Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/25(土)読響みなとみらい名曲/イェウン・チェの「メンデルスゾーンVn協」と小泉和裕の「悲愴」

2010年09月27日 00時37分08秒 | クラシックコンサート
読売日本交響楽団 みなとみらいホリデー名曲シリーズ

9月25日(土)14:00~ 横浜みなとみらいホール A席 1階 3列 16番 7,000円
指 揮: 小泉和裕
ヴァイオリン: イェウン・チェ Ye-Eun Choi
管弦楽: 読売日本交響楽団
【曲目】ベルリオーズ: 序曲「海賊」作品21
    メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
    チャイコフスキー: 交響曲 第6番 ロ短調 作品74「悲愴」

 今年の5月に「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2010」で韓国の若手ヴァイオリニスト、イェウン・チェさんのメンデルスゾーンの協奏曲を聴いた。その時はあの音楽祭ではおなじみのドミトリー・リスさんの指揮とウラル・フィルハーモニー管弦楽団との共演だった。演奏は期待以上に素晴らしく、強く印象に残ったので、ぜひ別の機会にも聴いてみたいと思っていたところ、読響の名曲シリーズ(東京芸術劇場とみなとみらいホール)で同じメンデルスゾーンを弾くというので、今日のコンサートに足を運ぶこととなった。また、小泉和裕さんも今年の5月に都響を聴いて以来である。

 1曲目はベルリオーズの序曲「海賊」。5月の都響でも小泉さんの指揮でこの曲を聴いた。といっても今日で聴くのは2回目。小泉さんのこだわり選曲である。曲の冒頭から弦楽の早いパッセージが繰り返される。まだオーケストラが暖まっていないコンサート序曲としては、厳しい曲かもしれないが、さすがは読響。完璧とまではいかなくても(最初はわずかに音に濁りがあったが、すぐに修正された)素晴らしい集中力でアンサンブルを合わせてくる。小泉さんは軽快なテンポで直線的に音楽を作っていくが、劇的な要素もあり、ダイナミックな構成となっていた。金管楽器のフォルテに負けないだけのパワーが弦楽器にあるのが嬉しい。いかにもロマン派という美しい旋律を、キビキビとしたオーケストラ・ドライブで描き出していく。コンサートへの期待感を高める役割の序曲の演奏としては、十分に効果的だったし、素晴らしい演奏だと思ったが、聴衆の反応はイマイチだった。

 2曲目はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。言わずと知れた名曲中の名曲であるために聴く機会も多く、クラシック音楽ファンでは知らない人はいないという曲だけに、演奏家に対する評価も厳しくなりがちである。今日のイェウン・チェさんはどうだろうか。
 第1楽章の冒頭からオーケストラがやや大きめの音量で始まり、ソロ・ヴァイオリンの主題が乗ってくる。やや硬めの音質ではあるが、曲の流れは淀みなく、リズム感も良い。初めはやや線の細い印象があったが、徐々にパワーアップしてきて、オーケストラとのバランスが同等になり、小泉さんのオーケストラ・ドライブがテンポきっちり刻んでいくため、両者が一体となって推進力のある演奏になった。その中で、かなりアグレッシブな突っ込みの鋭い部分があり、メリハリの効いた演奏になっていく。終盤のカデンツァに入りヴァイオリンのソロににると、一転してのびのびと自由に歌い出した。豊かな叙情性と的確な音程、硬質な音色の中にも艶があり、存在感を発揮する演奏になった。
 つなぎのファゴットが微妙なニュアンスを付けて巧いなあと思いつつ、続く第2楽章もかなり早いテンポで突き進んでゆく。このテンポ設定はソリストの意向なのか、指揮者のものなのだろうか。本来は、叙情的にたっぷりと歌わせる楽章だけに、さすがにもう少し遅い方が良かったのではないかと、個人的には感じた。しかし捉えようによっては、早いテンポでサラリと進めていくと、まるで別の曲のようではあるが、それはそれで美しい旋律がフレッシュに生き生きとしてくるのだ。なるほど、楽曲の解釈の違いによって、こうも変わるものかと感心する一方で、このような若さが溢れるような演奏も意外に良いかもしれないと、新しい発見をした次第である。
 第3楽章に入っても、テンポが早いのには変わりはなかった。ソロ・ヴァイオリンの初代提示は、初めは軽快でスピード感があるものだったが、次第に攻撃的な面を見せるようになり、中盤から終盤にかけては、掛け合いの鋭さが高い緊張感を保ちつつ、一気に爆発的なエンディングへと突っ走っていった。硬めの音質がアグレッシブな演奏に良く合っていて、ダイナミックレンジの広オーケストラとのぶつかり合う部分と響き合う部分が交互に現れてドラマティックな演奏となった。
 曲を全体的に見てみると、早めのテンポでグイグイと押してゆくオーケストラに対して、負けないヴァイオリン、逆に突っ込んで煽るような部分も随所に見られ、アグレッシブでパッションのある演奏だったといえる。これは韓国風(?)なのだろうか、日本人の演奏家にはあまり見られないタイプかもしれない。キョン=ファ・チョンやサラ・チャンとの共通点もいくらか感じられた。技巧的にはもっともっと巧くなる要素はあるかもしれないが、熱情を迸らせるような演奏のスタイルもまた彼女の魅力ではないだろうか。
 ところが会場の反応はというと、意外に冷静に受け止めているような雰囲気で、今ひとつ盛り上がらなかったが、私はとても素晴らしい演奏だと思った。今日のイェウン・チェさんは間違いなくBrava!!である。


ネットで見付けたイェウン・チェさん。エキセントリックな演奏が似合うステキな表情ですね。

 休憩を挟んで後半はチャイコフスキーの「悲愴」。偶然だが先週、日本フィルでチャイコフスキーの交響曲第5番を聴いているので、ついつい比較してしまった。
 第1楽章。やはり交響曲だけ合って、先ほどのヴァイオリン協奏曲の時よりもオーケストラの音に一段と厚みがある。弦楽による第1主題の提示は、徐々に楽器と奏者が増えてくるのだが、この時の重なり合う弦の厚い響きが素晴らしい。ここでも、小泉さんはやや早めのテンポ設定で、冷徹にさえ感じる直線的な演奏を貫く。展開部の全合奏での音のダイナミズムも、迫力満点。金管楽器やティパニのフォルテにも負けない弦楽器のパワーがバランスを支えていた。
 第2楽章の5拍子のワルツ(?)も、感傷的な純音楽というよりは、あくまで舞曲であるかのごとく、正確にリズムを刻み、ここでも直線的な演奏が続いた。
 第3楽章は、スケルツォから行進曲風の盛り上がりが最高潮に達するまでのダイナミズムの変化が素晴らしい。ここでもやや早めのテンポで直線的な演奏ではあるが、音量の振幅が雄々しく、いわば縦に広がりを見せる演奏。もちろんオーケストラのバランスも見事にコントロールされていた。
 第1楽章から第3楽章までは、早めのテンポで変化を付けない直線的な演奏。あまりにも猪突猛進的だったので、あまり悲愴感が感じられなかった。だがそれは、小泉さんの意図したことだったようで、第4楽章になると一転して、あまりにも悲しく美しい旋律をこれでもかと言わんばかりに歌わせる。読響の音がキレイだ。澄んだ弦楽の音色が重厚な音の束になって、押し寄せてくる。悲哀、諦めそして苦悩を心の中から絞り出すような哀しみのオーラが、会場を支配していく。感情の流れに沿って自然に揺らされているかのようであっても、小泉さんの指揮は拍子をしっかりと刻み、アンサンブルを緩めることはなかった。緊張感の高い、その実、かなり計算され尽くされた緻密な構造を持つ、素晴らしい演奏だったと思う。スラブ系の泥臭さもなく、かといって西欧風の洗練された音楽とも違う。スコアに込められたチャイコフスキーの情念を、余計な観念を排除してストレートに音で表現することによって、むしろその本質に迫って行こうとする「解釈」だったのではないだろうか。
 第4楽章が消え入るようなPPPで終わった時、フライング気味に拍手をする人がいて、ちょっと唖然。ピアニッシモで終わる曲は、なぜピアニッシモで終わるように作られているのか、もう少し考えて欲しかった。音楽を聴き終えて、それを噛みしめて、心の中にしまい込む、そんな間合いが必要なのである。喝采することだけが賛美することではないのだから。

 その割りには、前半の協奏曲も後半の交響曲も、演奏はかなり熱情的なものだったにも関わらず、聴衆の反応は全体的にクールで盛り上がらなかった。なぜかお義理のように、聴いて、拍手して、帰って行く、といった印象だ。先週聴いた日本フィルは、私は演奏にはかなり不満を感じたが、聴衆は大絶賛。対して今日の読響は演奏は素晴らしかったのに、聴衆は×××。最近、自分の耳に自信を失いつつある(-。-;)

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