環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

表情ある壁面をつくる

2010-05-18 21:21:32 | 色彩デザインのアイデア
先にご紹介した武蔵野市の分譲住宅。

ここでは、特に周辺の低層住宅群のスケール感の調和を意識しました。
規模の大きな建物が与える存在感を、特にアイレベルにおいては出来るだけ緩和し、
圧迫感を与えないようにする、という考え方です。

そこでよく活躍するのは、色彩による分節化、という手法です。
それはもちろん、建築の形態や意匠に添ったものでなくてはなりません。

この物件では分節化と共に、アイレベルにおける壁面の表情を豊かにする、ということを重視しました。

3つの住棟は中庭を囲むように、コの字型に配置されています。
つまり、2棟の妻面が道路側を向くことになります。

通りに面する顔となるファサードですから、住戸プランを何度も練り直し、
妻側にあわられる開口部の位置、寸法が検証されました。

色彩計画では、必然的に壁面率が高くなる面に対し、どのように表情を与えるか、
基本設計段階から検討を進めました。



帯状に見える3本のタイルは、地のレンガタイルよりも7mm、厚みのあるタイルを使用しています。
レンガタイルの豊かで繊細な色むらとわずかな段差により、より深みを感じさせる壁面にしたいと考えました。

地のレンガタイルは210×30×15、帯のタイルは200×25×22。
つまり、縦横の寸法も微妙に違います。

そこで、地のレンガタイルはイモ目地(通し目地)でしっかりとした地をつくり、
帯の部分は3本をランダムに割り付けることにより、寸法の違いが気にならないデザインを考えました。

これは途中段階の見本貼りです。
目地の深さにも留意し、少し深めに抑えることでタイル面全体にも繊細な陰影を与えることが出来たと思います。



当初は、厚みの変化だけでどの程度陰影を強調することが出来るか、
様々なタイルで検証を行いました。

検討段階で、『タイルの厚さ半分まで目地を詰めないと後々剥離の危険がある』との指摘を受け、
ある程度の厚みを持つタイルの場合、差が7mm程度であれば施工的な問題をクリアできることを確認し、
採用に至りました。

実際の施工では、レンガタイルの表情を生かすため、通常モザイクタイルで行われるような
塗り目地施工ではなく、一本目地施工としました。

それにかかるコストも、基本設計段階から算出をし、見積図への反映や積算の質疑等といった
設計の補助的業務にも係わっています。

この場にふさわしい、こういう表情を演出したいと考えるとき。
自分一人ではそのアイデアをかたちにすることは出来ません。

計画の初期段階からしっかりとしたデザインの方向性を定め、それを設計者のみならず、
施主様や現場など、計画に係わる方々と共有出来る環境をつくること。

そして、施工の技術的なことやコスト等、いつも快く相談に乗って下さるメーカーの担当者に
適格にデザインの意図を伝えること。

そういった流れをスムーズにし、自身が仕事を進めやすい環境をつくることも、
色彩デザインの仕事の一つ、と考えています。

↓紹介した物件の詳細はコチラ
武蔵境の集合住宅

選定した色がきちんと形態に馴染むように

2010-05-13 20:28:41 | 色彩指定のポイント
集合住宅の色彩計画では、様々な外装仕上材を扱います。
タイルは美観性を保つと共に、防汚などの機能面も含め、選定される場合が多い建材です。

表層の意匠、というのを嫌う建築家も多いと思いますが、私は多種多用なタイル
(中には工芸品のような美しい製品もあり)を見ていると、部材そのものからデザインのアイデアが
触発されることもあります。

しかし一方、構造とより一体となった仕上げの表現や構造そのものの施工精度を上げて
美しく見せる、などに拘った建築家の事例を見ると、それはもちろん建築物としてのあるべき姿や存在感を
感じるのも正直な気持ちで、自身の仕事にどう反映させることが出来るか、等とも考えたりします。

これは一昨年竣工した武蔵野市にある分譲集合住宅。



建築はいくつかのボリュームで構成され、北側の階段室が躯体で囲まれています。
開口部が制御された大きな面として出現しますから、他の要素(外廊下の手摺壁など)とは
素材・色彩共に変化を付けることを考えました。

最終的には、W227×H40というサイズのボーダータイルを使用しました。
これはコスト的な面はもちろん、モザイクタイルのように紙張りユニット加工が出来る、
という点で、施工時の目地幅等のばらつきを抑えられる、というメリットを評価しました。

そもそも、モザイクタイルの寸法というのは、集合住宅全般向けに、サッシや階高に併せ
タイル割りがしやすいモジュールになっているそうです。

ですから、異なる形状のタイルを提案すると、色々な関係者の顔が曇る場合が多々あります。
この物件は設計事務所との基本計画時からコラボレーションを行っていましたので、
時間的には充分な検討を行う余裕があります。

そのためタイルの候補を選定する時点では余計な先入観を持たずに、
コンセプトに見合うと思われる製品を、多種選びました。

その一つ一つについて、階段室面に割り付けた際、左右コーナーはどのくらいの寸法で納めればよいか、
割付の中心をどこから取れば半端な切物が少なくて済むか。
止むを得ず切物で調整する場合は、どの位置に持ってくれば違和感が無いか。

そのような検討を経て、最終的にはほとんど切物を出さずに済む製品を選定しました。
壁芯から割り付けた際も開口部とタイルの芯がきちっと合い、また開口部同士の隙間もタイル4枚で
ぴったりと納めることが出来るサイズです。



このようなことを、着工よりも前に、簡単な図面を描きながら検証します。

私は恥ずかしながらまだサクサクとCADを使いこなせないので、これらの作業は
今のところ全てアドビのイラストレーターで行っています。
パパッと頭の中で計算できてしまう、数字にめっぽう強い方が羨ましくもあり…。

要は完成後の姿に対し、どれくらいの想像力を駆使して、出来るだけ早い段階で検討を進められるか。
どのような方法でも構わないので(設計者や施工者に伝わることは前提ですが)
詳細な検討を行うことが重要なのだと思います。

集合住宅の工期は短く、規模にもよりますが12~15ヶ月前後の物件がほとんどです。
施工会社が着工してから描き始める施工図やタイル割付図を待っていると、
調整が間に合わなくなってしまうことも多々あります。

コストや時間とのせめぎ合いの中で、ベストを尽くすこと。
素材や色彩がかたちと一体化してあるべき様相として感じられるように、ということを強く意識しています。

↓紹介した物件の詳細はコチラ
武蔵境の集合住宅


色の質感

2010-05-11 21:40:45 | 素材と色彩
建築の意匠や空間の特性にふさわしい色の表現を考える色彩の設計者として。
色の質感、を選定することに多くの時間を割いています。

思わず触れてみたくなるような質感。
視覚に訴えかける手触り。これを私はとりあえず視触感(シショッカン)、と呼んでいます。
辞書には出ていませんが、医療や化学の分野ではよく出てくる単語のようです。

医学では見て・触れて、という意味のようなので、どうも私が表現したい感覚とは違うようです。
手触りならぬ、目触り。でも“めざわり”って、良くない意味になってしまいます。
この感覚にふさわしい表現を編み出したいと思います。


これはまだ試作段階なのですが。
とある分譲マンションのエントランス壁面に展開予定の、ペインティングです。



これを、マンションをご購入されたお客様と共に仕上げようと準備をしています。

当初、現場はもちろんのこと、スタッフからもまさかの大ブーイング。
でも諦め切れなかった私は、ものづくりの体験がもたらす多くの幸せ、
を事業主や建築の設計者に訴えました。

結果、『面白そうだからやってみよう!』 ということに。

スタッフが何度も試し塗りを行い、多くの人の手が加わっても『ブレのない』仕上がりを
担保する方法、を検討しました。
試行錯誤を繰り返すうち、おおよその方法がまとまりました。

●下塗りはプロが均一に仕上げる
●塗装する道具と、道具の動かし方(ピッチ)を統一する
●上塗りは微妙な色差で数色を用意し、色むらを地模様的にみせる

などです。
全くの素人さんが参加するイベントですから、出来る限りシンプルな方法で、
楽しく参加できるような仕掛けを考えました。

本当にそんなことが出来るのか、と周囲の不安の声はもちろん聞こえてきます。
ですから、設計者や事業主、現場監督さん、果ては販売の方々まで巻き込み、
プレテストを実施しました。

始めは恐々、刷毛やスポンジを動かしていた方も、慣れてくるとサッサッと
大分リズムが付いてきます。

はい、そうなることを、予想していました!

色塗りって、子供の頃のドロ遊びなどに通じる面白さがあるんです。



プレテストでは仕上がり具合の他、どの道具が一番扱いやすいか、
塗料の表面が乾くまでの時間、などを確認しました。

最終的には、上塗り色を3色とすることにより、さらにほわりとしたほのかな色や
陰影が感じられる仕上げを目指すこととしました。

間もなく、現地で実際に塗装をしますが、その前に現場でも最終テストを行う予定です。

自分達の住まいの仕上げに係わることで、住まいに対する愛着がより深まりますよう。
そして子供達にとっては、身体を使って空間の広がりや空気感を体験する、
忘れがたい経験となりますように。
そんな願いを込めています。


…それにしても、背景の養生シート、ヒドイイロですね。
こうしたものの色をなんとかしようという活動にも、携わっています。

景観に配慮した穏やかな色彩のビニルシート

自然の色にはかなわない

2010-05-10 19:18:05 | 似て非なるもの
これから初夏にかけては、まちを歩いてると沢山の季節の花々と出会います。

昨日も、自宅近くではツツジが満開でした。
つい二週間程前まで、真っ白なユキヤナギが咲き誇っていた川沿いでは、鮮やかな黄色のショウブが咲き乱れています。

花の色は時としてはっとするほど鮮やかで、雨に濡れたさまなども、また何とも言い難い風情のあるものです。

美しいものを再現して、いつまでも楽しみたい、飾って彩りを添えたい、という気持ち。

残念ながら、それがあまりに短絡的に解釈された例(これは商店街の照明柱に取り付けられたもの)はまちなかに多く見られます。



とにかく造花がいけない、とは言いません。

人によっては、『遠目なら本物かどうかわからない』 とか、『いつまでも咲いていて綺麗』などと思うのかも知れません。

ですが、本当にそうなのか。
こういうものを、まちを彩る要素として扱うことには大変な抵抗を感じます。

私が考える理由は、こうです。

●自然の色は変化することが前提である。私達はその季節の移り変わりを慈しみ、愉しむことに、喜びを感じる。
●自然の草花は工業製品と異なり、姿形が同じものは無く、その色彩は微妙で繊細な幅を持っている。
●造花なら手間がかからなくてよいという粗雑な思いが、まちに対しての愛着や誇りに思う気持ちと相反する。

…他にもたくさんあるように思いますが、集約するとこのようなことではないでしょうか。

もちろん、私自身も自然の色彩に触発されて、デザインを考えることはあります。

その際重要なのは、『花を模す』ということではなく、
『花の色・香りなどがもたらす雰囲気を抽出してその場や空間にふさわしいカタチで再構築し、表現する』
ということだと思います。

自然の色にはかなわない。
そのことを充分に理解せずに、安易に姿形を模すことだけは、してはならないと考えます。

下の写真は、2007年夏に訪れたイタリアで撮影したもの。



鮮やかなマゼンタ系の花の色。
普段は、ちょっと重たく、ともするとくどく感じる色なのですが、建物外壁の素材感や色彩にはとても馴染んで、その地ならではの風景をつくっている、と感じました。

その場にふさわしい色のあり方。
自然の色から学ぶことは多くあります。

目地色の効果

2010-05-06 18:37:16 | 色彩デザインのアイデア
色彩には背景や周囲の色彩に影響され、また影響を与えるという相互の関係性を持っています。

そのため、例えばタイルの目地、モザイクタイルで言えばわずか5ミリのラインが、タイル自体の見え方を大きく変化させます。

これはINAXのモルタル目地、G-1番色を詰めた白系タイル。
目地が目立たず、タイルと一体的に見えるため、壁面に広がりを持たせたい場合などに向いているでしょう。



下画像の上段は同じくINAXのG-2N番色。下段はG-4N番色です。

タイルは全て同じ、INAX社の45二丁モザイクタイル、バックドラフト/RI-101番色です。

タイルと目地色のコントラストが強くなると、モザイクタイルの形状が強調されます。
細ボーダータイル等を使用する際は、敢えてコントラストを強くし、水平ラインを強調する場合もあります。



3色の目地色によって、タイルそのものの印象も随分変わります。
現場ごと、さらにその他の素材との組み合わせを考えながら、その物件にふさわしいタイルの見せ方を研究しています。

目地色に気を配ると同時に、忘れてはならないのがシールの色。
これも目地と同調させることをしっかり指定しておかなくてはなりません。