環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

色の適正な大きさについて

2012-02-27 18:57:22 | 日々のこと
先日、オフィスに向かう道すがら、工事用車両の脇にあるカラーコーンに目がとまりました。



通常よくみかけるものよりもずっと小ぶりで、何だか可愛らしい印象を受けました。ニュートラルな背景・舗装面が環境の地をつくっている空間でしたので、この程度の小ささでも充分に機能(作業中の車に近寄らないで下さい、という注意喚起)は果たせている、と感じました。

後で調べてみたら、この小さなカラーコーンはフットサル等にも使用されるとのことでした。なるほどドリブル練習等の際、小さくステップを刻みながらボールを追うのにはこの程度のサイズが適切なのかも知れない、と思いました。

芝の鮮やかなグリーンが地であることを想像した際、ビビッドな赤や黄色が緑に映え、より一層活動的で高揚するような気分を後押しするだろうな、とも感じました。同じ製品でも使用される環境や目的により、色が放つ意味が機能寄り(近づかせない)になったり連続するポイント(目印)としての役割が際立ったり、印象が変化するという点は、色とかたちの組み合わせにより本当に多様な解釈が可能であるということを表しています。

いざ選定となるとこうしたプロダクトの色彩計画も中々奥が深そうだな、等というところまで妄想が延々と続いてしまいました…。

よく考えてみれば当たり前のことかも知れませんが、小さな・鮮やかなカラーコーンが“生き生きと活動の様子を彩っている場”を思うと、そのスピード感や躍動感が自然に思い浮かびます。
一方都市空間での使用は、例えば風雨の強い状況下では小さなコーンは適切ではない、という側面もあることでしょう。それでも、“通常サイズよりも小さくて控え目”なことが、ちょっとした変化を(少なくとも私にとって)もたらすことの意味を考えることがとても大切なように感じられました。

その場に適正な色の大きさ、というものがあるのではないか、ということをよく考えています。
規格や標準の便利さ・機能性を理解しながらも、その場における大きさの適正さを考える時、そこまで大きくなくても、あるいは強くなくても充分、という発想がごく自然に生まれてくるように思います。

この小さなカラーコーンを見かけて以来、とにかく色々なものを少しサイズダウンさせてみたらどうなるだろうか、という欲求がムクムクと湧いてきています。
もちろん、周辺にあるものとの比較で大きさや色の印象が異なりますから、その状況下でどう見えるか、という検証は必要ですが、例えば屋外広告物は一斉にサイズダウンさせてみたい要素の筆頭かもしれません。

下地の色、その影響と可能性

2012-02-21 19:31:50 | 日々のこと
年明け早々、とある現場で色決めを行うので一緒に現場に来て欲しい、と所長から急な連絡を受け立ち合った現場のことを少しご紹介します。

普段色彩計画に携わる際には出来るだけ総合的な調整に係わることを基本としているので、例えば『ここの色何色がいいと思う?』というような相談の際にも、まずは現場に行って状況を確認し、既に決定している色や調整が可能な部分・色を全て確認してから、選定に対するアドバイスを行うようにしています。

既に様々な色が出現してしまっていると調整に困難をきたすので、お付き合いのある建築設計事務所の方々には常々『相談は部材・塗料の発注時期に係わらず、一刻も早く!』とお願いしてきました。それでも、いざ色を決める段になって普段あまり使ったことの無い色だと判断が難しかったり、決断の根拠をどこに求めるか迷ったりすることがあるのだと思います。そうした設計者の思いを汲み取り、最終判断のお手伝いをするという仕事も私たちの大切な業務の一つです。

これは都内で改修・建築中のある競技施設です。主に塗装色についてアドバイスを行いました。鉄骨自体は既存のもので、元々白だったものを補修して塗り替えています。競技場内部から見た際、背景の常緑樹と白はかなり対比的で、鉄骨が目立っていたことと思いますが(年末にこの色を選定したのは我が所長、私はその現場を見ておらず。現地に行った際は既に塗り終わっていました)、彩度を抑えたダークグリーンに変わったことにより、背景に馴染んで目立ちにくくなっています。





明度の低い色に変わったことにより、競技者にとっては視界に目障りなものがなく集中しやすい環境が整った、と言えると思います。また、競技場は公園の中にあり、高木に囲まれるように配置されています。そのため、低明度色を使っていますが外から見た際にも圧迫感を感じにくく、樹木と連続して木立のような見え方となっています。所長が競技者にとっての快適性と、周辺からの見え方のバランスに細やかに気を配り、選定を行った様子が見て取れました。

私が現場に立ち会った際には、新しく建設中の競技場の大庇や天井トラス等の色決めを行うタイミングでした。高い天井を見た際、トラスが穏やかでグレイッシュなグリーンで塗装されており、『ん?もう色を決めて塗ってしまったのかな?』と思いました。ところがなんとこれが錆止め塗装の色だったのです。



一般的な鉄部の錆止めはいわゆる“赤さび色”で、その色自体に善し悪しがある訳ではありませんが、多くの場合実際に塗装される色との違いが大きく、当たり前のことですが完成後は全くその痕跡が無くなってしまう下地としての存在です。何となくいつもそのことに違和感を持っていて、塗膜である以上、下地(の色)を拾わない強度を持っているということもわかるのですが、ならばもっと下地として目立たない色であっても良いのになあ、等と考えたことがありました。

測ってみたところ、5G 5.0/1.0程度の中明度・低彩度のグレイッシュなグリーンでした。一瞬、このままでも良いのではと思うくらい背景に馴染んでおり、現場を見ている時も色が邪魔にならずあらゆる色を想定しながら考えることができ新鮮な思いがしました。

これが全面赤さび色だった場合、設計者の方はどうしてもその印象に引きずられる部分があるというか、その存在感を打ち消す方向だけを考えがちなのではないか、とつい要らぬお節介というか、心配というか…をしてしまいました。

下地である、という認識を持ちつつ、目の前にあるものの存在は何がしかの影響を与えているものなのかもしれない、と感じました。もちろん、経験して慣れて行くことにより影響をあまり受けずに選定にあたれることも事実だとも思っています。ただ何となく“これはこういう色なのだ”、という思い込みが打ち消された時、そこにあたらしい感覚というか、新たな視点が生まれ選択の幅を変える可能性もあるのではないか、と感じました。

現場は4月の竣工を目指して、着々と工事が進んでいます。さて、結果この天井トラスにどのような色が採用されたかは、竣工までのお楽しみ…ということで。

MATECOとは?

2012-02-03 19:46:12 | MATECO
2012年2月2日、素材と色彩について考える会【MATECO】が発足致しました。コアメンバーは、eau崎谷浩一郎、eau田中毅、アクリア田村柚香里、GSDy岡田裕司、GSDy小久保亮佑、GSDy志田悠歩、GSDy長谷川雄生、GSDy山田敬太、403architecture[dajiba]、CLIMAT依田彩、CLIMAT片岡照博、CLIMAT加藤幸枝です。

MATECOはMaterial & Color、そしてMaterial/Atmosphere/Texture/Environment/Color/Organizationの頭文字から構成されています。都市環境・空間に係わる様々な素材・色彩について、学び・考え・発信して行きます。

特徴ある素材・色使いの建築家・デザイナーへのインタビュー、レクチャー・ワークショップの企画運営、勉強会、タイルを始めとする工場見学…等々、様々な分野の専門家を交えて多様な議論や探究、そして新しい素材・色彩の使い方の可能性を、参加して下さる皆さんと共に考えて行きます。

建築家・デザイナーが考える、素材・色の選定の方法、オリジナルのツールについて、もっと知りたいのです。そこに、どんな理論があるのか、あるいは全てが感性なのか…?そうした疑問や興味、可能性を素材と色彩の観点から解き明かして行きたいと思います。また、建築やアーバンデザインやランドスケープデザイン等、全ての分野において、素材や色彩の教育がどのように扱われているか、他の国の事例も交えながら考え、実践に繋げて行きます。

素材集・色彩集もデータとして編集して行きます。まずは4月21日(土)設立記念を兼ね、素材と色彩について語り合う集いを開催します。そこには生の素材が登場、手で触り・目で触れることのできる、リアルな質感を大切にし、都市環境・空間における素材や色彩の成り立ちを考えてみたいと思います。

今後、レクチャー等年間の予定を順次発信して行きたいと思います。どのような形になるか、私たちも手探りですが、今までに無い手触りを意識したイベントなど、広く議論の出来る場や学びの機会をつくって行きたいと考えています。

MATECO。それはまちなみや建築・工作物の外観を語る上でのポジティブな指標、になり得るかも知れません。素材や色彩を丁寧に扱い工夫が見られる、或いはさりげない存在感や味わいがある、といった雰囲気。言葉に出来ない・形にならない価値を、まずはより良くみる、という行為から見出して行きたいと思います。

MATECO、始まります。

2012-02-03 19:33:32 | MATECO
この度、環境を取り巻く様々な分野に係わる素材・色彩のあれこれについて考える会を立ち上げました。以下、【MATECO】の設立趣旨です。これから様々な発信を行って行きますので、どうぞ宜しくお願い致します。

設立趣旨

 2004年(平成16年)に策定された景観法の策定以後、専門家のみならず景観に対する意識の高まりは活発になり、各地でまちづくりと連動した景観に対する取り組みも益々盛んである。また、2011年のUIA世界大会東京等で取り上げられたように(誰が景観を創るのか?~筋書きの無い物語)、これからの縮退社会において景観がどのようにあるべきか、あるいはどのように創造していくべきかという議論が各地で聞かれるようになったが、地域ごとの課題や生かすべき資源は様々であり、一律に法に従えば良質な景観整備が叶う訳ではないということは自明である。

 法律はあくまで『著しく景観を阻害する要因を取り除く』ためのネガティブ・チェックであり、創造的で良好な景観を形成していくためには新しい時代にふさわしいコンテクスチュアリズムを構築し、課題を解いて行くための方法論が求められている。その一方、一つの方法論が別の地域には当てはまらない点が景観形成の最も難しい部分であり、各分野における真摯で地道な取り組みが必要とされている。

 その取り組みの一縷を担う視覚的要素である素材・色彩は、アーバンデザインや建築等の専門教育において未だ積極的に扱われておらず、外装仕上げ材は単なる表層、色彩は単体としての美しさや個性を表現するため、限定された環境下でのコーディネートの域に留まっているのが現状である。

 未来の景観を担うArchitect(建築家・アーバンデザイナー・ランドスケープデザイナー等)のタマゴ達が、素材や色彩に関する十分な知識を持たないまま実務にあたらねばならない現状は兼ねてより危惧してきた実情であり、特に若い世代に向けて有益な情報の発信と議論の場を提供することが必要だと考えている。

 私たちは長く様々な実務に係わってきた経験から、素材や色彩は単に外観の保護や美観を保つ表層としてだけではなく、まちなみの調和や適度な連続性・地域の“らしさ”に対し多大な影響を持ち、景観を構成する重要な要素であると考えている。また建築設計における空間構成やフォルムの生成において、素材や色から立ち上がるボリュームという考え方もあるはずであり、素材や色彩で解決出来ることの限界を十分に把握しつつ、その無限の可能性についても大きな期待を抱いていることも事実である。

 更に、例えばタイルという素材は日本の土を使い・日本の工場で・日本の職人が長く製造に携わってきたという歴史を持っている。そうした素材の持つ歴史(=文化)をより深く学ぶことにより、日本の産業を支える役割としてのアーキテクトの意義を見出して行くことについても考えて行きたい。

 今一度、日本が長く培ってきた『その地にある材料で建築・工作物をつくってきた』という地域特有の景観の歴史を見直し、そこから地域の未来の景観を考えてみると共に、新しい技術によって開発された素材の特性や色彩の機能的・心理的・生理学的側面からも快適な環境や空間形成の可能性を考えて行きたい。

 同時に、基本的な色彩調和の理論等を活用することによって、とかく嗜好や感性の範疇として捉えられる素材・色彩の選定を、広く共有されるべき理論に基づき行うことが出来るよう、様々な情報や技術の普及・啓発活動及び教育に努めていくことを目指す。

2012年2月吉日