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自動車学

クルマを楽しみ、考え、問題を提起する

スラッジが溜まりやすい、というエンジンがある  その1

2012-08-17 03:34:44 | その他
 前回、僕はオイル管理を怠るとエンジン内部にスラッジが発生する、と述べた。しかしこの点について腑に落ちない人もいたのではないかと思う。俺のクルマはちゃんとオイル交換していたのにスラッジが溜まってしまったぞ、と思った人もいたのではないか。ちゃんとオイル交換をしていたのにスラッジが溜まる。結論から言うと、残念ながらこういったエンジンは確かに存在するのである。僕はクルマの仕事をしていた時にこういったエンジンに数多く出会った。だいぶ前の話になるのだが、僕が目の当りにしたスラッジが発生しやすいエンジンというのをいくつか紹介していきたいと思う。

 キング・オブ・スラッジ、とでも呼びたくなるようなエンジンがトヨタのM型であった。直列6気筒エンジンで、クラウン、ソアラ、スープラ、マークⅡ三兄弟などに搭載されていたエンジンである。
 このM型だが、僕が実際にいじったことがあるエンジンは5M-GEU、6M-GEU、7M-GE、7M-GTEである。このどれもがみなひどいスラッジに悩まされ、なおかつよく壊れたエンジンでもあった。エンジン自体の出来が悪く、カムシャフトにはすぐ傷が入り、タペットからはガシャガシャ、と音が出始める。中古エンジンを扱っていた人や、リビルトエンジンを手掛けていた人ならばよく御存じだと思う。よく壊れたから中古エンジンも品薄で、値段も高かった。例えば7M-GTEなどは程度が良ければ35万円くらいはしていたと思う。エンジンの出来が悪いのはトヨタも十分に把握していたらしく、7M-GTEエンジン搭載車のコアサポートには『エンジンオイルは必ず3000kmごとに交換してください』と赤文字で書かれたステッカーがわざわざ貼ってあった。注意書きをするくらいなら丈夫なエンジンにしてくれよ、と言いたくなる。
 このM型エンジンの登場は1965年、たしか二代目クラウンのマイナーチェンジ以降からだったと思う。最初はただのMから始まり、2M、3M、4M、5M、6M、7M、と三十年近く作り続けられた。ちなみに3Mはあのトヨタ2000GTのエンジンである。Mにヤマハ製のツインカムヘッドを組み合わせ、製造もヤマハが行ったエンジンだ。僕は4M以前のものはよく知らないのだが、耐久性ははたしてどうだったのだろうか。『M』というだけで僕の中では粗悪エンジン、というイメージが強いのだが。

 G型エンジンもキングのM型と出来の悪さではいい勝負である。このエンジンもクラウン、ソアラ、スープラ、マークⅡ三兄弟に搭載されていた。G型はすべていじったことがあるのだが、こちらはほぼ壊滅状態で1G-GTE、1G-GZE、1G-GEU、1G-EU、つまり1G-FE以外のすべてが重いスラッジ病を患っていたエンジンだった。カムシャフトに傷が入り、タペットからガシャガシャと音が出やすい、と言う点はM型エンジンと全く同じである。
 M型、G型ともにヘッドの出来があまりにも悪かった。全体的に精度が低く、その精度の低さは例えば日産の直列6気筒エンジンであるRBと乗り比べてみるとすぐにわかる。日産のRBエンジンはどれもこれもみな静かでしっとりと滑らかに回るのに対し、M型やG型はガサガサ、ワサワサとメカニカルノイズがうるさいエンジンだった。設計が甘かったのか、それともヘッドの部品を作る工作機械がショボかったのだろうか。トヨタのことだから、設計の段階や工作機械でコストを削ることは十分に考えられる。エンジンの精度なんて誰もわかりゃしないよ、などと考えたのではないだろうか。ハイメカツインカムと称する新世代のヘッドを載せられた1G-FEはあまり壊れなかったのだが、これは設計を真面目にやったか、あるいは工作機械を新しくして部品の精度を向上させたか、のどちらかだろう。
 ちなみに日産のRBエンジンはみな丈夫だった。スラッジもちょっとやそっとではまず発生しない。このため中古エンジンも全く売れず、中古部品会社の知人だったある人はRBエンジンのことを『倉庫の守り神』と呼んでいた。倉庫に在庫していても全く売れない、という意味である。

 メカニカルノイズが少ないエンジンというのは精度が高く、丈夫であるということを意味している。僕はセルシオの1UZ-FEエンジンを初めて目にした時にそのあまりの静かさに驚いたものだが、案の定このエンジンはとても丈夫だった。メカニカルノイズが大きめのエンジンは精度が低く、スラッジが溜まりやすい、壊れやすい、と考えてほぼ間違いない。クルマを購入する際には、ぜひエンジン音を聞くことをお勧めする。排気音ではなく、エンジン音。最初のうちはよく分からないかもしれないが、慣れればしだいに分かるようになってくると思う。


 次回へ続く