テレビのツボ

テレビ番組の中の面白試聴ポイント(ツボ)を探し出し、それらを面白おかしく紹介するブログですε=┏(; ̄▽ ̄)┛

「花嫁の決意」~恋愛は素晴らしい?

2011-04-12 03:39:32 | 大河ドラマ
さてさて、ちょっと遅れましたが、ファンタジー大河『江』のレビューです
初回は総論か総評みたいな感じで書き込みましたが、今回からは基本的に個別レビューとして、適当~なことを書いていこうかと思ってます



今回のツボは「政略結婚=悪」的な、思いっきり現代目線に偏った結婚観の押し付けヽ(´ー`)ノ
そりゃ現代人の感覚からすれば、政略結婚なんて古臭く封建的で、人権意識の かけらもない堕すべき前世紀の遺物みたいなものかもしれない。けど、戦国時代は言うに及ばず、ちょっと昔(昭和の戦前)においてさえ、恋愛結婚は恥ずかしく、はしたないものっていう価値観が一般的だったんじゃないの? なのに『江』ときたら出てくるキャスト(特に女性陣)の誰も彼もが「好きでもない人と結婚するなんてトンデモない!」ていう趣旨の台詞の大合唱で呆れてしまう。しかも、それなりの身分の人達であるにも関わらず、封建時代なら当然あって然るべき「長幼の序」や、女性が男性より一歩控える姿勢などが、まるで見受けられないのもどうかしてる。

現代社会においてさえ、恋愛結婚がご法度だったり、男尊女卑が当たり前だったりする地域や民族は地球上に幾らでもある。戦国時代の有り様を、現代の、しかも人権意識の進んだ民主主義国家の価値観に基づいて描こうとするからチグハグでおかしな展開になる。もっと不条理は不条理として、冷徹に突き放した脚本にした方が、格段にリアリティに富んだストーリーになると思うけどなあ…。あっ、それじゃファンタジー大河にならないか! 視聴者の方が意識変換しなければならないドラマだということをすっかり忘れてた〓

ストーリーの骨格がファンタジーでも、それはそれでいいけど…(いやっ、それは良くない! 大河はあくまで歴史ドラマの王道を貫くべし!っていうコアな大河ファンの声は聞こえないフリ)ならば、ウソを本当っぽく見せてくれないと困る。骨格のみならず、細かい演出までコメディぽいから、全くキャストに感情移入できない。例えば先週なんかでも、茶々の姿を覗き見てる秀吉を見つけた江が「キィー!」とヒストリーを起こし、怒りに任せて秀吉の顔を「猫掻き」(顔に縦数本の爪の跡が残る引っ掻き方)したりしてる。あんな引っ掻き方はマンガかコメディでしか見たことない。今週は今週で、ベテラン女優の大竹しのぶ演じる「ねね」までが、秀吉に対して罵声を浴びせたり、殴り掛かるような狼藉を働いてるし。これじゃまるで鬼嫁の北斗晶かジャガー横田じゃないかいな。理由は「勝手に政略結婚を決めたとか、離縁を決めたとか」云々かんぬん。ねねと秀吉が好き同士で結婚できたのは身分が低かったからで、然るべき身分に生まれた者は実家の都合で政略結婚させられたり離縁させられたりが当たり前だっていうことを理解できないわけ
でもあるまいに。だいたい江の母親のお市の方にしても政略結婚させられた上、婚家を攻め滅ぼされているではないかっ!

ひたすら繰り広げられる恋愛至上主義にいささかウンザリしている時にふと思い出したのは、石坂浩二が30年ほど前に主演していたドラマ『俺はご先祖さま』。
石坂演じる雑誌社のカメラマン白石伴吉のもとにある日、全身を銀ラメ・タイツに身を包んだ謎の女(マリアン)が現れ「あなたは私のひいおじいちゃま。私は未来からやって来たタイムトラベラー!」と訳の分からないことを言う。最初はまともに相手にしなかったが、やがて様々な証拠から、彼女が本当に未来人だと判明するっていうSFファンタジードラマ。
で、このドラマの中でマリアンが恋愛に対して素朴な疑問をぶつけるシーンがあった。というのも、彼女がもともと住んでいた未来社会には、恋愛という概念がなく、恋愛感情を抱くっていうこと自体が理解不能だったからだ。そこで白石は歴史の流れの中で、結婚の形態がどのように変化してきたかを説明する。現代の恋愛結婚。一昔前のお見合い結婚。更に遡って政略結婚。もっともっと、太古の昔まで遡って、花嫁を戦利品として略奪してくる略奪結婚。ここでマリアンは意外なことを言う。「略奪結婚の方が分かりやすくといい」。続けて「なんで恋愛なんて面倒なことするのか分かんない」。
白石は考える。「言われてみればそうかもしれないな。なんで恋愛なんて面倒臭い、訳の分からないことをするんだろう」。
このドラマではやがて、マリアンが白石に対してドキドキする心苦しい思いを抱くようになり、それこそが恋愛感情だと知るっていう予想通りの展開になるんだけど、未来人が20世紀の人間に対してぶつけた素朴な疑問は、非常に示唆に富んでいる。未来と過去を逆にすれば、戦国時代の人間もまた「なんで恋愛なんかするの? 恋愛って、そんなに素晴らしいものなの?」って疑問をぶつけてくるかもしれない。

奇しくも石坂が利休の役で出てるのだから、茶の席で江ら三姉妹に「惚れた晴れたなんて、そんなにええもんではないと思いますんやけどなぁ…」てな台詞を、皮肉っぽく語り掛けてみても面白いと思うけど

それ以外では、江が年齢不詳の設定ゆえの奇妙キテレツさは相変わらず。史実では、江が初めて嫁ぐのは11歳の頃。幼女とは言えないまでも、現代では小学校高学年。その小学生女児が、秀吉に「茶々には決して手を出さない」という念書を書かせたりする。お市の方が秀吉宛に書き遺した遺言の上書きみたいなものだろうが、もちろんこんなものは記録にない。だいたい交渉術の天才である秀吉が、小学生の小娘に振り回されるなんてあり得ない。
姉上を守るために政略結婚に応じるって設定も何だかなあ。自分が去って行ってしまったら、守りようがないではないか。

で、いよいよ江が婚礼のため旅立つ日。乗り込む輿が華やかなピンク色〓 わかりやすい! これぞファンタジー大河の面目躍如! でも本当にこんな色の輿なんてあったの? どうせならカボチャの馬車に乗ってシンデレラ城かコリン星にでも嫁いだ方がしっくり来るんでは?

婚礼の儀の準備の席で、侍女から「夫婦生活の参考に…」って渡された春画を見た江はショックのあまり頭がポポポポ~ン状態に…〓
「まだまだ幼すぎる江なのでした」なんてナレーションはどうなの? キャラが幾ら小学生でも、外見は充分に大人の女性なんだから単なるカマトトぶったイタい女にしか見えない。上野樹里の天然キャラを以てしても、色気が絡んでくる場面では実年齢と設定年齢のギャップは埋め切れないよ~

最後のツボはサブリミナル信長。江が秀吉と対峙した際、一瞬だけ江の顔が信長と入れ替わり、秀吉を睨み付けるというあれ。そのたびに秀吉は恐れおののき、その恐怖から逃れるために江の政略結婚を画策するという設定もオカルトじみている。聞くところによると、トヨエツ信長が本能寺の変で退場してから『江』の視聴率は下降局面を辿っているそうな。そこで幽霊の信長を登場させ、視聴率アップを狙ってるのだという。苦肉の策もここまでくるとお笑い草。もうこうなったら、重厚長大でシビアな正統派路線とは完全に決別し、軽兆浮薄でファンタジックな異端派路線をひたすらばく進して下され〓