アジア映画巡礼

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愛すべき秀作『花嫁はどこへ?』①トリッキーな脚本がすごい!

2024-07-31 | インド映画

本日は、松竹試写室で松竹配給のインド映画『花嫁はどこへ?』の試写を見せていただいてきました。プレス(試写で配られる資料)にコラムを書かせていただくため、すでに3、4回パソコン画面では拝見しているのですが、やはり大画面で見るのはまた違います。今回の字幕は福永詩乃さん。松竹の前の配給作品『エンドロールのつづき』(2021)や、『バジュランギおじさんと、小さな迷子』(2015)、『燃えあがる女性記者たち』(2021)など、すでにたくさんのインド映画の字幕を担当してる翻訳者さんです。今回拝見していて、主人公たちがヒンディー語では「カハーワト/kahawat/कहावत」と呼ぶ、ことわざというか成句を結構使っているのがパソコン音声よりもよく聞き取れて、これ、憶えているといいかも、と思いました。公開日の10月4日まで何回か記事をアップする予定ですが、この成句を毎回入れ込んでみようと思います。では1回目、まずは映画のデータからどうぞ。

『花嫁はどこへ?』 公式サイト
 2024年/インド/ヒンディー語/124分/原題:Laapataa Ladies/字幕:福永詩乃
 監督・プロデューサー:キラン・ラオ
 出演:ニターンシー・ゴーエル、プラディバー・ランター、スパルシュ・シュリーワースタウ、ラヴィ・キシャン、チャヤ・カダム 
 配給:松竹
※10月4日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネリーブル池袋ほか全国公開

ストーリーをちょっとご紹介しましょう。舞台は北インドのとある村。嫁の実家で結婚式を済ませ、花嫁のプール(ニターンシー・ゴーエル)を自宅、つまり彼女から見ると婚家に連れて帰ろうとしている、いかにも誠実そうな田舎の青年ディーパク(スパルシュ・シュリーワースタウ)。ディーパクの家は結構遠く、船やらバスやら列車やらを乗り継いで、ほぼ1日かかる旅となります。田舎のことで、列車に乗るのも正規の駅ではなく、列車が田畑の真ん中でちょっと止まったすきに、みんながわっと乗り込む、といういいかげんさ。乗り込んだ車両は満員で、掛けさせてもらえそうな6人掛け席には何と新婚夫婦がすでに2組いて、ものすごい混み具合です。駅に着く度に降りる人、乗ってくる人とめまぐるしく乗客が代わり、夜になるとプールとディーパクの座っている席は、もう1組の新婚さんが降りていって2組の花嫁花婿と他の人たちとなりました。しばらくして、うとうとしていたディーパクが目を覚ますと、何と自分が降りる駅ではありませんか。あわててプールの手にふれて声を掛け、荷物を持ってホームに飛び降りるディーパク。プールも降りてきたのですが、なぜか行くのを躊躇しています。そんな彼女をせかせたディーパクは、駅前に停まっていた最終バスにあわてて乗り込み、やっと自宅のある村へ。バス停では友人たちが迎え、家で待っていた家族や親戚からは大歓迎を受けますが、ずっと赤いベールを目深に被っていた花嫁がベールをあげると、そこには何と別人の女性が! 村は大騒ぎになります。その「嫁」はプシュパ・ラーニー(プラディバー・ランター)と名のりましたが....。

これが、花嫁取り違え事件の発端ですが、一応20年前のお話と断ってあるものの、現代でも伝統的な田舎のお嫁さんたちは、こういう風に目深にベールを被って、目上の人やよその人に対応するのが普通のようです。それを上手に使った、花嫁取り違え事件なのですが、のちほどプシュパの本名はジャヤで、彼女があの列車から降りてディーパクに従ったわけが徐々に解き明かされていくという、とてもトリッキーな脚本になっています。このあとはぜひご覧になって楽しんで下さいね。さて、本日の成句はこちらです。ディーパクが言うセリフなのですが、ちょうどチラシにそのシーンがあるので、切り取ってみました。

Hamare eeha kahawat hai -
”Jewar chori, dui dukh paana,
chhota dukh chori, bada dukh thaana" !

『花嫁はどこへ?』はヒンディー語映画なのですが、ヒンディー語がおできになる方なら、「このヒンディー語、なまってる」とおっしゃるに違いありません。北インドの田舎言葉風にしてあるのですね。日本語で言えば、「だんべえ言葉」になるでしょうか。発音はこんな感じです。

ハマーレー・イーハー・カハーワト・ハイ

”ジェーワル・チョーリー、ドゥーイー・ドゥク・パーナー、

チョーター・ドゥク・チョーリー、バラー・ドゥク・ターナー”

意味はこんな感じでしょうか。

わしらには こういうことわざがある

貴金属泥棒は、2つの困りごとを持ってくる

小さな困りごとは泥棒に遭ったこと、大きな困りごとは警察署に行くこと

さーて、どんな意味でしょうね? 上のシーンは、プールの家からディーパクの家までの旅の途中で、船からバスに乗り換えたところなんですが、マイクロバスぐらいの小さなバスで、ルーフには荷物置き場が作ってあります。インドやパキスタンでは、バスのルーフは荷物を載せると共に乗客も乗せるというのは、インド映画ファンの皆様ならご存じですね。『バジュランギおじさんと、小さな迷子』(2015)や、アーミル・カーン主演作『PK/ピーケイ』(2014)等々、旅するシーンが出てくる作品にはよく登場します。『花嫁はどこへ?』では、二人っきりになりたかったらしきディーパクがプールに「上に上がれ」と言ってルーフに上らせ、二人でかわいくイチャつくと共に、次のように言います。「身につけている装飾品ははずして、僕に預けて。こういうことわざもあるからね(と、上のセリフ)」そう言って白い布(ハンカチ代わりに持っている布かも知れません)を広げて見せるのですが、プールは素直に身につけていた金製品の腕輪やイヤリング、ネックレスをはずして、みんなその布の上に乗せます。ディーパクはそれをしっかり包んでからしまう、というシーンなのでした。このことわざの最後、「大きな困りごとは警察署に行くこと」の意味は、『花嫁はどこへ?』をご覧いただくうちに、「これか!」とおわかりいただけます。お楽しみに。このシーンがチラと出てくるミュージック・クリップがありますので、ご覧下さい。

Sajni (Song): Arijit Singh, Ram Sampath | Laapataa Ladies | Aamir Khan Productions

 

 


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