Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/26(月)ニッポン・シンフォニー/宮田愛子・伊藤維・高瀬真由子・須関裕子/華やかな協奏曲の夕べ

2014年05月30日 00時49分30秒 | クラシックコンサート
ワールド・ピース・クラシック・コンサート 第3回 ~協奏曲の夕べ~
The 3rd WORLD PEACE CLASSIC CONCERT


2014年5月26日(月)19:00~ 文京シビックホール S席 1階 1列 21番 6,000円
指 揮: 新田 孝
クラリネット: 宮田愛子
ヴァイオリン: 伊藤 維*
ヴァイオリン: 高瀬真由子**
ピアノ: 須関裕子
管弦楽: ニッポン・シンフォニー
【曲目】
モーツァルト: クラリネット協奏曲 イ長調 K.633
サン=サーンス: ヴァイオリン協奏曲 第3番 ロ短調 作品61*
チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35**
ショパン: ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 作品21

 大変申し訳ないことだが、ニッポン・シンフォニーというオーケストラをまったく知らなかった。色々調べてみたものの情報がほとんど流通していないようで、実態がよく分からないまま、聴きに行くことになった。というのも、知り合いになったピアニストの須関裕子さんが出演してショパンのビアノ協奏曲第2番を弾くというチラシをどこかでいただいて、これは聴きに行かなくては、と思った次第。彼女にお願いして、希望通りの最前列、ソリスト正面の席を取っていただのである。
 プログラムは上記の通り、4名の若手・女性・美人ソリストの饗宴という華やかなもので、何と協奏曲を4曲という重量級のものだ。従って午後6時30分の開演。一夜に協奏曲を4曲も続けて聴くというのは、音楽コンクールの本選会の時くらい。オーケストラにとってもけっこう過酷なプログラムになるだろう。
 そしてそのオーケストラ、ニッポン・シンフォニーは、フリーの演奏家が集まったプロ集団ということらしく、アマチュアではないものの常設のオーケストラとも違うようだ。総合プロデューサーが中野 雄さん、音楽監督・指揮が新田 孝さんということであるが、その新田さんも知らなかったので、やはりよく分からない・・・・。無料の招待客なども多かったようだし、客層もサントリーホールや東京オペラシティなどとは違った雰囲気で、コチラの方も今ひとつ傾向がつかめない。どなたか、情報をお寄せ下さい。

 1曲目はモーツァルトの「クラリネット協奏曲 イ長調」。これは人気の曲である。ソリストの宮田愛子さんは、桐朋学園大学の出身で、第23回日本クラシック音楽コンクール第4位。現在はフリーのクラリネット奏者として、ソロや室内楽、吹奏楽やオーケストラへの参加など、多方面で活動中とのことだ。今日の演奏では、古楽器のバセットホルンを使用する予定とプログラム・ノートには書いてあったが・・・・。
 曲が始まり、有名な主題を宮田さんが吹き始めると、丸みを帯びた柔らかい音色が会場に拡がって行く。ロマン派以降の曲とは雰囲気が異なり、より木管を意識させる音色の柔らかさ、暖かさは、モーツァルトの時代を感じさせて素晴らしい。音量はそれほど大きくないが、最前列の目の前、しかもこの楽器はベルが下を向くので、その息遣いまでまともに受け止める位置で聴いていたため、私の所からは非常に豊かに響いて聞こえた。おそらくは、オーケストラの抑えめの演奏とよく溶け合っていたのではないかと思われる。軽やかな第1楽章は、優雅な音色と共に古典的な美しさで、流れるように歌われていた。第2楽章の天国的な美しい旋律も温かい音色に包まれ、モーツァルトの澄みきった心を反映しているように感じられた。第3楽章のロンドでは、高音域、中音域、低音域でそれぞれ雰囲気の変わる音色の対比がうまく描かれていた。やや遅めのテンポで優雅な雰囲気をうまく描き出していた。

 2曲目はサン=サーンスの「ヴァイオリン協奏曲 第3番」。この曲は、ナマ演奏はもとより、CDなどでもあまり聴く機会のない曲だと思う。この5~6年の間でも、2012年12月のトゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の来日公演(指揮はトゥガン・ソヒエフさん)で、諏訪内晶子さんのソロで聴いたことがあるくらいだ。聴き慣れていないだけに、評価の難しいところだ。ソリストの伊藤 維(いとうゆい)さんは、小学校のころからコンクールの入賞歴を持ち、現在は桐朋学園大学の音楽学部に在学中とのことである。
 曲は、冒頭からソロ・ヴァイオリンによる低音部の主題が力強く押し出されてくる。経過部を経て甘美な第2主題を歌うヴァイオリンは艶やかな音色で鮮やかに対比させる。伊藤さんの演奏は、若さに溢れ屈託がない。とちらかといえば、ややストレートな演奏であるようにも思えたが、オーケストラの音に飲まれないようにするためには、ある程度音を出していかなければならないので、仕方のないところでもある。第2楽章の美しい旋律は、ソロ・ヴァイオリンがロマンティックに歌っていた。このような緩徐楽章は、意外に音量を出すような演奏がされることが多いが、弱音を遠くまで響かせるのも技巧のうち。主題は美しく分かりやすいが、表現はけっこう難しい曲だと思う。第3楽章はカデンツァ風の序奏を力強く押し出し、ソナタ形式主部の第1主題は短調でもリズミカルで躍動的、第2主題はミュージカルのような明るく踊るようだ。伊藤さんのヴァイオリンは全体的に迷いのない音色というか、真正面から飛び出してくるようなところがある。今のところは、それが個性となって、前向きに働いているので、聴いていても清々しく感じる。課題があるとすれば、表現上のこととして抑揚の幅をもうすこし広げて一本調子にならないようにしたほうが良いと思う。また、装飾的な早いパッセージなどもより正確に、といったところか。演奏が終わった後の嬉しそうな笑顔が印象的。やはり緊張していたのだろう。

 後半は、チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」から。ソリストの高瀬真由子さんは、やはり桐朋学園大学の出身で、様々なマスタークラスの受講やコンクール歴を持つ。現在はフリーのヴァイオリニストとして、ソロ、アンサンブル、オーケストラなどで活動していて、横浜市栄区民文化センターリリスおよび鶴見区民文化センターサルビアホールのレジデント・アーティストになっている。
 さてこの名曲かつ難曲をどのように料理するか、興味津々である。第1楽章、ソロ・ヴァイオリンが入ってきて豊かに鳴り出す。全体のテンポはやや遅めの設定で、高瀬さんはとても丁寧にすべての音符を正確に演奏しようとしている、という風に感じた。楽器はよく鳴っていたと思うし、正確な演奏には好感が持てる。逆に、遅めのテンポであるが故にリズム感がやや重い感じがした。良く言えばオーケストラとのアンサンブルがピタリと合っていたということになるが、悪く言えば(失礼)オーケストラを引っ張って行くような雰囲気はなかったというところだ。カデンツァも正確に演奏しているのは見事なのだが、もう少しはみ出す部分・・・それが個性ならばだが・・・があっても良いのかな、とも思う。第2楽章はミュートを付けた主題が美しく切なく歌い、これは素晴らしい。フルートやクラリネットなどとの掛け合いも、対話しているようだ。第3楽章も遅めのテンポ設定で、ちょっと重い感じ。高瀬さんのヴァイオリンは、ここでも丁寧に演奏している。低音から高音まで音質が均一なのは、ある意味では素晴らしいことだが、別の意味では単調ということにもなりかねない。ロンド主題を演奏する際、遅めに始まり徐々にテンポを上げていくが、テンポが速くなるほうがリズム感のノリが良くなっている感じがした。全体にもう少し早めのテンポ設定にした方が良かったのではないかと感じた。コーダに入ってからの方が前のめりの演奏になって、オーケストラとのスリリングなやり取りがいかにも協奏曲らしくなって、楽しかった。

 最後は、ショパンの「ピアノ協奏曲 第2番」で、ソリストはもちろん須関さんだ。彼女も桐朋学園だが、女子高等学校2年在学中に第2回チェルニー=ステファンスカ国際ピアノ・コンクールで第1位、2002年第18回園田高弘賞ピアノコンクール第3位、2004年第16回宝塚ベガ音楽コンクール第1位、2005年ドイツで行われた第3回国際室内楽アカデミーにてグランプリを受賞など、在学中に豊富なコンクール歴を持っている。桐朋学園大学音楽学部卒業後、同研究科を首席修了。現在は桐朋女子高等学校および桐朋学園大学非常勤講師(ナンバリズミック)を務めるかたわら、ソロやアンサンブルのピアニストとして活躍している。とくに日本の音楽界の重鎮、堤 剛さんのCDにも参加しているし、リサイタルでも伴奏をしている(今年もこの秋、みなとみらいとミューザ川崎のアフタヌーンコンサートで共演が予定されている)。
 ショパンの「ピアノ協奏曲 第2番」をコンサートで弾くのは初めてとのことで、多少緊張気味ではあったが、すっきりとしたクリアなサウンドで、瑞々しい演奏を聴かせてくれた。


 第1楽章、ソナタ形式の提示部が遅めのテンポで始まった。遅めのテンポ設定は新田さんの個性だろうか。ピアノの第1音がやや強めに入り、カデンツァ風に華麗にピアノが展開する。この曲は面白いというか変わっているというか、最初のオーケストラだけの提示部が終わると、後はピアノ独奏にオーケストラ伴奏というふうにガラリと様相が変わる。だから、ここからは須関さんの一人舞台(とくにピアノの真下で聴いているので余計にそんな感じがする)。須関のピアノは、澄んだ音色が特徴的で、音量はそれほど大きくはないが、弱音が繊細で美しく、とくに最弱音の微妙なニュアンスなどは最前列でなければ聴き取れないかもしれない。そのためダイナミックレンジは意外に広く、劇的な表現も素晴らしい。しかしやはり印象に残るのは、弱音部や緩徐部分の抒情的な旋律の歌わせ方だ。明晰で理知的でありながら女性的な繊細さと柔らかさに包まれていて、青春時代のショパンの音楽によく合っている。
 第2楽章はあたかもノクターンのような感傷的なピアノにオーケストラの伴奏付き、といった風情の曲想だが、この抒情性の表現はまさにピアニストの個性そのものが現れてしまう。須関さんのピアノは、澄んだ音色で明晰な印象があるだけに、十分にロマンティックでありながら、どこかクールな面を持ち合わせている。そのバランス感覚がなかなか聴かせどころを作っているのである。中間部で盛り上がった後、主題が戻って来たあたりが泣かせどころだった。
 第3楽章のロンドは、軽快でテンポが上がっていたようだ。この楽章ではピアノがマズルカ風に飛び回り、リズム感もノリが良く跳ね回る。軽快で弾むような演奏は、躍動感に溢れているが、上品さを失わないところが素敵で、女性的でもあった。他の作曲家のピアノ協奏曲と違って、やはりショパンならではの、ピアノのピアノによるピアノのための音楽なのである。須関さんの快調なリズム感とテンポ・ルバートに対して、むしろオーケストラの追従が今ひとつ、といった感じだった。
 須関さんにとっては初めて弾くというピアノ協奏曲第2番であったが、ダイナミックな第1楽章、抒情性豊かな第2楽章、躍動的な第3楽章という風に、各楽章の性格が見事に描き分けられていた。素晴らしい演奏だったと思う。

 最後に、新田さんとニッポン・シンフォニーについて。弦楽のアンサンブルは緻密で、濁りのない音はよいのだが、一方で、ややインパクトに欠けるというか、全体がまったりとしていて、メリハリが乏しいのと、パワー不足のような印象であった。もっとも全曲が協奏曲だったので、抑制的であったことも確か。それこそシンフォニーを聴いてみないことには、何ともいえないところだ。木管群については、とくに強い印象は持たなかったものの、比較的うまく演奏していたと思う。金管は音程の不安定なところが少し感じられた。つまり、普通に聞き流してしまえば、普通のオーケストラに聞こえるというレベルだが、特徴もあまりないといった印象でもあった。ただひとつ言えることは、会場の文京シビックホールは音響が良くないので、オーケストラの音もうまく響かず、豊かさのある演奏に聞こえなかったことは割り引いて考えなければならないだろう。7月に予定されている次回のコンサートや11月の「協奏曲の夕べ」は、会場が東京芸術劇場コンサートホールになるので、底では十分すぎるくらいの響きがある。状況が許せば、聴いてみたいとは思うのだが・・・・・。

 終演後は、楽屋、というよりは舞台裏にお邪魔して、須関さんにご挨拶。そうしたらコンサートのご常連さんたちに楽屋口でバッタリ出会い、なぁんだ、やはり皆、聴きに来ていたんだと一安心した次第である。いつものように記念写真を撮ったり、感想を語ったりの和やかな一時。演奏家の方たちも素の表情をチラリと見せる楽しい瞬間でもある。
 4名ソリストの方たちは、それぞれの表情を見せていたが、皆さんに共通しているのは演奏が終わってホッとしている感じ。皆さんとても良い表情であった。今日のコンサートでは、4名のソリストの方たちが、それぞれ楽器も違うし曲ももちろん違う、そしてキャリアや経験も違うので、4曲の出来具合には多少のバラツキがあったことは確かだ。若い方には、今日のような演奏機会を大切な糧として、もっともっと上を目指して欲しいものである。今日の演奏は、皆さんそれぞれに素晴らしいものだったと思う。でも今できることは、今だけ。明日しなければならないこととは、今日とは違うはずだから・・・・・。

 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。

【お勧めCDのご紹介】
 今回は出演者ではなく、楽曲のお勧めCDをご紹介します。今日最後に演奏された、ショパンのピアノ協奏曲第2番です。
 ピアノ独奏はフランスの妖精リーズ・ドゥ・ラ・サールさん。ファビオ・ルイジさんの指揮、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団の演奏です。ドゥ・ラ・サールさんの実際の演奏は、2010年、ルイジさんの指揮するPMFオーケストラとの共演を聴きましたが、強く印象に残る演奏でした。それと前後して発売されたのがこのCDです。フランス人ならではの煌めくようなショパンを聴かせてくれます。

Ballades Piano Concerto Nos. 2
ファビオ・ルイージ,ドレスデン国立歌劇場管弦楽団,リーズ・ド・ラ・サール(ピアノ)
Naive

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 5/22(木)コンポージアム2014/... | トップ | 5/27(火)ローマ歌劇場日本公... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事