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宇宙の片隅で

日記や「趣味の情報」を書く

隆一と有紀 -1-

2020-04-08 13:17:28 | 脚本
 麻川遼一のペンネームで、10数年前に書いたオンライン小説です。


 ・・・・講義終了のベルとともに、多くの学生が教室からぞろぞろと出てきた。今日の講義は、これで最後だった。

 ここは、東京都にある関東大学のキャンパスで、いっときに大勢の学生たちで溢れかえっている。
 その中に、インターネットの話をしているカップルがいた。
 関東大学3回生の高原隆一と、同じ3回生の川島有紀である。2人は、同い年の20才である。

隆一「最近、自分のサイトがメンテナンスを頻繁にするんで、調子狂っちゃうよ」
有紀「それは、アクセス障害の復旧とか、容量を増大するときとか、必要に迫られてするんだから、仕方ないんじゃない? よくは分からないけど」
 2人とも、春休みが目前なので喜々としてキャンパスを闊歩している。
 2人は、講議が終わると、いつも一緒に行動する。

有紀「隆一さん、きょうは何処に行く?」
隆一「アブサンにでも行ってみようか?」
有紀「賛成!」

 駐輪場にやって来て、隆一はバイクにまたがった。
 有紀が後部座席に乗り、隆一の胴にしっかりと腕を回すと、バイクは、校門を走り抜けて行った。

隆一と有紀 -2-

2020-04-08 13:16:48 | 脚本

 『アブサン』とは、関東大のOBがマスターをしているジャズ喫茶の名前である。
 大学からはバイクで10分ほどの距離で、駅前圏の一角にある。

 隆一はそこの常連で、有紀や、バイク仲間たちとよく訪れる。
 かかる”ジャズ”も落ち着いた雰囲気の曲が多く、大声で話さなければならないということはまずない。
 常連たちが比較的静かな曲をリクエストするのと、マスターの好みでBGMに適した曲を集めているからである。
隆一「オッス、杉山先輩」
有紀「こんにちは~」
 マスターは、入ってきた隆一と有紀の姿をみると、嬉しそうに、
「やあ、いらっしゃい」
と声を掛けた。
 隆一らは、一番奥の’自分たちの指定席’が空いていることを確かめると、そこに向かった。

 ほどなく、ステンレス・トレーにミネラル・ウォーターを2つ載せてマスターが注文を訊きに来た。この店には、ウェイトレスがいない。ジャズ喫茶の多くの店がそうであるように。

隆一「俺はホット」
有紀「わたしはレモンティーね、おじさん」
マスター「あいよ」

隆一「有紀ちゃん、レモンティーが好きみたいだね?」
有紀「あら、言わなかったかしら。レモンに入っているクエン酸が疲労物質の乳酸を分解してくれるから、疲労回復にいいそうよ」
隆一「へぇー、そう。でも俺はこの店では、いつもホットをたのむんだ。ここのコーヒーは、とびきり旨いからね」
有紀「えぇ、それはみとめるわ」


「隆一と有紀」 - 3 -

2020-04-08 13:16:01 | 脚本

 マスターの名前は「杉山二郎」、あだ名は”アブさん”である。
 店の名前が『アブサン』だからか、いつのまにか常連たちはそう呼ぶようになった。

 マスターの杉山は気分は若いつもりだが、有紀たちから見れば、おじさんと言われてもしかたがない。
 隆一と同じく、関東大付属高校からエスカレーター式で関東大に入学したが、卒業するのに8年かかった。
 父親は杉山建設の社長で、いずれあとを継ぐのだが、今のところは好きなジャズが一日中聴けるジャズ喫茶のマスターにおさまっている。

隆一「それより、春休み、どうする?」
有紀「冬休みはスキーに行ったし、今度は何処がいいかしら?」
隆一「だったら、箱根までドライブ旅行しないか?」
有紀「バイクで?」
隆一「いや今度、車を買ったんだ」
有紀「豪勢ね。バイクはもうやめるの?」
隆一「バイクはバイク、車は車さ」
有紀「隆一さん、あなたのバイク、外国製だから、もしかして車も・・・外車?」
隆一「当たりー」

「隆一と有紀」 - 4 -

2020-04-08 13:15:03 | 脚本

 ・・・・やがて春休みに入ったある日、有紀を乗せた隆一のオースチンは、一般道から高速道路に入って、いくつかのジャンクションを通り抜けた。
 少し前から隆一の口数が少なくなったと有紀が思っていると、広い料金所を過ぎた所で、クルマを左路側帯に止めた。そこには、10台のバイクと1台の外車が止まっていた。

有紀「どうしたの? 隆一さん」
隆一「俺のバイク仲間たちなんだ」
有紀「あら、じゃぁ2人だけじゃないの?」
隆一「あれから、バイク仲間と≪アブサン≫に行ったとき、箱根行きの話をしたら、みんなのってきてね。ごめん、ちょっと声をかけてくる」
 有紀は、少し拍子抜けするが・・・。
・・・・
隆一
「じゃー、行こうかー!」
バイク陣
「おーぉ」
「いぇーい」
「オッケー」

 隆一のオースチンを先頭に、12台の一団が整然と走り出した。
有紀「もう1台のクルマも?」
隆一「杉山先輩だよ。マスターまで、仲間に入れてくれって言うんだ。その代わり費用は全額、マスター持ちってことになったんだ。いままで黙っててゴメン!」
と、両手を合わせた。
有紀「分かったわ、危ないからハンドルから手を離さないで。でもこれだけの人数じゃ、たいへんな出費よ、マスター」
隆一「それは大丈夫、マスターといったって、どうせ親父(おやじ)さんが出してくれるんだから」
有紀「まぁ!」
隆一「気にしない気にしない。さぁー、スピードを上げるぞー!」

「隆一と有紀」 - 5 -

2020-04-08 13:13:30 | 脚本

 先頭と最後尾がクルマ、そのあいだを10台のバイクが高速道路を快走していた。
 最後尾は、父親のコンチネンタルを借りたアブさんこと杉山だ。
 彼の役目は、後ろから白バイやパトカーが来たら、パッシングライトで前を走る仲間に知らせることだ。

 その杉山の助手席には、誰も乗っていない。
(・・・まいったなぁ、有紀ちゃん以外あと男ばかりだと思っていたのに、みんな彼女連れかよ。いいさ、箱根に着いたらステキな娘を見つけてデートに誘うんだもんな)
 最初はムスッとしていた杉山だが、そんな想像を膨らませているうちに何だかワクワクしてきた。
 そのとき、杉山の耳を白バイのサイレン音がつんざいた。
 淡い想像は一瞬のうちに吹き飛んだ。
「しまった!」
 杉山は、すぐにパッシングライトで前を走るバイクに知らせた。
 そのパッシングライトは先頭のオースチンまで6、7秒もかからなかった。全車、スピードダウンした。

 もともとツーリングでは、先頭車は後続の車両が付かず離れず走れるように、無理なスピードは出さないものだ。
 このときも、バイク仲間達のチームワークは見事で、日頃の経験がものをいった。
 白バイは、なおもサイレンを鳴らしながら、右車線を追い抜いて行く。
 杉山は自分の迂闊さを反省しながら、
(あの白バイ、先頭をつかまえる気だろうか・・・?)
と心配になってきた。

 ところで、隆一の50m前方の右車線を、同じ様なスピードで走るワゴン車がいた。
 白バイはサイレンを鳴らしながら隆一らの一団を抜き去ると、ワゴン車に近づき、余裕のある左路側帯に停車するように合図をした。
 高速道路の右側車線は追越し専用で、左車線が空いているにもかかわらず、そのワゴン車は右車線を走っていた。
 白バイは、反則切符を切るために誘導したのだった。