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自動車学

クルマを楽しみ、考え、問題を提起する

レガシィワゴン2.0GT DIT 試乗記 その3

2012-12-31 02:36:20 | クルマ評
 動力性能、そしてサスペンションの性能については文句無し。まさに非の打ちどころがないほどの高性能を誇るこのレガシィワゴン2.0GT-DITなのだが、メカニカルな面でひとつだけ気になるところがある。それは電動パワーステアリングに対してである。

 パワーステアリングには油圧式と電動式の二種類が存在する。油圧式パワーステアリングというのはエンジンの動力をファンベルトによってポンプに伝え、このポンプが発生させる油圧によって作動する、というもの。これに対して電動式というのはその名の通り電気モーターによって作動する。今までは油圧式が主流だったのだが、最近は電動式のほうが主流になりつつある。その理由は電動式であればエンジンの動力を使用しないために燃費が向上するからだ。
 レガシィはこの電動パワーステアリングをBM/BR型から採用したのだが、そのステアリングフィールがなんとなくぎこちない。特にBM/BRの前期型はクイック感を出そうとするあまり、直進時のステアリングフィールがやや過敏過ぎる傾向があった。クルマの直進安定性は抜群なのだが、ステアリングをわずかに動かすだけで反応し過ぎるのである。スバルもさすがに「やりすぎた」と思ったらしく、このDITではいくぶんマイルドな味付けになっていたのだが、それでもまだ過敏さが残っている。ステアリングの中立付近はさらにもう少し鈍感なほうがいいと思う。そのほうがリラックスして走れる。率直に言って、これならサンバーの電動パワステのほうがはるかに自然なフィーリングだ。恐らく開発陣が『レガシィのパワステだから』と気負い過ぎてしまった結果なのだろう。

 BM/BR型レガシィの最大の欠点はインテリアである。最高級グレードのこのDITでもそのデザインと質感は閉口してしまうほどレベルが低く、それは軽自動車に毛が生えた程度のものでしかない。スバルお得意の真っ黒地獄の色彩、「プラモデル?」と思うほどのぺキペキのプラスチック感丸出しの巨大なダッシュボードとドアトリム、カーボンには全く見えない意味不明なカーボン『調』パネル、合成皮革という名のビニール然としたシート生地などなど、いったい何を考えているのかと思うほどだ。やたらと派手な色彩のメーターパネルを取り付けて七難を隠そうとしているのだが、悲しいことに全く隠れていない。100万円のクルマならこれでも納得するが、350万円前後もするクルマにこのインテリアはないだろう。
 僕はこのインテリアを見て、つくづくBP前期型のレガシィを買って良かったなぁと思ってしまった。前モデルであるBL/BPレガシィの前期型は、スバルとしては驚くほどのインテリアの質感を誇っていたのである。ソフトパッドに覆われた優しいデザインのダッシュボードと立体的な形状のドアトリム、緩やかにラウンドした心地良いデザインのセンターコンソール、そしてオプションのマッキントッシュオーディオを選ぶと黒光りをした本物のアルミパネルが贅沢に奢られていた。さらにBピラーの内側、つまり前席用シートベルトが取り付けられている部分もていねいに布張り、という念の入れようである。レガシィのインテリアは見違えるほど上質になったなぁ、と感動したのだが、どうやらそれは一時の夢だったようだ。BL/BP後期型からカクカクしたデザインのうえにプラモデル感漂う『バリ』の残るセンターコンソール、蓋を廃止した安っぽいドリンクホルダー、プラスチック一体成型の安直なBピラー内側のパネル、などというふうにインテリアの質感はしだいに劣化しはじめ、そして現在のBM/BR型では『レガシィ伝統』の安っぽいインテリアが見事に完全復活してしまった。

 僕は東京の築地で本場の江戸前アナゴのにぎり寿司を食べたことがある。大きなアナゴは口に入れるとフワッとしていて、しかもとろけるような食感だった。あの絶品の江戸前アナゴを味わってしまったら、とてもじゃないがそこらへんのアナゴなど食べる気にはなれない。一度でも上質を味わってしまったら、もう元には戻れないのである。突拍子もない例えで申し訳ないが、レガシィのインテリアもこれと全く同じだ。一度は上質になりながら、また安っぽいインテリアに戻る。そんなことをされて納得できるわけがない。それならばいっそのこと、上質を体験しないままのほうがまだ納得できる。江戸前アナゴを食べることがなければ、そこらへんのアナゴでも満足できたのである。スバルは人間の心理というものを全く理解できていない。

 レガシィワゴン2.0GT-DITの走りのレベル、上質感は文句無く一流のものである。しかし残念ながらインテリアは三流だ。もしかしたら走りの面でコストをかけすぎてインテリアにはコストがかけられなかったのかもしれないが、あえて同情はしない。なぜならBL/BP前期型では走りもインテリアもかなりのレベルを実現できていたではないか。コストを抑えて商売上手になるのは結構なことだが、あまりにやりすぎるとファンからソッポを向かれることになる。

 インテリアなど気にしない、という方にはこのレガシィワゴン2.0GT-DITは自信を持っておススメできるクルマである。走りのレベルだけを考えると、350万円という値段はかなり安い。お買い得である。しかしインテリアも重要だと考える方にはどうしようかと迷ってしまう。要は、安っぽいインテリアを「しかたがない・・・」と割り切ることができるかどうか。ここが問題になる。
 一度ディーラーに行ってご自分の目でじっくりと見て判断されたほうがいい。見て、そしてぜひ試乗してみて欲しいと思う。インテリアはともかく、その走りは試乗する価値があるクルマである。
 

レガシィワゴン2.0GT DIT 試乗記 その2

2012-12-19 03:11:10 | クルマ評


 FA20ターボエンジン以上に気に入ってしまったのが、その足回りである。『レガシィが帰ってきた!』という感想は、エンジンよりもむしろ足回りから感じたことであった。

 レガシィワゴン2.0GT-DITの足回りはビルシュタイン製ダンパーに18インチタイヤ、という組み合わせである。これは今までのBM/BR前期型の2.5GTと全く同じ組み合わせだ。ところが、走らせた印象はまるで違う。そのあまりの違いに僕は驚いてしまった。
 まず、走らせてすぐに違いを感じる。これまでの2.5GTは荒れた路面を走ると足回りがかすかにバタつく感じが残っていた。これは18インチという大径タイヤ/ホイールの重さによるもので、前モデルであるBP/BL型ではバタバタ、そしてBM/BR前期型でもバタッ、という感じだった。しかし今回のDITはそのバタつきが見事に消えている。荒れた路面を滑らかに走っていくのである。僕は「ひょっとして17インチなのか?」と思い、クルマを止めてわざわざタイヤサイズを確認したほどだった。ビルシュタイン製ダンパーと18インチ、という組み合わせがこのDITでようやく完成した。その滑らかでありながら引き締まった乗り心地は、まさに上質そのものである。

 峠ではこれぞレガシィ、ともいうべき走りが見事に蘇っていた。今までのBM/BR前期型の2.5GTでは足回りのレスポンスやダイレクト感が全体的にやや乏しく、このためコーナーでなんとも味気無い走りだったのである。おまけに攻め込んでいくとVDC(横滑り防止装置)がすぐに作動して、強制的に弱アンダーステアのまま曲がらせようとする。つまりブレーキとアクセル、そしてステアリングの操作をいろいろと変化させても、毎回必ず同じ弱アンダーステアの挙動が待ち構えているのである。こちらが命令を下しても、足回りはその命令を完全無視。まるで「いろいろと操作されていますが、それが何か?」とクルマ側から平然と言われているかのようだった。コーナーリングスピード自体は決して遅くはないのだが、これでは走っていて楽しいわけがない。
 ところが、このDITはまるで違う。足回りのレスポンスやダイレクト感が格段に向上しているのである。おまけにVDCが邪魔をしないため、足回りの挙動がとてもナチュラルだ。例えばコーナーで弱アンダーステア状態であっても、アクセルを緩めるとクルマが素直にニュートラルステアの挙動を見せてくれる。そして、そこからコーナー出口に向かって再びアクセルを踏んでいくとそれに素早く呼応してリアのサスペンションとタイヤがギュっとしなり、恐ろしいほどのスタビリティの高さを保ったままきれいにコーナーを抜けていく。特にこのリアサスペンションのレスポンス、ダイレクト感はとても印象的なものだった。DITの足回りのレベルの高さ、そして楽しさは文句無く『史上最強、そして最良のレガシィである』、と表現できる。それにしても細部のチューニングだけでここまで激変させるとは正直言って驚いた。担当したエンジニアの方は間違いなく天才、だろう。

 CVTも非常に完成度が高い。僕はもともとCVTのフィーリングがあまり好きではなく、このためレガシィにはセミATがいいのではないかとずっと思ってきた。なんとなくかったるい感じのするCVTよりも、歯切れのいいセミATこそレガシィにふさわしいと感じていたのである。ところが、今回スバルがDIT専用に開発したこのCVTはかったるさなど微塵も感じなかった。燃費を重視したインテリジェントモードであっても、悪い意味でのCVTらしさを全く感じないのである。あまりに自然なフィーリングのために、僕は乗り始めてからしばらくの間はCVTであることをすっかり忘れていたほどだった。さらに印象的だったのがスポーツ・シャープモードでマニュアル操作をした時である。このDIT専用のCVTはマニュアルモード時には8段変速に切り替わるのだが、その変速スピードが猛烈に速い。さらに歯切れの良さも抜群なのである。このCVTならばセミATの必要性など全く感じない。むしろ構造がシンプルなため、信頼性なども含めてこのCVTのほうがセミATよりも利点が多いのではないだろうか。セミATにありがちな『クセ』が無いのも好感が持てる。
 スバルがセミATではなくCVTを選んだことに対して、僕は当初「なんで?」という思いでいた。それはヨーロッパ車のトレンドが完全にセミATになりつつあったからである。しかし今回レガシィワゴンDITのCVTを体感するうちに、スバルの考え方がなんとなく理解できたような気がした。それは決してセミATの開発を諦めた、などという単純なものではなく、量産車であればセミATよりもCVTのほうが利点が多い、という確信に至ったからこそのCVTだったのではないだろうか。
 「我々はセミATよりもCVTのほうが優れていると思っている」
 運転しながら、なんとなくスバルにそう言われているような気がした。

 
 さらに次回へ続く(ここまではベタ褒めですが、次回は欠点を指摘します)
 
 

レガシィワゴン2.0GT DIT 試乗記 その1

2012-12-06 04:05:33 | クルマ評


 今まで僕は現行BM/BR型レガシィに少なからず失望していた。良く表現すればおっとりとしていて穏やかな性格、なのである。しかしこれを正直に悪く表現すると、キレの無い走り味、といった感じであった。やたらとクイッ、クイッと曲がるところはレガシィらしさが残っていたのだが、それ以外はもうレガシィだかトヨタのクルマだかわからないようなクルマになっていたのだ。以前に僕はこの自動車学の中で『この先レガシィを買うことはもう無いと思う』と言ったことがあったが、それはこういう理由があってのことだった。
 すべてはボディが大きくなってしまったせいだろう。レガシィはもはやかつてのレガシィではない。
 そんなふうに僕は勝手に解釈していた。だから今回の新型レガシィワゴンDITもそれほど期待はしていなかった。

 ところが、である。いざ試乗してみるとこのレガシィワゴンDITの走り味はそれまでのBM/BR型レガシィとは全く別のクルマかと思うほどに進化していたのだ。もはやキレの無い走り味、などどこにも存在しない。
 レガシィが帰ってきた!
 これが試乗を終えた僕の、率直な感想である。

 まずはなんといってもエンジンだ。このDITに搭載されているFA20直噴ターボエンジンは、300psのパワーと40.8kg-mものトルクをたたき出している。その加速は強烈なもので、これまでのEJ25ターボ(285ps、35.7kg-m)とは比べものにならないくらいすさまじい。おまけにEJ25ターボよりもスムーズで静かである。レッドゾーンは6000回転、と決して高回転までブン回るエンジンではないのだが、いくら高回転型エンジンが大好きな僕でもこの圧倒的な加速力とそのスムーズさを味わうとそんなことはどうでもいい、と思ってしまう。久しぶりにワクワク、ゾクゾクするエンジンだった。さらに特筆すべきはその燃費の良さで、これほどのハイパワーエンジンであるにもかかわらずJC08モードで12.4kmを記録している。ちなみにEJ25ターボは10.2km。従来のEJ25ターボエンジンを搭載した2.5GTも引き続き販売されているが、もう必要は無いだろう。

 余談だが、このFA20ターボの直噴システムはBRZ/86のFA20のものとは異なり、スバルが独自に開発したのだそうだ。自前で開発ができるのなら、BRZ/86のFA20もトヨタのものではなく自前のシステムを使えばよかったのに、と思ったのだが、そこにはトヨタ側からの「うちのを使え!」というゴリ押しがあったのではないだろうか。せめて直噴システムくらいはトヨタの技術を使わないと、『共同開発』という言葉が成り立たなくなってしまう。トランスミッションだけがトヨタ、というのではトヨタ側が納得しなかったのではないか。
 これはあくまでも想像なのだが、FA20ターボの完成度の高い直噴システムを味わっているうちに、ふとそんなことを考えてしまった。

 次回へ続く