Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

7/12(金)東京フィル/オペラシティ定期/飯守泰次郎+堀米ゆず子/熱狂的なオール・シベリウス・プロ

2013年07月14日 01時38分20秒 | クラシックコンサート
東京フィルハーモニー交響楽団/第80回東京オペラシティ定期シリーズ

2013年7月12日(金)19:00~ 東京オペラシティコンサートホール A席 1階 4列 14番 3,780円(会員割引)
指 揮: 飯守泰次郎
ヴァイオリン: 堀米ゆず子*
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱: 新国立劇場合唱団
【曲目】
シベリウス: 交響曲 第2番 ニ長調 作品43
シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47*
《アンコール》
 J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ハ長調 BWV1005 より第3楽章 ラルゴ*
シベリウス: 交響詩「フィンランディア」作品26(合唱付)
《アンコール》
 シベリウス: 交響詩「フィンランディア」作品26(合唱付)中間部以降

 今日は聴きに行って本当に良かったと感じた内容の濃いコンサートだった。東京フィルハーモニー交響楽団の第80回東京オペラシティ定期シリーズは、飯守泰次郎さんを指揮者に迎え、ゲスト・ソリストは堀米ゆず子さんで、オール・シベリウス・プログラム。しかも名曲中の名曲である交響詩「フィンランディア」とヴァイオリン協奏曲、そして交響曲第2番という大サービスの組み合わせなのに、それを通常とは逆順に演奏するという。さらに「フィンランディア」は合唱付き。どことなく漂う違和感と、何が起こるのだろうという漠然とした期待感が交錯して・・・・。
 実は今日は、3つの定期シリーズが重なってしまい、困ったことになってしまった。東京オペラシティコンサートホールでは東京フィルハーモニー交響楽団、サントリーホールでは日本フィルハーモニー交響楽団、東京芸術劇場では読売日本交響楽団が、それぞれ定期シリーズのコンサートを19時から開催する。3つとも会員になっているので、苦渋の選択を迫られ、結果的に東京フィルを選んだのである。つまりその理由が、「どことなく漂う違和感と、何が起こるのだろうという漠然とした期待感」なのであった。
 飯守さんといえばドイツ音楽の重鎮で、シベリウスのイメージはあまりないし、堀米さんも最近は室内楽などで活躍していてあまり大きな協奏曲のイメージが弱いような…。合唱付きの「フィンランディア」というのも演奏されるのは珍しい。まあ、何となくの違和感を感じていた人は少なくなかったであろう。ただし、だからといってマイナス・イメージがまったく感じられないところが飯守さんのお人柄というべきか。どんな演奏を聴かせてくれるのか、興味津々であった。

 曲順が普通のコンサートと逆になっているのは、「フィンランディア」に合唱が付くからで、セットアップの都合だということは分かる。ただし東京フィルは、遅れてきた人にも楽章間の入場を認めないから、もし今日、開演に間に合わなかった人は、前半のシベリウスの交響曲第2番をまるまる1曲、ロビーで聴くことになってしまう。そんな人がいたかどうかは知らないが、今日の公演は完売、会場もほとんど満席だったところをみると、「何となくの違和感」に皆、期待していたようである。そしてその期待通りの、Bravo!!が飛び交う素晴らしいコンサートになったのである。

 前半は交響曲第2番。シベリウスといえば、何だかんだといっても、「フィンランドの森と湖の大自然を彷彿とさせる、透明なサウンドの凛とした響きの中に、民族主義の熱い魂の燃焼が垣間見える」といった印象が強く、従ってそのように感じられる演奏が好まれる。最近では、独立から1世紀を経たフィンランドも様変わりしているようで、今年2013年の3月~4月に聴いたピエタリ・インキネンさんの指揮する日本フィルによるシベリウス交響曲ツィクルスなどは、33歳のフィンランド人指揮者の音楽は、透明感のある凛とした美しさはそのままに、冷静で客観的なもので、「草食系」のイメージであった。
 ところが飯守さんのシベリウスは違う。第1楽章の冒頭から、オーケストラを大きめに鳴らし、聴く方が類型的になってしまいがちな北欧のイメージを払拭していく。つまり情景描写的な映像イメージの音楽ではなく、ドイツ系の純音楽スタイルで、楽器本来の音色を明瞭に打ち出し、強固な構造感を保ちつつ、一定の枠組みの中で旋律を歌わせて行く。最近の東京フィルの演奏のクオリティを十分に発揮させ、濃厚にして豪快、豊かな音量でバランスも良く、極めて質感の高い演奏となった。最強奏で鳴り響く轟音は、東京オペラシティコンサートホールのタイトな音響空間に満ち溢れていた。
 繰り返しになるが、今日のシベリウスは確かに北欧のイメージとは違っていたような気がする。しかし飯守さんはスコアを丹念に読み解き、純粋な音楽的な解釈の元に、彼の持つ剛直かつロマンティックな表現手法で、彼ならではのシベリウス交響曲第2番を創り上げていた。思い描いていたイメージとは異なる演奏ではあったけれども、この質感と存在感にはまいりましたという感じ。つまりとても素晴らしい演奏であったということである。

 後半は堀米さんによるヴァイオリン協奏曲。堀米さんの演奏で聴くのは、確か初めてである。ここでも、予想を遥かに上回る強烈なイメージが飛び出してきて、これはもうビックリであった。実は昨年2012年10月にNHK交響楽団のオーチャード定期で堀米さんによるメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を聴いている。その時は楽器が愛用のものでなかったことも手伝ったのだろうか、あまり個性的な演奏ではなかったと記憶している。ところが今日の演奏は、その時とはまったく違っていて、かなり気迫のこもったものであった。
 今日はもちろん愛器のグァルネリ・デル・ジェスで、とにかくよく鳴っていた。多少は弦楽の編成を小さくしていたとはいえ、オーケストラ部に重厚でシンフォニックな構成を持つこの曲に対して、飯守さんは遠慮無くオーケストラを鳴らしていた。それに対して、堀米さんのソロ・ヴァイオリンは、豊かな音量と線が太く濃厚な音色で、オーケストラと対等の存在感を打ち出していた。全体に芯のクッキリとした明瞭な音であり、力強い低音部から艶やかで濃厚な音色の中音域、伸びのある高音域まで、グァルネリの魅力を発揮した素晴らしい音色である。1台のヴァイオリンがこれほどまでに雄弁に語るのは滅多に聴けるものではない。
 また弾いているときの堀米さんの表情が良い。いつもの人の良いオバチャンのようなキャラ(失礼)は完全に消え去り、厳しい表情と鋭い視線、全身から放射される燃え立つようなオーラが感じられ、鬼気迫るものがあった。久しぶりに、ソリスト「堀米ゆず子」の凄味を見せつけられた思いである。
 とくに第1楽章の押し出しの強さが圧倒的であり、第2楽章も抒情的な旋律を大きめの音量で豊かに歌わせて行く。第3楽章は…ちょっと疲れが出てきたかな、という感じではあったが、最後まで押しの強い演奏で、飯守さん+東京フィルとがっぷり四つに組んだ素晴らしい演奏であった。

 堀米さんのアンコールは、バッハの「ラルゴ」。これがまたシベリウスとはまったく違う、柔らかく奥行き感のある音色で、しっとりと締めくくった。お見事。

 ここでオーケストラの元の大編成に戻し、客を入れていなかった後方のP席に、新国立劇場合唱団(混声四部)60名がに入場してきた。最後は合唱付きの「フィンランディア」である。この曲については若干の説明をしておこう。
 ご承知のように交響詩「フィンランディア」は、20世紀初頭、ロシアの支配下に組み込まれていたフィンランドの独立を象徴する楽曲である。1900年の初演でフィンランド国民の圧倒的な支持を得るがロシアにより演奏が禁止されてしまう。フィンランドは1917年に独立するが、新たにソビエト連邦による軍事侵攻が繰り返し続けられていた1941年、「フィンランディア」の中間部分の旋律に愛国的な詩(ヴェイッコ・コスケンニエミ作)が付けられ「フィンランド賛歌」呼ばれるようになった。シベリウス自身による合唱用編曲で、フィンランドの「第2の国歌」とも呼ばれている。今日の演奏では、管弦楽の「フィンランディア」原曲に、合唱版を移調して乗せて演奏されることになった。
 演奏は交響曲第2番と同様、全体に大きめの音量で、重厚な金管の序奏に続き、民族の嘆きを歌うような重々しい部分を経て、その重々しさをはね飛ばすような主旋律が分厚い弦楽で明るく提示され、それがオーケトラ全体に拡がって明るい未来への希望が高らかに演奏される。その後木管で穏やかな安らぎの旋律が現れる中間部。ここから合唱が入ってくる。「祖国フィンランドよ、夜は明けて喜びに溢れ、夜の闇は遠く去る」といった内容で、ソ連の支配からの独立賛歌である。管弦楽の主題が回帰してきて、そのままコーダになだれ込む。コーダの最後の部分にも合唱が加えられた。
 合唱は定評のある新国立劇場合唱団。そのハーモニーは、まさにこの内容に相応しいもので、清冽で気持ちが一つに合わさるような神々しさが感じられた。オーケストラの演奏も力感溢れるものでダイナミックかつドラマティック。合唱と合わさるフィニッシュ部分は、痺れるような、感動的な仕上がりだった。初めて聴く合唱付きの「フィンランディア」であったが、これほど素晴らしい音楽だとは。素晴らしい。

 最後がこういう楽曲であったため、まさかアンコールがあるとは思わなかったが、演奏されたのは「フィンランディア」の中間部以降。合唱が入るところからだ。しかも今度は合唱が日本語だったのでさらにビックリ。歌詞は賛美歌532番「やすかれ、わがこころよ」のもので、こちらはフィンランドの独立とは関係がないようである。

 さて聴き終わってみれば、シベリウスの名曲3曲を逆順に演奏した今日のコンサート。非常に充実した内容で、新鮮な驚きがいっぱいであった。とくに聴き慣れた3曲だけに、この構成でこれだけの感動を生み出した飯守さん、堀米さん、東京フィルの皆さん、そして新国立劇場合唱団の皆さんにもBravo!を送ろう。実際に、ほぼ満席の東京オペラシティコンサートホールには、大喝采とBravo!が飛び交っていたのである。

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1 コメント

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今年ノベスト! (KS@横浜)
2013-07-19 00:19:50
うーん聞き逃した!おかげさまで当夜の様子がよくわかります。成田空港から直行すべきだったなあ。確信犯的アンコールby日本語!フィンランディアの合唱付を新国立の合唱団でやったんだから凄いです。今年のベストという声しきり、皆さんが幸せな気持ちで家路についたにちがいない。9/5の東フィルのリゲッティbyバーバラハンニガン、これがセカンドベストかベストを超えるか、楽しみです。
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