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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

12/30(金)川﨑室内管弦楽団「結成演奏会」は毛利文香と田原綾子のモーツァルトのコンチェルタンテが秀逸

2016年12月30日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
川﨑室内管弦楽団 結成演奏会【昼公演】

2016年12月30日(金)14:00〜 藤原洋記念ホール 指定席一般 1階 2列 10番 5,000円
指 揮:坂入健司郎
ソプラノ:中山美紀*
ヴァイオリン:毛利文香**
ヴィオラ:田原綾子**
管弦楽:川﨑室内管弦楽団
【曲目】
モーツァルト:モテット『踊れ、喜べ、幸いなる魂よ』K.165(158a)*
モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364**
《アンコール》
 モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 第1番 K.423より 第2楽章**
モーツァルト:交響曲 第41番 ハ長調 K.551『ジュピター』

 今年最後のコンサートは、年末もかなり押し詰まった12月30日、川﨑室内管弦楽団の「結成演奏会」というもの。このオーケストラは、音楽監督の坂入健司郎さんが中心となって新たに結成されたもので、国内外のプロの器楽奏者が集まって、と紹介されているが、実際はプロ奏者ならびにすでに演奏活動を行っている音楽大学生・大学院生などで構成されているようだ。メンバーは、第1ヴァイオリン6、第2ヴァイオリン6、ヴィオラ5、チェロ4、コントラバス3、フルート1、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ1、オルガン1となっている。本日の「結成演奏会」はオール・モーツァルト・プログラムなので、それに合わせたメンバー構成といったところだろう。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンを両翼に対向配置し、第1の奥にチェロ、第2の奥にヴィオラという配置だ。すなわち、高音域と低音域の主声部が左側、内声部が右側と言う風に分かれる。これだと内声部がはっきり聞こえてくるというメリットがある。ただし、コントラバスは管楽器の後方、最後列に配置されていた。
 本日の「結成演奏会」は昼・夜の2回公演(プログラムは同じ)となっていて、さすがに12月30日では一般の聴き手側にはスケジュール的にツライものがある。しかも5,000円というチケット価格は、事情は分かるが聴き手側にしてみればいささか高い。私はできれば昼・夜両公演を聴きたかったが、さすがに諸事情あってムリ!! だから昼公演のみを聴かせていただくことにして、これを今年最後のコンサートとすることにした。

 坂入さんは1988年、地元川崎市の生まれで、慶應義塾大学経済学部を卒業し、指揮法は井上道義氏、小林研一郎氏、三河正典氏、山本七雄氏らに学んだという。現在は東京ユヴェントス・フィルハーモニー(慶應義塾大学のオーケストラ)の音楽監督を務める傍ら、2015年「かわさき産業親善大使」に就任、「“音楽のまち”川﨑から世界に発信すること」を目指して、川﨑室内管弦楽団を結成するに至ったとのことである。

 曲目は上記の通りオール・モーツァルトで、人気のある名曲を集めていて「結成演奏会」に相応しいゴージャスな内容になっていると同時に、素晴らしいソリスト達を招いている。
 「モテット『踊れ、喜べ、幸いなる魂よ』K.165(158a)」のソリストは、ソプラノの中山美紀さん。現在、東京芸術大学大学院音楽研究科修士課程声楽(独唱)先行3年次に在籍している。主に宗教曲の分野で活動しているとのことで、私としては関心の薄い分野ということもあってか存じ上げなかった。

 「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364」は、モーツァルトの中では最近最もお気に入りの曲なので、聴けるだけでも嬉しい。ソリストはヴァイオリンが毛利文香さん、ヴィオラが田原綾子さんである。
 毛利さんは桐朋学園大学の音楽学部ソリストディプロマコースを修了しているが、現在は慶應義塾大学の文学部に在籍していて、東京ユヴェントス・フィルのコンサートミストレスも務めている。2015年9月より、ドイツ・クロンベルクアカデミーに留学中でもある。川﨑室内管弦楽団のコンサートマスターにも名を連ねていて、本日の「結成演奏会」ではソリストを務めると同時に、後半の「ジュピター」ではコンサートマスターを務めた。
 田原さんは桐朋学園大学音楽学部4年に在学中だが、今年2016年の10月からはバリ・エコールノルマル音楽院に留学が始まり、日本とフランスを行ったり来たりして、しかも室内楽を中心にかなりの演奏会に出演し、大変ハードなスケジュールをこなしている、ある意味で売れっ子のヴィオリストである。毛利さんとは「エール弦楽四重奏団」や「ラ・ルーチェ弦楽八重奏団」を始めとする様々なシーンで共演している。本日の「結成演奏会」ではソリストを務めると同時に、後半の「ジュピター」ではオーケストラの一員として、ヴィオラのトップサイドで演奏した。

 会場は「藤原洋記念ホール」。慶應義塾大学日吉キャンパス(横浜市港北区)内、協生館の中にある2階構造/510席の多目的ホールだが、音楽ホールとしても設計されていて残響時間は満席時1.6秒前後。実際に聴いてみると、残響は長くはないが、スッキリした自然な響きで、なかなか良い音響である。2008年にできた新しいホールであり、まだ新築の匂いが残っている感じだ。東急東横線・目黒線の日吉駅を降りてすぐのところにあるので、アクセスは非常に便利である。座席は2列目だったが、予想していた通り1列目は使用していなかったので事実上は最前列で聴くことになった。

 さて肝腎の演奏についてレビューしていこう。
 1曲目は「モテット『踊れ、喜べ、幸いなる魂よ』」。初めて聴く川﨑室内管弦楽団の演奏は、引き締まった弦楽のアンサンブルとオーボエやホルンの質感が高く、確かにプロ・レベルのものだ。坂入さんの音楽作りは結構ダイナミックなもので、かなりメリハリを効かせ、音量も出ていて、かなり躍動的なモーツァルトを創り出していく。テンポは中庸からやや遅めだろうか、そのためにアンサンブルがしっかりと構築されているが、音楽の流れはスムーズだ。
 中山さんの歌唱は、清純なイメージのクセのない声質。尖ったところがなく、まろやかで優しい感じがする。高音域も素直に出ていて、「ハレルヤ」のコロラトゥーラの技巧的な装飾も安定的にこなしていた。声量も十分で、ホールの大きさと室内オーケストラの音量を考えれば、優れたバランス感覚を持っていると思う。素敵な歌唱であった。

 2曲目は「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」。今年、この曲を聴くのは3度目になる。ほぼ1年前にあたる今年2016年1月に、ひとつは「S&R財団 15周年記念 ワシントン賞受賞者コンサート」で川久保賜紀さんのヴァイオリン、オリ・カムさんのヴィオラ、ナビル・シェハタさんの指揮する紀尾井シンフォニエッタによる演奏。もうひとつは「フレッシュ名曲コンサート/ニューイヤー・スペシャル・コンサート」で藤原浜雄さんのヴァイオリン、そしてお弟子さんに当たる田原綾子さんのヴィオラ、小林研一郎さんの指揮する読売日本交響楽団の演奏であった。つまり、田原さんにとって今年は、このモーツァルトのコンチェルタンテで1年が始まり、1年の最後を締めるのもコンチェルタンテなのであった。そして実は、田原さんは11月にもCHANEL Pigmalion Daysの土岐祐奈さんのリサイタルにゲスト出演して、このコンチェルタンテをピアノ伴奏で全曲演奏している(残念なことに私は聴けなかった)。ヴィオリストにとっては数少ない協奏曲の名曲を1年に3回も演奏する機会に恵まれるということは、音楽界において常に多くの演奏家から求められる存在になっていることの証しでもあろう。
 演奏の方は、何と素晴らしいものであったか。
 毛利さんも田原さんも、先日の「江副記念財団 リクルートスカラシップコンサート」でも一緒だったが、この年代の演奏家たちの中でまさにトップ・クラスであることは間違いなく、学生の身分でもあり勉強中であることも確かだが、演奏家としてもプロ・レベルであることもまた確かなのである。今日の演奏では、二人の息がピッタリと合っているというだけでなく、描こうとする音楽が一致していて見事なくらいな一体感のあるデュオを形成していた。旋律の歌い方もリズムの流れもピタリと合っていて、その中でヴァイオリンとヴィオラの音色の違いと1オクターヴの音程の差が鮮やかなコントラストを生み出している。この曲は、ヴァイオリンとヴィオラが完全に同等に扱われているために、奏者間に技量の差があったり、解釈や表現に隔たりがあったりすると、かなり目立ってしまう。ヴァイオリンとヴィオラが乖離してしまうのだ。
 今日の演奏は、二人のソリストが後半にはオーケストラの奏者に加わったことなどもあり、ヴァイオリンとヴィオラとオーケストラが緊密なアンサンブルを生みだし、その中での役割分担を明瞭にしていて、同じ方向性の音楽を創り出すことに成功していた。ガチンコでぶつかる協奏曲も面白いが、少なくともこの曲は協奏交響曲(シンフォニア・コンチェルタンテ)なのであるから、ひとつの方向性でシンフォニックな音楽を創ることが望ましいと思う。その意味でも、素晴らしい演奏であった。
 第1楽章は協奏風ソナタ形式のAllegro楽章。主題の提示部はまずオーケストラだけで始まるが、やや遅めのテンポでしっかりとした造形を打ち出している。最初から毛利さんは第1ヴァイオリンのパートを、田原さんはヴィオラのパートを一緒に弾いているが、二人の演奏はオーケストラに見事に溶け込んでいる。やがてソロのヴァイオリンとアヴィオラがオーケストラから離れて協奏曲として展開していくようになると、鮮やかに浮き上がってくる。毛利さんのヴァイオリンはやや線を細めにして艶やかでしなやかなのに対して、田原さんのヴィオラは大らかで伸びやかなイメージ。だが基本的にはオーケストラの弦楽と同質の色彩感を保ちつつ、ソリストとしての張りの強さ、押し出しの強さで浮き上がられているのだ。ソロのヴァイオリンとヴィオラは同じ音型のフレーズを追いかけるように交互に弾いていくので、音色と1オクターヴの音程の違いが美しい対比を描き出している。この曲でも時としてヴィオラは性格上控え目にになりがちだが、田原さんが明瞭に押し出すので、ヴァイオリンとの対等を保っている。カデンツァも息がピッタリ。見事なものである。
 第2楽章はハ短調の緩徐楽章。オーケストラの序奏に続いて、ヴァイオリンとヴィオラが、憂いを秘めた抒情的な主題を交互に歌わせて行く。絡みつくように旋律を描き出すヴァイオリンとヴィオラが、とても悩ましげな情感をそそる。オーケストラ側もけっこうメリハリを効かせていて、あたかもロマン派のような情感たっぷりの演奏であった。この楽章もソナタ形式で、カデンツァがある。
 第3楽章はロンド。Prestoで軽快、陽気で迷いのない音楽である。ホルンが活躍する。A-B-A’-B’-A’のAの部分はオーケストラが中心。Bの部分ではヴァイオリンとヴィオラが弾むような主題とそれに続く下降系の3連符の連続する部分で生き生きとして流れるような推進力を描き出しているところが実に素敵だ。A’以降はヴァイオリンとヴィオラが主導してオーケストラと協奏していく。ソロを弾く二人は、実にノリが良く、楽しそう。音楽が好きで、この曲が大好きで、演奏する喜びのエネルギーが、聞こえてくる音楽にいっぱい詰まっているように感じた。この楽章はとくに、指揮者も若く、オーケストラもできたばかりで若い奏者中心、ソリストふたりも若く、はち切れんばかりの生命力に溢れ、聴く側にもそのエネルギーが伝わり共振していく。素晴らしい演奏だった。Bravo!!間違いなし。

 毛利さんと田原さんのソリスト・アンコールは、モーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 第1番 K.423」より第2楽章。普通はヴァイオリンの主旋律に対してヴィオラが伴奏するイメージになるものだが、ここでも繊細優美な毛利さんのヴァイオリンに対して田原さんのヴィオラが豊かに押し出し、両者を対等のバランスにする。田原さんの主張するヴィオラがなかなか良い。

 プログラムの後半は「交響曲 第41番 ハ長調 K.551『ジュピター』」。若い頃から慣れ親しんできた名曲中の名曲だが、どういうわけかコンサートでの演奏を聴く機会が少ない。今年2016年4月に読売日本交響楽団の名曲シリーズで聴いているのだが、その前は5年前に遡ってしまう。これだけオーケストラのコンサートを聴いていても、5年間もこの名曲に当たらないのは、オーケストラにとっては扱い方の難しい曲だからなのかもしれない。今日のように、オール・モーツァルト・プログラムであれば、オーケストラのコンサートのメイン・プログラムに相応しい大曲なのだが・・・・。毛利さんがコンサートマスターに、田原さんがヴィオラのトップ・サイドに加わったため、第1ヴァイオリンが7名、ヴィオラが6名に増えている。
 坂入さんの解釈は、下手な小細工はせずに、ストレートでスタンダードなものだ。室内オーケストラという少数精鋭による緻密なアンサンブルと、瞬発力、キレの良いリズム感などを活かし、ダイナミックでメリハリの効いた演奏はしているが、やや遅めのテンポで重厚に響かせる。無機的なインテンポにはせずに、旋律を豊かに歌わせ、人間味の情感に溢れた音楽を創り出していた。
 第1楽章は明快なハ長調による堂々たるソナタ形式。豪華絢爛で神々しいばかりの響きを持つ楽章で、まさに「ジュピター」の名に相応しい(木星ではなくてローマ神話の主神の方)。若い指揮者で、小編成の室内オーケストラでモーツァルトの交響曲を演奏するのであれば、速めのテンポで切れ味鋭く、シャープな演奏をするのかと思いきや、坂入さんは遅めのテンポでドラマティックな描き方を打ち出す。あたかも20世紀の巨匠たちの音楽のように。弦楽が思いの外力強く少人数であっても管楽器やティンパニとの音量バランスも良い。ホールの音響も適度で、音がクリアに響き、清涼感のある演奏になっていた。
 第2楽章は緩徐楽章。ここでもやや遅めのテンポを採り、主題をゆったりと歌わせて行く。その響きは濃厚。音の響きだけで言えばロマン派の香りさえ漂って来る感じだ。美しくレガートがかかり、縦の線をあえて明瞭にせずに旋律を歌わせて行く。
 第3楽章はメヌエット。しかし曲想は古風な舞曲風ではなく、あくまでシンフォニックなものだ。テンポは中庸からやや速めだろうか。ハッキリとしたリズム感を主張せずに、柔らかなレガートに覆われた極上の響きである。
 第4楽章。C-D-F-Eのいわゆる「ジュピター音型」を中心にいくつかの主題がフガートを形成しながら対位法的に絡み合うという複雑怪奇な構造を持つ。天才モーツァルトの天才を集大成したような極め付けの楽章である。演奏は、個々の主題の絡み合っているのを解きほぐすような丁寧さがあり、それぞれの主題がけっこう明瞭に聞こえてくる。リズムを刻むホルンとトランペットも出しゃばらず、ティンパニも決して軽くならないように、それでいて推進力を打ち出すようで素晴らしい。だが何と言っても第1ヴァイオリンを中心に弦楽が複雑な構成を緻密なアンサンブルとキレの良い演奏で見事にまとめ上げていた。コンサートマスターの毛利さんのチカラによるところが大きかったと思われる。
 今日の「ジュピター」は、想像していた室内オーケストラの響きを遥かに凌駕していた重厚さに驚かされた。川﨑室内管弦楽団の「結成演奏会」としては大成功だったと思う。初顔合わせでこれだけのアンサンブルを創り出せるのであるなら、メンバーが変動していかなければ今後の活動次第では素晴らしいオーケストラに発展して行くに違いない。

 終演後は、それぞれの出演者たちを囲む姿が見られた。年末の押し詰まった12月30日で、日吉のホールでのコンサートでは、なかなか一般の音楽ファンを動員するのは難しい面もあったと思う。従って関係者の来場が多かったようなのだが・・・・。昼公演はこれで終了となったが、本日もう1回、夜公演がある。昼公演を聴いた上で、できれば夜公演も聴きたくなった。2度目はもっと素晴らしい演奏になると思われるからである。しかし所用があるために断念した(画像は終演後に撮影したもののため、オーケストラ用の黒の衣装)。


 これにて、2016年のコンサートはすべて聴き終えた。今年最後といったところで、1週間もすれば次のコンサートが待っているわけだが、一応は区切りとしたい。12月の後半はいつもよりはコンサートが多く、ハードなスケジュールとなってしまい、聴いているだけとはいってもヨレヨレになってしまった。しかし連日であっても、大好きなアーティストの演奏会ばかりが続いたので、ひとつひとつのコンサートがとても楽しかった。仕事やプライベートで疲れた身体を引きずってコンサートを巡っているのだが、それが可能となっている環境にいられることに感謝したい。いつまで続けられるかは分からないが、取り敢えずは新しい年もまた、多くのコンサートが待っている。素晴らしい演奏に出会えることを願って止まない。

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