演奏活動も一段落し、新曲の音取りも始まって、勉強の秋ですね。「東京物語」がどのように仕上がるのが、とても楽しみです。
さて、私たちがいつもお世話になるピアノ。グランドとアップライトがあるのはご存じのことと思います。形だけではなくて、いろいろ違う点がありますので、ちょっとご紹介します。
■歴史
ピアノの前身はざっくり申し上げますとチェンバロ(ハープシコード)で、まず、音のダイナミクスに難点があると感じたチェンバロ職人のクリストフォリという人が、クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテという「弱い音も強い音も出せるチェンバロ」を作り出しました。
その後、ジルバーマン、シュタインというドイツ人によって改良が施され、一方でイギリスではツンベという人がスクエアピアノという楽器を制作しました。
そして近代ピアノは、フランスのエラールによる新構造の発明によって成立すると言われます。(1821年)
一方、フィラデルフィアのホーキンスという人が、クラヴィシテリウム(縦型のハープシコード)を参考にアップライトピアノを制作します。(1800年ごろ)
ということで、グランドもアップライトも祖先は同じで、どちらも19世紀初めに現在の形になったといえそうです。
楽器の成立の歴史は、ヨーロッパ(のちにはアメリカも)の音楽勢力地図の変遷や、産業革命、為政者の強さや富のありかなどによって場所・技術が相互に影響し合い発展しますので、とても面白いですね。とくに鍵盤楽器は素材が、鳥の羽、象牙、木、鉄、鋳鉄、鋼鉄、銅線、巻き線、鉄線・・と時代により劇的に変わります。
■アクション
このように、現在ではコンサート用あるいはプロが使う大型のピアノ=グランド、縦型の軽便なピアノ=アップライトのようなすみ分けができている両ピアノですが、実は「アクション」と呼ばれる打鍵の力を弦に伝える機械的な仕組みに大きな違いがあります。
グランドの場合は
キーを叩く→ハンマーが上がる→弦を叩く→ハンマーが重力によって下がる
という仕組みで音が出ます。
一方見たとおり、また名前の通りアップライト=直立した、まっすぐ立った、という意味のアップライトピアノは、グランドピアノのふたを開けると水平に張られている弦が、箱型の容器の中に直立して張られていますので、その弦を叩くハンマーも、90度持ち上げて設置される道理となり、重力の利用が制限されるのをバネの力で補っています。
キーを叩く→ハンマーが傾く→弦を叩く→バネの力でハンマーを元の位置に戻す
ということです。
このアクションの仕組みの違いにより、ハンマーの戻りのスピードに違いが生じ、グランドではキーが完全に鍵盤面と面一に戻っていなくても続いての打鍵が可能(ハンマーの自由度が高い)なのに比べ、アップライトではキーがもとの位置に戻っていないと次の音が出ないという不自由さが生じます。(快速なパッセージやトリルなどの演奏時に、グランドでは弾けてもアップライトでは空振りになる可能性があるということ)
ピアノを学ぶ生徒が「先生のおうちのピアノでは上手に弾けるのに、うちのピアノではひけない・・・」という場合は、技量が上がってアップライトでは間に合わなくなっている可能性があるそうで、「その場合はグランドのご購入をご検討ください」とはピアノ屋さんのアドバイスでした。
■ペダル
グランドもアップライトも、足元には3本のペダルがあります。右から
グランド→ダンパーペダル、ソステヌートペダル、シフトペダル
アップライト→ダンパーペダル、マフラーペダル、ソフトペダル
と呼ばれます。
ダンパーペダルは同じ名前ですのでどちらも同じ。両ピアノとも、ハンマーで打鍵された弦は、打鍵直後に弦をダンパーと呼ばれる部品で押さえて響きを消しますが、このダンパーの動きを制限するペダルです。打鍵された弦は響きを保ち、結果的に音が長くつながって聞こえます。
真ん中のペダルは名前が違いますね。
グランド:ソステヌートペダル→ダンパーペダルがすべてのダンパーを弦から離すのに対し、ペダルを踏む直前に押したキーのみダンパーを離すペダルです。特定の和音のみを長く残したいなど、音楽的に高度な要求に応えるペダルです。アップライトにはありません。
アップライト:マフラーペダル→弦全体に防音素材(フェルト)を近づけ、音を小さくするペダルです。夜間の練習など響きを抑えたいときに使います。グランドにはありません。
そして左のペダル。
グランド:シフトペダル→このペダルを踏むと、驚いたことに鍵盤が右側にスライドします。これは、通常3本一組の弦をスライドすることで打鍵時に2本のみにハンマーが当たるようにする物理的なしかけで、これにより音はソフトな感じになります。ソフトペダルと呼ばれる場合もあります。
アップライト:ソフトペダル→グランドは左右方向に鍵盤がスライドすることでソフトな音を実現しますが、アップライトの場合はハンマーの打ちおろし距離を短くする(振りかぶり距離を穏やかにする)ことで効果を得ています。
結果は同じでも、方法が違うということでしょうか。
このように、ずいぶん違う点があるのですね。皆様も、グランドがあるところに行ったら、
シフトペダルを踏んで確かめてくださいね!
当記事はYAMAHA HP、FANTASIA、音楽事典などの情報を参考にしました。
■参考
以下のピアノは、大岡地区センター音楽室のYAMAHAアップライトです。
いろいろ写りこんでいますが(*_*)ご容赦ください!
蓋を開けてみました。
これが「アクション」です。中央上に上がっているのが「ハンマー」で、巻き線の弦を叩いているところです。このキーは中低音ですので、線は2本です。
ハンマーの上にあるのが、弦の長鳴りを抑える「ダンパー」です。
これはペダル。真中のペダルを踏むと音が小さくなります。
真中のペダルを踏むと、中央に見える白いフェルトが、弦とハンマーの間に入ります。