静岡文化芸術大学デザイン学部の教授である宮川潤次さんと、建築家の皆さんからの紹介が縁で、交流を持たせていただいている。番組への出演、再生紙素材の家具開発、調査研究事業へのアドバイス、NPOのライフスタイルデザインカレッジでの講義など、重要なポイントでの、お願い事ばかりである。先日は逆に、宮川先生が運営する「サスティナブルデザイン研究会」の公開研究会に招かれることとなった。
自転車に着目した各地の施策は、いずれも自歩道や自転車レーンの整備などハード面や、健康ツールとして、エコエネルギーの具現化、といった観点からのアプローチが多い。この点、生活提案NPOを標榜するスローライフ掛川は、自転車の視点から、「みち・生活・空間」という地域資源の再認識をもとに、自転車による交流とツーリズムによるまちづくりの可能性に着目して事業化している。こうした着想と構想を、掛川における自転車によるまちづくり事例として、静岡文化芸術大学で講演してきた。
クワイエットスポーツという遊び方
競い合うスポーツではないクワイエットスポーツというジャンルは、自然を征服するのでなく、守り、学ぼうとする態度がある。行為自体が静かなことはもちろん、道具をシンプルに、団体ではなく個で、量的なものを競う競技ではなく質的なものを求める遊びである。
足るを知る心のツーリズム
自然や、自然の豊かさの中での節度ある生活などの再発見を目指すエコツーリズムと同じ精神を持つ、クワイエットスポーツの重なる領域に、自転車のツーリズムがある。
ライフスタイル提案による地域づくり
掛川でのサイクリストをもてなす取組みを通じて、地域生活者は訪れたサイクリストの視点から地域の魅力を再認識し、ふだんのままの地域料理をサイクリストが美味しそうに平らげるのを見て、地元の食材や飲食店を見直すようになる。
観光都市ではない掛川のような地方都市で、人が自転車に乗って走るだけのことから、地域の人々が地域に誇りを持ち、その価値を知ってもらうために新しいステップに踏み出している。
高齢化時代に対応したヘルスツーリズム
団塊世代が定年退職する2007年以降、さらにサイクルツーリズムの人口が増すことは確実である。この世代が、単にサイクルスポーツを楽しむ側に回るだけではなく、サイクルスポーツをより普及させる側にも立つために、活躍の場を提供することも重要である。高齢化とともに少子化が進む今後の日本社会において、個人の健康管理が増大する医療費の削減という社会的課題とも密接に関わってくる。
新価値観光としてのサイクルツーリズム
交流人口の拡大には、地域の魅力そのものを、より次元の高いレベルで醸成しなければならない。サイクルツーリズムは、地域に住む人々にこそ、地域の価値を再認識させる機能を果たすことができる。
観光は、「光を観る」という精神的なニュアンスを含んだものへの復権が求められ、リゾートもまたその字義にある「再び出かける」という行為の本質に立ち帰ろうとしている。
今後、その地域にどのような人々に訪れてほしいのかは地域に暮らす人々に委ねられるが、環境意識や規範意識が高く、地域に高い関心を示す傾向があるサイクリストは、長い目で見れば必ず地域の観光にプラスとなるだろう。
■静岡文化芸術大学 サスティナブルデザイン研究会
http://wwwt.suac.ac.jp/~sd/report/report-05.htm