環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

外装に白を使用する時、留意していること

2011-01-26 21:41:09 | 色彩デザインのアイデア
色彩計画というと、とかく多色を使う、或いは鮮やかな色を使うと思われがちですが、白系色やアルミ、乳白ガラス等の素材色を基調とした計画にも多々、係わっています。

これは間もなく竣工するとある団地の建替え計画。コンクリート打ち放しとアルミのシルバーが多くの面積を占めています。特徴あるファサードのマリオン(化粧柱)は設計者の強い要望により、軽快な白系色を採用しています。形状の特徴を生かすため、平滑に仕上がりつつ防汚性に優れた塗料を用い、時間の経過に耐える素材選びが検討されています。



色彩計画では、シンプルな外観に対し、特に歩行者のアイレベルにおいてもう少しヒューマンなスケール感に添った変化が必要だと考えました。そこで、マリオンの縦分節に併せ、第二構面(奥のサッシの面)をやや対比の強い2色を使い吹き分けることとしました。

使用した2色の明るい方は10YR 7.0/1.0程度のライトベージュ、暗い方は10YR 4.0/2.0程度の、やや明度の低いブラウン系の色彩を展開しています。第二構面は奥まって影になるので、一見、色を変えていることには気付きにくい。ですが、手前のバルコニー手摺子には隙間がありますから、建物に近付くとその“隙間から感じられる奥行感”が異なっていることがわかります。

このような配色方法は、この住宅に暮らす人や毎日街区の周辺を行き来する人が、何かの折りに“ああ、よく見ると色変えているんだ”と感じたり、言われて気付く程度で丁度良い、と思っています。

第二構面に展開した濃淡2色自体を曖昧にしているわけではなく、明暗の対比はかなりしっかりと付けています。その対比がもたらす効果はさりげなく穏やかなものであるべきだと考えました。例えば、写真では冬枯れの樹木のシルエットがアルミの手摺子に映し出されていますが、第二構面が暗い部分の方がより陰影がくっきりと見えます。手摺子の隙間の明暗の差が、外部からの光によって手摺子の表情の差異を際立たせるのです。

今回の計画では色気のある色彩は第二構面の彩度2.0程度が上限です。とても穏やかな低彩度色~ニュートラル系の素材・色彩の集積です。ともすると無機的な印象が強調されすぎてしまう恐れもありますが、それらの素材を白によって引き立てたり明度の対比により陰影を強調したりすることにより、周囲の風景をファサードに取り込み、現代的でシンプルな表情の中にも有機的な自然の移ろいや季節・時間の変化が生き生きと感じられるような外観の形成を目指しました。

住宅にアルミやガラス、コンクリート打ち放し等の素材と共に白系色を使用する場合には、一段と素材同士の相性や陰影がもたらす効果などに気を遣っているように思います。