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自動車学

クルマを楽しみ、考え、問題を提起する

マツダ ロードスター プチ試乗記

2016-04-25 01:27:28 | クルマ評


 僕のNA8Cロードスターの車検は、いつも高校の同級生に頼んでいる。同級生はマツダディーラーのサービスマンをしているのだ。そんな彼から「車検が終わったよ」との連絡を受け夕方引き取りに行くと、「新型ロードスターに試乗してみる?」と聞かれた。もちろん返事は、
 「乗る!乗る!」
 しかし、あいにく閉店間際の試乗になってしまったために峠を十分に攻めるようなことはできなかった。このため、『プチ試乗記』というタイトルにしようと思う。


 実はこの新型ロードスターが登場するまで、僕は「ロードスターはもうすぐ消えるかもしれないな・・・」と思っていた。
 モデルチェンジのたびに大きく、重たくなっていくボディとエンジン。特にこれまでのNC型ロードスターは初代NA型のようなライトウェイトスポーツカーというキャラクターは影を潜め、立派に、そして豪華になってしまっていた。普通のクルマならモデルチェンジごとに立派に、豪華になっていくのはいいことなのかもしれない。しかしライトウェイトスポーツカーは、違う。『簡素』であることが最も重要なのである。僕はその簡素さが失われつつあったNC型ロードスターの方向性のその先に、ライトウェイトスポーツカーとしての明るい未来が広がっているとは思えなかった。
 ところが、今回の新しいND型ロードスターを見てびっくり、である。とびきり『簡素』であり、なおかつ思い切って『小さい』。見事なライトウェイトスポーツカーになって帰ってきた。なにしろ車重はNA型と同等、そしてボディサイズは全幅こそNA型より60mm広いが、全長は逆に55mmも短いのである。こういう所はさすがマツダだ。スポーツカーに対しての造詣が深く、なおかつ軌道修正がしっかりとできる能力を持っている。

 ドアを開けさっそく車内に乗り込んでみると、もはや財布の置き場すら無いほどのタイトな空間が広がっている。全長を縮めたためにシート後ろの空間も全く無い。おまけにセンタートンネルやサイドシルも分厚いため、運転席に乗り込んだとたんにそこがスポーツカーの特別な空間であることを意識させられる。シートに腰を下ろしてドアを閉めた瞬間からすぐに気分が高揚しはじめてくるのである。加えてダッシュボードやドアトリムのデザインや質感もなかなかいい。簡素であるが安っぽくはないし、嫌味はないが、かといって平凡では決してない。要所に配したステッチは質感の向上に貢献しているし、なによりボディと同色のドアトリムがいいアクセントになっている。今回試乗したロードスターはボディカラーが黒のためにドアトリムも黒、という仕様だったが、これがイメージカラーの赤、あるいは白であればインテリアにも赤や白の鮮やかな色彩が加わる。このドアトリムがとてもいいのである。どこかのメーカーのようにニセモノカーボンパネルをあちこちに張り付けたインテリアよりもはるかにスポーティだし、華やかでセンスがいい。なによりロードスターというクルマが特別なクルマであることを印象付けてくる。

 走り始めてみると、その印象は僕が所有しているNA8Cロードスターと驚くほどよく似ている。それはボディサイズや車重が似ているから、などといったざっくりとしたレベルの話ではない。ステアリングの重さや操舵感など細かい部分も含めたステアリングフィール、ステアリングを切った時のノーズの動き、ロールの発生の仕方、ブレーキやクラッチのタッチ、エンジンのレスポンスや回転の伸び、キレ、トルクの発生具合に至るまで、クルマの動きがNA8Cそっくりなのである。これには本当に驚いた。今回の新型ND型ロードスターの開発陣は、間違いなくNA型ロードスターをベンチマークにして開発したのだろう。「NA型こそロードスターだ」という僕の思いとマツダ開発陣の思いはつまり、同じだったということだ。

 NA型ロードスターと明らかに違うところは、その圧倒的なボディ剛性の高さである。NA型ロードスターは当時のオープンカーとしてはボディ剛性が高かったのだが、それでも例えば同年代のクローズドボディのシルビアあたりと比べると頼りなく感じるものだった。このため僕はNA8Cを購入してすぐに横浜のオクヤマさんに車両を持ち込んで6点のロールゲージを取り付けてもらったのだが、そんな僕のNA8Cと比べてもケタ違いにこのND型ロードスターはボディ剛性が高いのである。
 僕のNA型ロードスターはオクヤマさんのていねいな仕事のおかげで運転席から後ろの剛性が飛躍的に向上した。しかしバルクヘッド周辺の剛性が相対的に低くなってしまったために、コーナーを攻め込んでいくとステアリングシャフトに若干の震えが生じるようになってしまったのである。要するに、剛性が低いバルクヘッド周辺にストレスが集中してしまうのだ。ボディ全体の剛性をバランス良く向上させることはなかなか難しいことなのだが、この点ND型ロードスターはロールゲージ無しでも素晴らしいボディ剛性である。震えなど皆無だし、前後の剛性バランスもとてもいい。峠をそれなりのスピードで走っても前後のボディの動きにばらつきがまったく無いのである。さらにはボディ剛性が高いために硬い足回りでなくてもコーナリング性能が高く、当然乗り心地もしなやかだ。たぶんマツダはオープンカーのボディ作りを完璧に会得したのだろう。

 エンジンはP5型と呼ばれる1.5リッターの直噴DOHC4気筒である。スペックはパワーが131ps/7000rpm、トルクは15.3kgf・m/4800rpm。このスペックはNA8Cロードスターに搭載されていたBP型1.8リッターエンジンとほぼ同等だ。そして前述したようにフィーリングもBP型エンジンと驚くほどよく似ている。一説によればこの新型NDロードスターには2リッターエンジンも用意されていると聞くが、僕はこの1.5リッターエンジンで十分だと思う。マニュアルミッションを駆使して走らせればとても満足できる動力性能を備えているし、なによりボディとのバランスがとてもいい。容易に使い切れる性能のエンジンを思い切りブン回して、小気味良く、気持ち良く、元気良く走る。これこそがライトウェイトスポーツカーの大いなる魅力なのだ。
 ついでに付け加えておくと、6速MTも素晴らしい出来栄えである。やはりこのマニュアルミッションもNA型ロードスターと似ていて操作時に手ごたえがある心地よいものなのだが、それだけではない。剛性や精度の高さがはっきりと手のひらに伝わってくるのである。こういうところもマツダは実にうまい。どこをどうすればクルマ好きが喜ぶのかを憎いほど把握している。BRZ/86のトヨタ(アイシン)製6速MTの味気無さと比べると、涙が出てくるほど気持ちいいマニュアルミッションである。

 圧倒的なボディ剛性の高さをNA型ロードスターと同等の車重で実現する。1.5リッターエンジンでNA8Cの1.8リッターエンジンと同等の性能とフィーリングを実現し、さらに燃費を大幅に向上させる。今回マツダがND型ロードスターでやった仕事は、ほぼ完璧だ。もし今、中古でNA型ロードスターを買おうかと悩んでいる方がいたとしたら、考え直したほうがいい。バカ高い中古価格のくたびれたNAなんかよりも、このND型ロードスターを買ったほうがはるかに賢い選択である。
 
 ただし、そのボディデザインには少し注文を付けたい。



 ※今回の熊本、大分地震で被災された皆様に対して、心からお見舞いを申し上げます。僕は数年前に熊本を訪問したことがありますが、出会った方みなさんがとてもやさしく、なおかつ会話をしていて心地よい方ばかりだったことが強く印象に残っています。どういう言葉をかければいいのかよくわかりませんが、どうか前を向いて、生きてください。

 

インプレッサスポーツ 2.0iアイサイト 試乗記

2015-02-25 12:08:14 | クルマ評



 今回の試乗車は代車としてディーラーからお借りしたクルマである。先月は我が家のサンバーの車検があり、このサンバーの代車としてまだ600kmほどしか走っていないインプレッサを貸してくれたのだ。ただインプレッサは最近マイナーチェンジをしたばかりで、お借りした代車は走行距離が600kmとはいえマイナーチェンジ以前のモデルである。このため現行インプレッサとは多少印象が異なる可能性もあるが、そこのところは何卒ご了承いただきたい。

 現行型は四代目として2011年に登場した。早いものでもう三年も前になる。この四代目インプレッサから現在へと続くスバルの『ガンダムデザイン』路線が始まった。
 実際に間近で見ると、やはり武骨な印象である。あちこちの面が不必要にデコボコしており、目はイカツイ。特にそのフロントデザインは押し出しが相当強いために、やたらと顔だけがデカい印象だ。力強いデザインだ、と言われれば確かにその通りで、同じデザインでもSUV風に仕立てた『XV』のほうはとてもよく似合っていてかっこいいと思うのだが、この『スポーツ』と4ドアセダン『G4』のデザインはイマイチである。恐らくデザイナーの方は、まずXVありき、のデザインをしたのではないだろうか。
 さらにドイツ車に影響されたデザインもこのインプレッサからである。このインプレッサスポーツのリアゲートとテールランプのデザイン処理は、間違いなくフォルクスワーゲン・ポロのデザインからいただいたものだ。最初は「ただの偶然か?」と思っていたのだが、その後に登場したスバル車のデザインを見るともはや偶然ではないことがよくわかる。特にレヴォーグやWRX、レガシィに採用している『コの字形』に光るポジションランプは、フォルクスワーゲン・ポロの『L字形』テールランプをヒントにしたことがバレバレだ。

 インテリアはスバル伝統の真っ黒地獄をベースに、これまたドイツ流の金属調加飾をあちこちにほどこしている、といったもの。あ然とするほど質感の低かった先代インプレッサと比べれば確かに質感自体は向上しているのだが、だからといって特に褒められるようなインテリアではない。スバルはこのインテリアを「ドアを開けた瞬間ときめく、心地いいインテリア」などと謳っているが、僕個人的には「ドアを開けた瞬間またか・・・と思う、気分が落ち込むインテリア」といった感じである。

 試乗したインプレッサはエンジンが2リッターNAのFB20、そしてトランスミッションはリニアトロニックと呼ばれるCVTを搭載しているモデルだった。このスバルのCVTだが、僕は今まで先代レガシィDITと現行WRX-S4用のスポーツリニアトロニックにしか乗ったことがなかった。この両車に搭載されているFA20ターボエンジンとCVTの組み合わせはなかなか良くて満足できるものだったのだが、今回このインプレッサに試乗してみるとその印象はだいぶ異なる。つまり、FB20エンジンとCVTの組み合わせはいまいちしっくりきていないのである。
 それは今まで試乗したことがあるCVT車の多くに共通しているのだが、いざ走らせてみるとなんとなくかったるい。特にこのインプレッサは水平対向エンジンの特性とCVTの特性がかみ合っていないため、乗っているとイラッと来てしまうのだ。これは以前にも解説したが、水平対向エンジンは軽量クランクシャフトによるエンジン回転のスムーズさと軽やかさが持ち味である。簡単に言ってしまうと回して楽しむ特性のエンジンなのだが、これがCVTと組み合わせると二千回転付近でエンジン回転は固着したままになる。要するに水平対向エンジンの利点、持ち味を全く味わうことができないのだ。なんだかエンジンがCVTに足を引っ張られているような感じがして、歯痒い思いになってしまう。FA20ターボとCVTの組み合わせではそのエンジンパワーにものをいわせて足を引っ張られてもCVTを引きずったままグングン回転を上げていくのだが、NAエンジンのFB20ではそうはいかないのである。
 CVTのコンピュータープログラムを変更すれば少しはかったるさが改善されるかもしれない。しかし僕は水平対向エンジン、特にNAの水平対向エンジンには7速、8速のセミATかATが必要なのではないかと思う。しっかりと変速して、タコメーターの針が上下に踊る。これでこそ水平対向エンジンの持ち味が光る。今のCVTのままでは、せっかくのFB20エンジンが宝の持ち腐れである。

 そしてもうひとつ、しっくりこない感じは足回りにもある。このインプレッサの2.0iの足回りは柔らか過ぎだと思う。それはスプリングではなくダンパーが柔らかい印象で、このため段差を乗り越えた時に生じるダンピング(車両の上下動)が残り気味になる。簡単に言えば段差を超えた時に『トンッ』とすぐに収まるのではなく、『ボヨ~ン、ボヨ~ン』といった軽い上下動が残るのである。クルマ酔いをしやすい僕にとっては、できれば後席には乗りたくないクルマだ。
 峠に舞台を移してハイペースで走らせてみると、柔らかい足回りのためにスバル車としてはロールが比較的大きめに出る。さらにタイヤもヨコハマのデシベル(dB)、サイズは205/55R16というソフトなものであるため、S字コーナーでは最初のコーナーで発生したロールが収拾しきらず、次のコーナーで揺り戻しからくる強いアンダーステアが発生してちょっとビビッてしまった。WRX-S4ばりに走らせた僕が悪いのだが、それでもこの柔らかい足回りからくるトリッキーな挙動はちょっとどうかな、と思う。

 実は僕の両親は先代インプレッサの1.5i-Sに乗っている。「うちのインプレッサはこんなに柔らかい足回りだったかなぁ」と思い、帰ってさっそく乗り比べてみたのだが、やはり先代インプレッサのほうが足回りは引き締まっていた。同じように峠を走ってみたのだが、これほどトリッキーな挙動は見せない。グレードの違いなのか、それとも現行インプレッサはすべて柔らかい足回りになっているのかは分からないが、もう少し足回りは引き締めて欲しい。能力の高いサスペンションを必要以上に柔らかくしても、誰も喜ばないと思う。せっかく基本的にはWRX-S4などと同じ贅沢な足回りを搭載しているのに、これではそれこそ宝の持ち腐れ、である。

 全体的に現行インプレッサはツメが甘い印象を受けた。エクステリアとインテリアデザイン、そして走りの印象はそれぞれ少しずつツメが甘く、緩い。そしてこの緩さがフォルクスワーゲン・ゴルフとの差だ。ゴルフは緩いところが全く無い。だから高品質な印象を受け、運転すると「いい機械だなぁ」と感じる。クルマ好きの人がみな「ゴルフはいい!」と言う理由はそういうところにあるのだ。



 
 

WRX S4 試乗記

2014-12-06 01:26:00 | クルマ評


 試乗記を書く前に、まず僕はこの新しいWRXのデザインがあまり好きではない。というか、はっきり言って嫌いである。
 横から見るとBMW風。グリル一体型のフロントバンパーもこれまたBMW風。さらにヘッドライトはフォルクスワーゲン・ゴルフの匂いがする。そして全体的なデザインの印象は『機動戦士ガンダム』だ。ネットのあるサイトでは、ほぼ同じ顔つきであるレヴォーグに対して「そそるデザインだ!」などと言っている方がいたが、いったい何がどう「そそる」というのだろう。僕には「萎える」デザインでしかないのだが。
 残念ながらこのWRXだけではなく、最近のスバル車はみな急速にデザインレベルを落としてしまっている。かつてあのザパティナス氏が在籍していた頃のスバルデザインはオリジナリティがあり、とても洗練されたものだった。ところが今ではどれもこれも武骨なガンダムデザイン(ガンダムを批判しているわけではない)ばかりで、おまけにBMW風、フォルクスワーゲン風、である。現在のスバルのデザイナーは、ドイツ車がよほど好きなのだろう。
 インテリアもこれまたドイツ風、相変わらずの真っ黒地獄一辺倒である。何とも重苦しい雰囲気のインテリアだ。このインテリアについてスバルはやたらと質感の向上を謳っているが、カーボン『調』や金属『調』のパネルをあちこちにくっつけても、残念ながらアピールするほどの質感の向上にはつながっていない。確かにダッシュボードにはソフトパッドが貼られ、ドアトリムもだいぶ立体的になって近年の『プラモデル風』からは脱却しつつあるが、それでも質感の向上を強調するほどのインテリアではない。率直に言ってこれまでの『下』から『並』になった、といったレベルのものである。

 それでも、シートはいい。これはあまり知られていないことなのだが、実は富士重工は以前からシートの開発に力を注いできたのである。このためスバル車のシートはみな良いものばかりだ。それはドイツ車のように内側も表面もカチコチに硬いシートではなく、内側は硬いが表面は比較的ソフト、というもの。コシはあるが、タッチは柔らかいのである。座ってみると身体をやさしく包み込んでくれてとても快適だ。さらにこのWRX S4のシートはやや細身のため、ホールド性も抜群である。エクステリア、インテリア共にドイツ臭にまみれているのに、シートだけはドイツ臭がしない、というのはなんとも面白い。

 試乗したのは2.0GTアイサイトというグレードで、ノーマルダンパー仕様のものだ。この他に2.0GT-Sアイサイトというグレードがあり、こちらはビルシュタイン製のダンパーが装備されている。「よし!走るぞ!!」と意気込んでいつもの峠道に行ったのだが、写真を見てもわかるとおり夕暮れの試乗。いつもの峠道は抜け道として利用する会社帰りの通勤車で交通量が増していたため、残念ながらコーナーを十分に攻めることができなかった。走る時間帯を全く考慮していなかった僕のミスである。申し訳ない。
 それでも、WRX S4のレベルの高い走りは垣間見ることができた。前走車との距離を開けてコーナーにそれなりの速度で飛び込んでみるが、もはやそんなレベルではまったく何も起こらない。ステアリングを切ったぶんだけ、素直に悠々とコーナーをクリアしていく。ビルシュタイン製ダンパーほどのシャープな回答性や剛性感は無いのだが、ノーマルダンパー仕様はそのぶん尖ったところがなく、乗り心地もやさしい印象である。「別に峠やサーキットにこだわりはないよ」という方はノーマルダンパー仕様で十分だと思う。ただ、僕だったら絶対にGT-Sを選ぶ。もしくはGTを買ってビルシュタインかオーリンズの車高調にする。ここまで走りのレベルが高いと、足回りに金をかけてさらに上を目指したくなると思う。

 エンジンとトランスミッションは先代レガシィの2.0GT-DITにも搭載されていたFA20ターボ、そしてスポーツリニアトロニックと呼ばれるCVTである。パワー、トルクはそれぞれ300ps、40.8kg-mと変わらないが、燃費はJC08モードで12.4kmから13.2kmとわずかながら向上した。恐らくエンジン、ミッションのプログラムを変更したのだと思う。しかし燃費が向上したぶん、走りの力感はわずかに減少しているように感じられた。両車ともSI-DRIVEを燃費重視の『インテリジェントモード』にして走り比べると、WRX S4は2.0GT-DITよりもおとなしく、300psのハイパワーエンジンを積んでいるとはとても思えないほど穏やかに走る。もちろんそこからひとたびアクセルをグンと踏み込めば一転して猛々しい加速が始まるのだが、ごく普通に街中を流して走っている時はまるでインプレッサの1.6リッターエンジンにでも乗っているかのようだった。もしかすると2.0GT-DITよりも静粛性が増していたために、ことさらそう感じてしまったのかもしれない。
 免許を取得したばかりの人やクルマの運転に不慣れな人は穏やかで乗りやすい、と感じるだろう。しかし走ることが大好きな人や300psのエンジンに期待していた人は少し拍子抜けするような気がする。『インテリジェントモード』ではワクワク感が無いのである。ハイパワーと低燃費を両立させることは難しいことだが、ここは例えば排気音などをもう少し工夫してみてはどうだろうか。別にうるさい排気音にしろと言っているのではなく、あくまで雰囲気作りのかすかなエキゾーストノートをもう少し聞かせるようにする。そうすれば低速で流して走っている時でも、もっとワクワクできるのではないだろうか。

 WRX S4はGTが334万8千円、GT-Sが356万4千円という価格である。どちらもアイサイト付きの税込価格だ。内容を考えると、良心的な価格だと思う。そしてなにより重要なことは、この値段でWRXと同等以上の性能を持ったクルマはもはや世界中のどこを探しても存在しない、ということだ。なぜ存在しないのかと言えば、それは作るのに手間と金がかかるからである。決して環境問題がどうのこうの、などという問題ではない。WRXのような高性能なクルマはテストドライバーが走って走って問題点を見つけ、その問題点をエンジニアと相談しながらひとつひとつじっくりと解決して煮詰めていく、という地道な作業の繰り返しが必要になる。人間の感性、感覚によって走りの性能を磨いていくことで、はじめて乗る人の感性、感覚を喜ばすことが出来るのである。コンピューター上のシミュレーションだけで簡単に事を終わらせることなど出来ないのだ。さらに高性能を実現するためには車体、足回り、エンジン、ミッション、ブレーキなどすべてにおいてコストをかける必要がある。だからWRXのようなクルマはどこのメーカーもやりたがらない。
 「極力楽をして、コストをかけずに、儲けたいっ!!」
 他の自動車メーカーの本心はズバリ、こういうことなのである。

 「いや、俺はかっこいいデザインだと思うよ」
 という方であれば、このWRXは文句なく『買い』である。そして買ったら、
 「いい買い物をした!」と、きっと満足するだろう。


 
 

レガシィワゴン2.0GT DIT 試乗記 その3

2012-12-31 02:36:20 | クルマ評
 動力性能、そしてサスペンションの性能については文句無し。まさに非の打ちどころがないほどの高性能を誇るこのレガシィワゴン2.0GT-DITなのだが、メカニカルな面でひとつだけ気になるところがある。それは電動パワーステアリングに対してである。

 パワーステアリングには油圧式と電動式の二種類が存在する。油圧式パワーステアリングというのはエンジンの動力をファンベルトによってポンプに伝え、このポンプが発生させる油圧によって作動する、というもの。これに対して電動式というのはその名の通り電気モーターによって作動する。今までは油圧式が主流だったのだが、最近は電動式のほうが主流になりつつある。その理由は電動式であればエンジンの動力を使用しないために燃費が向上するからだ。
 レガシィはこの電動パワーステアリングをBM/BR型から採用したのだが、そのステアリングフィールがなんとなくぎこちない。特にBM/BRの前期型はクイック感を出そうとするあまり、直進時のステアリングフィールがやや過敏過ぎる傾向があった。クルマの直進安定性は抜群なのだが、ステアリングをわずかに動かすだけで反応し過ぎるのである。スバルもさすがに「やりすぎた」と思ったらしく、このDITではいくぶんマイルドな味付けになっていたのだが、それでもまだ過敏さが残っている。ステアリングの中立付近はさらにもう少し鈍感なほうがいいと思う。そのほうがリラックスして走れる。率直に言って、これならサンバーの電動パワステのほうがはるかに自然なフィーリングだ。恐らく開発陣が『レガシィのパワステだから』と気負い過ぎてしまった結果なのだろう。

 BM/BR型レガシィの最大の欠点はインテリアである。最高級グレードのこのDITでもそのデザインと質感は閉口してしまうほどレベルが低く、それは軽自動車に毛が生えた程度のものでしかない。スバルお得意の真っ黒地獄の色彩、「プラモデル?」と思うほどのぺキペキのプラスチック感丸出しの巨大なダッシュボードとドアトリム、カーボンには全く見えない意味不明なカーボン『調』パネル、合成皮革という名のビニール然としたシート生地などなど、いったい何を考えているのかと思うほどだ。やたらと派手な色彩のメーターパネルを取り付けて七難を隠そうとしているのだが、悲しいことに全く隠れていない。100万円のクルマならこれでも納得するが、350万円前後もするクルマにこのインテリアはないだろう。
 僕はこのインテリアを見て、つくづくBP前期型のレガシィを買って良かったなぁと思ってしまった。前モデルであるBL/BPレガシィの前期型は、スバルとしては驚くほどのインテリアの質感を誇っていたのである。ソフトパッドに覆われた優しいデザインのダッシュボードと立体的な形状のドアトリム、緩やかにラウンドした心地良いデザインのセンターコンソール、そしてオプションのマッキントッシュオーディオを選ぶと黒光りをした本物のアルミパネルが贅沢に奢られていた。さらにBピラーの内側、つまり前席用シートベルトが取り付けられている部分もていねいに布張り、という念の入れようである。レガシィのインテリアは見違えるほど上質になったなぁ、と感動したのだが、どうやらそれは一時の夢だったようだ。BL/BP後期型からカクカクしたデザインのうえにプラモデル感漂う『バリ』の残るセンターコンソール、蓋を廃止した安っぽいドリンクホルダー、プラスチック一体成型の安直なBピラー内側のパネル、などというふうにインテリアの質感はしだいに劣化しはじめ、そして現在のBM/BR型では『レガシィ伝統』の安っぽいインテリアが見事に完全復活してしまった。

 僕は東京の築地で本場の江戸前アナゴのにぎり寿司を食べたことがある。大きなアナゴは口に入れるとフワッとしていて、しかもとろけるような食感だった。あの絶品の江戸前アナゴを味わってしまったら、とてもじゃないがそこらへんのアナゴなど食べる気にはなれない。一度でも上質を味わってしまったら、もう元には戻れないのである。突拍子もない例えで申し訳ないが、レガシィのインテリアもこれと全く同じだ。一度は上質になりながら、また安っぽいインテリアに戻る。そんなことをされて納得できるわけがない。それならばいっそのこと、上質を体験しないままのほうがまだ納得できる。江戸前アナゴを食べることがなければ、そこらへんのアナゴでも満足できたのである。スバルは人間の心理というものを全く理解できていない。

 レガシィワゴン2.0GT-DITの走りのレベル、上質感は文句無く一流のものである。しかし残念ながらインテリアは三流だ。もしかしたら走りの面でコストをかけすぎてインテリアにはコストがかけられなかったのかもしれないが、あえて同情はしない。なぜならBL/BP前期型では走りもインテリアもかなりのレベルを実現できていたではないか。コストを抑えて商売上手になるのは結構なことだが、あまりにやりすぎるとファンからソッポを向かれることになる。

 インテリアなど気にしない、という方にはこのレガシィワゴン2.0GT-DITは自信を持っておススメできるクルマである。走りのレベルだけを考えると、350万円という値段はかなり安い。お買い得である。しかしインテリアも重要だと考える方にはどうしようかと迷ってしまう。要は、安っぽいインテリアを「しかたがない・・・」と割り切ることができるかどうか。ここが問題になる。
 一度ディーラーに行ってご自分の目でじっくりと見て判断されたほうがいい。見て、そしてぜひ試乗してみて欲しいと思う。インテリアはともかく、その走りは試乗する価値があるクルマである。
 

レガシィワゴン2.0GT DIT 試乗記 その2

2012-12-19 03:11:10 | クルマ評


 FA20ターボエンジン以上に気に入ってしまったのが、その足回りである。『レガシィが帰ってきた!』という感想は、エンジンよりもむしろ足回りから感じたことであった。

 レガシィワゴン2.0GT-DITの足回りはビルシュタイン製ダンパーに18インチタイヤ、という組み合わせである。これは今までのBM/BR前期型の2.5GTと全く同じ組み合わせだ。ところが、走らせた印象はまるで違う。そのあまりの違いに僕は驚いてしまった。
 まず、走らせてすぐに違いを感じる。これまでの2.5GTは荒れた路面を走ると足回りがかすかにバタつく感じが残っていた。これは18インチという大径タイヤ/ホイールの重さによるもので、前モデルであるBP/BL型ではバタバタ、そしてBM/BR前期型でもバタッ、という感じだった。しかし今回のDITはそのバタつきが見事に消えている。荒れた路面を滑らかに走っていくのである。僕は「ひょっとして17インチなのか?」と思い、クルマを止めてわざわざタイヤサイズを確認したほどだった。ビルシュタイン製ダンパーと18インチ、という組み合わせがこのDITでようやく完成した。その滑らかでありながら引き締まった乗り心地は、まさに上質そのものである。

 峠ではこれぞレガシィ、ともいうべき走りが見事に蘇っていた。今までのBM/BR前期型の2.5GTでは足回りのレスポンスやダイレクト感が全体的にやや乏しく、このためコーナーでなんとも味気無い走りだったのである。おまけに攻め込んでいくとVDC(横滑り防止装置)がすぐに作動して、強制的に弱アンダーステアのまま曲がらせようとする。つまりブレーキとアクセル、そしてステアリングの操作をいろいろと変化させても、毎回必ず同じ弱アンダーステアの挙動が待ち構えているのである。こちらが命令を下しても、足回りはその命令を完全無視。まるで「いろいろと操作されていますが、それが何か?」とクルマ側から平然と言われているかのようだった。コーナーリングスピード自体は決して遅くはないのだが、これでは走っていて楽しいわけがない。
 ところが、このDITはまるで違う。足回りのレスポンスやダイレクト感が格段に向上しているのである。おまけにVDCが邪魔をしないため、足回りの挙動がとてもナチュラルだ。例えばコーナーで弱アンダーステア状態であっても、アクセルを緩めるとクルマが素直にニュートラルステアの挙動を見せてくれる。そして、そこからコーナー出口に向かって再びアクセルを踏んでいくとそれに素早く呼応してリアのサスペンションとタイヤがギュっとしなり、恐ろしいほどのスタビリティの高さを保ったままきれいにコーナーを抜けていく。特にこのリアサスペンションのレスポンス、ダイレクト感はとても印象的なものだった。DITの足回りのレベルの高さ、そして楽しさは文句無く『史上最強、そして最良のレガシィである』、と表現できる。それにしても細部のチューニングだけでここまで激変させるとは正直言って驚いた。担当したエンジニアの方は間違いなく天才、だろう。

 CVTも非常に完成度が高い。僕はもともとCVTのフィーリングがあまり好きではなく、このためレガシィにはセミATがいいのではないかとずっと思ってきた。なんとなくかったるい感じのするCVTよりも、歯切れのいいセミATこそレガシィにふさわしいと感じていたのである。ところが、今回スバルがDIT専用に開発したこのCVTはかったるさなど微塵も感じなかった。燃費を重視したインテリジェントモードであっても、悪い意味でのCVTらしさを全く感じないのである。あまりに自然なフィーリングのために、僕は乗り始めてからしばらくの間はCVTであることをすっかり忘れていたほどだった。さらに印象的だったのがスポーツ・シャープモードでマニュアル操作をした時である。このDIT専用のCVTはマニュアルモード時には8段変速に切り替わるのだが、その変速スピードが猛烈に速い。さらに歯切れの良さも抜群なのである。このCVTならばセミATの必要性など全く感じない。むしろ構造がシンプルなため、信頼性なども含めてこのCVTのほうがセミATよりも利点が多いのではないだろうか。セミATにありがちな『クセ』が無いのも好感が持てる。
 スバルがセミATではなくCVTを選んだことに対して、僕は当初「なんで?」という思いでいた。それはヨーロッパ車のトレンドが完全にセミATになりつつあったからである。しかし今回レガシィワゴンDITのCVTを体感するうちに、スバルの考え方がなんとなく理解できたような気がした。それは決してセミATの開発を諦めた、などという単純なものではなく、量産車であればセミATよりもCVTのほうが利点が多い、という確信に至ったからこそのCVTだったのではないだろうか。
 「我々はセミATよりもCVTのほうが優れていると思っている」
 運転しながら、なんとなくスバルにそう言われているような気がした。

 
 さらに次回へ続く(ここまではベタ褒めですが、次回は欠点を指摘します)