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インド洋津波から2週間。なぜ届かない援助物資

2005-01-14 10:44:16 | ニュース@海外
12月26日に起こったスマトラ島沖地震と津波を受け、各国政府が被災国に約束している支援の総額は現時点で50億ドル(約5千200億円)にものぼっています。これ以外に個々人からの援助もあり救援が進んでいるようですが、一方で、「支援要請は届いている」のに援助が届いていない地域があるとの報道がされています(「日経」1月11日)。

援助がとどかない地域とは、震源地に近いインドネシア・スマトラ島のアチェ州のこと。インドネシア保健省によると、インドネシア全体では地震と津波で10日までに10万4千55人が死亡し、加えて7万7千人が行方不明のまま。

前述の日経記者は、州都のバンダアチェから、シンガポール軍のヘリコプターでムラボという小さな町に入り、援助が届かない理由として「道路の寸断」のほかに「インドネシア国軍」が『単独で行っても安全は保証できない』」(と言った)、つまり「国軍と独立派武装組織『自由アチェ運動(GAM)』の対立も影を落とす」からとしています。また「赤旗」も13日、インドネシア軍の司令官が、「ナングロアチェ州で独立を掲げる勢力の動きが支援活動に危険をもたらしているとして、国際援助機関関係者に行動を規制するように要求」したとして、「現地の複雑な政治情勢が復興活動に困難をもたらしてい」る、と報じています。

しかし、問題の武装解放勢力GAMは、震災直後の26日、被災者救援のために国軍に停戦を申し入れており、(13日再度停戦申し入れ)、NGOのオクスファム関係者は「GAMから脅迫を受けていない」と語っています(赤旗13日)。しかし、軍は26日停戦申し入れを拒否し、驚くべきことに震災後も独立派の掃討作戦を続け(Forum Asia1月5日声明)、支援活動に従事していたGAMメンバーを殺害しています(Democracy Now!1月5日)それで、道路が寸断されていてもヘリコプターなどを駆使してできるはずの援助が2週間たった今もいきわたっていないというわけです。

武力攻撃は(規模が格段にちがうにせよ)政府軍・武装勢力両方に責任がありますが、アチェや外国の人権活動NGOなどの見解を見ると、今回情勢を「複雑」にしているのは、どちらかというと軍の側のようで、結論を言うと、インドネシア政府は、震災の混乱を利用して、インドネシアからの独立を求める勢力を壊滅しようとしているらしい。つまり、国際支援団体、ジャーナリストに対する「規制」は、軍の行為を外に知られないようにするためのものではないか、と考えられるのです。

支援体制を利用した弾圧はどのようなものなのか?

政府は、独立派弾圧のために、アチェ州で、1988年から1998年まで戒厳令、現在も民政非常事態令を出していますが、この間アチェ住民に身分証明書(ID)を発効。その際、独立派と判断した人たちには出さなかったのですが、今回、軍は援助対象をID所持者のみとしており、これが物資が届いていないひとつの理由と指摘されています。海岸線から3キロにおよぶ場所まで根こそぎ波に洗われた大惨事のなか、そんでもID持ってこいと要求すること自体が軍のアチェ人にたいする態度をみごとに象徴しているのですが、軍の最大の目的は、この手続きを利用して、独立勢力を洗い出すことにあるのですから、その過程で他の被災者が死のうがかまわないというわけです。空港などに設けられた援助センターは軍が管理しており、IDを提示できない住民は嫌がらせ、さらには暴行を受けており、監視の目が行かない遠隔地域では虐待がさらにひどいはずと推測されています(Forum Asia声明)。また、政治的理由からアチェ以外の地域・外国に逃げていた人たちも、家族を探しに戻ってきたところを拘束の狙い撃ちにされています。(Democracy Now! 04年12月29日


 また空港では、無償のはずの援助物資を兵士が売っていることが立証されています(たとえばバンダアチェ空港でカップめん1パック500ルピア也(同上Forum Asia)
  
こうした軍による食糧と援助の不法な管理、ゆすり、つづけられる軍事攻撃により、飲料水、医薬品、医療、シェルターの供給、医療チームの配属が遅れているのです。29日ごろまでは医療チームの立ち入り制限があったようで、日本からの医療団(赤十字か?)が軍による足止めを食らい、その間、数千人がさらに犠牲になったとも言われています。(同上Democracy Now!)

アチェは、オランダの植民勢力に対する抵抗をはじめ、外部支配に対する抵抗の歴史が強い地域で、インドネシアからの独立を求める声も強いのですが(1976年GAMの一方的独立宣言を受けインドネシア政府が弾圧。2000年には、当時人口420万中40万人が独立の是非を問う住民投票を求める集会に参加。)これに対し、インドネシア政府はアチェに「反独裁」体制を敷き、住民に残忍な抑圧を加えてきました。

アチェ州では、スハルトが退陣した1998年までの戒厳令のあいだ10万人の住民が殺され、その後の非常事態とより穏やかな軍事抑圧体制になってからも、2000人以上の住民(ほとんどが非戦闘員)が軍に殺されてきました。そのほか、刑務所、再教育キャンプなどに何千人もの政治犯が証拠もなしに収容されてきました(今回の津波でこうした施設の多くが押し流され、死んだ囚人は集団墓地に投げ捨てられ埋められているとのこと(同上Democracy Now!))

こうした実態は、NGO、難民、弁護士、専門家などの調査により明らかにされてきましたが、基本的には戒厳令などの期間、人権団体・支援組織・ジャーナリストの立ち入りが禁止されています。今回、国境なき医師団(MSF)、赤十字、オクスファムなどに、条件付での援助活動は許可され始めているようですが、十数万の死者・被災者を前に、援助活動になお制限をかける無神経さの根は、長年にわたる独立勢力だけでなくアチェ住民全体にたいする抑圧にあるようです。

アムネスティ・インタナショナルなどでの報告で確認されている抑圧とは、不法殺人、拷問、虐待、恣意的拘束、裁判なしの刑期・死刑、レイプ、児童兵士の利用、ゆすり、略奪、学校を含む施設・家屋の放火、GAMへの支持を断ち切るための強制移動、武装襲撃、家宅捜査、家屋・所有物の破壊、子どもを含め軍事行動への参加強制(料理・掃除・スパイなども)、表現・移動の自由の制限、人道支援の妨害などなどのこと。同報告によれば、最近の軍事作戦でインドネシア軍、警察が犯している人権侵害は「あまりにも広範にわたり、この州で被害を受けていない地域は事実上ない」。また、攻撃にあたり「戦闘員と非戦闘員を区別する配慮も皆無である」。(Amnesty International 2004年10月7日。INDONESIA New military operations, old patterns of human rights abuses in Aceh)

こうした作戦のなかで、武装勢力かどうかわからないのに殺してしまうケースがあることは軍自身も認めているのに(同上報告)、たとえばエンドリアルトノ・スタルトという司令官は、将校たちに「やつらを追跡し、せん滅しろ」と命令しています(Agence France-Presse, 2003年5月20日)。ちなみにこの司令官は、いまアチェで復興活動の指揮をとり、国際機関の活動規制を要求している人物。

 ということで、当然ながら多くの人権団体が、国際社会に対し援助はインドネシア政府・軍でなく、確かな支援組織に渡すようにとの切実な声明・要請をおこなっています。

Timor Action Network, ETAN
International Labor Rights Fund, ILFR
Nonviolence International, NI
Forum Asia
など。

 たいした資源も無い(と思われていた)東チモールでさえ手放したくなかったのに、軍がアチェを手放したくないのは、略奪などによる利益体制を維持したいことに加え、ここが天然ガスの産地だからということもあるでしょう。ここではエクソン・モービル社がガス事業を一手に引き受け強大な力を振るい、人権侵害にも大いに加担していますが、ここで出たガスは主に韓国とここ日本に来ています。(ILRF)

 私たちとしては、日本政府に、国連常任事理国入りをねらったような資金援助をインドネシア政府にするのではなく、迅速かつ確実に支援がおこなわれるよう援助の使途を明確にすること、また援助を口実にした自衛隊派遣決定を撤回するよう要求し(asahi.com1月5日)、また、国連などには、一度行われていた政府・武装勢力による和平交渉を軌道に戻し、地域の長期復興に責任をもつよう要求していくことができるでしょう。(ちなみに、根上町役場によると、松井秀喜選手が寄付した5千万円は日本赤十字石川支部へ行ったそう。)

 最後にひとつ。

 インドネシア軍の最大のスポンサーであるアメリカ合衆国政府が、震災援助を口実に軍事援助の再開をとねらっていることも要注目です(99年東チモールでインドネシア軍の住民に対する虐殺行為を非難され、米は軍事援助を一時停止中)。

 すでに、コリン・パウエルが輸送機の部品を援助すると発表しましたが、この地域を長年追っているジャーナリストによると(Allan Nairn)、この輸送機(C-130)をつかって、インドネシア軍がビン・ラディンと関係があるインドネシアのグループのメンバーをアチェ入りさせたと報道されています(FPI,the Islamic Defenders FrontとMMI, the Islamic Mujahadin Council)。(Democracy Now! 1月10日)

 これらグループは、1999年1月にはじまったインドネシアのマルクでイスラム教徒とキリスト教徒の対立を煽って軍の介入を可能にした勢力ですが(結果数千人が死亡)、インドネシア軍は今回アチェでも同じ事をねらっているらしい。FPI、MMIメンバーは、ビン・ラディンのTシャツを着、自分たちはアチェ人だと名乗っているとのことですが、これを受けすでに米国では、こうしたイスラム勢力から援助入りした米軍を守る必要がある、という主張がなされています(民主党のジョン・ケリーも)。

 どうして、そこまでして軍事テコ入れしたいのでしょう?

 あい

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1 コメント

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でも (あきよ)
2005-01-14 17:38:09
でも、このどさくさに「アチェ恩」を売りたいアメリカ(インド洋の米艦船を被災地支援のため東南アジアに派遣した)に、インドネシア政府は「来ないでほしい」って言ってるよね。ほんで、昨日パウエルが「なんで今になってそんな事言うの?」みたいな事言ってなかったっけ?
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