そなたの父上が尾張の大うつけと呼ばれたお人であったおかげで、そなたは救われたのですよ。感謝せねばなりませぬなぁ」

乳の匂いがいっぱいする姫君の身を、優しく抱き締めた。
そんな時、部屋の前の廊下にスッと黒い影が差し込み

「何やら賑やかじゃのう」

と、聞き慣れたあの甲高い声が響いてきた。

「まぁ、殿…!」

濃姫は素早く入口に膝を向けると、姫を抱いたまま静かに頭を下げ、三保野はあたふたとその場にした。

「お出でとは気付かず、申し訳ございませぬ。   …義昭様へのご挨拶は、もうお済みになったのですか?」

「ああ、滞りなくな。思うた以上に早く終わった故、その足でこちらへ参ったのじゃ」

「左様にございましたか」

「ところで、尾張の大うつけと、何やら懐かしき呼び名が聞こえてきたが──何じゃ?儂の悪口で盛り上がっておったのか?」

信長はきながら部屋に足を踏み入れると、濃姫たちの前に笑顔で膝を折った。

濃姫は笑ってかぶりを振る。

三保野が笑顔で申し上げると

2024-09-27 17:51:42 | 日記
三保野が笑顔で申し上げると、小見の方はふふっと可笑しそうに笑った。

「これしきのことで満願成就とは大仰ですよ。 …それに、ここへ参ることは予てよりの約束でした故。のう帰蝶?」

「はい。殿が美濃へお入りになり、初めて母上のお顔を見に常在寺へ参った時に “ 折を見て岐阜の城へ参る ” とお約束して下さいましたものね」

「ええ。あの日から一年以上を経ての登城となってしまい、まことに申し訳なく思うています」

小見の方が目礼すると、濃姫は「飛んでもない」と小さくかぶりを振る。
「今くらいがちょうど良かったのです。文にてもお伝え致していた通り、私も昨年は大事があり、何かと慌ただしゅうしておりました故」

「…そうか…、そうであったな」

毎月のように届けられる濃姫からの文によって、既に胡蝶の一件を知るところにあった小見の方は FUE植髮

「まことに、ご苦労なことであったな帰蝶」

「母上…」

「ようなされた。ほんにようなされましたな」

と、出産に至るまでの苦をうような、慈愛に満ちた眼差しを注いだ。

母からの暖かい言葉に、濃姫の瞳の縁にじわりと涙が溢れる。

ようやく母に親孝行が出来たのだと、濃姫は長年抱えていた胸のつかえが下りた思いだった。

姫は白い指先で軽く涙を拭うと、にっこりと笑って

「此度は母上がお越しになるとあって、殿の御側室方も、城下よりり越しましてございます」

小見に、控えている二人の側室を披露した。

両人共に華やか微笑を湛えつつ、に頭を垂れてゆく。

「お養と申しまする。初のご対顔が叶い、まことに有り難く、恭悦至極に存じ奉りまする」

「お慈にございまする。道中大事なくご到着のこと、心よりお慶び申し上げます」

「まぁまぁ──これは何ともご丁寧に。さすがは婿殿にございますな、お側に仕える女人方も皆々お美しい」

「母上。こちらのお慈殿は、殿のご家臣であられる瀧川一益殿のご親類にて、元は嫡男・奇妙丸殿の乳母であられたお方にございます」

「左様であられたか」
「こちらのお養殿は、殿の二女・冬姫殿のご生母であられ、今年に入ってからすぐに四男・於次丸殿をお産みになられ、二児の母君とおなりです」

「まあ、それは何ともおめでたいことじゃ。胡蝶のとはのう」

「……こちょうの、きょうだい?」

小見の方の何気ない発言に、お養はきょとんとした顔をして、首を傾げた。

濃姫も小見自身もはっとなり、思わず苦笑を浮かべる。

「母上、またそのようなお間違えを。私の名は胡蝶ではなく、帰蝶でございますのに」

「こ…これはしたり、私としたことが…。名がよう似ておる故、つい」

「それに姉弟だなんて──左様に見えるほど私は若くはございませぬ。良くて、家族と言うべきところでございましょうに」

「…ええ、ほんにそうじゃな。以後気をつけまする」

二人が何とか誤魔化そうと努めていると

「お方様。かような所での長話もなんでございます故、お母上様にはひとまず御客座敷へお移りいただき、ご休息いただいては如何でしょう?」

助け船を出すように、古沍が濃姫に進言した。

濃姫は「それもそうじゃな」と、思わず両のを合わせると

「母上、茶会まで少し間がございます故、どうぞ奥の座敷にておぎ下さいませ。──三保野」

「はい。…ささ、どうぞこちらへ。つかまつりまする」

三保野に命じて、早々と小見の方と笠松を御客座敷へと移動させた。

お養とお慈は「はて?」という表情をして、逃げるように去っていく小見のな背を、静かに見送るのだった。