環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

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基調色はまちの雰囲気をつくる要素

2011-03-28 21:04:26 | 用途や規模、場の特性を考える
環境色彩デザインの基本は周辺との関係性で色を捉える、という点です。個々の善し悪しももちろん大切ですが、基調色の集積はそのまちの雰囲気をつくる重要な要素ですから、どのような規模・用途であってもその一つ一つがまちなみを構成する存在である、と言えます。

普段何気なくまちを歩いている時は、基調色のまとまり、をまず見ています。下の写真(千葉県花見川区)でいうと、『暖色系のやや彩度のある色調でまとまっていて、落ち着いた雰囲気である』という印象を持ちます。



続いて、日本橋浜町です。スカイラインの凸凹感が気になるものの、外装色彩は『ごく低彩度のニュートラル系でまとまっており、都市的な雰囲気が形成されている』と言えます。これはあくまで色彩景観としての印象ですが、決して景観の質と無関係とは言えないだろうと考えます。



色彩の善し悪しは主観で判断されがちです。ですが例え歴史的な蓄積が浅い地域でも、既存の環境は何かしらの『雰囲気』を持っています。その文脈を丁寧に読み解き、地域の共通認識として公正に捉え、まちなみの色彩を調整していくというのが全国各地で進められている“色彩基準を活用した景観形成”です。

例えば下の写真の右側の建物のように、周辺とは大きく異なる色相や彩度の色彩が出現すると、その存在は目立ちやすくなります。“主張したい”“差別化を図りたい”“自社のシンボルカラーだから”“オーナーが好きな色だから”等々、選定の理由はあることと思いますし、くれぐれも、この色自体が問題だ、といっているわけではありません。

それはあくまで、こういう(暖色系・低彩度色)並びの中に出現すると、寒色系のやや色味を感じる色調は対比が強く、また建築の基調色としても見慣れない色彩であることも手伝って違和感を与えやすい、ということです。以前記載した横浜ポートサイド地区のように、地域性を踏まえ、彩度や耐候性に十分留意し、隣り合う建物同士の関係性が整えることが出来れば、見慣れない色彩も十分、建築外装色の可能性はあると考えます。



一定の色調に整えていくための指針が必要となったのは、70年代以降、建材や色材が多様化してからです。日本の伝統的な建築物は木や土、石などの自然素材でつくられて来ましたから、色の範囲は自ずと素材色の範囲に納まっていました。技術の発達により色鮮やかな建材を生産することが可能になった為であり、多彩な表現・演出が可能となりました。

そうして出現した様々な風景は様々な評価があること思います。以前記載した高層建築物と同様、時代の推移も大きく影響していると考えています。基調色の次には、彩度(鮮やかさ)の視点も掘り下げて行きたいテーマです。

(そんなことに誰も興味ないか…と毎回、自身へツッコミを入れつつ…。)

また、新しい現代の素材を用いた建築物については、先に挙げたような日本の伝統的な素材色が必ずしも馴染むとは限りません。それは自身がそのような建築物の色彩計画に係る場合、もっとも難しいテーマです。

現代の新しい建材がつくり出す風景がどのようにまちに根付いていくのか。そんなことも気になっています。
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特徴あるまちの基調色 その2

2011-03-27 18:13:41 | 用途や規模、場の特性を考える
以前記述した焼物のまち・常滑の次に調査に訪れたのは、兵庫県の出石町というまちでした。

出石町は昭和62年に歴史的景観地区に指定され、景観ガイドラインの運用により伝統的なまちなみが再生されています。歴史の記憶を紡ぎながら現代の新しい景観を足していくことにも積極的な取り組みがなされ、地域住宅(HOPE)計画や町家のコンペ等が実施されてきました。

伝統的な建造物の基調色は、赤みに寄った土壁が多く見られました。それらの色は日本の建築物の基調色としては高めであり、5程度の強い色味を感じさせる範囲まで広がっていました。
他にも鳥の子色と呼ばれる明るい黄みよりの土壁も多く見られました。赤土壁よりも明度(明るさ)が高く、明度8~9の間にすっぽり納まっています。

伝統的なまちなみの色調はこのようにかなり狭い範囲に集中する傾向があり(=伝統的な工法・建材によって造られているため)、まちの雰囲気の形成に色という要素が大きく影響している例でると言えると思います。



CLIMATでは市販の色見本帳では十分ではないため、下の写真のようなオリジナルの色見本を作成しています。出石町で測色したデータ(マンセル値)を元に、全ての色をエマルジョンペイントで再現し、日本の建築物の色に見られる色、として活用してきました。

この短冊の裏には通し番号がつけてあり、元の大判は別途A4サイズのファイルにストックしてあります。5センチの厚さのファイルが38冊、約2500色にもなっていました(改めて数えてみて驚きました、20年の蓄積です)。ここから現場やメーカーへ指示するための色票を切り出して行きます。



この色見本の減り具合には相当偏りがありますが、出石町で採集してきた色を再現したものはそれまでCLIMATのストックに不足していたエリアのようで、95年以降、随分とお世話になった色群です。

彩度5程度の色を基調色に使用したわけではなく、1階部分や団地の階段室等の補助色として多く使用しました。出石のまちの土壁は、都市部のまちなみの基調色と比べ鮮やか目の範囲に集中していますが、その色のまとまりは素材や建築の意匠と連動しています。

あの場でよい雰囲気をつくり出している色が、他の場でも同じような見え方をするとは限りません。そして出石町のようなまちなみは地域の文化が育んできたものであり、新しくまちをつくる場合(埋立地・再開発等)に基調色だけを抽出し展開することはかなり難しいと考えています。

まちの歴史が浅い場合、失われた風景を再生していく場合。環境の色を成り立たせる根拠はどこにあるのか、ということを考えています。これは、以前から考えている、『新しい都市の色彩を考える』にも記述していることなのですが、まずは

●ごく基本的な色彩調和に基づいた“配色的な違和感を軽減する”こと
●地域の特性に根ざした群としてのまとまり、面的な開発(大規模再開発等)における“デザイン方針を強化する”こと

を基調色のあり方から解いて行きたいと考えています。
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心の拠り所、あるいは原風景となる色

2011-03-24 21:38:00 | 日々のこと
なぜ今、基調色のことが気になるのか…。未曾有の大震災によりいくつものまちが喪失し、40万人とも言われている被災者の方々が全て落ち着いた生活に戻るために一体どれくらいの時間が必要なのか、正直検討がつきません。

そうした状況の中で今まさにまちをつくる、ということが始まっています。改めて色彩の役割を考えているのですが、やはりまちなみを形成するという観点においては『そのまちの基調(色)はどうあるべきか』ということが一番気になっています。

そんな中、先日とある建築事務所のスタッフの方から『色の場合、例えば心理学的に恐怖を和らげる色とか希望が沸く色とかあるんですか』と尋ねられました。この手の質問は実に多いのですが、私自身は色彩心理学と言う独自性のある学問は認めつつ、その効果『だけ』を強調してデザインを展開することはとても危険だと考えています。

理由はいくつかあるのですが、一つ目は心理ですから受け手の心情次第で、感じ方が変るということ。例えば青は沈静をもたらすので主寝室に向いている、等はよく言われることなのですが、真冬の寒い日に部屋に入った時には寒々しく感じられるという側面も持っています。もちろんインテリアの色彩設計では、微妙な青みの加減を調整したり、ファブリックや小物を使ったりして素敵な演出が実現されている例は多いと思います。

ですが私自身はインテリアの色彩デザインを行なう際も、殆ど心理学的な効能を気にした事はありません。よほど施主が迷って決定案を選択できないでいる時などにちょっと背中を押す要素として、『こちらの方がより落ち着きますよ』等と耳打ちするくらいです。

二つめは、建築や工作物、都市・まちの色彩は規模や用途、形態・テクスチャを伴うことが挙げられます。あるイメージを持つ色を形態に装着した時、特定の色のイメージが例えば手元の印刷物や色票から想起される色のイメージと保持することは殆ど不可能であると考えているためです。

例えばトマトレッド、という色名のついた色があります。固有色名と呼ばれるこれらの名称は、耳にした誰しもが『トマトジュースのような赤』『熟れた真っ赤なトマト』『パスタのソース』等と、いくつもビジュアルをイメージすることが出来るでしょう。そこにさらに新鮮な野菜のイメージなども加味すれば、そのままプロダクト等の商品計画に展開が出来ます。

ところがこのトマトレッドを建築の外装に展開した場合、対象の規模や用途にもよりますが、トマトのイメージはほぼ吹き飛ぶことでしょう。環境の中で形態に伴う素材・色というのはやはり空間を構成する要素の一つであり、構造や空間そのものの特性とどこまでも一体的である(べき)ためです。

そうした経験から、今少し恐れているのは『色に役割を持たせる』ことに安易に頼る事例が出て来はしないだろうか、ということ。余計な心配で済めばそれに越したことはありませんので、はやりまとめておこうと思いました。



上の写真は神田明神です。2007年に撮影したものですが、丁度大規模な改修が完了した頃で、大変鮮やかで晴れやかでした。赤というのは調べて見ると日本人にはとても係りの深い色で、“あか・るい”から派生していると言われています。魔除けの松明(=赤い火)、達磨やお守りの赤は祈願をこめる色。神社の朱はそのような厄・魔除けや祈願を象徴するものであり、その地域の人々にとって『特別な』色であったと思われます。



神社等に見られる意味のある朱色は、神社の構造・形態・意匠と共にあります。そしてそれは“場所”とも切り離すことはできないのではないでしょうか。

直接的な関係は全く無いのですが、下の写真を見るといつも環境色彩における色の意味・役割をどう伝えればよいのか、と考えさせられます。この色を見て“ありがたい、お参りを”と思う人はまずいないでしょうし、新鮮なトマトのようなフレッシュさを感じるかと言えば、それも違うのではないか、と思います。

周辺のまちなみはおろか形態や意匠に馴染んでいない、ただ目立ちたいだけの赤、でしかありません。

まちの基調色を考える中で、“拠り所”の必要性について、昔ながらの有り様を紐解いて行こうと思っています。まちの人が住む家々は、穏やかで地となる風景をつくっている。その中で、人が集まる神社や広場には火があり水があり、そこに賑わいが生まれ、日頃の感謝や苦労を発散させるための祭りがある。

例えば自身が子供の頃楽しみにしていた縁日には、水風船やお面、ヨーヨー、カキ氷。普段とは違う色、心躍るハレの色ありましたし、それらの記憶が今でも生き生きと蘇る時もあります。

色は、そういう『場』にこそあるべきだと思うのです。
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特徴あるまちの基調色

2011-03-21 21:20:04 | 用途や規模、場の特性を考える
少し建築や工作物の基調色について、掘り下げてみようと思います。昨日掲載した『建築の基調色について』では関東の市街地の建物群の測色地を掲載し、これがごく一般的な事例である、と紹介しました。

次に、色彩的な特徴のあるまちの事例を紹介します。横浜です。これは1997年に調査を実施したと記録があります。少々古いデータですが、当時の建物は未だに健在ですから、参考に出来ると思います。

以下に示す図には二つの地区の色が記載されています。ランドマークタワーを始めとする白い基調色の建物群が立ち並ぶMM21(みなとみらい21)地区と、ブルーグリーンを基調とした高層住宅群が立ち並ぶ横浜ポートサイド地区です。

日本の建築外装色としては珍しい寒色系を基調としたポートサイド地区の色彩については、以前ここでまとめていますので、併せてご覧下さい。



この測色結果を昨日の関東の市街地の測色結果と見比べて見ると、集中具合がより狭いことがわかります。MM21地区は横浜市のまちづくりにより“白基調のまちなみ”として整備が進められてきた地域です。実際に測ってみて感じたのは、白基調と言えど完全な無彩色としての白がほぼ見られなかったことです。



上の写真にあるランドマークタワーは御影石貼り、グランドインターコンチネンタルホテルはタイル貼りです。それぞれ距離を置いた遠景ではほぼ白、ですが近接してみるとそれぞれ素材感が異なり、僅かに色味(色相・彩度)を持った色が殆どです。

このようなまちなみの調査をして感じるのは、“建築の基調色は殆ど近似でも対象が異なれば同じに見える事は無いな”ということです。よく景観計画における色彩基準について、“色を規制したら均質なまちなみになってしまう”と心配されることが多いのですが、実際、色々なまちを測色してみると殆どが現行の基準内に納まりますし、もっと色範囲の狭いまち(横浜のMM21地区やポートサイド地区)の特徴ある基調色をみてみても、均質だと言う感じは受けないのでは、と思います。

しかしながらここで挙げた2つの地区は、行政等が施行したデザインガイドラインに添って、綿密に調整がなされた結果です。単に数値の規制を厳しくするだけではこのようなまちなみを形成することは困難です。

地区や地域と呼ばれる範囲において、どの程度の範囲規定が有効なのか、横浜市のいくつかの例は良い参考になると思います。
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建築の基調色について

2011-03-20 19:25:34 | 用途や規模、場の特性を考える
未だ復興、ということの具体性はまだ見えていませんが。いつか必ず、色の出番(自身の仕事としてということだけでなく、多くの建築家や設計に携わる方々が遭遇するであろう、の意味)がやって来ることでしょう。その時のために、以前のペースになるべく早く戻ろうと思います。

下の図は関東のとある市全域の色彩調査を行なったときのものです。駅周辺や農地等から建物を用途別(公共・公益施設系、商業・業務系、住居系、工業系)にランダムに30~40件ずつを抽出し、外装色を測色しました。

調査の結果から読み取れることは実に多くあります。

(1)全体の色相(色あい)・明度(明るさ)・彩度(鮮やかさ)の傾向。
(2)用途毎の分布(まとまり・分散)の特性
(3)まとまりの中で特に目立つ色の傾向

等が挙げられます。



このような調査に長年係っていて感じるのは、『日本全国、住宅の色は殆ど一定の範囲に納まっている』ということです。上の図で行くと黒丸で表示した部分になりますが、これら住居系建物の色彩は『暖色系の中・高明度、中・低彩度色』に集中しています。

歴史的な建造物群が残る地域では、この巾が更に狭まるという傾向があります。これも今までのデータを整理して、今後掲載して行くつもりです。

近代の建築は技術の躍進により規模や外装の仕上げ材料が伝統的な建築、例えば木造建築等と大きく異なるものが出現するようになりました。全国各地で施行されている景観計画の色彩基準も、建物の用途別に色の基準を設けている例は多く、『建物の規模や用途にふさわしい色彩』の考え方というものはある程度明確な指針として、広まって行くとよいと考えています。

一方でこのような調査からわかるように、『どのような規模や用途の建物でも基調色の範囲は意外と狭い範囲に納まってしまう、それは特に都市部においては全国的な傾向』ということも、より広く認知されるよう、工夫を重ねて生きたいと思います。
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