ここのところ、116系トランスアクスル車の駆動系に問題のある車両が多かったが、共通しての問題点は、116系独特の構造を理解していないメカニックにより、いじり壊されていたということだ。
116系のトランスアクスル車の整備が、他の車と大きく違う点は、トランスアクスゆえの独特の駆動系だ。「特にプロペラシャフト」。
116系の、エンジンと等速で回る、ゴムのカップリングでジョイントされたプロペラシャフト。
エンジンの回転部分のダイナミックバランスが狂うことは少ないが、このプロペラシャフトは、カップリングという、ゴムジョイントが定期交換の消耗部品である。これがエンジンのクランクシャフト等と同じレベルのダイナミックバランスを要求されるのだ。もちろんリヤークラッチユニットも。普通に定期交換のメンテナンスでダイナミックバランスに気を使わねばならない車なんて、ほかにはあまり見当たらない。
いまどきの、FFばかり触っているメカニックには、プロペラシャフトにお目にかかることが少ないし、エンジンと等速で回るプロペラシャフトなんて、触ったことも無いメカニックにとっては異次元のものだ。(カップリング取付ネジの長さの不揃いや、ナットの形の不揃いが、とんでもない振動を引き起こすということさえ知らない。たった一つ重さが違うだけで、ゴトゴトと振動するのだ)
この構造の根本的違いの重要性が判らないメカニックが、116トランスアクスル車両をメンテすると、壊しておいて知らん顔ということになる。(自分が壊したことに気が付くことさえできないのだ)
前回、今回と問題になった、プロペラシャフトその他回転部分が原因のバイブレーション。これは、回転部分のパーツのダイナミックバランスを取ることにより解消する。
ダイナミックバランスは、グラムセンチ(g-cm)という単位で表すのだが、その昔のノーマルエンジンが、たしか3.5g-cm以内と聞いたことがある。これがチューニングオプションパーツとなると2.5g-cmになるとのことだった。
現在では、ダイナミックバランサーの機械の精度も上がっているので、1g-cm以内、目標0.5g-cm以内ということを書いているチューナーのブログも見たことがある。
ダイナミックバランスというものの、その単位を見れば解かるが、グラム-センチメートル。そうどこかで聞いたことがあるだろう。キログラムメートルとか。ネジの締め付けるときのトルクと同じ表示方法なのだ。
「半径 X 重さ」で表す単位で、それが1グラムとかの次元なのだ。
半径1センチのところで、1グラムなら、 1g-cm
半径2センチのところで、1グラムなら、 2g-cm
1グラムというと1円玉の重さであり、今回赤い11646のクラッチユニットのフライホイール外周部の鉄部分に開けた穴の数から、数グラムはあろう。 そしてそれが、あの外径の部分でのことなので、その半径をかけると、おのずから、どれほどのアンバランス量が有ったか判るというものだ。
カップリングジョイント取り付けネジも重要だ。今回、ナットが新品に換えられたりしていたが、それ以前に、その長さにバラつきがあった。長さのバラつき=重さのバラつき。半径数センチのところの、鉄のボルトの、1mmの長さの違いでも、回転した場合のアンバランス量は、どれほどのグラムセンチになるか考える頭は無かったのだろうか??たとえ、そのわずかの長さの違いが、1グラムであっても、数グラムセンチのアンバランス量なのだ。
エンジンでは、爆発圧力の振動もあり、コンロッドの大小端部の各ロッドのばらつきもあるので、クランクのダイナミックバランスのみで、振動は語れないが、この116系の車のように、エンジンと等速で回る、フレキシブルシャフトでマウントされたプロペラシャフト、および、同じくエンジンと等速で回る、リヤークラッチユニットなどは、単に回転バランスのみの良し悪しが、大変重要な問題となる。
プロペラシャフトは細いところでも、直径5センチくらいはあるものだ。半径で言って2.5センチ。そこに1グラムの重りが必要なら、2.5g-cmのアンバランス量なのだ。
したがって、あのプロペラシャフトについている、薄い小さな鉄板の、1~2グラムの重さが、いかに大きな振動を抑える役目をしているのか知るべきだ。 鉄で出来た、プロペラシャフトを、プレスで、修正すれば、どれほどダイナミックバランスが狂うか、考えなかったのだろうか?
もし、今回、プロペラシャフトを壊されていなかったら、長さが等しいボルトで、正しくカップリングとセンタマウントを組みなおしただけで、クラッチユニットにアンバランスがあることは、即座に判断できたことなのだが。
昨年の夏から続けて、4台の116のGT系のメンテナンスをして、よくわかったことは、よそのメカニックにいじられていない車のバランスの良さ、そう、あの2千キロくらいしか走行していないという、新古車状態のガンメタのGTV-6の回転バランスが、抜きん出て良いことである。(特別にわざわざダイナミックバランスを取ったわけでもないメーカーからのラインオフ状態のものなのに)
伊藤忠オート時代から、大沢時代になっても、ディーラー系のメカニックの間で、116系のプロペラシャフトをメンテナンスすると、以前より振動が多くなったという話は、あまり聞いたことが無い。
唯一あるのは、V6エンジンのクラッチユニット、純正のアルファロメオの箱のもの意外を使った時に、バランスが悪くなったということぐらいだ。(同じザッハスでも、アルファロメオメーカー経由の純正品とサードパーティとして外品ルートで安売りされているものとの精度の違いは驚くほどある。)
確かに外品供給のザッハスのパーツのバランスは、純正より数段劣るが、それでも今回のように、私が「これでは、絶対にお客様に納められない」と思ったほどのひどいものは、初めてだった。プロペラシャフトを、変にいじる以前に、このクラッチユニットを組み付けたのなら、そのメカニックは、エンジンをかけたとたんに、クラッチユニットのバランスの異変に気が付いていなければならない。(私が言う普通のメカニックなら気が付くレベルだ)
しかしこの、アンバランスクラッチユニットを私の前に組み込んだメカニックを恨んでも仕方が無い。彼は、ガタガタのベアリングで組んでいたほどの、振動に無知なメカニックだったのだから。 まして、その後はプロペラシャフトのセンターピローなしでエンジンかける、??メカニックなのだから。(前に書いたように、1グラムセンチが重要な部分に、ピローなしで組んで、センターが1センチ狂えばどうなるか。素人でもわかることなのに。
プロペラシャフトは、一歩間違えば人身事故、死亡事故になるほどの部分であるということもわからないメカニックがいるというのも怖い話だ。(わずか1グラムほどのことから)
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フィアットになる以前の本物のアルファロメオの特徴は、いたるところに極細目のネジピッチを好んで使っている。
当然、締め付けトルクや、取り扱い方法は、一般の車用の細目ネジとは違う。
車用に使われるネジは、基本的に、細目ネジで、一般の並ネジとはもはや違うものなのだ。
国産でも、ボディ系に使われるネジと、エンジン、駆動系に使われるネジは強度が違う。
国産車で、ネジの頭に、④とか、⑧とか⑫とか書かれているのを目にしたことがある人もいると思う。
これは材質の違い、熱処理の違いで、引っ張り強度の値を、ネジの頭に書いてあるのだ。
アルファロメオも同じで、5.6とか、8.8とか、10.6とか12.0とか書いてある。
国産車では、極細目のネジは、一部の車種のコンロッドとかにしか使われていないのだが、アルファロメオの場合は、いたるところに、この極細目ネジが使われている。当然、ゴミとかの混入によるカジリには弱いし、ピッチが細かい分、締め付けトルクも、細目ネジとは2割くらいはゆうに違う。
普通の車に使われているネジサイズのつもりでネジを締めると、それだけで壊してしまうのは、この極細目ネジが使われているからだ。
ネジを締め付ける前に、ネジピッチの確認もしないヤカラメカニックは、ネジについているゴミをふき取る繊細な気持ちも無い。
きれいに清掃もしていないネジで、極細目なのに、細目ネジのトルクで締め付けると、それだけでネジ山は倒れて、カジッテしまう。
そんなこともわからないアホがメカニックには多いのだ。(私もアホの仲間だからアホのことはよくわかる)
たとえばF1のレースでの、タイヤ交換の際、たまにあるホイール脱落や、ナットがインパクトレンチから外れないというトラブルがあるが、F1のようなレベルのナットの各部の公差は、きわめて精密に作られているがゆえに、ほんのわずかな、ゴミの混入で、ネジがカジッテしまうことになる。精密なものほど、こういうトラブルの発生率は高くなる。
ロメオのネジの公差は、大したレベルではないが、普通の車用の細目ねじから見ると、ロメオがよく使う極細目ねじは、普通の扱いをするとカジッテ壊すことになる。
ボルト、ナットの組み合わせの場合はまだ救われる。
難儀なのは、太い本体の外側に、極細目のオスネジが切られている場合だ。(小径のメスネジなら、ヘリサートで簡単に修正できるんだが)
このネジをカジッテつぶすと、本体アッセンブリーを交換しなければいけないことが多い。
もちろん、潰れたネジ部に、メッキとかメタリコンとか溶着肉盛りとかし、あらためてネジを切れば修理は出来る。
しかしそれが、プロペラシャフトなどの場合、ながさが1mを超えるサイズのものの中間部に、肉盛して、ネジきりをしなければならない上に、全体の芯出し、ダイナミックバランスなどが必要で非常に高額な修理となる。(もし新品が手に入るのなら、高価な新品のほうがまだ安いということになる)
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私がまだ30代のころ、初期の本物の証の750エンジンのコンレレロチューンのSZや、TZなど、万が一壊すとどうしようもないヒストリックカーのメンテナンス及び、エンジンチューンをさせてもらったことがある。少しではあるが戦前のグランプリブガッティとか、6C2300MMとか、博物館でしか見られないような車のメンテナンスも。
それらの車は、絶対に壊してはならないものなので、当方としては本当に気を使ってのメンテナンスをしたものだが、その仕事を与えてもらえた喜びのほうがはるかに大きかった。
その当時ヒストリックカーは、今のように若いオーナーのものではなく、特にビンテージカーと呼ばれる車の整備には人一倍気を使ったものだ。
ただし、50年代以降のアルファロメオのエンジンメンテナンスに対する心構えは、SZ,TZも同じアルファロメオの750、101、105系の車の一車種として、特別扱いは無かった。
もちろんGTAも同じである。GTAは、1600,1300Jともに、20代だったディーラー時代に、すでにレストアさせてもらっている。(あのGTA純正のヘレボーレと外品ヘレボーレとの違い、GTAヘレボーレ用の組み立て式ハンドルボス、ホーンボタンの細かい構造を、かの有名なドライブショップのOOさん〈車の世界では大先輩の方なのだが〉に教えたのも私だ)
私にとってのアルファロメオは、750ジュリエッタから、105系を経て、116系最終の75まで、おなじDNAのオールアルミエンジンを積んだひとつのグループであり、同じ扱いだ。
アルファロメオがアルファロメオであるが故の、メカニズムのため、それがわからないメカニック、思考力の無いチェンジニアによって、壊されるようになってきたのは近年のことである。
それは、アルファロメオのヒストリックカーが、SZや、TZという一部の車種だけでなく、ジュリア系のベーシックのTIまでもが手軽なヒストリックカーとして若いオーナーにもてはやされるようになってからのことだ。
バブル崩壊後に、乱立した、アルファロメオ取扱店。
古いアルファロメオを並行輸入するところも多くなったが、75以前の車をまともにメンテナンスできるメカニックは、大沢商会時代のメカニックまでといっても差し支えないくらいだ。(もっとも、ここまでが本当のアルファロメオで、その後はフィアットのバッジを換えたアルファだから、仕方ないのだが)
輸入車の看板がかかっていても、ドイツ車と、イタリア車は、まったくそのメンテナンスが違う。
その昔は、ドイツ車を扱う工場は、イタリア車との違いを知っていたから、イタ車には手を出さなかったものである。(ある意味軽蔑していた?)
今はどうだろう。アルファロメオがアルファロメオで無くなり、フィアットにアルファロメオのバッジをつけたものが、アルファーロメオだと思われている。
整備も、アルファロメオではなく、フィアットとして整備したほうが、しっくり来る。
そう、75までのアルファロメオと、今のアルファロメオとは別なのだ。
そのことが判っていないメカニックが、古いアルファロメオを壊しているのだ。
彼らも、本物のビンテージカーをメンテするくらいの気心があるなら、片っ端から壊すような整備はすることも無いのだろうが。
私が、はじめてGTAや、TZ,SZを託された時代と、今のジュリア系や、116系の車両価格や、パーツ代は、、物価と対比すると、あの当時とは次元が違うから、メカニックの腕もそれ相応なのだろう。恥ずかしい話だ。
壊しておいて、工賃を請求されたなんて、話も良く聞く話だ。
古い車のオーナーになる前に、その車をメンテナンス出来る、信頼のおけるメンテナンスショップを見つけることのほうが大事だということだ。(メカニックとしての腕もないし、車のことも良く知らないけど、金の亡者であるというショップは多いですよ。)