私の親父には気の合う友達がいまして。とある割烹料理の板長です。
彼と親父がどのようにして出会ったかは知らないけれど、板長は親父のことを「親分」と呼んでいたそうです。
ちなみに、花板が張れるような料理人は、職人肌で頑固なタイプも多い。
板長はそんな気質がもろに顔に出ているような人でした。
そんな板長が、人相のよくない親父を「親分っ!」と呼ぶと、ちょっと周りの雰囲気が凍りつきます。
その板長に私があったのは、一度切除した胃がんが再発して、がんセンターに入院していたときでした。
親父が見舞いに行くので、ついていったのですが、そのときも板長は親父を見つけるなり、病院の廊下で「親分、親分」と点滴台をゴロゴロ引いてやってきました。
いろいろと事情があって、現在は一人で暮らしていて、子供たちも遠くに住んでいたため、親父が一緒に告知を受けたそうです。
余命3ヶ月。
男性の患者さんにはいろいろなタイプがあるけれど、基本的に自分の弱った姿は見せたくないはずなのに、親父が見舞いに行くといろいろな話しをするという。
親父はどう接していいかわからないと言ったので、今までどおりに冗談言ったりすればいいと答えました。
変に気を使われても、患者としても気持ち悪いと。
それに、楽しい気持ちや笑ったりすることは、一時的にでも調子がよくなることもあるから、大切なことだとも伝えました。
それから親父は親分として、週一度くらいで顔を見に行くようになりました。
そんな板長も、8/7になったばかりの頃、旅立っていきました。
親分廃業。
今度親父とサシで飲もうと、約束をしました。