かりなの深夜のお散歩に出掛けた。
最近は姉と一緒だ。
深夜は何か面白い事が起こる。
ウシガエル然り、たぬきの出没、かりながライバルの吻に噛み付いた事件等々。
その日は12時過ぎていた。
かりなが田んぼの手前でおしっこをした。
ふと、顔を上げると田んぼに何か黒い塊が見えた。
後をついて来た姉に見てくるように頼んだ。
あぜ道を歩いて行く姉…
「人だ‼︎」
どうやら、おじさんが倒れている。
姉が声を掛ける。
微動だにしない。
「お姉ちゃん、救急車‼︎」
私が叫ぶ前にすでに携帯で連絡していた。
私はかりながいるので近寄れない。
消防署の人から声掛けをしろと言われたらしく田んぼに降りて声を掛けている。
「大丈夫ですかぁ!」
動かない。
もう1度近づいて、叫ぶ
「大丈夫ですかぁ!」
動かない。
今度は叩いてみろと言われたのか肩をポンポン叩いている。
反応がない…もう1度。
おじさんはガバッと起き上がると、何かを叫んだ。
あ〜、生きてる。良かったぁ。
姉は、消防署の人にお礼を言って携帯を切る。
おじさんは大丈夫だと言い、かりなを見つけると、犬がいると嬉しそうに両手を振る…完全なヨッパライだ。
おじさんはよろけながらも歩けるみたいだ。
聞くと家は200メートル先らしい。
何度もかりなにちょっかいを出す。煩わしい。
もしかして、死んでると思ったさっきまでの心配は何だったのか?
一人で帰れると言うので、そうして貰った。
かりなとヨッパライの両方の面倒は見切れない。
おじさんの後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
とにかく、生きてて良かった。
追伸。
先週の月曜日の夜、父が死んだ。
色々あって大嫌いな父だったので大して悲しくはなかったのだけど。
その2日前の土曜日に、呼び出された。容体が悪くなっていて話も出来ない状態。胃瘻の手術をする予定だったが残念…
少し正気に戻って私の名前を呼んだ。びっくり。
帰りもいつもの「気を付けて帰れよ」と弱々しく言った(私には聞こえた)
お見舞いに行くと必ず帰り際に「気を付けて帰れよ」と言ってたなぁ。
次の日の日曜に、呼び出されると、更に容体が悪く、延命治療をするかしないか問われた。
苦しそうに息も絶え絶えな父を見て、好き勝手に生きたんだからもういいよね…延命治療はしない事にした。
「じゃ、お父さん帰るね」
とても喋れる状態じゃないので帰ろうとしたら父が唸り声を上げた。
きっと、こう言ったんだ…
「気を付けて帰れよ」
次の日の夜、死に目には会えなかった。