世界のどこかで起きていること。

日本人の日常生活からは想像できない世界を垣間見たときに記しています(本棚11)。

アウン・サン・スーチーは、ロヒンギャを救えない。

2019-12-28 16:54:36 | 日記
 軍政を敷くミャンマーに新風が吹き込まれた・・・アウンサンスーチー氏が政権を握ったとき、ミャンマーは民主国家に変わり、迫害されているロヒンギャも救われる・・・と私は単純に思ってきました。

 しかしこれは、ミャンマーの歴史を知らない私の浅はかな考えでした。
 下記番組を見て、ミャンマーの抱える病理が垣間見えてきたのです。

 20世紀初頭、ミャンマー(旧名「ビルマ」)はイギリスの植民地でした。
 世界中で起こった独立運動の波はビルマにも押し寄せ、スーチー氏の父親であるアウンサン将軍を中心に多民族がまとまり、イギリスからの独立を勝ち取りました。

 しかしこの時、イギリス側についた民族がひとつだけありました。
 それがミャンマー系イスラム教徒である“ロヒンギャ”だったのです。

 つまり、ミャンマー独立国家の敵。
 それが根っこにあるので、対立が続き、他の国から見れば“迫害”に映るのでしょう。

 ですから、スーチー氏が無条件にロヒンギャを救済すると、スーチー氏自身が“ミャンマー国民の敵”と見なされ、政権の座から引き下ろされることは確実です。

 もう一つ誤解しがちなのが、スーチー氏と軍との関係。

 アウンサン将軍がミャンマーに残した財産が2つあると言われています。
 一つは国軍、
 もうひとつは愛娘であるスーチー氏。

 つまり、国軍とスーチー氏の関係は敵対する物ではなく兄弟なのです。
 ですから、スーチー氏は完璧に軍を否定することはできません。

 スーチー氏の言動に煮え切らない印象を持っていたのですが、このような背景があったのですね。



BS世界のドキュメンタリー「ミャンマー民主化の内側で アウンサンスーチーの真実」
2019年12月9日:NHK-BS1で放映
 軍事政権に終わりを告げ、民主化を進めるミャンマー。首都ネピドーで繰り広げられる権力闘争の内幕を、アウン・サン・スー・チー国家顧問をはじめ関係者の証言を元に描く。
 かつてはノーベル平和賞に輝く「民主化の星」として世界の希望を集めながらも、今では少数民族への迫害を黙認し、世界から非難を浴びるアウン・サン・スー・チー国家顧問。彼女が現在のポストに就くまでの舞台裏では軍部とどのような駆け引きが行われていたのか?また、少数民族ロヒンギャをめぐる問題で、なぜ彼女は有効な手立てを講じられないのか?デンマークの取材班が、首都ネピドーの奥の院で繰り広げられる権力闘争を追う。

<原題>
On the Inside of A Military Dictatorship
<制作>
Bullitt Film, Little Big Story, Arte France(デンマーク・フランス 2019年)