Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

4/11(金)読響/気楽にクラシック/憧れの国スペインへの音楽紀行を梅田俊明と川久保賜紀が情熱的に

2014年04月13日 03時10分46秒 | クラシックコンサート
読売日本交響楽団 気楽にクラシック ~ヨーロッパ音楽紀行~
第1回 憧れの国、スペイン


2014年4月11日(金)20:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 3列 15番 4,250円(上期会員価格)
指 揮: 梅田俊明
ヴァイオリン: 川久保賜紀*
管弦楽: 読売日本交響楽団
ナビゲーター: 中井美穂(アナウンサー)
【曲目】
シャブリエ: 狂詩曲「スペイン」
ラヴェル: 道化師の朝の歌
サラサーテ: アンダルシアのロマンス 作品22-1*
サラサーテ: カルメン幻想曲 作品25*
ビゼー: 「カルメン」第1組曲
リムスキー=コルサコフ: スペイン奇想曲 作品34

 読売日本交響楽団の今季から始まった新シリーズは、「気楽にクラシック ~ヨーロッパ音楽紀行~」と題して、毎回ひとつの国をテーマにして、ヨーロッパの各国を巡るというもの。第1回は「憧れの国、スペイン」ということで、ヨーロッパの国々、あるいは人々から見ると、異国情緒に溢れるスペインは憧れの国らしい。そこでスペインの作曲家を採り上げるのではなくて、むしろ他の国の作曲家がスペインを描いた曲を採り上げ、ヨーロッパに広がるスペインへの憧憬を描き出していこうというのが本企画第1回の狙いである。
 また、本企画は通常の定期シリーズとは異なり、昨年度(2013年4月~2014年3月)に開催された「読響カレッジ」の後継シリーズで、20時始まりで1時間程度の休憩無しのコンサートに、20分ほどのレクチャー付き。選曲の内容的にも入門者向けということができ、つまりは仕事帰りのサラリーマンやOLさんたちに、「気楽にクラシック」を、というわけだ。シリーズは年6回である。主旨はそういうことなので、私としては今さら、という感じがしないでもなかったが、大好きな川久保賜紀さんが初回から登場することになっていたので、とりあえず上期会員になって最前列の席を確保したという次第であった。

 さて、演奏は20時からだが開場は19時。そして19時30分から20分程度のレクチャーがホールで行われた。従って大部分の人が19時30分には着席していた。ナビゲーターはフリー・アナウンサーの中井美穂さん。今回は、指揮者の梅田敏明さんと打楽器奏者の野本洋介さんを交えて、スペイン(風)音楽に欠かせない独特のリズムについて、実演を交えながらの解説が行われた。例えば、2拍子のリズムに3拍子をかぶせる、あるいは3拍子のリズムに2拍子を重ねる、こうすることでスペイン風のリズム感が生まれてくることを、聴衆の手拍子で実演した。これは中々面白かった。今日演奏されるシャブリエやラヴェルの曲にこのようなリズムが使われているのだという。こうした簡単なアナリーゼにも、素人の私たちは「へー」と感嘆の声をもらす。クラシック音楽は、やはり多少は勉強した方がより楽しめる。作曲家の私生活や時代背景などを研究した文献情報も音楽を解釈する上では大切な要素だが、聴くだけの私たちにとっては、ツボにはまった音楽理論というのが、けっこう興味深く感じられるのである。

 1曲目はシャブリエの狂詩曲「スペイン」。早速、さきほど教わったスペイン風のリズムが登場する。そこに、やけに陽気な管楽器を中心としたいかにもスペイン風の旋律が被さっていく。だがもちろん、シャブリエはフランスの作曲家である。フランスから見たピレネー山脈を越えた向こう側のイメージは、煌めく陽光と情熱的な人々の息遣い・・・・。梅田さんの指揮する読響の演奏は、いかにも読響らしいストレートで馬力のあるもので、楽団員の皆さんも楽しそうに演奏していた。

 2曲目は、ラヴェルの「道化師の朝の歌」。元はピアノ曲の管弦楽編曲版である。ラヴェルにはスペインのバスク地方の血が流れていてスペインの民族的な色彩はより濃厚になってくる。ファゴットが暑さにうだる夏の気怠さのように歌うかと思えば、変則的なスペインのリズムがここでも登場し、ズラリと並んだ打楽器奏者がリズムを強烈に後押しする。演奏はメリハリがかなり強烈で、ダイナミックレンジが極端に広い。ただでさえ馬力のある読響が、打楽器を含めてエンジン全開で演奏すると、最前列ではもう、音楽を通り越して風圧さえ感じられくらい、スゴイ。

 3曲目は、ゲストの川久保賜紀さんを招いて、サラサーテの「アンダルシアのロマンス」。賜紀さんは、2002年のチャイコフスキー国際コンクールで最高位(1位なしの2位)を獲得していることがよく知られていて、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のイメージが強いが、実はその前年にサラサーテ国際ヴァイオリン・コンクールにも優勝している。もともとサラサーテを初めとするラテン系も強いのである。賜紀さんがラテン系を演奏する時は、ロシアものやドイツものを演奏する時の流麗なレガートを効かせたエレガントな演奏とはちょっと趣が変わる。流麗であることは変わらないが、アクセントがキリッとしてリズム感が明瞭になるのと、旋律の歌わせ方が踊るようなリズム感に乗るようになるのだ。曲想も手伝って、この曲の演奏では、暑い空気感の中で妖艶な色気がムンムンと漂うようであった。(写真は今年の1月26日、上野学園石橋メモリアルホールでのコンサートの時のもの)

 続いて、サラサーテの「カルメン幻想曲」。こちらは誰でも知っているビゼーの歌劇『カルメン』に名旋律を、オーケストラと超絶技巧のヴァイオリンがこれでもかとばかりに繰り出してくる曲。意外に遅めのテンポで梅田さんが読響をドライブしていくと、賜紀さんのヴァイオリンは一段と妖艶さを増し、むしろ暑苦しいような、苛立ちを含んだような情熱的な側面を見せていく。次々と繰り出されてくる超絶技巧のカデンツァは、もう上手い下手を超越した、カルメンの苛烈な感情を描き出した標題音楽的な表現にも思えた。ハバネラの部分などでは、低音部でガリガリっとした強烈さをむき出しにしたり、フラジオレットの音色がイライラするような不快感を描いたりもする。その多彩な表現には舌を巻く思いだ。ハバネラの終わりで音楽が一旦途切れると、お約束(?)のように拍手が入ってしまった。梅田さんが左手でそれを制止せさ、セギディーリヤへと続く。この辺りの賜紀さんのヴァイオリンは、切なく、苦しげでもあり、もちろんヴァイオリンを「泣かせて」いた。ジプシーの歌からフィナーレまでは、かなりメリハリを効かせたダイナミックのレンジの広い演奏で、強弱も明暗もクッキリしていて、超絶技巧を絡めつつ強烈な推進力で押し切った。読響の演奏も素晴らしくリズムに乗った良い演奏であった。賜紀さんのヴァイオリン、途中でちょっと怪しいところがあったりもしたが、ラテン系にふさわしい、細かいところは気にせずに、むしろ一筋縄ではいかない女“カルメン”の奔放で情熱的なイメージを前面に押し出した演奏になっていた。会場からBravo!!の声が飛び交ったことは言うまでもない。

 次は、オーケストラ版で、ビゼーの「カルメン」第1組曲。ひとつのコンサートで、「カルメン」を2曲演奏すると言うのも珍しい。企画コンサートならではといったところだ。コチラの方はヴァイオリン協奏曲風の編曲は違って完全なオーケストラ版。従って、読響の演奏は一切の抑制を取り払ってエンジン全開である。音量的には、サラサーテの時の2倍以上出ていたのではないだろうか。全合奏時の音量は途方もないレベルであった。はっきり言ってウルサイくらい(失礼)。間奏曲のフルートのソロ部分などは、早めのテンポでスイスイと進め、緊張感を高めに保っていく。セギディーリャから第2幕の間奏曲。そしてフィナーレとなる第1幕の前奏曲まで、梅田さんの指揮は極めて歯切れがよい。明快にリズムを刻み、読響の機能性を最大限に活かした爆発的な演奏であった。

 最後は、リムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」。寒いロシアから見れば、本当に暑く遠い憧れの国なのかもしれない。スペイン民謡が多用されているのに、陽気で情熱的に描ききれない感じがする。その屈折した感じが、ロシアから見た「憧れ」になるのだろう。途中随所に現れるヴァイオリンのソロは、コンサートマスターの小森谷 巧さんが軽快に演奏した。それはそれで良いのだが、せっかくいらしているのだから、賜紀さんに弾いてもらえば良かったのに、などと余計なことを考えてしまったのは私だけ(?)だろうか。
 それにしても読響の演奏能力は高い。各パートの演奏は鮮やかで色彩的であったし、管楽器群がどんなに鳴っても負けない弦楽の強さも素晴らしい。爆発的な音量の全合奏の時でも、バランスが意外にしっかりしている。また、今日の演奏はスペイン(風)音楽の特集ということもあって、リズム感のノリが良かった。迫力満点で、聴いていて気分が爽快になる演奏である。細かいことを言えば、多少荒っぽいところがあったのだが、それも読響の持ち味といったところではないだろうか。とにかく、楽しいコンサートであったことは間違いない。

 余談になるが、今日の第2ヴァイオリンの首席は瀧村依里さん(契約団員)であった。瀧村さんといえば、昨年2013年8月に、「CHANEL Pygmalion Days」のシリーズでリサイタルを聴いた人である(CHANEL Pygmalion Days ARTISTSとしては2010年に参加)。東京藝術大学からウィーン留学を経て昨年帰国。契約団員というのは微妙な感じだが、多少でも知っている人が読響に加わったのは嬉しい。今日は最前列で聴いていたので、第2ヴァイオリンの首席はほぼ真正面に見えていた。終始微笑みをまじえながら楽しそうに演奏していたのが印象的。読響のヴァイオリンに新しい風を吹き込んでくれるかもしれない。今後の活躍に期待しよう。

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