巨樹に魅せられて

巨樹巡りを趣味としていますが、気がつくと神社巡り。その周辺の話題もココに書き留めています。

クマ出没注意!

2024-07-12 08:14:41 | 
昨今、巷を賑わせているクマ出没問題。
巨樹・神社巡りを趣味とする私にとって、
他人事ではありません。
近年、山里の神社に参拝すると、
「クマ出没注意!」
という看板をよく目にするようになりました。

というタイミングで、
とうとうクマさんと遭遇してしまいました。

場所は新潟県小地谷市の山里の神社。
人家が近くまであるので、
全く予想していませんでした。

石段を登り切って境内に入ると、
向かって左側の山の斜面から、
「ガサッ、ガサッ」
と音が聞こえました。
「鳥の飛び立つ音かな?」
くらいの気持ちで振り返ると、
林の中を黒い塊が、
「ガサッ、ガサッ、ガサッ」
と移動しています。
「クマだ!」
と直感し、まだ距離が数十メートルあったので、
急いで撤退しました。
息を切らして人家のあるところまでたどり着き、
事なきを得ました。

巨樹巡りを趣味とする知り合いたちに、
「クマ対策、どうしてますか?」
と聞いてみました。
10人中、クマ遭遇経験のある人は1人のみ。
この方は、山の奥深くに立ち入り、
伝説の巨樹を探り当てる名人です。
10mの距離でナイフを手に取り、
クマと見つめ合った経験を教えてくれました。

写真集も出版している、
巨樹巡りというより“冒険家”の方は、
「別に何も用意していない」
という意外なコメント。
「山に入るときは五感を研ぎ澄まして、
 熊の気配を感じたらそこで山を下りる」
とのこと。
「北海道の山はクマの気配がプンプンして、
 山に入れなかった」
と、クマに遭遇しないことをメインに考えていました。

皆さんのクマ対策をまとめると以下の通り;

・クマよけ鈴
・笛(あるいはラッパ)
・ラジオ
・クマよけスプレー(成分はカプサイシン)

…音を発して人の気配をクマに伝え、
「人がいるよ~」
とクマを遠ざける手法ですね。
でも人に慣れてしまったクマには無効かと…。

そんなタイミングで目に留まった記事を紹介します。
林業が衰退し、
人と山の獣が住む地域の境界が不明瞭になった現在、
どう共存していくのかポリシーが必要ですね。


■ クマの出没対策に、二つのマニュアル紹介
田中淳夫(森林ジャーナリスト)
2024/5/27:Yahoo!ニュース)より一部抜粋(下線は私が引きました);

・・・世間の反応は真っ二つに分かれている印象がある。

 まず、もっと駆除に力入れろという強硬意見。もう一つはクマの駆除に無条件に反対し保護を訴える声である。

 だが,どちらも無理がある。前者は、やみくもな銃と罠に頼った駆除を主張しがちだが、人材、手間、費用などを含めて物理的に難しい。後者は、自分は安全圏に身を置きながら、クマなど野生動物を神聖視しており、獣害に遇われる地域の苦悩を無視している。

 もっと冷静になり、増えすぎた生息数を抑える対策と同時に、クマの人里への出没を減らす方法を考え、もし出くわした際はどうすべきかという点を具体的に身につけるべきではないか。

 同時に、クマなどの野生動物への対応知識と技術を身につけた人材の育成も必要だろう。

 実際の対応はいろいろ模索されているようだが、対策マニュアルを二つ紹介しておく。まずは環境省の出しているもの。

クマ類の出没対応マニュアル -改定版-

 やはり事前に出没に備えること、そしてクマが人里に出てこないようにするのが基本だ。そのためには、農山村の最前線における対策が必要となる。

 具体的には、餌となるものに近づけないこと。そして可能な限り除くこと。それは防護柵の設置のほか、果樹や農作物とその放棄残滓、生ゴミ、ペットフードの管理まで及ぶ。そのうえで都市部まで出てくる理由と対策を考えなくてはならない。

 次にクマが出没した際に取るべき行動。目撃時の連絡先や人員の配置、被害発生時の対応……もし鉢合わせした場合のことも取り上げている。彼らを刺激しない(人を襲う気にさせない)方策も知っておきたい。クマは必ず襲ってくるわけではなく、人を避けることも多い。いや、通常はそちらが普通だ。何が人に怒りを向けて襲うのかを知ることで、危険を抑えることができる

 遭遇した際に、いきなり走って逃げるのはもっとも危険であることなども記されている。そして最悪襲われた際の防御方法も、一応触れている。そのように行動できるかは疑問だが。

 日本のクマに則した内容だが、どちらかというと個人の対応策というよりは、自治体の職員向きかもしれない。行政としてクマへのに向き合い方に重きを置いているように感じた。

 それに対して、より実践的なものがあった。ただし海外版。

非致死的なクマ管理技術の手引き』である。

 カナダの市民団体製作のマニュアルだが、それを日本の<Bear Smart Japan>が翻訳したものである。イラストや写真も豊富。

 タイトルどおり、クマを殺さず人間との共存をめざしているが、何も駆除をすべて否定しているわけではなく、銃器の使用も容認している。ただ、できる限りクマを人間社会に近づけず、追い払うという理念で方策を練ったものだ。

 クマを銃で射殺する方法や捕獲方法、別方向に誘導する方法なども触れているが、騒音による抑止などもある。とくにベアドッグ(訓練したイヌによるクマの追い払い)は、今の日本ではほとんど行われていないが、可能性を感じる。

 北米を舞台にしているから、対象とするのはグリズリーとクロクマだ。ただグリズリーは、ヒグマとほぼ同種。クロクマはツキノワグマに近い種類で、体格は多少大きいが、生息環境も森林などで生態はツキノワグマと近そうだ。それぞれの対策が、日本の2種類のクマにも応用できるだろう。

 丸ごと使うのではなく、日本では取れない手段も紹介されているから、よく考えて選択肢に加えると参考になるかと思う。

・・・

 両者を読んで改めて思うのは、クマ出没対策とは、まずクマの生態を知り、人の行動はそれに合わせていくことの重要性だ。画一的な方法ではないのだ。

 どうも日本の場合は、冒頭の「駆除至上主義」と「保護至上主義」の両方とも、肝心のクマに関する知識をなおざりにしているように感じてしまう。さらに言えば、出没する地元の人々以外は、みな他人事のように思われる。

「駆除すればいいんだ」と言っても自身がやる気は毛頭ないだろうし、「保護しろ」と叫ぶものの、被害者には目を向けていない。それどころかクマの餌を心配してドングリを撒くような発想をしている。逆効果も甚だしい。

 日本でも野生動物の研究は結構行われてきて、それなりの知識の蓄積はある。完全でなくても、それらを習得することから始めるべきだろう。



マザー・ツリー

2024-07-05 10:37:40 | 
「マザー・ツリー」という本、
しばらく前に購入しましたが、インテリアと化しています。

「アバター」というSF映画、
有名ですがなかなか見る機会がなく、
先日ようやく自宅で見ました(Amazon Prime Video)。
その中で巨樹が出てきて、ワクワクしながら観ました。

その後、下記の記事が目に留まり、
「マザーツリー」が「アバター」のモチーフになっていることを知りました。
巨樹は森の生態系の中心に君臨しており、
「菌」ネットワークが重要な役割を担っている、
はてこの内容、TVドキュメンタリーで見たことがあるような・・・。


■ 「マザーツリー」は森林や林業の常識を一変させる
〜『マザーツリー』スザンヌ・シマード氏に聞く
岡田 広行 :コラムニスト
2024/06/30:東洋経済オンライン)より一部抜粋;

[著者]Suzanne Simard(スザンヌ・シマード)/カナダ・ブリティッシュコロンビア大学教授。カナダの森林生態学者。森林伐採に代々従事してきた家庭で育つ。大学卒業後、森林局の造林研究員として勤務した後、ブリティッシュコロンビア大学教授に就任。米『タイム』誌が2024年の「世界で最も影響力のある100人」に選出。

 世界的ベストセラー『マザーツリー』。
 カナダ人の著者が本書執筆以前から提示してきた自然についての考えは、2009年公開の映画『アバター』のモチーフにもなった。来日した著者に、森林生態系の危機的状況と、政策やビジネスの転換に必要な科学的知のあり方について聞いた。・・・

──本書は森林や林業に関する常識を一変させる大作です。

 森の木々が、地中の根や土壌の菌根ネットワークを通じて助け合いの関係にあることが、私たちの研究を通じてわかってきました。水分や、窒素、リンなどの栄養素を通じた共存、相互扶助の中心にあるのが、マザーツリーと呼ばれる樹齢の長い大木です。マザーツリーの根にはびっしりと菌類が広がっており、そうした菌類が栄養素を運ぶ役割を担い、木々を健康に保っています。

──これまでの林業では、単一の樹種を整然と植林するほうが生産性が高いとされてきました。本書はそうした常識も覆しました。

 広葉樹のアメリカシラカバと針葉樹のダグラスファーを一緒に育てたほうが、後者だけを育てた場合と比べてよく育つことを、研究を通じて解明しました。
 いろいろな樹種の交じった森が、単一樹種の人工林に転換された後、不健全な状態になっているのを見たことがきっかけでした。そこでいろいろな樹種を混栽したら生存率や成長率がどうなるかを確かめてみました。その結果、多様な樹種のある森のほうが、生産性も高いことが数字を伴ってわかってきました。
 1990年代ごろまでは、このような考え方は異端であり、モノカルチャー的な林業が最も生産性が高いという考えが根付いていました。しかし近年、多様さの重要性がようやく認識されるようになってきました。


▶ 土は生命の根源である


──本書で強調されているのが、森林における土壌の役割です。

 豊かな森の土壌を掘ってみるとわかりますが、そこは生命でみなぎっています。最近でこそ、分子生物学などの研究の発達によって土壌の果たす役割や重要性が再認識されるようになってきました。しかしもともと、土が生命の根源であることは太古の昔から受け継がれてきた英知でした。それを私たちは忘れてしまっていたのです。

──カナダでは原生林が大型の重機によって皆伐され、急速に失われています。この皆伐がいかに環境に悪影響を与えるかについても詳しく書かれています。

 気候変動、地球温暖化という観点でも、皆伐は炭素サイクルに壊滅的な打撃を与えます。樹木が伐採されて二酸化炭素(CO2)の吸収ができなくなるだけでなく、土壌に蓄えられていた炭素も急速に放出されていきます。植林をしても効果は乏しく、土壌の復元には数千年という時間を要します。

──本書では先住民が果たした役割にも触れています。森を豊かにするために、捕った鮭をマザーツリーの下に置きに行くという慣習があったとは驚きました。

 先住民の人たちは森のことを深く知っています。鮭を置きに行くのは、栄養素を森に戻すためで、物質的な循環にうまくつなげています。10年ほど前に先住民で研究者のテレサ・ライアン氏と知り合い、そうした慣習があることを教えてもらいました。・・・

▶ 多様性重視へ林業の転換を

──本書が世に出たことによるインパクトは。

 カナダ・ブリティッシュコロンビア州の首相や森林相とも面会し、意見交換をしました。同州では木材生産中心だった森林管理のあり方を、より多様な価値を中心に据えたものに転換していく考え方に変わりつつあります。その動きは十分ではありませんが、本書が影響を及ぼしたことは確かです。

──今回の来日では、日本の市民に向けた講演も行いました。

 カナダの原生林の皆伐が、日本のバイオマス発電と深く関わっていることを知ってもらいたかったからです。
 伐採して得られた木材から、木質ペレットと呼ばれるバイオマス発電用の燃料が作られ、大型船で日本まで運ばれ、発電所の燃料となっています。そしてこれが、CO2排出量ゼロのカーボンニュートラルと見なされています。こうしたやり方は十分な検討のうえで制度化されたものではなく、持続可能性もありません。

──今までのような、皆伐による破壊的な林業を改め、本来あるべき持続的な林業に戻すにはどうすべきでしょうか。

 水や空気、生物多様性や文化などの外部要因が、経済的な価値評価から除外されていることがいちばんの問題です。言い換えると、今の経済では、材木やペレットとして売れるかどうかという非常に狭い意味での価値しか評価されていません。外部要因として無視されている価値が製品の価格にきちんと反映されるようになれば、システムの大変革につながります。
 そうなれば、本当の意味での経済合理性が回復し、人や環境に優しい経済につながっていきます。資源の無駄遣いも是正されるでしょう。私は森の本来の価値が評価されることを望んでいます。