chuo1976

心のたねを言の葉として

「夏がきた」   工藤直子

2012-09-09 04:05:56 | 文学
「夏がきた」   工藤直子




ゆうがた――綿雲が山にこしかけて 泣いている

ひばり びっくり とびあがり

ドーシタ ドシタドシタと 声をかける

ほっぺたはれて虫歯がいたいと 綿雲めそめそ

ひばり もっと とびあがり

ワタグモ ムシバダムシバダゾイと 呼びかける


ここへきて歯をみがきなと 森が呼ぶ

それからここで口をゆすぎなと 川が呼ぶ

おーい それから最後にな と

西の空から太陽の声

ひかりの糸で 虫歯をぬきな


綿雲は 山にすわりなおして

ひかりの糸を 虫歯にむすぶ

ようし せえの


あ 太陽が ぐんぐんしずむ

あ ひかりの糸が ぴんとのびる

あ 綿雲ふんばる 赤くなる

あ あ あ すっぽーん!


その夜 綿雲は月にだかれて眠った


よくあさ――綿雲は山に立って 笑ってる

わっはっは わっはっは わっはっは

ひばり にっこり とびあがり

ワタグモ マブシイマブシイゾイ

森 笑う 川 笑う

太陽も ぶるんぶるん おお笑い


きょう 綿雲は ひとまわり大きく

ぴかぴかの入道雲になった
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