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自動車学

クルマを楽しみ、考え、問題を提起する

WRX S4 試乗記

2014-12-06 01:26:00 | クルマ評


 試乗記を書く前に、まず僕はこの新しいWRXのデザインがあまり好きではない。というか、はっきり言って嫌いである。
 横から見るとBMW風。グリル一体型のフロントバンパーもこれまたBMW風。さらにヘッドライトはフォルクスワーゲン・ゴルフの匂いがする。そして全体的なデザインの印象は『機動戦士ガンダム』だ。ネットのあるサイトでは、ほぼ同じ顔つきであるレヴォーグに対して「そそるデザインだ!」などと言っている方がいたが、いったい何がどう「そそる」というのだろう。僕には「萎える」デザインでしかないのだが。
 残念ながらこのWRXだけではなく、最近のスバル車はみな急速にデザインレベルを落としてしまっている。かつてあのザパティナス氏が在籍していた頃のスバルデザインはオリジナリティがあり、とても洗練されたものだった。ところが今ではどれもこれも武骨なガンダムデザイン(ガンダムを批判しているわけではない)ばかりで、おまけにBMW風、フォルクスワーゲン風、である。現在のスバルのデザイナーは、ドイツ車がよほど好きなのだろう。
 インテリアもこれまたドイツ風、相変わらずの真っ黒地獄一辺倒である。何とも重苦しい雰囲気のインテリアだ。このインテリアについてスバルはやたらと質感の向上を謳っているが、カーボン『調』や金属『調』のパネルをあちこちにくっつけても、残念ながらアピールするほどの質感の向上にはつながっていない。確かにダッシュボードにはソフトパッドが貼られ、ドアトリムもだいぶ立体的になって近年の『プラモデル風』からは脱却しつつあるが、それでも質感の向上を強調するほどのインテリアではない。率直に言ってこれまでの『下』から『並』になった、といったレベルのものである。

 それでも、シートはいい。これはあまり知られていないことなのだが、実は富士重工は以前からシートの開発に力を注いできたのである。このためスバル車のシートはみな良いものばかりだ。それはドイツ車のように内側も表面もカチコチに硬いシートではなく、内側は硬いが表面は比較的ソフト、というもの。コシはあるが、タッチは柔らかいのである。座ってみると身体をやさしく包み込んでくれてとても快適だ。さらにこのWRX S4のシートはやや細身のため、ホールド性も抜群である。エクステリア、インテリア共にドイツ臭にまみれているのに、シートだけはドイツ臭がしない、というのはなんとも面白い。

 試乗したのは2.0GTアイサイトというグレードで、ノーマルダンパー仕様のものだ。この他に2.0GT-Sアイサイトというグレードがあり、こちらはビルシュタイン製のダンパーが装備されている。「よし!走るぞ!!」と意気込んでいつもの峠道に行ったのだが、写真を見てもわかるとおり夕暮れの試乗。いつもの峠道は抜け道として利用する会社帰りの通勤車で交通量が増していたため、残念ながらコーナーを十分に攻めることができなかった。走る時間帯を全く考慮していなかった僕のミスである。申し訳ない。
 それでも、WRX S4のレベルの高い走りは垣間見ることができた。前走車との距離を開けてコーナーにそれなりの速度で飛び込んでみるが、もはやそんなレベルではまったく何も起こらない。ステアリングを切ったぶんだけ、素直に悠々とコーナーをクリアしていく。ビルシュタイン製ダンパーほどのシャープな回答性や剛性感は無いのだが、ノーマルダンパー仕様はそのぶん尖ったところがなく、乗り心地もやさしい印象である。「別に峠やサーキットにこだわりはないよ」という方はノーマルダンパー仕様で十分だと思う。ただ、僕だったら絶対にGT-Sを選ぶ。もしくはGTを買ってビルシュタインかオーリンズの車高調にする。ここまで走りのレベルが高いと、足回りに金をかけてさらに上を目指したくなると思う。

 エンジンとトランスミッションは先代レガシィの2.0GT-DITにも搭載されていたFA20ターボ、そしてスポーツリニアトロニックと呼ばれるCVTである。パワー、トルクはそれぞれ300ps、40.8kg-mと変わらないが、燃費はJC08モードで12.4kmから13.2kmとわずかながら向上した。恐らくエンジン、ミッションのプログラムを変更したのだと思う。しかし燃費が向上したぶん、走りの力感はわずかに減少しているように感じられた。両車ともSI-DRIVEを燃費重視の『インテリジェントモード』にして走り比べると、WRX S4は2.0GT-DITよりもおとなしく、300psのハイパワーエンジンを積んでいるとはとても思えないほど穏やかに走る。もちろんそこからひとたびアクセルをグンと踏み込めば一転して猛々しい加速が始まるのだが、ごく普通に街中を流して走っている時はまるでインプレッサの1.6リッターエンジンにでも乗っているかのようだった。もしかすると2.0GT-DITよりも静粛性が増していたために、ことさらそう感じてしまったのかもしれない。
 免許を取得したばかりの人やクルマの運転に不慣れな人は穏やかで乗りやすい、と感じるだろう。しかし走ることが大好きな人や300psのエンジンに期待していた人は少し拍子抜けするような気がする。『インテリジェントモード』ではワクワク感が無いのである。ハイパワーと低燃費を両立させることは難しいことだが、ここは例えば排気音などをもう少し工夫してみてはどうだろうか。別にうるさい排気音にしろと言っているのではなく、あくまで雰囲気作りのかすかなエキゾーストノートをもう少し聞かせるようにする。そうすれば低速で流して走っている時でも、もっとワクワクできるのではないだろうか。

 WRX S4はGTが334万8千円、GT-Sが356万4千円という価格である。どちらもアイサイト付きの税込価格だ。内容を考えると、良心的な価格だと思う。そしてなにより重要なことは、この値段でWRXと同等以上の性能を持ったクルマはもはや世界中のどこを探しても存在しない、ということだ。なぜ存在しないのかと言えば、それは作るのに手間と金がかかるからである。決して環境問題がどうのこうの、などという問題ではない。WRXのような高性能なクルマはテストドライバーが走って走って問題点を見つけ、その問題点をエンジニアと相談しながらひとつひとつじっくりと解決して煮詰めていく、という地道な作業の繰り返しが必要になる。人間の感性、感覚によって走りの性能を磨いていくことで、はじめて乗る人の感性、感覚を喜ばすことが出来るのである。コンピューター上のシミュレーションだけで簡単に事を終わらせることなど出来ないのだ。さらに高性能を実現するためには車体、足回り、エンジン、ミッション、ブレーキなどすべてにおいてコストをかける必要がある。だからWRXのようなクルマはどこのメーカーもやりたがらない。
 「極力楽をして、コストをかけずに、儲けたいっ!!」
 他の自動車メーカーの本心はズバリ、こういうことなのである。

 「いや、俺はかっこいいデザインだと思うよ」
 という方であれば、このWRXは文句なく『買い』である。そして買ったら、
 「いい買い物をした!」と、きっと満足するだろう。