『ユング心理学入門(Ⅲ)』林 道義著(PHP新書)から
・・・善と悪というのは原理的には絶対に区別しなければならないが、個別的には相対的になる。
悪が悪のまま必要ということではない。
悪が善なる働きをする場合もあるということだ。
その典型的な例としてユングがよく引き合いに出すのが、ゲーテの『ファウスト』に出てくるメフィストフェレスである。
なぜメフィストフェレスがその例に合致するかというと、メフィストフェレスは悪魔なのだから、悪いことをしようと思っている。
人間の魂をとるのが彼の目的だから、人間から見たらこんな悪い奴はいない。
つまり魂をとられるということは、その人の一番大事なものをとられることだから、殺されるよりもっと大変なことなのである。
殺された場合には魂は天国に行くが、魂をとられたら天国にも行けない。
つまりすべてを否定され、すべてが無になってしまうということである。
そして、とられた魂は悪魔によって悪用されるかもしれない。
これほど悪い奴はいないというのがヨーロッパの人たちの観念である。
そのもっとも悪いことをしようというメフィストフェレスは、極悪の悪魔なのである。
しかも、そのとり方が汚らしくていやらしい。
メフィストフェレスはいろいろ魔法をかけてファウストを喜ばせ、ファウストが満足し、もういつ死んでもいい心境になった瞬間に、魂を貰うという約束になっているのである。
女を与えてみたり、極楽みたいな楽しみを与えてみたり、それから立派な政治家にしてやって満足させてみたり、あの手この手を使って満足させる。
そして最後に魂を取りあげてしまうということである。
しかしゲーテはなぜかそういう結末にしていない。
ファウストが満足して「時よ止まれ」と言った瞬間、ファウストは魂を取られるはずなのだが、そこに「永遠に女性的なるもの」という存在が降りてきて、ファウストの手を引いて天に昇っていくのである。
だからメフィストフェレスが意図したような悪い結果にはならなかった。
メフィストフェレスは悪いことをしようと思ったのに、結局ファウストが永遠に救われて天に行けるように手を貸したことになった。
「メフィストフェレスは悪い奴だが、悪をなそうとして善をなしたんだ」とユングは言っている。
以上、引用-了-
■そういう悪魔的なものが、日本にも存在する
そして、それは日本では意識されることもなく、空気のような存在で余りにも当たり前、無意識下に潜在化されており強力であるため、誰ひとり疑うことがない。
・・・善と悪というのは原理的には絶対に区別しなければならないが、個別的には相対的になる。
悪が悪のまま必要ということではない。
悪が善なる働きをする場合もあるということだ。
その典型的な例としてユングがよく引き合いに出すのが、ゲーテの『ファウスト』に出てくるメフィストフェレスである。
なぜメフィストフェレスがその例に合致するかというと、メフィストフェレスは悪魔なのだから、悪いことをしようと思っている。
人間の魂をとるのが彼の目的だから、人間から見たらこんな悪い奴はいない。
つまり魂をとられるということは、その人の一番大事なものをとられることだから、殺されるよりもっと大変なことなのである。
殺された場合には魂は天国に行くが、魂をとられたら天国にも行けない。
つまりすべてを否定され、すべてが無になってしまうということである。
そして、とられた魂は悪魔によって悪用されるかもしれない。
これほど悪い奴はいないというのがヨーロッパの人たちの観念である。
そのもっとも悪いことをしようというメフィストフェレスは、極悪の悪魔なのである。
しかも、そのとり方が汚らしくていやらしい。
メフィストフェレスはいろいろ魔法をかけてファウストを喜ばせ、ファウストが満足し、もういつ死んでもいい心境になった瞬間に、魂を貰うという約束になっているのである。
女を与えてみたり、極楽みたいな楽しみを与えてみたり、それから立派な政治家にしてやって満足させてみたり、あの手この手を使って満足させる。
そして最後に魂を取りあげてしまうということである。
しかしゲーテはなぜかそういう結末にしていない。
ファウストが満足して「時よ止まれ」と言った瞬間、ファウストは魂を取られるはずなのだが、そこに「永遠に女性的なるもの」という存在が降りてきて、ファウストの手を引いて天に昇っていくのである。
だからメフィストフェレスが意図したような悪い結果にはならなかった。
メフィストフェレスは悪いことをしようと思ったのに、結局ファウストが永遠に救われて天に行けるように手を貸したことになった。
「メフィストフェレスは悪い奴だが、悪をなそうとして善をなしたんだ」とユングは言っている。
以上、引用-了-
■そういう悪魔的なものが、日本にも存在する
そして、それは日本では意識されることもなく、空気のような存在で余りにも当たり前、無意識下に潜在化されており強力であるため、誰ひとり疑うことがない。