アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第24回東京フィルメックス正式に始まりました

2023-11-22 | アジア映画全般

昼間は暖かいのに、夜になるとグッと冷え込むようになった東京。一昨日から、第24回東京フィルメックスがヒューマントラストシネマ有楽町で幕を開けました。開会式は本日、11月22日だったので、今年はちょっと変則的なのですが、すでに私もヒュートラ有楽町で2本、そして今日は開会式前に有楽町朝日ホールで1本見ました。それもまじえて、本日のフィルメックスを報告しておきたいと思います。なお有楽町界隈は、イルミネーションがあちこちに施され、もうすっかり12月のクリスマスがやってきたよう。では、本日のオープニングの模様と、作品別に5本、簡単にご紹介していきます。

ヒュートラ有楽町からいつもの朝日ホールに会場を移して、本日は午後5時15分から開会式が行われました。まず、プログラム・ディレクターの神谷直希さんと通訳の松下由美さんが登場。今年はいろいろ変則的なプログラムのフィルメックスであるせいか、神谷さんのご挨拶もちょっと歯切れが悪い感じでしたが、今年はクラウド・ファンディングもなしで映画祭運営が成立、よかったね、という感じです。

その後、コンペ部門の審査員、タイのアノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督と中国の王兵(ワン・ビン)監督が登場。

お二人とも、フィルメックスとはご縁がある方だけに、リラックスした感じでのご挨拶でした。もうお一人の審査員、台湾のプロデューサーであるクオ・ミンジュンさんは、まだ日本に到着してらっしゃらない、とのことで、お二人だけの登壇に。ワン・ビン監督の通訳は、これもお馴染みの渋谷(樋口)裕子さんです。審査員お二人のアップの顔も付けておきます。ワン・ビン監督、登場時はメタボ腹になっておじさん化してる、とちょっと驚いたのですが、アップにしたお顔は髪が短かった時のあの童顔のまま。今回は、ワン・ビン監督作が2本も上映されます。

このあと、オープニングフィルムが上映されたのですが、トルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の作品で、上映時間が何と197分。3時間17分とは、と、インド映画で長尺には慣れているはずの私もちょっと尻込みしたものの、全然退屈しない作品でした。この作品『About Dry Grasses(英題。訳すると「枯れ草について」)』を始め、今まで見た5本はこんなラインアップです。

『About Dry Grasses(英題)』

©️2023 NBC FILM/ MEMENTO PRODUCTION/ KOMPLIZEN FILM/ SECOND LAND /
FILM I VÄST / ARTE FRANCE CINÉMA/ BAYERISCHER RUNDFUNK / TRT SİNEMA / PLAYTIME

 2023/トルコ、フランス、ドイツ/197分/英語題:About Dry Grasses/原題:
 監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン ( Nuri Bilge CEYLAN )
 配給:ビターズ・エンド

©️2023 NBC FILM/ MEMENTO PRODUCTION/ KOMPLIZEN FILM/ SECOND LAND /
FILM I VÄST / ARTE FRANCE CINÉMA/ BAYERISCHER RUNDFUNK / TRT SİNEMA / PLAYTIME

トルコの東アナトリア地方。イランなどとの国境にも近いこの一帯は、冬は雪深いことでも知られていますが、その中の農村にある小学校が主たる舞台です。美術教師のサメットは、学内でも村の中でも温厚ないい先生と思われていて、みんなから親しまれています。彼のクラスには何かと目立つ女の子セヴィムがおり、休暇から帰った時にはおみやげを渡したりして、男子からは「セヴィムたちをひいきしている」と言われたりも。まだ独身のサメットを心配して結婚話が持ち込まれることもあり、今回は町にある中等学校の女性教師ヌライを紹介されて、カフェでデートしました。サメットには職員宿舎で同居している地元出身の教師ケナンがいるのですが、彼の方が向いているのでは、と、サメットはヌライとケナンを引き合わせました。実はサメットは、内心この田舎の学校や生活を嫌い、イスタンブールの学校に転任になることを切望していたのでした。そんな時サメットとケナンに、生徒へのセクハラ疑惑がかけられます...。

©️2023 NBC FILM/ MEMENTO PRODUCTION/ KOMPLIZEN FILM/ SECOND LAND /
FILM I VÄST / ARTE FRANCE CINÉMA/ BAYERISCHER RUNDFUNK / TRT SİNEMA / PLAYTIME

いい先生かと思ったら...という、徐々にどんでん返しが姿を現す作品ですが、ラストは不思議な終わり方をします。ラスト近くの卒業式直前、セヴィムがサメットと対峙する場面があるのですが、「そこで中指立ててやりなさい!」とか、「思いっきり非難してやりなさい!」とか心の中でセヴィムを応援していたものの、ジェイラン監督はそんな俗っぽい展開には与せず、それまでの冬景色から一転した夏のアナトリア東部を見せて物語の幕を閉じます。女性教師ヌライのキャラクターも強烈でショッキングで、彼女の家のシーンでは一瞬「え? ええ???」と思うカットも登場するなど(監督がイタズラしてみた?)、謎に満ちた作品でもありました。

『水の中で』

 2023/韓国/61分/英語題:In Water/原題:
 監督:ホン・サンス( HONG Sang-soo )

ホン・サンス監督ファンも多いかと思いますが、本作ではまたまた人を食ったような手法を繰り出していて、もうワケわからん、という作品になってしまいました。物語は、ある島に自主映画撮影のためにやってきた男女3人が、優柔不断な監督兼脚本担当の青年に引き回されてしまう、というもので、一番の特徴はピンボケのシーンがえんえんと続くこと。パンフレットの解説には「全編ピンボケ」とあるのですが、全編ではなく、一部ちゃんとフォーカスが合っているシーンもあります。ですので余計に、なぜ大多数のシーンをピンボケにしたのか、ピントの合っているシーンは何を意味するのか、と探りたくなるのですが、その答えは出てきません。いつものホン・サンス作品の方がまだしもわかりやすかった、と思わせられた作品でした。エンドクレジットの文字までピンボケなので、ただ遊んでみたかっただけ、ではないかと思いますが、ここに出したスチール写真はフォーカスがきちんとしていたシーンなので、作品画像のためだけに何カ所かピンの合った絵を撮った、ということなのかも。いやはや。

『冬眠さえできれば』

 2023/モンゴル、フランス、スイス、 カタール/98分/英語題:If Only I Could Hibernate/原題:
 監督:ゾルジャルガル・プレブダシ ( Zolijargal PREVDASH )

主人公は、中学生のウルジー。モンゴルの首都ウランバートルに暮らしていますが、地方から都会に出てきた一家は今でも持参したゲル(天幕)暮らし。当初は父親も交えた一家6人だったのですが、父親が事故で亡くなり、母親と、ウルジーと弟妹たち――妹と弟2人となりました。母親が悲しみの余り酒浸りになったため、ウルジーの肩には一家を支える重みがのしかかってきます。ウルジーは数学の成績がよく、数学教師から数学オリンピックに出ることを勧められて、最初に受けた試験ではいい成績を取って将来を嘱望されます。ですが、生活のため母親は一番下の子を連れて故郷に帰り、残されたウルジーは弟妹の面倒を見るため、学業オリンピックの準備もできなくなります...。

ウランバートルの困窮児童たちの姿は、ドキュメンタリー映画『マンホールチルドレン』(2008)などでも描かれましたが、本作にはその一歩手前の子供たちが登場します。タイトルは、上の弟が言う「人間も冬眠できたらいいのに」という言葉からで、暖房の燃料となる石炭や薪を始め、焚き付けに使う段ボールや木切れなど、生活のための必要物資集めに腐心する10代の少年の姿は、その子が優等生であるだけに見ている者に鋭い痛みを感じさせます。隣人や友人の助けの手も差し伸べられるのですが、主人公のウルジーは他人の情けにすがることを潔しとせず、物乞いはすまい、と決めて貧乏と戦っていきます。その一方で、数学オリンピックや物理オリンピックが開催され、それも首都だけでなくて地方都市開催があり、参加者には旅費が出る、というシステムなどに、社会主義国の顔を見ることができます。

監督であるモンゴル人女性ゾルジャルガル・プレブダシ(下写真)は日本の桜美林大学で映画制作を学び、タレンツ・トーキョー始め、各地の国際映画祭の映画セミナーを経て、本作で長編劇映画デビュー。日本留学の経験があるためか、主人公の将来プランにも東大など日本の大学に留学するという希望が登場します。上映日には在日モンゴル人らしき観客が多く、ヒュートラ有楽町がいつもと違った雰囲気でした。

『ミマン』

 2023/韓国/92分/英語題:Mimang/原題:
 監督:キム・テヤン ( KIM Taeyang )

日本語で「みまん」と言えば「未満」だけですが、韓国語にはいろいろな「ミマン」があるようです。「微望」「彌望」「迷妄」等々の「ミマン」の解説を間に挟みながら、顔見知りの男女が偶然遭ったある夏の日から、雨の日、お寺、裏通りのスナック等々いろんな出会いのシチュエーションが積み重ねられていきます。顔の認識がなかなかできず、「子供がいる」とかいうセリフでさっきの女性と同一人物なんだ、と類推したりと、ちょっとよそよそしい映画体験しかできなかったのは残念ですが、主人公たちに以前と同じ行動を取らせる監督は、デジャブ感によって見る側の記憶を呼び戻し、映画のストーリーに連れ込んでは「ミマン」の漢字を提示する、ということをくり返します。ソウルの街をもっとよく知っていれば、細部を楽しめたかも知れません。私は李舜臣(イ・スンシン)像ぐらいしか見覚えがなく、ちょっと残念でした。

 

『クリティカル・ゾーン』

 2023/イラン、ドイツ/99分/英語題:Critical Zone/原題:
 監督:アリ・アフマザデ( Ali AHMADZADEH )

最初、救急車がトンネルの中を走っていくシーンは、ちょっと期待を抱かせたのですが、それが救急車に偽装した麻薬運搬車であり、そこから麻薬を車に積み替えた主人公が自宅に戻り、たくさんの各種麻薬パッケージを作っていく、というシーンになるともう嫌悪感が噴出してしまい、目を背けながら見終えることになりました。イランの現状はこんなにもヤク中毒がいる世界なんだ、という描写でイランの体制への批判としていることから、「抑圧が続く社会の水面下でくすぶっている人々、とりわけ若い世代の人々の苦悩や欲望を直接的かつ直感的に描き出していく」(パンフレットより)作品として評価されているようですが、この描き方は薬物蔓延ノウハウの拡散を意図しているとしか思えません。冒頭のトンネルシーンのロケ地選び(どこにあんな長いトンネルが? テヘラン北方でしょうか?)や、時折映像に工夫が見られたりするので、体制批判でももっと違うテーマと手法をさぐってもらいたい監督(下写真)でした。

(追記)監督の名前Ahmadzade(أحمد زاده)ですが、カタカナ表記は「アフマドザデ」または「アフマドザーデ」の方がいいのでは、と思います。

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« SRK小ネタ⑨ドラマ『セクシー... | トップ | 今年も恒例の<インディアン... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

アジア映画全般」カテゴリの最新記事