環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

建築物の色が持つ意味

2011-01-10 18:21:57 | 日々のこと
通常の業務で行っているまちの色彩調査等では、まず景観としての色彩、ということを考えています。例えば屋根の色。単に外壁色との関係、ということだけではなく、眺望点からの見え方等等も検証し、景観として有りか否か、という判断を行います。

【中国河北省張北県に見られる住宅の屋根色・高彩度の赤は遠景からもよく目立ちます】


ですからここで言っているのは良好な景観としての見え方に対してであり、当然、その他の見方・考え方が存在します。例えば、山登りをする知人が、『方向感覚を失いそうになりながら山中をさまよっている時、尾根の合間に山小屋の赤い屋根が見えると安心する』と言っていたことがあります。この場合、小屋には『登山者の生命を守る』という役割が存在し、屋根色を小屋の存在を示すシンボル(=サイン)として機能させる必要があります。これは勿論、安全性や機能性という側面が強調されるべき状況にある場合の特殊例であり、上記に示したような、住宅市街地や工場群等の考え方とは異なると言えるでしょう。

古くは、建築外装に色を使うということには、それぞれに深い意味があり、色が何がしかの役割を担っていたのだと思います。社寺仏閣に使用された朱は魔除けや祈願を込めた色、町屋の木格子に使用された弁柄は防腐効果の高さを生かしたものでした。また、現代でも色の持つ意味がとても重要な役割を果たす場面があります。私達の日常生活の中でも、例えば交通標識の色にはJISで規定された“安全色彩”があり、これらの色を用いた表示が視認しやすい環境を整備することが大切であると考えます。

安全性を高めるためという理由で、建築や工作物にいたずらにこの安全色彩(いずれも彩度の高い純色)を用いることはしません。これらは表示色として選定されたものですから、建築や工作物そのものの存在により安全性を示すという状況は想定されていません。

この色が持つ意味を充分に理解しないまま建築や工作物に展開すると、どうしても何故この色に、という違和感が発生しやすいような気がしています。衣服やプロダクト等、身の回りにあるものには全て色がありますが、これらは見たく無ければ隠しておくことが出来ますし、日々選択し取り換えることが自由です。

ところが公共空間に出現する建築や工作物は、容易に色を変えることは出来ませんし、ずっとその場にあり続けます。先の山小屋のようにシンボリックな存在として“ある程度の視忍性を持たせる必要がある”或いは“どのような天候や季節でも500mの距離から視認出来るように”等という条件が必要な場合が生じる際も、やはり『実際にどの程度の色であれば充分な効果か』ということを考えると共に、そのような特徴ある建物や工作物の視認性を保持するために周辺の色彩を調整するといったことも考える必要があるように思います。

こうした様々な側面を検討しなければならないことを思うと、例え用途や規模が同じであっても、逆に同じ場にあっても用途や規模の違いにより、色彩選定の論理というのは自ずと異なってくるものだと考えています。