書こうか書くまいかと思って放置していたネタなんですが、一応。
これまでの解説だと、ブレーキングから倒し込みの過程では、基本的に「ブレーキングを緩めることでバンク角を深める」方法しか書いてありません。これ、意図的にそうしてたんです。おそらく、この方法がきっちりこなせれば、SSならトミン28秒半ばくらいまでなら比較的容易に到達出来るはずで、「中級」を標榜する記事ならそこまでで充分だろうと思ったからです。この方法では必ずフロントに適度の荷重が残りますので、いきなりすっぽ抜けることもありませんから、リスクが低めでソコソコのタイムを出せるはずです。
そこからタイムを詰めて行くには、直線での加速区間をもっと長く、減速区間を短くしなければなりません。そうなると、これまでの方法だと強いブレーキを使える区間はバイクが起きている区間だけになりますから、バイクをバンクさせて曲がりながらクリップに寄せて行く「待ち」の区間が長くてモッタイない気分になってきます。この区間では緩やかに減速しながら倒し込んでゆくわけなので、安全ではありますがタイム的にはちょっと美味しくない。
なので、最近は比較的強いブレーキングを残したまま強引な逆操舵で倒し込み、クリップ直前でブレーキをリリースしながらセルフステアを使ってクイックに曲げるという手法を多用しています。典型的なのはトミン帝王コーナーですね。この時の逆操舵には結構な力を使っていますが、強めのブレーキングを併用せずに同じ力で逆操舵したら、間違いなくその場でひっくり返るんじゃないかな。こういう強引な逆操舵操作が可能なのは、ブレーキングでフロント荷重を増すことでグリップを高めているからです。
そうそう。この時のフォームですが、体をしっかりインに入れてないと駄目です。リーンアウトは厳禁(後に続く向き換え操作が出来なくなります)。普通、体をインに入れてもブレーキを強くかけている間はバンクしませんが、その状態でフロントのグリップと相談しながら逆操舵をあてて「力ずく」で倒してゆきます。この倒し込み方法ではステアリングがアウトを向きますので、バンク角の割に向きはあまり変わりませんから、進入ラインはこれまでのものより直線的になりますので、当然ラインの組み立ても変わります。向き換えポイントに到達した時点で逆操舵をやめてブレーキをリリース、ステアリングをフリーにすると同時に、ハーフバンク状態のバイクを一気にフルバンクに持ち込みます。この短い時間にステアリングがセルフステアでクルリとインを向きつつ、バイクの向きが大きく変わります。向きが完全に変わってクリッピングポイントの向こうに脱出目標ポイントが見えたら、あとはそこに向かって一直線に全開!です。
このテクニックを使うためには、多少なりとも
・フロントブレーキでフロントタイヤのグリップをコントロール出来る
・自分の狙ったタイミングでセルフステアを効かせてコンパクトに旋回出来る
ことがライダー側の必須条件です。「中級ライディング」で触れなかったのは、これらをまだマスターしていない人がトライすると危ないと思ったからなんです。
危ない理由は、「グリップ変化を感じる訓練が出来ていない人がブレーキング中に逆操舵すると握りゴケする可能性がある」「通常のアプローチに比べて進入ラインが直線状で真っ直ぐインを目指すことになるので、クリップ付近で鋭角な向き換えが出来るだけのテクニックがないと最終的に曲がりきれなくてオーバーランする可能性がある」という2点です。
さて。フロントタイヤのグリップ力のコントロールは、体重の前後移動とフロントブレーキで行います。以前にも書いた式ですが、グリップ力すなわち摩擦力は
F=μN (F:摩擦力、μ:摩擦係数、N:垂直抗力)
って式で決まります。Nってのは、タイヤを地面に垂直に押し付ける力です。つまり、前輪への荷重が高まれば高まるほどグリップは強くなるんですね。前輪への荷重は、体を前に移動する、あるいはフロントブレーキを使うことで可能です。
では実践編。フロントタイヤのグリップ力を感じる練習方法を例示しますね。
まず、ほんの少しでいいのでブレーキを残しながら何度か旋回します。ブレーキを強く引きずらなくても構いません。ブレーキパッドがディスクを「つまむ」程度のイメージで充分です。その旋回を何度か繰り返して体に馴染ませた後で、今度はコーナー手前で完全にブレーキングを終わらせてから、先ほどと同じ旋回円上をアクセルを開けながら旋回してみてください。後者では、しっかり速度が落ちているにもかかわらず、フロントタイヤのグリップが頼りなく感じるはずですし、ラインもどんどんアウトにはらんで行くでしょう(敏感な人なら、アクセル開度が大きくなるとフロントが滑るのに気づくかもしれません)。もし違いが分からなかったら、面倒でも分かるようになるまでとことん繰り返して練習してください。グリップ変化を感じられないなら、グリップ力のコントロールなんて絶対に出来るはずがありませんからね。
フロントタイヤのグリップがわかるようになれば、シメタもの。そこからは、どうすればグリップを高められるか、どうすればグリップを失わなくてすむかを考えるだけでなく、実験して確かめることが出来るようになりますので。
グリップを高める話は書いたので、今度は失わないための話。
簡単に言うと、とにかく「急」がつく操作を避けることが肝要です。
「バイクを速く走らせるためには、速い操作が必要だ」と思っている方は多いと思います。でも、意外とそうでもないんです。確かに上手い人の動きは速く見えますが、よく見ると動き始めと動き終わりは緩やかで、その間が速いんですね。操作の「角(かど)」は丁寧に丸められているはずです。
ブレーキレバーをジワリと握ると、前輪荷重が高まってグリップ力が高まりますから、簡単には滑りません。だから、もっと強くかけられる。そうすると、もっと前輪荷重が高まるので、さらに強くかけられる。そういう好循環を利用してタイヤのグリップを最大限に高めて、制動や旋回に使います。逆に、ブレーキレバーをガツンと握ると、その場でフロントタイヤがロックして握りゴケするのはご存知の通りです。グリップを失わないためには、タイヤの接地面圧や横力に急激な変化を与えないのが大事なんですね。
向き換えのためにセルフステアをつけて行く際には、強めに残していたブレーキをスッとリリースしますが、このリリース速度にも注意が必要です。フロントサスペンションが時間をかけてジワリと伸びるようにストローク速度を管理してやります。ブレーキレバーをパッと急に離してフォークが一気に伸び上がってしまうと、フロント荷重がすっぽ抜けてグリップが一気に低下しますから、その場でコケるかもしれません。
倒し込みの場面で、しっかりフロントサスペンションが沈んでいない状態で素早く倒そうとすると、フロントタイヤがすっぽ抜けて簡単に転びます。特に路面の冷えている冬場だと「何で転んだのかわからない」「気がついたら転んでいた」になっていることでしょう。グリップと相談しながら操作する習慣がある人では、こういう現象はまず起きません。もちろん転ぶことはありますが、転倒の経緯の一部始終はわかっていますからね。
タイヤのグリップはいきなり100がゼロになるわけではなく、イメージとしては100%、95%、80%、60%と徐々に低下してきて、最後に一気にゼロになって転倒という感じです。その変化が感じ取れる人は、限界にどれだけ近づくかを自分でコントロールしながら走れるので、転倒が少ないのです。上手な人は相当のスリップ率でもコントロール出来ます。一方、自分程度の技術だとほんのわずかなグリップ低下を感じだけでもビビリミッターが入るので(笑)、転倒寸前の限界からかなり遠いところで走らせますから、そこの辺りで上手い人と大きなタイム差が出てくるわけです。
余談。ブレーキングGを上手くコーナリングGに受け渡してフォークを沈め続けられなかった場合や、ブレーキリリース完了までに向き換えを終えられなかった場合には、ブレーキがアクセルオンとオーバーラップすることもありますね。「フロントブレーキをかけたままで、アクセルを開き始めている」状態です。しっかりアクセルを開けてリヤ主体の旋回力を出せる状態になるまでブレーキを残してフロントのグリップを確保し、フロントからの旋回を引き出し続けてやるってことです。自分の場合ですと、筑波の1コーナーなどで時々やってますね。このテクニックは上級者の方は積極的に使っている場面があるのかもしれませんが、自分の場合はコーナー前半部分での向き換えが不足していて、アクセルオンでのリヤステアだけでは曲げきれないと思った場合に使っています。ただし、これはブレーキレバーとスロットルグリップを同時に操作するわけなので、慣れていないとちょっと難しいかもしれません。
これを可能にする練習は、シフトダウン時にブレーキレバー入力を一定にしたままでアクセルを煽って回転を合わせる、いわゆる「ブリッピング」操作が最適でしょうね。これが無意識に出来る方なら、ブレーキとアクセルのオーバーラップはそんなに難しくないはずです。自分の場合はステアリングの押し引き操作は「片山敬済式」で、左手1本で集中的にやるように練習しており、右手は比較的自由にしやすいため、この操作がやりやすくなっているという側面もありますね。
当たり前ですが、バイクは2つのタイヤで走る乗り物ですから、速く走る、あるいは安全に走るためには、2つのタイヤのグリップを最大に引き出すことに常に注意を払う必要があります。近年のタイヤの進歩は素晴らしいので、グリップに注意を払わなくてもタイヤ任せでかなりのタイムを出すことが可能ですが、そういうアプローチだとあるタイムに達した時点で急に転倒率が高まります。「運が良ければベスト更新、運が悪ければ転倒」って具合です。そういうアプローチは社会人の趣味としてはあまりよろしくないので、体のためにも財布のためにもタイヤのグリップを感じる訓練をするのが良いと思います。転倒は自分だけの問題ではなくて、一緒に走るコース上の仲間を怪我させる可能性もあるものですから、極力防ぐようにしたいですね。
蛇足ですが、自分のタイムを1段階引き揚げたいときに、「自分より少し速い人について行く」という方法をとる方も多いと思います。でも、これをやるときには注意してくださいね。この方法が使えるのは、タイヤのグリップにまだまだ余裕がある時だけです。タイヤのグリップが限界でタイムが伸び悩んでいる場合、自分よりも速い人について行くとコケるかオーバーランするかのどちらかになる危険性があります。上手な人は、タイヤのグリップを上手に高めて旋回する技術がありますので、同じバイク、同じタイヤ、同じ速度で進入してもはるかに高い旋回性能を引き出すことが可能だったりします。その技術がない人がうっかりついていくと酷い目に遭うことがありますから、気をつけましょう。
久々にきましたな
中級ライディング!
友達だから
楽しみにしてます!
よ(笑)