環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

測色002-TOTO乃木坂ビル

2011-01-16 21:59:11 | 建築・工作物・都市の色
TOTO乃木坂ビル、今年25周年を迎えるギャラリー間のあるビルです。以前は少し不便な場所にあるなという印象でしたが、東京ミッドタウンが完成した後は六本木の目と鼻の先という感じで、乃木坂という場所が少し身近に感じられるようになりました。

外装色は2.5PB 2.0/4.0程度。かなり明度の低い紫寄りの青系です。素材は金属パネルと推測されるものと、一部にはタイルが使用されています。色相も明度も、一般的な建築物にはあまり見られない珍しい色彩ですが、素材にある種の重厚さが感じられ、独特の存在感があります。

マンセル値が示す数字の割に、さほど暗い印象は感じられないというのが第一印象です。その見え方には素材の持つ光沢感が寄与しているのだと思います。金属パネルの質感は琺瑯のような厚みがあり、かなり艶のある仕上がりです。

艶のある分、外光が当たっている部分はかなり明るく見えます。これは明度の高低に係わらず、色の見え方が変化して見える要因の一つですが、低明度色のときは特に影の部分に比べ明るい部分の色味(彩度)が明確になるという傾向が強いように感じます。

例えば同じ色でも光沢感が異なればまた違った印象になりますし、素材が異なれば見え方も当然変わります。マンセル値が絶対値ではない、と言われる所以はそこに起因しており、管理面や色彩基準の運用面において常に但し書きが付与されるのはそのためです。

この仕事を始めるずっと以前、大学の講義で『日本人は古くから自然素材で建築をつくってきた文化があり、色で素材を塗りつぶすことにあまり慣れていない』と教わりました。以来、色を扱う仕事をしてきましたが、20年を経た現在でも私達は木や石、土壁といった伝統的な建材に触れてきた歴史を持っており、色を単独で面色として見ているのではなく、素材感とセットで認識しているのだと強く感じます。

そのことを思うと、ガラスや金属ばかりの建物に囲まれた世界で育つ子供達は、また異なる感性を持つのだろうなと思います。それが悪い等という単純な話ではなく、ある部分では文化を残すという努力を、相当意識して行っていかなければならないなと感じます。新しい技術や制度がもたらすものを受け入れつつ、色はやはり何かを“繋いでいく”という意識を持ち続けていたい、と考えています。

TOTO乃木坂ビルは25年という時を経過し、文化を発信する場として多くの人々に親しまれている建物です。一般の住宅やオフィスビルとは異なる役割を担っているということを考えると、外装色彩の特殊性も意味のあるものだと考えられます。近くで見たところ目立った汚れもなく、耐久性の良い材料が選ばれていることが伺い知れます。

色を選定するということは、素材を選定するということに他なりません。建築物の目的にふさわしい主張の強度や時間の経過を見据えるということの重要性を常に意識していますが、25年その地にあり続けた建物の姿を見て、改めて素材選びの大切さを思いました。