昨年、巨樹巡りをしていて熊と遭遇しました。
近くで対面したわけではありませんが、
神社脇の森に黒い物体がガサガサと音を立てて横に移動していきました。
背を向けて走って逃げてはいけない、とされていますが、
距離があったので一目散に車まで走りました。
巨樹巡り先(たいてい山の中の神社仏閣)の地図を、
熊の目撃情報の地図と見比べると、
たいてい一致します。
そのことにあるとき気づき、
「なあんだ、自分から会いに行ってたんだ」
と力が抜けました。
でも巨樹巡りは続けたい。
さて、どうしたものか・・・
こんな記事が目に留まりました。
現状では「熊の被害を防ぐには街に下りてきた熊を駆除するしかない」という意見です。
▢ 「街に出たクマは殺すしかない」クマを愛する大学教授がそう断言する理由熊の出没は"人間のせい"だった
小池 伸介:ツキノワグマ研究者
(プレジデント 2025年1月31日号)より一部抜粋(下線は私が引きました);
▶ 人口の都市集中によりクマの生息範囲が拡大
2024年11月末、秋田市内のスーパーにクマが侵入し、店員1人がけがをする事故が起きた。クマは店内に居座り、2日がかりで捕獲され、駆除された。
近年、このように人の住む場所で人がクマに襲われる被害が増えている。2023年度に全国で被害に遭った人は過去最悪の219人にのぼる。24年度は8月末までに、前年度を上回るペースでクマの出没が確認されている。
その背景として、40〜50年という長い年月をかけて、クマの分布している範囲が広がり、人の住んでいる場所に徐々に近づいてきていることが挙げられる。その理由の一つは、長年にわたりクマを保護する政策が採られてきたことだ。バブル期にゴルフ場やスキー場をつくるために山林開発が盛んに行われ、クマの分布域が孤立、縮小し、西日本を中心に絶滅が危惧される地域も出てきた。そこで1999年に鳥獣保護法が改正され、各都道府県でクマの捕獲上限数を定め、獲りすぎないようにする政策が採られてきた。それがある程度成功したといえる。
環境省「平成30年度中大型哺乳類分布調査」によると、2003年度から18年度にかけてのクマ類の分布域の増減率について、中国地方270%、近畿地方169%、東北地方134%、北海道129%と増加する一方、四国地方は88%、九州地方は絶滅したとされる。
もう一つの理由は、日本の人口の都市部への集中と地方の過疎化である。戦後しばらくの間は、人が山へ入って活動していたため、動物を山へ押しとどめる効果があった。しかし50年ほど前から人口が都市部へ集中するようになると、人が撤退した里山は耕作放棄地となって徐々に森へと戻っていき、野生動物の新たな生息場所になっていった。70年代までは人間が陣取り合戦に勝っていたが、その後、人が都市へと移動し、撤退した場所に野生動物が分布を広げていったのである。
2023年はどんぐりが凶作だったため、クマの出没が非常に多い年だった。クマにとって、生息地である森から出るのはかなりのリスクを伴う行動であり、よほどのことがなければ出ることはない。それでも人の住んでいる場所に出てくるのは、クマを引きつけるエサになるような誘引物があるためだ。田舎では庭にカキの木やクリの木がある家が多く、かつては秋になるときちんと収穫されていたが、高齢化や過疎化した集落では果実が収穫されずに放置され、それに誘引されてクマが出没するのである。
なぜクマに遭遇すると、人身事故につながりやすいのか。基本的にクマは植物を中心にした雑食性で、人を襲って食べることはない。クマが攻撃してくるのは防御のためである。クマは基本的に人への警戒心が非常に強いため、人に遭わないようにしている。人と鉢合わせしてしまうと、クマもパニックになり、目の前の人をはね除けてでもその場から逃げようとする。その結果として被害に遭ってしまうことが多い。
人の住む場所に出没したクマに、私たちはどう対処すべきだろうか。「駆除せずに保護すべきだ」という声もあるが、前提として、人の住む場所に出没したクマに対して、私たちにできることは駆除以外にほぼ何もないと考えたほうがいい。行政の立場からすれば、人身事故は絶対に起こしてはならない。一刻も早くクマがいない状態にする必要がある。そのためには、銃器による駆除しか方法はないのである。
山に追い払う方法もあるが、人の住む場所では、追い払った先にまた別の人が住んでいるため、さらに事故が起きる可能性がある。また、檻に捕まえて山に放つという方法もある。しかし、檻を置いたところでクマはそう簡単に入ってはくれない。そのため、解決に時間がかかり、その間、周辺の住民はずっと怖い思いで過ごさなければならなくなってしまう。
では、麻酔銃はどうだろうか。麻酔を確実に命中させるには、10メートルくらいの距離でクマが見えている状況でなければ撃つことはできない。しかも、興奮しているクマに麻酔はなかなか効かない。人の住む場所に出没したクマは大抵興奮しているので、麻酔が当たってもどこかへ行ってしまい、別の事故が起きる可能性がある。秋田市のスーパーの事件では檻が使用されたが、あの場合はクマが建物の中にいて外に逃げられる恐れがなかったために使えた特殊なケースといえる。
こうしてみると、人の住む場所に出没したクマに対しては、地域住民の安心安全のために、一刻も早く銃で駆除するしか方法はないことがわかる。
クマの保護を考えるのであれば、そもそもクマが人の住む場所に出てくることがないように、森の中からクマを出さないようにすることが重要だ。そのために、すぐにできることとしては2つある。一つは、カキの木やクリの木など、クマのえさになりそうな誘引物を撤去することだ。木の伐採には費用がかかるため、最近は公費で助成する自治体も増えている。そしてもう一つは、森から集落に侵入する経路を遮断すること。耕作放棄地や、川原沿いのヤブなどを刈り払い、クマが姿を隠しながら移動できる場所をなくすことで、人の住む場所にクマが出没するのを防ぐことができる。
長期的な対策としては、人とクマとの棲み分け(ゾーニング)をはっきりさせることが挙げられる。クマが昔から住んでいる場所と人が住んでいる場所の間に緩衝帯を設け、人が住んでいる場所にクマを入れさせず、緩衝帯でうまくクマと付き合うようにするのだ。
そのためには、ヤブを刈り払うなどして、緩衝帯をクマにとって住みにくい場所にする必要がある。かつては地元の集落にヤブを刈り払うだけの元気があったが、高齢化や過疎化が進む中で、地域住民だけに対応を任せるのは困難になっている。そのため、公共事業として、集落周辺に動物が居着かないような管理をする必要がある。何年かに一度起こる大雨による洪水を防ぐために堤防を整備するのと同様に、何年かに一度起こるどんぐりの凶作のときにクマを出没させないように、公費で森を管理するのである。そうしなければ、クマと付き合っていくのは難しいのが現在の日本社会の状況といえる。24年にはクマが「指定管理鳥獣」に指定され、交付金を使ったクマとの共生存のための環境整備の試みが各自治体で進められている。
環境省は2024年4月、クマを「指定管理鳥獣」へ追加した。ニホンジカ、イノシシに続き3例目となる。絶滅の危険が高い四国のツキノワグマは除く。都道府県による生息状況の調査事業や人材育成などが国の交付金の対象となる。
▶ 猟友会頼みの駆除はなぜ問題なのか
野生動物に対応するのは行政の役割だが、行政にも2つの問題がある。一つは、職員の中に野生動物管理の専門知識を持った担当者が少ないこと。都道府県レベルでも、その割合は6%に満たない。多くの担当者は専門知識を持たないまま、3年ほど担当して異動するようなことを繰り返している。都道府県で専門的な職員を複数配置できれば、市町村でも安心して対策について相談することができ、地域の野生動物管理の力を底上げすることができる。
もう一つの問題は、駆除を地元の猟友会に依頼している点だ。そもそも猟友会は狩猟を趣味にしている人たちの集まりであり、駆除はボランティアに近い形で行われている。彼らは山にいる野生動物を撃つのには長けていても、人の住む場所でパニックになっているクマを捕獲することに長けているわけではないし、野生動物管理の科学的な知識を持っているわけでもない。また、人の住む場所で発砲することは2次被害や3次被害につながる可能性もあり、非常に責任を伴う仕事であるにもかかわらず、ボランティアで依頼することは大きな間違いといえる。行政で捕獲従事者のような専門職員を雇用するか、民間事業者にきちんと費用を支払って委託すべきだろう。
クマ対策のやっかいなところは、人々のクマに対する印象が「怖い」「かわいい」で二分されるところだ。クマが出没する地域の人は「クマなんていないでほしい」と願い、クマの出没が身近ではない人は「殺すのはかわいそう」と思う。いずれにせよ、私たちにできることは、まずクマの正しい姿を知ることだ。クマを過度に恐れることはないが、ただかわいいだけの動物ではないことも知っておく必要がある。クマの被害が多い秋田県では、クマに関する正しい知識を普及させる取り組みに力を入れている。正しい知識を持つことが、正しい対策に結びつくからだ。
都市に生活している人にとって、クマはあまり身近な存在ではないかもしれない。しかし、果たして10年後、20年後はどうだろうか。すでに札幌や仙台などの100万人都市でもクマが街中に出没している状況がある。東京では今、高尾辺りがクマの分布の最前線だが、今後、その先の多摩丘陵にまで進出してくる可能性は十分ある。クマの出没は、都市の住民にとっても、決して他人事とは言い切れないのだ。