先日、僕はビューエルというメーカーのライト二ングXB12Sというバイクを中古で買った。ハーレーの1200ccエンジンを載せたネイキッドバイクである。
今年でもう四十一才。今のうちにでかいバイクに乗っておかないと、もう乗れなくなるかもしれない、という気分になった。例の塾講師さん的に言えば、
「いつ買うか?今でしょ!!」
という感じである。候補に挙げたのはBMWのR1200GSやF800GS、G650クロスモト、トライアンフのタイガー、スピードトリプル、ストリートトリプル、ドゥカティのモンスターやハイパーモタードなどであった。国産バイクは最初から全く興味が無い。
予算は80万円くらい。この予算だと中古車でもR1200GS、F800GS、タイガー、ハイパーモタードなどは自動的に候補から外れていく。悔しいが仕方がない。G650クロスモトは短足の僕では悲しくなるほどに足が地面に付かないから、これまた候補から外れる。トライアンフの3気筒エンジンは非常に気になったのだが、結局ドゥカのモンスターにしようと決めていた。
ただ、なんとなくモンスターでは迷いが払拭できずにいた。何かが足りないような気がする。何だろう。すっきりしないままでいた時、ふとビューエルのことを思い出した。すかさずネットで検索。そしてライト二ングXBを見た瞬間、モンスターはおろかBMWやトライアンフも完全に僕の脳の中から消去されてしまった。
ビューエルはハーレーのエンジニアだったエリック・ビューエルという人が設立したメーカーである。例のリーマン・ショック以降にハーレーが経営から手を引いたために現在はもう存在しない(EBRという名前でハーレーとは無関係のメーカーとして新たに誕生した)のだが、簡単に言えばハーレーエンジンのスポーツバイクを作るメーカーだっだ。クルマで言えば、フランスのアルピーヌとよく似ている。アルピーヌは当時ルノーのレーシングドライバーだったジャン・レデレが設立したメーカーで、ルノーエンジンを使ったスポーツカーを作るメーカーだった。ジャン・レデレは自ら生み出した名車A110について、
「このクルマのコーナーリング性能は、運転するドライバーの度胸に比例する」
という名文句を残している。まさに『コーナーリングオタク』とも言うべきクルマだったのだが、このコーナーリングオタクっぷりについてもビューエルはとてもよく似ていると思う。A110と比較するのは失礼かもしれないが、ビューエルのXBシリーズも負けず劣らずのコーナーリングオタクマシンである。
125ccバイク並の短い全長、400cc四気筒バイク並の軽い車体、極端に立ったフロントフォークのキャスター角、前後フルアジャスタブルサスペンション(クルマ的に言えば車高調)、リム側に付いているフロントディスク、短いマフラーなど、すべてはコーナーリング性能の向上のためだ。フレームなどは高剛性を追及したために極端に太くなり、その結果太いフレームの中をガソリンタンクにしてしまう、という荒業ぶりである。(通常のガソリンタンクの位置にはエアクリーナーが収まっている)
見事なまでの『変態バイク』だ。今思えば、自分としてはドゥカのモンスターはこの変態臭がちょっと足りなかったのだろう。だから何かが足りないと感じたのだと思う。変態バイクが好きな変態男がコテコテの変態バイクを走らせると、とんでもないことになる。それはもう『快楽』以外、何も存在しない。コーナーリングで快楽を感じるのはもちろんだが、強大なエンジントルクによる怒涛のような加速でも快楽を感じ、低速で走っている時や止まっている時などはハーレーエンジンの振動がこれまた快楽を感じる。不思議なことにハーレーエンジンの振動は全身に高性能バイブレーターを当てられているような感じで、変態男にとっては何とも言えない心地良さを感じるのである。
現在、バイクに乗っている世代の多くは三、四十代、もしくはそれ以上の年代の人達ばかりである。バイクに乗っている若い人などほとんど見かけないし、見るとすれば暴走族のおにいちゃんくらいなものだ。この若い人がクルマやバイクに興味を示さない現象は広く世の中に認知されているのだが、団塊の世代から僕らの世代まで含めたオッサン連中のバイク乗りが多いことに関しては『お金に余裕があるからバイクに乗って遊んでいるんだろう』といったような単純な認識しかされていないような気がする。しかし、このような単純な認識は間違っている、と僕は思う。そこには現在の日本の自動車産業が抱える問題点があるような気がしてならない。その問題点、つまり世の中のオッサン連中がバイクに夢中になる理由とは、この日本に面白いクルマがほとんど存在しないからなのではないだろうか。
今の四十代から上の世代はみなクルマやバイクが大好きな人達ばかりである。若い頃からクルマやバイクに憧れを感じ、親しみ、運転することを楽しんできた。それは多少出来が悪くとも、運転することが楽しいと感じるクルマやバイクが身近にたくさんあったからこそなのだと思う。しかし現在はどうだろうか。バイクは別として、今日本に運転することが楽しい、と感じる身近なクルマがどれだけあるだろうか。思いつくのはマツダ・ロードスターとBRZ/86。つまり、これだけだ。GTRは確かにすごいが、その価格は決して身近な存在ではない。
そのBRZ/86も上級グレードは300万円近くだから、身近に感じるにはギリギリの価格である。これに対して、例えばスズキのGSX1300R隼は新車でも150万円ほどで買える。隼は最高速が300km/hというモンスターバイク。その日常離れしたド級の性能には大きな魅力がある。そんな隼150万円、プラス同じく150万円の軽自動車を買うのと、BRZ/86を300万円で買うのとではどちらが幸福だろうか。どちらが充実した日々を送れるだろうか。バイクの大型免許を持っているのであれば、間違いなく前者だろう。僕だって迷うことなく隼と軽自動車のほうを選ぶ。
世の中のオッサン連中がバイクに夢中になる理由とはこういうことだ。もちろんお金に余裕があるオッサンライダーもいるだろう。しかし、すべてのオッサンがお金に余裕があるからバイクに乗っている、というわけではないのだ。そしてさらに、どれもこれも燃費と室内の広さばかりで運転の楽しさ、もっと言うなら『所有欲』というものを満たしてくれる身近なクルマがこの日本にはほとんど存在しない、という悲しい現実があるからこそバイクに乗るのである。当然、その結果としてクルマにはどんどん興味が薄れていく。実はオッサン世代にもクルマ離れが確実に進行しているのである。
このことは、近い将来の日本国内の自動車市場を非常に危ういものにしているのではないだろうか。日本の各自動車メーカーは、このバイクに乗っているオッサン達の心境、そしてそこからくるクルマ離れについて、はたしてどれほど理解しているのだろう。
かくいう僕も、ビューエルという変態バイクを買ってはじめてオッサンライダー達の心境に気付いた。そして変態バイクだからこそ、日本のクルマがつまらないクルマばかりであることを改めて思い知ることになったのである。

これでどノーマル!
今年でもう四十一才。今のうちにでかいバイクに乗っておかないと、もう乗れなくなるかもしれない、という気分になった。例の塾講師さん的に言えば、
「いつ買うか?今でしょ!!」
という感じである。候補に挙げたのはBMWのR1200GSやF800GS、G650クロスモト、トライアンフのタイガー、スピードトリプル、ストリートトリプル、ドゥカティのモンスターやハイパーモタードなどであった。国産バイクは最初から全く興味が無い。
予算は80万円くらい。この予算だと中古車でもR1200GS、F800GS、タイガー、ハイパーモタードなどは自動的に候補から外れていく。悔しいが仕方がない。G650クロスモトは短足の僕では悲しくなるほどに足が地面に付かないから、これまた候補から外れる。トライアンフの3気筒エンジンは非常に気になったのだが、結局ドゥカのモンスターにしようと決めていた。
ただ、なんとなくモンスターでは迷いが払拭できずにいた。何かが足りないような気がする。何だろう。すっきりしないままでいた時、ふとビューエルのことを思い出した。すかさずネットで検索。そしてライト二ングXBを見た瞬間、モンスターはおろかBMWやトライアンフも完全に僕の脳の中から消去されてしまった。
ビューエルはハーレーのエンジニアだったエリック・ビューエルという人が設立したメーカーである。例のリーマン・ショック以降にハーレーが経営から手を引いたために現在はもう存在しない(EBRという名前でハーレーとは無関係のメーカーとして新たに誕生した)のだが、簡単に言えばハーレーエンジンのスポーツバイクを作るメーカーだっだ。クルマで言えば、フランスのアルピーヌとよく似ている。アルピーヌは当時ルノーのレーシングドライバーだったジャン・レデレが設立したメーカーで、ルノーエンジンを使ったスポーツカーを作るメーカーだった。ジャン・レデレは自ら生み出した名車A110について、
「このクルマのコーナーリング性能は、運転するドライバーの度胸に比例する」
という名文句を残している。まさに『コーナーリングオタク』とも言うべきクルマだったのだが、このコーナーリングオタクっぷりについてもビューエルはとてもよく似ていると思う。A110と比較するのは失礼かもしれないが、ビューエルのXBシリーズも負けず劣らずのコーナーリングオタクマシンである。
125ccバイク並の短い全長、400cc四気筒バイク並の軽い車体、極端に立ったフロントフォークのキャスター角、前後フルアジャスタブルサスペンション(クルマ的に言えば車高調)、リム側に付いているフロントディスク、短いマフラーなど、すべてはコーナーリング性能の向上のためだ。フレームなどは高剛性を追及したために極端に太くなり、その結果太いフレームの中をガソリンタンクにしてしまう、という荒業ぶりである。(通常のガソリンタンクの位置にはエアクリーナーが収まっている)
見事なまでの『変態バイク』だ。今思えば、自分としてはドゥカのモンスターはこの変態臭がちょっと足りなかったのだろう。だから何かが足りないと感じたのだと思う。変態バイクが好きな変態男がコテコテの変態バイクを走らせると、とんでもないことになる。それはもう『快楽』以外、何も存在しない。コーナーリングで快楽を感じるのはもちろんだが、強大なエンジントルクによる怒涛のような加速でも快楽を感じ、低速で走っている時や止まっている時などはハーレーエンジンの振動がこれまた快楽を感じる。不思議なことにハーレーエンジンの振動は全身に高性能バイブレーターを当てられているような感じで、変態男にとっては何とも言えない心地良さを感じるのである。
現在、バイクに乗っている世代の多くは三、四十代、もしくはそれ以上の年代の人達ばかりである。バイクに乗っている若い人などほとんど見かけないし、見るとすれば暴走族のおにいちゃんくらいなものだ。この若い人がクルマやバイクに興味を示さない現象は広く世の中に認知されているのだが、団塊の世代から僕らの世代まで含めたオッサン連中のバイク乗りが多いことに関しては『お金に余裕があるからバイクに乗って遊んでいるんだろう』といったような単純な認識しかされていないような気がする。しかし、このような単純な認識は間違っている、と僕は思う。そこには現在の日本の自動車産業が抱える問題点があるような気がしてならない。その問題点、つまり世の中のオッサン連中がバイクに夢中になる理由とは、この日本に面白いクルマがほとんど存在しないからなのではないだろうか。
今の四十代から上の世代はみなクルマやバイクが大好きな人達ばかりである。若い頃からクルマやバイクに憧れを感じ、親しみ、運転することを楽しんできた。それは多少出来が悪くとも、運転することが楽しいと感じるクルマやバイクが身近にたくさんあったからこそなのだと思う。しかし現在はどうだろうか。バイクは別として、今日本に運転することが楽しい、と感じる身近なクルマがどれだけあるだろうか。思いつくのはマツダ・ロードスターとBRZ/86。つまり、これだけだ。GTRは確かにすごいが、その価格は決して身近な存在ではない。
そのBRZ/86も上級グレードは300万円近くだから、身近に感じるにはギリギリの価格である。これに対して、例えばスズキのGSX1300R隼は新車でも150万円ほどで買える。隼は最高速が300km/hというモンスターバイク。その日常離れしたド級の性能には大きな魅力がある。そんな隼150万円、プラス同じく150万円の軽自動車を買うのと、BRZ/86を300万円で買うのとではどちらが幸福だろうか。どちらが充実した日々を送れるだろうか。バイクの大型免許を持っているのであれば、間違いなく前者だろう。僕だって迷うことなく隼と軽自動車のほうを選ぶ。
世の中のオッサン連中がバイクに夢中になる理由とはこういうことだ。もちろんお金に余裕があるオッサンライダーもいるだろう。しかし、すべてのオッサンがお金に余裕があるからバイクに乗っている、というわけではないのだ。そしてさらに、どれもこれも燃費と室内の広さばかりで運転の楽しさ、もっと言うなら『所有欲』というものを満たしてくれる身近なクルマがこの日本にはほとんど存在しない、という悲しい現実があるからこそバイクに乗るのである。当然、その結果としてクルマにはどんどん興味が薄れていく。実はオッサン世代にもクルマ離れが確実に進行しているのである。
このことは、近い将来の日本国内の自動車市場を非常に危ういものにしているのではないだろうか。日本の各自動車メーカーは、このバイクに乗っているオッサン達の心境、そしてそこからくるクルマ離れについて、はたしてどれほど理解しているのだろう。
かくいう僕も、ビューエルという変態バイクを買ってはじめてオッサンライダー達の心境に気付いた。そして変態バイクだからこそ、日本のクルマがつまらないクルマばかりであることを改めて思い知ることになったのである。

これでどノーマル!