アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第32回東京国際映画祭:DAY 3

2019-10-31 | アジア映画全般

本日も晴天下、六本木にお弁当持って出勤です。TIFFでは毎年、プレス向け上映で作品を見せていただくのですが、今回はアジア映画がうまい具合に約1時間の休憩を挟んで、毎日数本見られるようにプログラムが組まれています。ただ、1時間ではどこかに食べに行っているわけにもいかず、毎日お弁当持参で、TOHOシネマズ入り口広場の池の縁に座って食べているのですが、サンドイッチ系が2日も続くとすぐ飽きてきます。というわけで、今日は和食のお弁当を作りました。ほうれん草のおひたしが、自分で言うのも何ですがものすごくおいしくて、青物不足の体にしみわたりました。そんなランチと、後述する国際交流基金アジアセンターのパーティーを挟んで見た4本の作品のご紹介です。


『フードロア:彼は魚をさばき、彼女は花を食べる』(画像はいずれも©2018 HBO Pacific Partners, v.o.f. FOLKLORE is a service mark of HBO Pacific Partners, v.o.f. All rights reserved.) 


 2019年/シンガポール、ベトナム/ベトナム語/52分/原題:Food Lore Series "He Serves Fish, She Eats Flower""Island of Dreams"
 監督:ファン・ダン・ジー
 出演:ライン・タイン、グエン・ティ・ゴック・アィン


ケーブル放送局HBOが制作したTVオムニバス・シリーズのうち、2本を組み合わせた上映です。ベトナムが舞台の本作は、日本料理店で働くコック、タン(ライン・タイン)が主人公で、ベトナム風デザートの店でよく会うCAのヴァン(グエン・ティ・ゴック・アィン)に惹かれたタンは、店の上にある彼女の家に押しかけていき、恋人同士になります。いろんな料理を作っては、ヴァンに食べさせるのを楽しみにするタン。でもやがて、ヴァンは落ち着いた結婚生活を口にするようになり、タンは店の水槽に入っているフグを料理するようになります...。

美男美女の恋とベッドシーン、そしてヴァンが飼っている猫たちが画面を美しく彩りますが、タンの働く店が和食店であるだけに、「その働きぶりはいかがなものか」とつい思ってしまったり。ヴァンが肉は食べないという設定で、それで和食店の板前との恋にしたものと思われます。リアリティがあるようなないような、不思議な作品でした。


『フードロア:Island of Dreams』(画像はいずれも©2018 HBO Pacific Partners, v.o.f. FOLKLORE is a service mark of HBO Pacific Partners, v.o.f. All rights reserved.)

 

 2019年/シンガポール、フィリピン/タガログ語/58分/原題:Food Lore Series "Island of Dreams"
 監督:エリック・マッティ
 出演:アンジェリ・バヤニ、ユル・サーボ、アイナ・フェレオ

島で育ったニエヴェスは、母亡き後12歳の時から主婦業をこなし、漁師の父と4人の弟妹の面倒を見るほか、近所のフエおばさんに頼んで、おばさんの作った食べ物の売り子をして働いてきました。今はメイドとしてマニラで働き、帰省するのは年1回の島の祭りの時だけ。漁師である夫と2人の娘の世話は妹に任せきりでした。今雇われているのは初老の主人に若い妻と2人の幼い娘がいる家庭で、食通である主人のロバートはニエヴェスにいろんな料理も教えてくれます。夫妻に気に入られたニエヴェスは、近々香港に住む予定の夫妻から、一緒に来てほしいと言われていました。祭りで帰省した島では、みんながニエヴェスの帰省を歓迎し、お土産に喜んでくれますが、夫は働くのをやめて帰ってくるよう頼みます。ニエヴェスにしても、夫と妹の仲の良さが気にかかり、妹にもマニラで働くよう説得したりしているうちに、家族の心はバラバラになっていきます...。

幼い時のフエおばさんの料理、現在の祭りの料理、そしてマニラで憶えた洋風料理の3つが出てきて、それぞれが家族をつないだり、離反させたりする役目を果たします。あまりにも洗練されすぎたスパゲティのソースは子供たちから敬遠され、おばさん、つまりニエヴェスの妹が作る大甘ソースの方がいいと言われたり、高級食材を妹が使えないまま腐らせてしまっていたり。都会と地元の対比を料理を使ってうまく見せているところはさすがエリック・マッティ監督ですが、お話が平板で、いまひとついつもの冴えが見られませんでした。


『死神の来ない村』


 2019年/イラン/ペルシア語、トルコ語/85分/原題:Piremard'ha Nemi Mirand
 監督:レザ・ジャマリ
 出演:ナデル・マーディル、ハムドッラ・サルミ、サルマン・アッバシ


田舎の山地の村に住む高齢の男たちは、100歳のアスラン(ナデル・マーディル)をリーダー格にして、みんなで同居しています。この村ではここ45年というもの、誰1人として亡くなっていないことから、葬儀場も墓地も役立たずのまま。死神にも見放された村だ、誰か村外の人間で死のうとしている人がいるなら、わしらがこの村にいることを死神に伝えてほしい、とアスランたちは嘆き、村の警察は死のうとする老人たちを見つけては自殺を思いとどまらせることに心血を注いでいます。新任警官のアリも振りまわされますが、アリは村のチャイハネ(茶店)で老父と働くサラを見染め、密かに思いを寄せるようになります。ところが、老人たちもサラに求婚したりして、ややこしいことになっていきます...。

発想が奇抜で面白いものの、老人たちの生かし方がいまひとつ。終日チャイハネでぐだぐだするか、ハマーム(公衆浴場)で温もっているか、なので、全然魅力的ではありません。ラストのオチもあまり後味がよくなくいのですが、美しい景色の中で人間を捉えるカメラワークがすばらしく、ロングショットの数々が印象に残りました。


『モーテル・アカシア』(画像はいずれも©Picture Tree Internationa)


 2019年/フィリピン、スロベニア、マレーシア、シンガポール、台湾、タイ/英語、フィリピン語、タイ語/88分/原題:Mortel Acacia
 監督:ブラッドリー・リュウ
 出演:JC・サントス、ヤン・ベイヴート、ニコラス・サプットゥラ

欧州のどこかの国。雪深い道を小型トラックが走っています。運転席に乗っているのは、フィリピン人のJC(JCサントス)と、長い間離れて暮らしていたその父(ヤン・ベイヴート)で、荷台には不法移民の男が乗っていました。父の経営するモーテルに着くと、父は男に服を脱いで部屋に入るようにと言います。ところが、部屋にあるベッドにその男が座った途端、ベッドがその男を飲み込んでしまいます! 父に言われて仕方なく後始末をしたJCでしたが、やがて父が町と契約して、不法移民を始末しては金を得ていることがわかってきます。その父の手助けをしているフィリピン人女性アンジェリは、あと3人連れてくる約束をしており、礼金が先にほしいと父に詰め寄ります。それを振り切ってJCと共に出かけた父は、途中で奇妙な木に襲われ、JCはやっとのことで逃れて若いカップルの乗る車に拾ってもらい、モーテルに戻ってきます。そこには、アンジェリが連れてきたドン(ニコラス・サプトラ)ら男3人が待ち構えていました。偽造パスポートを手に入れ、早く町から出て行きたい3人でしたが、ベッドで行為に及んだカップルの男の方が姿を消したのを皮切りに、次々と犠牲者が増えていきます...。


雪深い郊外のモーテルを舞台にした、ホラー・サスペンスです。途中で熱帯の林のシーンが一時登場するのですが、それとモーテルに巣くう怪物との関連も説明されないまま、最後に至ります。JCは最初に父から、「この建物には女性は絶対に入れるな」と言われるのですが、そのわけが明らかになるシーンもちゃんと用意されていて、なるほどと感心。ホラーシーンも上手に作られているのですが、そのゲル状のものと樹木怪人みたいなものの関係は? 等ツッコミどころも多く、怖さはいまひとつでした。

*  *  *  *  *  *  *

と、ここで国際交流基金アジアセンターが催して下さった交流パーティーへ。ラオス映画『永遠の散歩』のマティー・ドー監督が流ちょうな英語で挨拶し、アジアセンターの仕事を称えて下さったのが印象的でした。下は、ステキな民族衣装姿のマティー・ドー監督です。『永遠の散歩』も見なくっちゃ。


 

『リリア・カンタペイ、神出鬼没』


 2011年/フィリピン/フィリピン語/100分/原題:Six Degrees of Separation from Lilia Cuntapay
 監督:アントワネット・ハダオネ
 出演:リリア・カンタペイ、ジョエル・サラチョ、ジェラルディン・ヴィラミル


パーティーで軽く夕食をいただき、あわててスクリーン5へ戻り、30分遅れで見たのがこの作品です。「フィリピン・ホラーの女王」と呼ばれた実在の女優リリア・カンタペイに、彼女自身に近い役を演じさせ、現実とフィクションの境目が限りなく曖昧な作品を作りあげたのが2011年当時27歳の女性監督、というので見てみたいな、と思ったのですが、ものすごく面白い大傑作でした。


私が見始めた時には、リリアはある映画に端役として出演することになり、娘で付き人のマイラと共にロケ現場に来ているところでした。マイラ相手にセリフの練習をするリリアですが、さすが女優、というその練習ぶりにすぐに引き込まれてしまいました。ですが、監督からは「あの人じゃ、ホラー映画の印象が強すぎるから別のおばあさんを手配してくれ」と言われて降ろされ、単なる通行人役に変更になってしまいます。撤収時にやってきたエキストラから、「あなたを知っていますよ」と言われると、サイン入りブロマイドやホラー映画のスチールを入れたTシャツを気前よくプレゼントし、自宅に着くと娘とギャラを分配するなど、「落ち目の俳優」そのもので、ドキュメンタリー映画と言われても納得してしまいそうです。その上憎めないキャラで、見ているとリリアがどんどん好きになっていくのです。


さらに、彼女が初めて助演女優賞にノミネートされ、それを巡ってテレビ番組が取材に来たり、受賞した場合のスピーチを考えたりと、映画賞を巡るドタバタも実に達者に描かれます。リリアの演技や周囲の人々の対応には、演技とは思えないリアリティがあって、最後まで引き込まれて見てしまいました。どうやら全編フィクションらしいのですが、リリアが実際にこれまで通ってきた道をうまく再現し、ドキュメンタリー手法で撮っているので、とても自然で、かつ迫力のある作品になったようです。カタログによると、「本作が評判を呼び、実際にカンタペイは『シネマワン・オリジナルズ映画祭』で最優秀女優賞を受賞した」とのことで、2016年に80歳で亡くなる直前に彼女の人生にスポットライトが当たったようで喜ばしい限り。こちらに彼女のWikiがありますので、興味のある方はのぞいてみて下さい。


ただ、残念なのは、よしだまさしさんへのコメントにも書いたように、彼女の名前「Lilia Cuntapay」は「リリア・カンタペイ」という英語読みの音ではなくて、「リリア・クンタパイ」が正しいらしいこと。ゲストで来日していたりしたら、大変なことになっていましたね。天国から、怒りの雷(いかづち)が落ちてこないことを祈っています。

 


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