Vanteyのアース線(もしくは枯れた資料帳)

怠け者のウィキメディアン・Vanteyの、脳内が帯電してきた時のはけ口。非百科事典的。過度な期待はしないでください。

英国でのウィキペディア児童ポルノ指定・アク禁事件の顛末(上)

2008-12-22 11:43:00 | 画像・ファイル
(上)・(中)(下)
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ブログで漏電してる暇があったらとっとと ja にログインして棚晒しの議論にレス付けてこい、ってなところなのですが。


まずはこんな報道もありつつ。
「天安門事件」も閲覧可能に=中国、ネット規制を緩和
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200812/2008120100898
 (時事ドットコム 2008年12月1日 21:59)

 【北京1日時事】オンライン百科事典「ウィキペディア」の「六四天安門事件」のページが1日までに、北京で閲覧可能となった。民主化運動を武力弾圧した1989年6月4日の同事件など、特定の「敏感な問題」の項目は、中国でこれまで日本語版でもアクセスが禁じられていた。
 中国政府は8月の北京五輪を前に、国際社会の批判を受けてネット規制を一部緩和。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルや米政府系の自由アジア放送などへのアクセスが解禁され、困難だったウィキペディアも一部項目を除いてつながるようになっていた。

中華人民共和国のインターネット検閲システム「金盾」は "グレート・ファイアウォール the Great Firewall of China" の通称で知られ、 zh:六四事件 などのコンテンツへのアクセスを遮断してきたことはよく知られてきた通りです。
規制が緩和されたといってもそれがいつまで続くのかはわかりませんが。

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で今日の本題はこちら。
英ISP、Wikipediaへのアクセスを制限--児童ポルノのブラックリスト入りで
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20384898,00.htm
 (CNET Japan ニュース 2008年12月8日 11:21)

 Wikipediaが英国で運営されるInternet Watch Foundationのブラックリストに追加された。これを受け、英国のインターネットサービスプロバイダー(ISP)らが同サイトへのアクセスをフィルタリングし始めた。
 Wikipediaの管理者たちによる掲示板をみると、Virgin Media、Be/O2/Telefonica、EasyNet/UK Online、 PlusNet、Demon、Opalが透過型プロキシを有効にしたために、このようなことが起きていると書かれている。透過型プロキシを有効にしたことの影響としては2点挙げられる。1点目は、プロキシでフィルタリングされたコンテンツをユーザーが見られないこと。2点目はプロキシを通過するすべてのユーザートラフィックが、プロキシごとに同一のIPアドレスを割り振られることである。Wikipediaは荒らし行為を防止するため、ユーザーをIPごとにブロックする。したがって、1人でも荒らし行為をはたらくと、その人が利用するISPの全ユーザーがWikipediaを編集できなくなる。結果として、リストに載ったISPのユーザーたちは、個人を特定されないまま編集作業がまったくできなくなるのだ。なお、登録ユーザーたちは引き続き編集に携われる。
 Internet Watch Foundationのフィルタリングに引っかかったコンテンツは児童ポルノとみなされたもの。対象コンテンツのなかには1970年代のLPカバーもあり、これは物議をかもしつつも、いまだ流通している。
 あるユーザーは、掲示板に次のように書いている。「英国で広大なインターネット検閲に出くわすのは今回が初めてで、とてもショックを受けている。われわれが中国のようなGreat Firewallを構築していたとは、これまで全く気づかなかった。自分たちのことは内密にしてきただけのことだった」

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英インターネット監視団体、Wikipediaをブラックリストから削除
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20385076,00.htm
 (CNET Japan ニュース 2008年12月10日 15:51)

 児童ポルノの画像を含むという理由からWikipediaへのアクセスが制限されていた英国で、インターネット監視団体Internet Watch Foundation(IWF)がブラックリスト追加の決定を覆したため、再びWikipediaにアクセスできるようになった。
 IWFは、ロックバンドThe Scorpionsが1976年にリリースしたアルバム関するWikipediaのページに異議を唱えていた。「Virgin Killer」というタイトルを持つ同アルバムのカバーには思春期前の少女の画像が使われており、IWFはこれを「潜在的に違法でみだらな画像」とみなし、ブラックリストにWikipediaを加えた。
 この結果、英国のISPは先週末、Wikipediaのすべてのページへのアクセスをフィルタリングし始めた。
 IWFは現地時間12月9日に声明を発表し、Wikimedia Foundationの抗議と説明を受け、この決定を撤回すると述べた。
 「IWFの理事会は本日、今回の事例に関して、画像が存在する期間と広く入手できるという観点からこれらの調査結果と文脈的課題を考慮した結果、われわれのリストからこのウェブページを削除することにした」とIWFは記している。
 IWFはさらに、この画像にアクセスできないようにするという取り組みが逆に、同アルバムカバーへの注目を世界的に高めてしまい、正反対の効果を生んだことも認めている。
 「IWFの最も重要な目標は、インターネット上にある児童のみだらな画像の入手可能性を最小化することだ。しかし、今回の場合、われわれの取り組みは正反対の効果を生んでしまった」とIWFは述べている。
 Wikimedia Foundationは、IWFの「迅速な対応」を称賛する一方で、この出来事が監視団体による説明責任の必要性を浮き彫りにすることとなったと述べている。

日本語圏ではあまり大きな話題になっていませんが、これは対岸の出来事として看過できぬ大事件だと思います。


まず英語版の背景事情から。
英語版ウィキペディアでは、合衆国著作権法などが認めるフェアユースの法理に基づいて、フリーでない画像を受け入れています。
日本語版には載せられない、レコードジャケットや企業ロゴをはじめとする著作権の存在する画像が英語版には多数みられるのはこのためです。
もっともWPが違法画像保管庫として無法地帯に陥らないよう、これらフェアユース画像は1つ以上の記事において代替不可能な画像として有用に使用される目的と実態がなければ削除という、それはそれで厳しい利用方針が定められています。


問題になったのは、ドイツのHR/HMバンド、スコーピオンズの1976年のアルバム『狂熱の蠍団 ヴァージン・キラー』(原題: Virgin Killer)の英語版記事に載せられたジャケット画像です。


このジャケットデザインは発売当時から児童への性的虐待を想起させるとして問題視されていたようで、いくつかの国では別デザインのジャケットで発売されたのだそうです。
スコーピオンズの日本語版記事によると、日本ではオリジナルデザインで発売され、1995年にもオリジナルジャケットの再発盤が出たのだとか。肝心の英国ではどうだったのかはよくわかりませんでした。

WPがだめならじゃあ音楽ソフト販売サイトも規制対象なのかと思いきや、現在日本を含む世界各国で市場に流通しているものはもっぱら別デザイン版ばかりのようで、ちょっと調べた範囲でも Amazon.co.uk をはじめ Amazon.de 、 Amazon.com 、 Amazon.co.jp などいずれでもオリジナルデザイン盤は見つからず、こちらは一応問題にはなっていないようです。
では中古盤販売サイトや名盤レビューサイト、ファンサイトはどうなのかわかりませんが、Google イメージ検索では問題のジャケットがトップ以下普通に多数ヒットします。これらのサイトも英国では規制されているのでしょうかね?
結局、さしあたって enwp にあった"百科事典的資料画像"だけが狙い撃ちされたようで。


まだまだ長くなりそうなので、次エントリに続く。
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この画像を引用したことで、本ブログも児童ポルノサイト認定です(笑
Summary of image:
Description = 『Virgin Killer』のオリジナルジャケット
Source of image = http://en.wikipedia.org/wiki/File:Virgin_Killer.jpg
Permission = Copyrighted (1976) / 日本国著作権法32条1項に基づく引用

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