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未来組

宝塚の舞台、DVD、SKYSTAGEを観た感想と、最近はカメラに凝ってます。

春野寿美礼

2007年08月18日 | ジェンヌ・ファイル
宝塚で一番伝統がある花組の主演男役となれば、言うなれば宝塚の顔。端正な正統派二枚目男役像もさることながら、春野寿美礼の一番の魅力は歌声、歌唱力。


ファントム」を観にいったときも、オープニングの歌声は劇場の天井を突き抜けて天まで届くかと思いました。一緒に行った子は「春野さんだけみんなとマイクが違うの?」と言ってました。‥‥んなことはない。

春野寿美礼の歌声は伸びやかでコクがあって哀愁を帯びている。豊かな声量と表現力。ベルベットの手触り、豊潤なワインのようなブーケとボディ。歌唱指導の先生(名前忘れました)が「神様から与えられた歌声」と評していました。

観客は「目」でも聴いているのかもしれません。「ファントム」のライブCDを聴くと、彩吹真央も負けず劣らず聴かせるし、出雲綾は完璧。でもやっぱり春野寿美礼の説得力、エンターテイメント性は突出している。魂を込め、感情を絞りだすように歌い上げる佇まいが、観客の魂を揺さぶります。

不滅の棘」で、春野寿美礼が演じる世界的超人気歌手がステージ上で女装して歌う場面がありますが、高音も美しい。

朗々と歌い上げるだけでなく、Jポップも軽くこなします。博多座の「Cocktail」でサザンオールスターズを歌うところも大好き。こぶしがきいてる。本物の男性でもなかなかこう格好よく歌えないでしょう。

仮に春野寿美礼の出番がたった一曲だとしても、お金を払う価値はある。

明智小五郎の事件簿-黒蜥蜴」は、脚本も歌詞も単純だったけど、春野寿美礼の歌を聴きたくてお客様は入るし、満足して帰ることは間違いない。

あの汲みつきぬ哀愁はどうしたらいいのでしょう。組替えで花組に戻ってきた壮一帆が稽古場で春野寿美礼の
生の歌声を聴いて泣いたって言ってました。われわれは観客ですが、生で聞けたということは本当にラッキーなことです。



1991年初舞台。花組育ち。2002年の「エリザベート」が主演男役としての大劇場お披露目公演。面長ですっきりしたお顔立ち。すらりとしたプロポーション。ノーブルで凛とした雰囲気の持ち主。下級生の頃は笑顔がさわやかで、はかなげなところもある少年でしたが、学年が上がるにつれて妖しさ、成熟した男の魅力を身につけてきた。

温かさ、包容力、純真さ、哀愁、クール、ダンディ、ニヒル‥‥さまざまな魅力が解け合っている。コスチューム物も7日本物も、なんでも着こなす。とくに昔からのファンには、理想の恋人像そのもの。もはや神格化された存在。



春野寿美礼の代表作と言えば「ファントム」と「エリザベート」。恵まれた歌唱力と確かな演技力がなければ成立しないミュージカル大作。いずれも、愛を得られずに苦悩するさまが、ファンの母性本能を刺激するのかも。

(トップ在任中に「ベルバラ」花組公演はありませんでしたが、雪組の宝塚大劇場公演に役替わりでアンドレで出演しています)

ファントム」のエリックははまり役(熱烈ファンに言わせれば全部でしょうが)。

誰からも顔を見られないように暮さなくはならないオペラ座の怪人。幼い頃に亡くなった母親の面影をクリスティーヌ(桜乃彩音)に重ね、愛し、尽くし、独占しようとする。
クリスティーヌにだけは本当の自分をわかってもらえると、可能性に賭けたのに…
あの絶叫には胸が張り裂けそうになります。

キャリエール(彩吹真央)との銀橋での感動的な親子の名乗りのシーンは、しばらく拍手がなりやまず、すすり泣きが続いていました。わたしはその前の、子供時代のエリック(野々すみ花)が水面に写った顔を見てしまって叫ぶところですでに涙腺を直撃され、銀橋は要注意と聞いて心していたのですが、やはりぼろぼろ泣いてしまいました。

彩吹真央が、雪組への組替が決まっていたので、それまでのオサさんへの感謝の気持ちを込めたと言っていましたが、単なる演技を超えた人間同士の絆が感じられました。



他にも代表作は「うたかたの恋」「あかねさす紫の花」「落陽のパレルモ」「琥珀色の雨にぬれて」といろいろありますが、わたしは耽美趣味炸裂の不滅の棘」が結構気に入っています。すごい役者だなぁ、他の人には真似できないだろうと衝撃を受けました。

望みもしなかったのに永遠の命を与えられてしまったエロール。すでに三百年以上生きながら得ている。生命の鍵を握るのは薬の調合方法を印した書類だけ。その書類を所有するはずであり、かつて愛した女性の子孫を捜し当てて近づいてくるエロール。人間であって人間ではない。この世の者ならざる存在。

時の流れも場所の移動も、きわめてシンプルな白い舞台で表現している。衣裳も全員真っ白。純白、生成り、アイボリーまで微妙なグラデーションがあり、深読みすればキャラクターにあわせているようで面白い。

それも、あの春野寿美礼の一瞬の「」を際立たせるためでしょう。第一幕最後のなんとエロティックなことか。第二幕最後も実に効果的。

生命力の衰えたエロールの、あの怠そうで超性格悪そうな「‥あ?」いう返事が、絶対普段の春野さんなら(ジェンヌなら)言わなさそうでおかしい。
惚れたのはこれ。
「‥酔い覚ましにもなりゃしない!」
設定は言いませんが、台詞、演出、演技も全部すごい。

古今東西、老若男女、誰が演じた役にせよ、今まで観た中でこれ以上の虚無が
伝わったのは、タルコフスキー監督の「惑星ソラリス」くらいかな。個人の感想ですが。

「歌え!」
老女とのやりとりは、健全なる青少年に見せてはいけないと思う。観ていいのは大人だけです。


それほどの世界を表現できる役者でありながら、素顔はおっとりなごみ系。初日や千秋楽のごあいさつでは、肩の重荷をおろしてほっとするのでしょう、穏やかな素顔に戻っている。でもみんなで盛り上がるのが大好きみたい。千秋楽では客席のみんなに「イエーイ!!」と叫ばせるのがお約束のよう。コンサートみたいな一体感がいいんですよね。

90周年の大運動会の練習でも、優勝トロフィーを掲げるイメージトレーニングをしたりして、組一番のムードメイカー。結果は‥‥でしたけどね!

音楽学校時代は朝海ひかるとともに、地味で目立たなかったらしい。一期上の樹里咲穂に、以前番組の中で「(当時は)知ら~ん」と言われていました。スーパーのレジ打ちに憧れていて、早打ち大会に出たいと言ったり、意外に天然。

マイペースで、樹里咲穂の最近のトークショーでも、話の進行とは違うところを思考がさまよってしまったようで、「聞いてる?」と突っ込まれていました。
でもリクエストに応えて、一瞬にして役に入れるところがすごい。


千秋楽のごあいさつでは、素に戻っておっとりしていると言いましたが、同時に「明日からまた、新たな目標に向かって頑張ります!」と、いつも自分で自分に気合いをいれていました。(一日たりとて休めないのかしら・・・)

花組トップとしての責任感、重圧たるや、すごかったと思います。足掛け6年間、お疲れさまでしたとお伝えしたい。

退団公演は「エリザベート」の小池修一郎の芝居と「ファントム」の中村一徳のショー。普段ならもったいないほど豪華な組み合わせが、偉大なる功労者を送り出すのにふさわしい。

来週の世界陸上開会式では国家斉唱。これまで声が掛からなかったのがおかしい!?塚以外のフィールドでも十分通用する実力の持ち主です。活躍の場を広げてほしいと思います。

まだ次期トップは発表されていません。そろそろでしょう。個人的には希望はあるけれど、こればかりはわかりませんからね。

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