環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

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例えば白、の許容値の図り方

2011-09-02 21:24:22 | 色彩の現象性
普段の業務の中で微妙な色の差異を使いこなそうと考える時、想定している色の前後を何段階か作成し、最終決定色を選ぶ、という作業が多くあります。

下の図は濁りのない白(左)から僅かにグレイッシュなオフホワイト(右)まで、8段階のグラデーションを作成してみたものです。イラストレーターのブレンドというツールを使い、模式的に表現しています。実際に塗料でこのような微妙な色を調合するのは(変化の様子を見るために塗っては乾かし、の繰り返しであるため)とても大変ですが、身近にあるソフトで検証を行うことは随分と容易になったと思います。



左から右へのグラデーションを眺めていても、ここでどの程度の白が良いか、を選定することはとても困難です。ですがもしかすると人によっては“とにかく一番白い、白中の白”“何となく真ん中でいいか”など、色だけを見て即決できる方もいらっしゃると思います。

私がいつも“色彩の見え方”を気にしているのは、選定した色が常に周辺や背景との関係性により見え方が変わる、ということを数多く体験しているためです。

下の図は上の図で作成したグラデーションから4色を選び、並べ方を変えてみたものです。非常に微妙な色差ですが、隣り合う色見本との対比が強まると、双方の色が対比的に見えて来ると思います。例えば左端の白はそのままですが、左から二番目の色が異なることにより下図の最左の白の方が“より明るく”見えると思います。



白は白でもどの程度の白か、という検証は、実際に完成した建築や工作物の外観が“どのように見えるか”を決定付ける重要な作業だと考えています。ここまで微細な検証が必要な場合の他、色味のある色彩や明度の低い色彩においてもこのような検証の意図するところは同様です。

1つの色には必ず上限・加減の許容値があり、その許容値の範囲が周辺の環境の変化を受け入れ、ある程度馴染ませたり少し印象的に見せたりするためのコントロールに繋がる、と考えています。

あの時の白が、この場所のこの環境において同じ見え方をするとは限りません。計画毎に使用する素材・色彩の許容範囲を丁寧に構築する。その作業がとても重要だと思っています。

逆の言い方をすると、事務所内では“この色の転び方はアリ”“こっち(明るい方)に転ぶよりもまだあっち(ちょっと暗め)に転んでくれた方が許せる”というような言い回しを使って会話をしています。このあたりは数値でのコントロールではなく、実際の色見本や材質感を前にしての検証作業です。

恐らく傍から見ると白かライトグレイかその中間か、という程度の議論をしているに過ぎませんが、隣に・背景にどのような色があるかによってこう見えるのではないか、建具など他の建材が持つ色味との取り合い検証は訓練であり、繰り返し行うことによって徐々に選定の精度が上がって来ます。

こうした想定、検証、実証(施工)の流れの中で、殆どブレをなくす事が出来るようになりつつあるものの、周辺の状況は常に変化するため、この訓練が終わることは恐らく無いのでしょう。

一つの色の許容値を見極める作業に慣れてしまえば、色に対する苦手意識は払拭できると考えています。見え方が条件によって変わるのは当たり前のことですから、そうした条件を“踏まえて”検証をすれば良い、と思うのです。
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光の変化による色の見え方

2011-04-10 16:42:54 | 色彩の現象性
例えば高層の建築物の色は見る角度がほんの少し違っただけでも、明るい色に見えたり、暗い感じに見えたりします。建物を角から見るとき、片方の側面には光が当たらず全体が影になる場合も同様です。透明感のある色(色つきのガラス等を含む)や金属感のある色などは特にこの傾向(光を反射する)が強く、写真を撮影する際はとても苦労します。

【光の変化により色の見え方は変わるが、基調色が白系色であることは認知できる】


色を正しく測り伝達するためには、出来るだけ近接して測色を行う必要があり、なるべく撮影は晴天時の日中に行なうようにしています。また、光の当たる方向が違っていても色の見え方は違ってくるため、色の『正確な測定』の際には留意が必要です。

しかしながら、屋外で建築物等の色を見るときは、光だけでなく湿度や距離、色を見る角度など様々な条件が相互に影響しあうため、場所や状況の違いだけで同じ色でも見え方が違う、と言い切ることは困難だと考えています。

つまり、長波長の暖色系がきれいに見えると言われる赤道に近い南の地方(太陽光線は垂直に近い状態で入射し、光の量が多いと定義される)でも曇った日はある色を冷たく感じることもあるでしょうし、朝と夕方でも太陽光の角度が異なるため、時間や季節の変化で、色の見え方(=印象)が変わることがあります。

このような光(日中の太陽光)の質は色彩計画において考慮すべき一つの要素ではあるものの、まちの色をこのような『色の見え方の条件』だけで決定付けることはあまり適切でないと考えています(屋外に比べ条件が絞られる室内環境はまた別ですが)。

環境色彩計画では対象となる建築や工作物、一つの街区などの特性や方針に添って、対象にふさわしい素材・色彩の選定を行うことが重要です。例えば、新しい開発地区の業務系の建物であれば、光沢のある素材を用い明るい印象にする(但し眩しさには配慮が必要)というような考え方が一つの案として挙げられます。

多くの人が『色は光により見え方が変る』『素材の凹凸感や光沢の有無によっても見え方が変わる』という事をご存知で、時折、“そのように様々な条件で変わる色の見え方を数値化することは出来ないのでは”と言われることもあります。

私がこれまで何度か記載しているマンセル値による色の測定は“物体色そのものをマンセル表色系という色のものさしで数値化し客観的に把握する”ためであって、“変化する様々な条件下における色の見え方”を測定して見せよう、ということではありません。まちの色彩調査の結果から見えてくる事象(一定のまとまりやそのまとまりからはずれ、まちなみとしての見え方に混乱した要因を与えている色など)を探るために、“物体色としての数値化”は不可欠な作業です。

この違いを多くの設計者に理解して頂きたいと考えています。多かれ少なかれ、私たちは生まれながらに自然と共に暮らし、刻々と変化する四季や日々の天候の変化の中で暮らしを営んでいます。色そのものが変化を持っているのではなく、私たちの暮らしを取り巻く環境そのものが変化する存在であり、“色の見え方に変化をもたらしている”のです。

見え方が変化するということだけに着目してしまうと、“だから色を選ぶのは難しい”ということになりかねません。ですが私たちの周りには既に様々な色があり、日々、その環境と向き合っているわけですから、それをお手本にすれば良いのでは、と思うのです。

これから良い季節を迎えます。先日スタッフとも話し合い、色を記録しておきたいまちがいくつかあるので、またせっせと測色に出かけて行きたいと思います。
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2011年賀状デザインから ~色彩の同時対比

2011-01-02 20:56:27 | 色彩の現象性
例年年賀状には、色彩の現象性をテーマにした色彩構成を掲載しています。学生時代の課題や、現在いくつかの大学で課題として出している内容の応用編といったところです。

Twitterを通じて知り合った方が何名か海外にもいらっしゃいますので、ここでお披露目を兼ね、今年のデザインをご紹介しておきたいと思います。

このような一つのユニットを展開させる色彩構成は、色彩感覚を鍛えるためのすぐれた訓練の方法だと思っています。ひとつの変化が、全体にどのような影響を及ぼすか。仮定して検証してみることの繰り返しにより徐々に見え方が想像できるようになります。それでも、少しの変化が思わぬ像を結ぶ事の面白さに、正に浸食を忘れて没頭したことが何度もありました。

学生時代や仕事を始めたばかりの頃は、まだPCのソフトに慣れていませんでしたので、専らPANTONE社のオーバーレイという糊付きのカラーフィルムを使っていました。…このような細かい作業を、当時は全て手作業で行っていたのです。

オーバーレイはごく薄く重ね貼り等も容易で、何より発色の良さに優れていました。久しく使っていないので調べて見たとところ、既に製造中止になっているとのこと。PCでの作業の一般化、また家庭用プリンターの躍進などにより、オーバーレイの役割が失われて行ったであろうことは容易に推測がつきます。

2011年のタイトルは、『エイキョウシアウイロ』。
同時対比による様々な色彩の見え方を表現してみました。更に重なった部分の帯をずらすことにより、正方形が傾いて見えるという錯視の効果も盛り込んでいます。



上から一段目、三段目、五段目それぞれ、重なった部分の色は横一列、すべて同じです。地となっている正方形の色及び重なった部分の図の色との組み合わせにより、同じである(中明度のグレイ)はずの色が、異なった色に『見える』。これが、色彩の同時対比です。

それぞれの色の対比に目を凝らしていると、徐々に全体が右下がりに見えてきます。この不思議な色と形の相互作用の世界に、やはり学生時代はかなり取り付かれた記憶が蘇ります。M.C.エッシャーに始まり、ヴィクトール・バザルリ等々。
色がカタチを伴って現れることの多様な面白さは、アーティストの作品から多くのことを学んだと思っています。

この仕事をするようになってからは、色の持つ性質や特性、そしてそれが3次元空間に出現した時の見え方という点により興味を持つようになりました。それでも、この基本中の基本である同時対比や透明性、光の表出等、色彩の現象性を探究する作業は飽きることがありません。
作品と言える程のものではありませんが、今ではこのような作業も年賀状くらいしか日の目を浴びる機会がありませんので。こつこつ永遠の課題制作を続けて行こうと思っています。
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