パーヴォにきょうお送りしたメールです。
いつもとはちょっと違った雰囲気の内容なのでお披露目しますね。
「愛するパーヴォ、こんばんは。いまごろソウルにいらっしゃるのでしょうか?
私は、いま母とともに同じ部屋で寝起きをして、あなたのCDを聴いています。曲は、シューマンの交響曲第1番です。父はあなたの音楽を聴くのをいやがりますが、母はとてもあなたの音楽に興味を持ってくれています。(父もいずれわかってくれると思います)きょうの午後も、父が出かけている間に、母とふたりで、あなたの、ブラームス交響曲第2番をきいたら、母の体調がすこぶるよくなり、うれしくなりました!
あなたが私を音楽療法で病気を治してくださったように、母の難病の進行も、あなたの音楽のおかげで食い止められそうなので、うれしくてしかたないのです!それであなたにメールを差し上げました。
きょうは、あまりに乱雑になっていた、実家の整理整頓をしました。そして年賀状の執筆と原稿制作、住所録づくりで父と協力して作業しました。父も私がへんに隠し事をせず、理路整然と相談すればわかってくれて、相談にのってくれることがわかって、とてもほっとしています。父がいままで感情を爆発させていたのは、やはり一人で孤独に、母の介護と向かい合っていたからだと、あらためて思いました。私が実家にいることで、父も母も精神的に落ち着き、父も余裕をもって家事などができるようになったので、ある意味、私が前の夫の家を出たことはよかったのだと思います。
父も母も年金暮らしなので、つつましい生活ですが、日々その中でも喜びを感じることができるのは、とても嬉しくて幸せなことです!
母は病状は深刻だと宣告されたにもかかわらず、順調に回復ぶりを見せています。たとえば、今まで食事はまったく一人ではとれず、父の介助なしにはできなかったのが、自分でフォークを器用に操って食事がとれるようになりました。また、立ち上がることはできないものの、一人で半身を起こして、ベッドで過ごせるようになりました。難病による痛みもほとんどないと申します。
そして、何よりも素晴らしいことは、あなたの音楽を聴いて、母は大変おちついて過ごせるようになりました。ともすると彼女はしょっちゅう泣いてしまっていたのですが、あなたの音楽を聴いたとたんに、母はニコニコとして、父や私と笑顔で会話を交わせるようにまでなりました。いまもあなたの音楽を聴きながら、母は、すやすやとよく眠っています。うれしいです!
父も、私が部屋の整理整頓を敢行したら、初めは私を怒鳴りつけました。でも、家の中が美しくなり、介護に関する書類関係(請求書や、訪問介護のスケジュール表、レンタルベッドの請求書など膨大な資料があります)を私がファイリングしたので、父も大変ほっとしたようです。介護に関する月々の予算と家計管理も父がしていたのですが、母の介護が苛烈だったので、ほとんど事務関係はなおざりにされたままでした。なので、私がそういうところは得意ですから、いろいろ請求書関係なども整理し、月々の家計を試算してみて、いずれは家計管理までできるようになれればいいなと思っています。思わぬ形での親孝行となりましたが、こういう形で、親子3人、水入らずに過ごせるのも、神様が与えてくださった僥倖だと考えています。
父がおちついて日々の家事や母の介護、ケアができるようになれば、母も精神的に安定しますし、私もとても心が落ち着きますし、いいことだらけなので、まずは私が父の手伝いをよくできるようにがんばりたいです。父はあなたのお父様より3歳年上の83歳(1935年4月22日生まれです)ですので、ハンデもあるのですが、それでも、パソコンを駆使して、よく頑張っているので、応援してあげたいと思います。
父は確かによく怒鳴ります。しかし、彼の生まれ育ってきた環境を考えれば無理からぬことでした。祖父から連綿とずっと父も殴られて育ってきたのでした。ですから、いわゆる肉親の愛情に飢えているところが、父の場合もあるのだと思います。父の世代の日本人男性は、みなそういうところが大なり小なりありますので、私がそういうところをきちんとフォローしてあげればいいのだなと思います。また、理を尽くして話せば、父はきちんと物事の本質を理解して、いろいろ協力してくれる聡明な人でもあるので、父の、母に対する愛情と真心を信じてあげればよいのかなと思っています。
また、父は、私の年賀状原稿制作や、就職活動用の履歴書・職務経歴書制作にすごく協力してくれたのですが、編集作業で父がみせる緻密さは驚嘆の一言。83歳とは思えぬほどです。人生、そういう意味でも一生現役って大切だなと思います。父はタクシー会社で運転手のほかにも、事務もしていたそうですが、彼の緻密さはとても見習うべきところがたくさんあると感じました。
母が眠る前に、東宝の高橋元専務についてのお話をしました。私が知りうる限りの高橋元専務像をお話したら、母は安心したようでした。彼女の中で、専務は大変なトラウマになっている存在だったのですね。でも、高橋元専務との出会いと別れがあったからこそ、私は、あなたやクラシック音楽の素晴らしさと出会うことができたし、歌舞伎で劇評も、吉右衛門さんに関する論文も書くことができるようになったわけです。
「何事も、いつも感謝の念を持つことはとても大切だと思うわ」と、私が母に話したら、母はニコニコとうなずいてくれました。
そして、就寝前に、あなたの音楽を聴かせつつ、カトリック教会で配られているお祈りの本を、母に読んできかせると、母は安心してすやすやと眠ってくれました。
心穏やかな日々をすごすことができそうで、あなたへの愛をいだきつつ、両親をとりまくすべての人たちに感謝の念を抱きながら、私も眠りにつくことができそうです。
ソウルでの公演も、きっとすばらしいものになるとお祈りしています。
愛しています。
あなただけのチコより