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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/26(水)第80回 日本音楽コンクール 本選会《チェロ部門》/第1位は岡本侑也、第2位は上村文乃

2011年10月27日 01時03分44秒 | クラシックコンサート
第80回 日本音楽コンクール 本選会《チェロ部門》
THE 80th MUSIC COMPETITION OF JAPAN "CELLO"


2011年10月26日(水)17:00~ 東京オペラシティコンサートホール 自由席 1階 3列 17番 2,000円
指 揮: 山田和樹
管弦楽: アンサンブル of トウキョウ
【課題曲】
ハイドン: チェロ協奏曲 第2番 ニ長調 Hob.VII b-2(Henle版を使用/カデンツァは自由)

 先日に引き続いて、日本音楽コンクールの本選会、今日はチェロ部門である。2005年までは隔年の開催、それ以降は3年に1度の開催となっている。最近の優勝者を見ても、2002年が遠藤真理さん、2005年が宮田大さん、というように皆さん活躍されている。
 チェロ部門の本選会は課題曲が決まっているので、本選会に進んだ4名が全員、ハイドンのチェロ協奏曲ニ長調を演奏することになっていた。従って、今日はソロ奏者を変えて同じ曲を4回聴くことになった。これも初めての体験。コンクール本選会ならではのコンサートである。
 曲は18世紀後半のものでチェロ協奏曲のカタチにはなっているが、本来、独奏チェロと協奏するのは、オーケストラというよりは室内楽規模の管弦楽合奏である。今日の演奏会では、室内オーケストラの規模で、「アンサンブル of トウキョウ」がバックを務める。編成は、第1ヴァイオリン7、第2ヴァイオリン5、ヴィオラ4、チェロ3、コントラバス2、オーボエ2、ホルン2、と極めてコンパクトである。指揮は、今売り出し中の山田和樹さん。おっかなそうな先生よりも、ほんわかしたムードの山田さんとの協奏曲なら、ファイナリストの皆さんも演奏しやすいのではないだろうか。
 第1楽章は協奏風ソナタ形式、第2楽章と第3楽章はロンド。各楽章とも明快で優雅な曲想で、サロン音楽的である。第1楽章の終盤にカデンツァがあり、ここが自由な演奏となっているだけに、評価のポイントになりやすい部分でもある。
 今日の座席も、偶然にも先日の《ヴァイオリン部門》と同じ、1階3列17番で、最前列・指揮者の真後ろである。ステージ下のソリスト用のカメラは、今日は左側にあった(ソリスト正面)。

 今日もまた、時系列的にレビューをしていくことにする。
●加藤陽子(東京藝術大学大学院修士課程修了)
 コンクール本選会の1番手はかなり緊張するのだろうか。加藤さんも出だしからどうもぎごちなく、楽器が鳴り出さない様子。いわゆる肩に力が入ってしまっていて、音が固いし音量も足らないようだった。第2楽章(緩徐楽章)はアタマからチェロが入ってくるのに、今度は音が大きめ。楽器は豊かな音量で鳴り出したものの、オーケストラとのバランスが崩れがち。周りの音が耳に入っていないような感じであった。全体的に「楽器の音」そのものが聞こえている感じで、演奏者の音が出ていないように思えた。実力的にはこんなものではないと思うのだが…。

●上村文乃(桐朋学園大学ソリストディプロマコース3年在学中)
 上村さんは本プログにもたびたび登場してきた方で、多少の面識もあるので、ちょっとひいき目になってしまうのはお許しいただくとして…。第1楽章の主題提示部が始まると、オーケストラの音楽を受け止めていく雰囲気が感じられる。指揮者だけでなく、コンミスさんの方も見たりしながら、音楽の流れに乗って、その上でソロが入ってくるから、実にスムーズ。チェロの音は最初から音色が素晴らしい。1音1音を表情豊かにしっかりと弾いているし、細やかなニュアンスが与えられていて、フレーズがしっかりと歌っている。カデンツァも超絶技巧を披露するというタイプではなく、表現の幅の広さや自在さを狙ったもののようだった。
 第2楽章は控え目のソロがオーケストラによく溶け込んだアンサンブルの美しい緩徐楽章で、その中で艶やかな音色のソロが自然に浮かび上がってくる。室内楽的な美しさだ。第3楽章のロンドは、逆にチェロがオーケストラをリードしていくように、くっきり明瞭な音色とリズム感を描く。チェロからオーケストラへと主題を引き渡す際の間合いの取り方がうまく、山田さんも思わずチェロのペースの巻き込まれていくようだった。

●三井 静(桐朋学園大学2年在学中)
 第1楽章のソロが始まるところから、メリハリの効いた弾力のある音が響く。二人続いた女性の後だけに、男性はやはり力強いなァ、と納得。全体的に音量が大きいのは良いのだが、協奏曲といってもオーケストラは25人の室内小編成だし、弱音部分でもけっこう大きな音が出ていた。後方の審査員席ではどう聞こえたか解らないが、最前列だとちょっとやりすぎかな、と。カデンツァは重音や複雑な音型の中に主題を練り込んだ高度なものだった。技巧的にも素晴らしい。
 一方、第2楽章ではチェロの音が大きめで押し出しが強すぎる感じ。第3楽章は強く弾こうとする意識がリズム感を乱しているように聞こえた。全体的に、表現のニュアンスを音量の大小と強弱に委ねているようなところがあって、メリハリはハッキリしているのに、何かスパイスがひとつ足りないような気がした。うまく弾こうとし過ぎているのかもしれない。

●岡本侑也(東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校2年在学中)
 4人の中で一番若い高校2年生。その演奏は屈託がなく伸び伸びとしていて聴いていて気持ちがよい。第1楽章のような明るく楽しげな曲想では、実にノリの良い演奏を聴かせていた。カデンツァは重音をうまく使い、複雑に表現や速いパッセージなど、技巧も見事である。第2楽章はこれまた音が大きめだったのが気になった。第3楽章はリズム感良く、やはりノリの良いまま最後まで弾ききった。音色も演奏スタイルもとても素直で好感が持てるが、反面、平均的すぎ、音質が一本調子だったかもしれない。もう少し音色に多彩さがほしいところだ。

 4名の演奏を聴き終わってみると、全く同じ曲であるだけに、その個性の違いは一目(一聴)瞭然であった。個人的には、上村さんが楽曲の解釈も演奏の仕上がりも抜きん出ていたように思う。これはひいき目に見なくても、である。
 審査は本選会の結果だけではなく、第2予選の特典も加算されるので、今日の演奏だけで順位が決まるわけではない。皆さん既に演奏活動をされている方たちとはいえ、若いが故に経験の差がものを言うこともあるだろうし、コンクールには運の良し悪しも影響するから、すべての人に公平になるものでもないだろう。今年の日本音楽コンクール《チェロ部門》は3年ぶりの開催であり、1次予選の参加者は76名ということだ。
 さて、本選会の結果は以下の通りとなった。

 ■第1位 岡本侑也
 ■第2位 上村文乃
 ■第3位 三井 静
 ■入 選 加藤陽子
 ※岩谷賞(聴衆賞)岡本侑也

 というわけで、チェロ部門の予想はハズレてしまった(予想では1位と2位が逆だった)。
 いずれにしても、4名とも素敵な演奏だった。おそらく、今後余程のことがない限り聴くことがないであろうハイドンのチェロ協奏曲ニ長調を4回続けて聴いて以来、この曲がアタマの中に住み着いてしまって離れなくなってしまった。私たち門外漢は演奏家の方々の悲喜こもごもはあまりよく解らないが、それでもコンクールの演奏は、いずれも本気の本気の演奏だから緊張感がいっぱいで、聴いているだけで鼓動が高まり、息が詰まってくる。世界の超一流の演奏家の名演に接するのとは違っても、これも音楽の持てる力の一種なのだろう。奮闘された皆さんにBravo!!

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